新租額はきまったが・・・
翌朝、茂平次は姫路の宿舎を出て一人村へ向かいました。
夏の日差しは、容赦なく茂平次に照りつけました。
昨夜から、何度も同じことを繰り返していました。
今も堂々巡りしている。
「印を押したことは間違だった」「仕方ないことだった」「印を押したことは県のやり方を認めたことになる」「これからどうしたらよいのか」「・・・・」
高畑村(現・平岡町高畑)から印南野台地にかかると風景は一変しました。
太陽が、干からびた台地にギラついています。
村人は、茂平次を見つけ、冷たい水と手ぬぐいを差し出しました。
焼けた道を歩いてきた体には、心地よく、村人の親切がみにしみるのでした。
それだけに、昨夜の調印がよけいに悔やまれてなりません。
集まってきた村人は、茂平次を責められません。
昨夜からのいきさつを村人たちはよく知っていました。
百姓は「お国も県もひどいことをしよる」とつぶやいた後、沈黙が続くばかりでした。
茂平次は、考えていることを話した。
「どないしても、地価の見直しをしてもらわなあきまへん・・・」
茂平次は一同の気持ちを確かめるように見回した。
薄明かり・用水(疎水)計画の話
話は別やが野寺村の魚住完治はんが力をいれてはる山田川からの引き水のことやけど、まだ、いまのところどないなるかわからへん・・・
そやから、地価をみなおしてもらって、水が来るまで村が潰れんようにがんばりましょう。
翌日、茂平次は村に新祖額を伝えました。
改正祖額が伝えられると、内容は広まっていたものの、村人は激怒しました。
「役人は人殺しや」と国をののしる者もいました。
怒りをどこへぶつけてよいのかわかりません。
・・・・
後日、茂平次は地租請印取り消し上申書を県令(知事)に親展で提出しました。
予期したこととはいえ、何の音沙汰もありませんでした。(no5026)