印南新村の百姓たつ
明治15年は、なんとも気の重い年明けとなりました。
「240町の土地を農民から取り上げることは百姓の生きる全てを奪うことになる。営々として積み上げた苦労を、村を一気につぶすことになる。法の定めに従うとはいえ、人間として許されるのだろうか・・・」
郡長は、言いようのない悔いとおののきを覚えるのでした。
田舎の宿は、静かでした。冬の風だけが屋根でなっています。
しかし、怒りに火がついついてしまいました。
・・・・
数日後、印南新村の男200人あまりが郡役所を目指しました。
郡長がその知らせを受けた時は、すでに加古川の町に迫っていました。
午前10時。一群は寺家町の役所に着きました。
さっそく、一群は郡長に直訴しました。
(百姓)「この度のこと(地券没収)は、人とも思えぬ仕打ちであり、あまりにもひどい。このような仕打ちをした県令は、おそらく真実を知らないとしか思えません。
我々は、直接県令に会って事情を説明し、処分を取り消すように嘆願することにしました。郡長には迷惑と思うが同行願いたい・・・
百姓も立たなあかん時があります。今がそのときやと思てます・・・」(no5037)
*挿絵:『赤い土』より