18世紀ロンドン。普段は上層階級が作った上品な作品しか上演されないドルリー・レーン劇場が、一日のみ、乞食達に使用を許可した。初日にして千秋楽に演じられるのは、若い乞食が書いた、彼らの物語。内容は・・・
ロンドンの悪党を取り仕切るピーチャムは盗品故買屋。部下が盗んできた物を妻が現金化し、その上前をハネる。役に立たなくなった者は警察に密告する。そうすると、役立たずはお上が絞首刑にし、彼の懐には密告料の40ポンドが入るという寸法だ。彼が慈しみ貴族の令嬢のように育てた娘のポリーは、親の目を盗み、部下の悪党、追い剥ぎのキャプテン・マクフィースと結婚してしまった。このマクヒースという男、働きは良いのだが、名うての女ったらしで、愛人が何人もいるのだ。怒ったピーチャムはマクヒースを牢獄送りにしようとする。ポリーに涙の別れを告げ、ロンドンを出ようとするマクヒース。だったが、淫売宿に寄り道。愛人の一人、ジェニーとよろしく楽しもうとするが、ジェニーに売られロキットが看守を務めるニューゲート牢獄に繋がれる。絶体絶命に見えたが、これまた愛人の一人、ロキットの娘ルーシーに脱獄を手伝わせ自由の身に。なったように見えたが、やっぱり淫売宿(ジェニーの所とは別)に寄り道し、その女将に売られてしまう。もはや絞首刑は免れない!
マクヒースを吊せ!!
ここで、劇場支配人から物言いがつく。「オペラというのはハッピーエンドでなければ!!」。貧乏人は貧乏人のまま、金持ち・上層階級のみが甘い汁を吸う、そんな風刺劇を上演したかったのに、、、。しかし、金持ちには逆らえない。作家の乞食は仲間の役者に言う、「恩赦が出たので死刑は中止と叫ぶんだ!」。
初演は1727年、ジョン・ゲイ作。世界最初のミュージカルと言われる作品です。休憩2回を挟んで3時間30分の上演時間は長いんだけれど、削れないし巻けないので、仕方がないでしょう。ゆったりめに進む芝居、ゆったりめの音楽は、やっぱり少々古くさいけれど、このテンポだからこそ生きる芝居なのかもね。
かと言って。内容はゆったりじゃありません。テンション、バカ高。猥雑でエネルギッシュ!舞台上にまで客席を作り、3階席から観ていても、演者と客が一体となり、臨場感たっぷり。幕間には役者さん達が客席に来て、芸を見せてお菓子(等)をねだったり、「望遠鏡でマクヒース『だけ』観るのは止めろ!」と注意されたり。自分を「ドルリー・レーン劇場で乞食達の芝居を観る客」と錯覚しそうでした。1日のみの、1回だけのお祭りに、自分も参加した気分。
内容もねえ。悪人ばっかり出る話なんだけど。マクヒースも、もう、どうしようもな男なんだけど。女が群がるのがわかるよなあ。そういう説得力を見せてくれたウッチーでした。歌自体はね
歌い慣れていない曲は
ちょっと厳しいかもね・・・
でも、建前は「素人芝居」なので、まあ、良いでしょう。それよりも、女にだらしないのに、女が離さない、そういう色気がある方が大事で。フェロモン放出、ってワケではないんだけど、なんか、こう、女が放っておかないよ!って雰囲気は、とっても素晴らしいと思います。ポーリー、ジェニー、ルーシー等とキスをしまくり。役得に見えるけど、ヒゲのおっちゃんとのキスもあったのでプラマイゼロかね。
女優陣の中で印象深いのは森さんと島田さん。ピーチャム夫人の森さんは可愛いソプラノの歌声で、あらまあ、こんな声は初めて聞いたわ!でもこれはこれで似合っている、と思ったら、後半の二役目はいつものアルト系の声で。その演じ分けがうまいですね。島田さんの歌は心に響きます。一番、「歌」で伝えていましたね。2幕終わりの「牝狐は、牡狐が猟犬から逃げられるのを祈るだけ」の歌が泣けました。笹本さんもハジけていて面白かった。
