樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

数万の燕尾服

2006年07月31日 | 野鳥
近くを流れる宇治川には、京都府(おそらく近畿でも)最大のツバメのねぐらがあります。毎年、今ごろになると夕方、数万羽のツバメが広大なヨシ原に集まって眠り、翌朝また飛び立って行きます。私は、そのツバメのねぐら入りの観察会を担当していたこともあります。

今年はそのツバメの数を調査するというので、土曜日の朝お手伝いに行ってきました。早朝4時、現場には京都府南部在住の野鳥の会の常連メンバーが集合。8人が約100メートルずつ間隔をあけて、ヨシ原から飛び立つツバメをカウントしました。
ようやく明るくなり始めた4時40分、ヨシ原からツバメが飛び始めました。最初は50羽くらいの群れでしたが、次第に100羽単位、500羽単位、ピーク時には1000羽単位になることもあります。

カモの調査ではカウンターで1羽ずつ勘定するのですが、ツバメはそんなことしてられません。目算で約50とか100とか、群れをかたまりでカウントして積算するのです。私のポイントでは合計7,800羽。集計はまだですが、4万~5万くらいになるようです。

      

5時頃ツバメのご出勤が終ると、今度はとスズメやムクドリが飛び立ちます。「デンデン、デンデン」(私にはそう聞こえます)と鳴きながら、セッカも飛んでいます。
すぐそばにセッカが止まったので、無理を承知でコンパクトデジカメで撮ってみました。拡大したので画像がボケていますが、声に似合わずかわいい鳥です。

数千羽のツバメの群れが飛ぶ時は、ジュクジュクという声に加えて、羽音も聞こえます。夕方の乱舞は毎年観察していましたが、早朝の飛び出しは始めての経験でした。ツバメは珍しい鳥ではありませんが、圧倒的な数に囲まれると、いつもながら感動します。

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WとXとY

2006年07月28日 | 樹木
「木曾五木」と呼ばれ、昔から木曾地方で大切にされてきた木があります。ヒノキ、サワラ、アスナロ、ネズコ、コウヤマキの5種類。前の4種はいずれもヒノキ科、コウヤマキだけが別の科(コウヤマキ科)です。
神社やお寺の建材として需要の多いヒノキをはじめいずれも有用材で、無断で伐採すれば打ち首にするという掟が設けられたほど。しかし、本当に守りたかったのはヒノキで、その他の樹はヒノキによく似ているため、「サワラだと思って伐採しました」という言い訳をさせないために、類似の木をすべてリストアップしたという説もあります。

コウヤマキだけは葉の様子が違いますが、他の4種は葉も樹皮もそっくり。見わけ方は葉の裏の白い気孔の模様です。クロベには白い模様がありません。

      ヒノキの気孔はYの字
      

      サワラの気孔はXの字
      

      アスナロの気孔はWの字
      

尾張藩によって守られてきた木曾のヒノキ林は、現在は国有林になっています。江戸時代は伊勢神宮に建材を供給していましたが、現在は特定の宗教団体だけを優遇できないので、文化財的な建造物に限って供給することになっているそうです。
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子供の手のようなヒノキ

2006年07月27日 | 樹木
樹木に興味を持ち始めた頃、とりあえず身近な所から勉強しようと思って、よくご近所の庭や生垣のツリーウォッチングをしていました。写真のコノテガシワは、その頃に覚えた樹です。

         

漢字で書くと「児の手柏」。子供の手を合わせたような平べったい葉が特徴です。柏は、日本では柏餅のカシワですが、中国ではヒノキの仲間を意味します。
この不自然に扁平な葉を見たとき、人工的に作った園芸種だと思いましたが、中国原産の天然種でした。

      
      (今ごろは実も青いですが、秋には茶色くなります。)

その中国の周時代には、王の御陵にはマツを、王族の墓地にはコノテガシワを植えたそうで、かなり上位の扱いを受けています。そう言えば、中国には「松柏」という言葉がありますが、マツとコノテガシワを意味しているのかも知れません。
朝鮮王朝でも、「君子はアカマツやコノテガシワのように一人堂々と立つ、小人はフジやヤドリギのように他人に頼る」と言われ、この樹にはかなりいいイメージがあったようです。
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ボウリングのピンはカエデ

