古代史はつくりごと
『夢の代』は、古代史批判から始まります。
蟠桃の古代史への考察は、必ずしも体系的とは言えませんが、科学的な歴史観と蟠桃の気迫が感じられます。
蟠桃の古代史は、『古事記』の批判からです。
『古事記』に言う「神が国土を創造したり、何十万年もの寿命があったりするのは荒唐無稽の話である」と指摘しました。
「・・・神武天皇は、15歳で即位し、50歳で東征に出るなどというのも、まるでつくり話です。
そして、〝大日本史″は、神武天皇から始まるが、神武天皇から応仁天皇までは、あくまで口伝えの歴史であり、まちがっています。
天王は実在していない。
また、神功皇后の三韓(新羅・百済・高句麗)征伐などもインチキである・・・」と、蟠桃は、一気に自身の思いを吐き出しています。
妄想の再現
戦前、日本は神に守られた国であるとされ、学校でもそのように教えられました。
神武が最初に天皇の位についたのは古事記には、昭和15年は2600年目にあたるとしています。
そのため、太平洋戦争に突入する昭和16年の前年の昭和15年に「紀元2600年」の式典を行いました。
この行事は、日本は神に守られた国であり、その素晴らしさを世界に広げようとして行われた行事でした。
そして、無謀な戦争に突入していったのです。
「歴史学者・津田左右(つだそうきち)が、「古代史研究」で神武天皇から仲哀天皇までの天皇の実在性は疑わしい」と主張し、昭和17年に禁固3か月、実行猶予2年の有罪判決を受けました。
蟠桃の考えは、この事件より150年も前のことでした。(no3434)
*挿絵:神武天皇(明治時代初期の版画・月岡芳年『大日本名将鑑』より)