それから、橋本さんだよねーーー、うまいねーーー、声も演技も、なにもかもが。客の引き込み方がとってもうまい。彼の語りで、劇場があっというまに21世紀の日本から18世紀のロンドンになっちゃいましたよ。
その他のアンサンブルもハズれなし。舞台(美術・装置)の作り方もよく考えられていて、すべてに渡って高レベルな内容で、とってもとっても見応えがありました。3千円で観て、申し訳ないわ。
さて。ここで。ヅカ版の「スピーク・イージー」についても少々。以前どこかで、「『スピク』は『ジョン・ゲイのベガーズ・オペラ』を元にしたと断りがあるが、『ブレヒト版』を下敷きにしていないか?なんで『ブレヒト版』のクレジットを入れないのか?」という記事を目にしたことがありまして、その時は両版とも知らなかったのでよくわからなかったのですが、数年前の蜷川演出ブレヒト版と、今回の「ベガーズ」を観て、合点しました。
ヅカ版は、あきらかに
ブレヒト版がモトネタです
初演から200年後に作られたブレヒト版の改訂点。っても、私は蜷川演出しか観ていませんが・・・
・マクヒースを、ピーチャム手下の追い剥ぎから
ピーチャムと敵対するギャングのボスに
(マック・ザ・ナイフ(の独語)の別名を持たせる)
・ロキットは看守から警視総監に。
マクヒースとロキットを、かつて戦争で一緒に闘った仲間とする
(その戦友にさえ裏切られるマクヒース)
・新たに作曲
♪お聞かせ~ しましょう~ 悪党の~ はなし~~
♪いまでは 懐かしい 日々
♪この商売は賢くなけりゃ 生きているうちに頭を使え
などの曲はブレヒト版で登場。
ただね~、オチを覚えていないんだよな。恩赦が出て、それは確実なんだけど。母が言うには「当時のナチを風刺した」って言うんだけど、わからんかったよ。全然。それにしても、なぜ、「ブレヒト」をクレジットに入れなかったんでしょうな>宝塚歌劇団。著作権とか、そのあたりの関係?
で、今回の「ベガーズ」を観て、わかったこともありました。ヅカ版のマクヒースの最後が、絞首刑が中止になり、みなで歌って終わるってのが、なんとなく不自然だなあ、サヨナラ公演だからかなあ、と思っていたのですが、たんにモトネタ通りだったんですね。長年のつかえが取れました。
ロンドンの悪党を取り仕切るピーチャムは盗品故買屋。部下が盗んできた物を妻が現金化し、その上前をハネる。役に立たなくなった者は警察に密告する。そうすると、役立たずはお上が絞首刑にし、彼の懐には密告料の40ポンドが入るという寸法だ。彼が慈しみ貴族の令嬢のように育てた娘のポリーは、親の目を盗み、部下の悪党、追い剥ぎのキャプテン・マクフィースと結婚してしまった。このマクヒースという男、働きは良いのだが、名うての女ったらしで、愛人が何人もいるのだ。怒ったピーチャムはマクヒースを牢獄送りにしようとする。ポリーに涙の別れを告げ、ロンドンを出ようとするマクヒース。だったが、淫売宿に寄り道。愛人の一人、ジェニーとよろしく楽しもうとするが、ジェニーに売られロキットが看守を務めるニューゲート牢獄に繋がれる。絶体絶命に見えたが、これまた愛人の一人、ロキットの娘ルーシーに脱獄を手伝わせ自由の身に。なったように見えたが、やっぱり淫売宿(ジェニーの所とは別)に寄り道し、その女将に売られてしまう。もはや絞首刑は免れない!
マクヒースを吊せ!!
ここで、劇場支配人から物言いがつく。「オペラというのはハッピーエンドでなければ!!」。貧乏人は貧乏人のまま、金持ち・上層階級のみが甘い汁を吸う、そんな風刺劇を上演したかったのに、、、。しかし、金持ちには逆らえない。作家の乞食は仲間の役者に言う、「恩赦が出たので死刑は中止と叫ぶんだ!」。
初演は1727年、ジョン・ゲイ作。世界最初のミュージカルと言われる作品です。休憩2回を挟んで3時間30分の上演時間は長いんだけれど、削れないし巻けないので、仕方がないでしょう。ゆったりめに進む芝居、ゆったりめの音楽は、やっぱり少々古くさいけれど、このテンポだからこそ生きる芝居なのかもね。
かと言って。内容はゆったりじゃありません。テンション、バカ高。猥雑でエネルギッシュ!舞台上にまで客席を作り、3階席から観ていても、演者と客が一体となり、臨場感たっぷり。幕間には役者さん達が客席に来て、芸を見せてお菓子(等)をねだったり、「望遠鏡でマクヒース『だけ』観るのは止めろ!」と注意されたり。自分を「ドルリー・レーン劇場で乞食達の芝居を観る客」と錯覚しそうでした。1日のみの、1回だけのお祭りに、自分も参加した気分。
内容もねえ。悪人ばっかり出る話なんだけど。マクヒースも、もう、どうしようもな男なんだけど。女が群がるのがわかるよなあ。そういう説得力を見せてくれたウッチーでした。歌自体はね
歌い慣れていない曲は
ちょっと厳しいかもね・・・
でも、建前は「素人芝居」なので、まあ、良いでしょう。それよりも、女にだらしないのに、女が離さない、そういう色気がある方が大事で。フェロモン放出、ってワケではないんだけど、なんか、こう、女が放っておかないよ!って雰囲気は、とっても素晴らしいと思います。ポーリー、ジェニー、ルーシー等とキスをしまくり。役得に見えるけど、ヒゲのおっちゃんとのキスもあったのでプラマイゼロかね。
女優陣の中で印象深いのは森さんと島田さん。ピーチャム夫人の森さんは可愛いソプラノの歌声で、あらまあ、こんな声は初めて聞いたわ!でもこれはこれで似合っている、と思ったら、後半の二役目はいつものアルト系の声で。その演じ分けがうまいですね。島田さんの歌は心に響きます。一番、「歌」で伝えていましたね。2幕終わりの「牝狐は、牡狐が猟犬から逃げられるのを祈るだけ」の歌が泣けました。笹本さんもハジけていて面白かった。
それから、橋本さんだよねーーー、うまいねーーー、声も演技も、なにもかもが。客の引き込み方がとってもうまい。彼の語りで、劇場があっというまに21世紀の日本から18世紀のロンドンになっちゃいましたよ。
その他のアンサンブルもハズれなし。舞台(美術・装置)の作り方もよく考えられていて、すべてに渡って高レベルな内容で、とってもとっても見応えがありました。3千円で観て、申し訳ないわ。
さて。ここで。ヅカ版の「スピーク・イージー」についても少々。以前どこかで、「『スピク』は『ジョン・ゲイのベガーズ・オペラ』を元にしたと断りがあるが、『ブレヒト版』を下敷きにしていないか?なんで『ブレヒト版』のクレジットを入れないのか?」という記事を目にしたことがありまして、その時は両版とも知らなかったのでよくわからなかったのですが、数年前の蜷川演出ブレヒト版と、今回の「ベガーズ」を観て、合点しました。
ヅカ版は、あきらかに
ブレヒト版がモトネタです
初演から200年後に作られたブレヒト版の改訂点。っても、私は蜷川演出しか観ていませんが・・・
・マクヒースを、ピーチャム手下の追い剥ぎから
ピーチャムと敵対するギャングのボスに
(マック・ザ・ナイフ(の独語)の別名を持たせる)
・ロキットは看守から警視総監に。
マクヒースとロキットを、かつて戦争で一緒に闘った仲間とする
(その戦友にさえ裏切られるマクヒース)
・新たに作曲
♪お聞かせ~ しましょう~ 悪党の~ はなし~~
♪いまでは 懐かしい 日々
♪この商売は賢くなけりゃ 生きているうちに頭を使え
などの曲はブレヒト版で登場。
ただね~、オチを覚えていないんだよな。恩赦が出て、それは確実なんだけど。母が言うには「当時のナチを風刺した」って言うんだけど、わからんかったよ。全然。それにしても、なぜ、「ブレヒト」をクレジットに入れなかったんでしょうな>宝塚歌劇団。著作権とか、そのあたりの関係?
で、今回の「ベガーズ」を観て、わかったこともありました。ヅカ版のマクヒースの最後が、絞首刑が中止になり、みなで歌って終わるってのが、なんとなく不自然だなあ、サヨナラ公演だからかなあ、と思っていたのですが、たんにモトネタ通りだったんですね。長年のつかえが取れました。