2006年07月26日 | 木とスポーツ
先日、テレビのバラエティー番組で「ジェットウォーターで何でも切ってみよう」という実験をやっていました。細い水の噴流が金属バットやビールグラスを見事にカットしていました。ボウリングのピンも縦に切られました。
番組のタレントは、ピンが硬くていい音がするのでプラスチック製だと思っていたようですが、実は木製です。私はイタヤカエデが使われていることは知っていましたが、中に小さな四角い穴が空いていることは知りませんでした。割れにくくするためと音を良くするためだそうです。

          
   (熊の爪痕が残るイタヤカエデの幹。今月初旬、栃の森で撮影)

イタヤカエデはピンだけでなく、ボウリングのレーンにも使われています。この他にもスポーツ用品にもよく使われていました。「ました」と過去形になるのは、現在は新しい素材にとって代わられているからですが、テニスのラケットや国産のスキー板はほとんどがイタヤカエデだったそうです。

      
    (イタヤカエデの葉。切れ込みが浅く鋸歯がないのが特徴)

イタヤカエデは名前の通りカエデの仲間で、少し山奥に入るとあちこちに生えています。紅葉シーズンには、赤く染まらず、鮮やかな黄色で目を楽しませてくれます。
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余の木と榎

2006年07月25日 | 木と言葉
「木の名のガセビア」シリーズで由来を疑ってばかりいたので、その罪滅ぼしに、木の名前に関する面白いトリビア(無用の知識)をご紹介します。

      

エノキはあちこちに大木が残っています。街道の一里塚として植えられ、旅人に木陰を提供していたので、現在まで大切に残されたのでしょう。
写真は、京都府自然200選に選定されている木津川沿いのエノキ。京都と奈良を結ぶ奈良街道の一里塚だったと思われます。

エノキが一里塚に使われた経緯について、次のような記録が残っています。
「御三代目将軍家光の時、行く先も行く先もみな松原のみにて、旅人の退屈せん事を思んぱかり、一里塚には余の木を植えさせよと仰有しを、大炊頭殿(ある家来)老年にて耳遠くおわしければ、余の木を榎の木と聞き誤って榎の木を植えしめらる」。
徳川家光が、「一里塚がマツばかりでは旅人が退屈だから、余の木(よのき=他の木)を植えるように」と言ったのを、耳の遠い家来が「エノキ」と聞き間違えた、というのです。

      
  (葉の上半分に鋸歯があるのと3つに分かれる側脈がエノキの葉の特徴)

私自身も少し耳が遠くて、鳥を見に行っても小鳥の高い音が聞き取れなくて苦労するのですが、こういうユル~イ話は大好きです。
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アダムとイブが食べた実は?

2006年07月24日 | 木と宗教
イチジクが果物売り場に並び始めました。
この実は漢字で「無花果」と書きます。字だけ見ると「花が咲かずに成る果実」と思いがちですが、花が咲かずに成る実はありません。もっと言えば、基本的にはどんな樹でも花は咲きますし、実も成ります。目立つか、目立たないかだけの差です。

      

私たちが実と思っているのは花嚢(かのう)と呼ばれる花の一部。この中に花が咲いているので、私たちの目に見えないのです。
イチジクの実(=花嚢)の上には穴があいていますが(写真では左)、この穴からイチジクコバチという虫が入ってきて中の花に受粉し、本当の実(種のある部分)が成ります。私たちが食べているのは、ほとんどが花の部分なのです。

          
      (うちの近所にはなぜかイチジクの樹が多いです。)

イチジクと言えば、アダムとイブがリンゴ(知恵の実)を食べてお互いが裸であることに気づき、恥ずかしくなって陰部を隠した葉として知られています。この話は聖書の「創世記3章7節」にあり、これが聖書に登場する最初の木だそうです。このほか、イチジクは57回も聖書に登場するとか。
また、アダムとイブが食べたのはリンゴの実とされていますが、中東にはリンゴは育たないので、これもイチジクではないかという説があります(アンズ説もあります)。イチジクの実を食べて知恵がついて恥ずかしくなったから、すぐにその場にあった葉で隠した、という方が自然ですもんね。
そんなイチジクが日本に渡来したのは1600年代ということです。
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懐かしのポプラ

2006年07月21日 | 木と歌
♪ポプラ並木の 五輪ヶ丘に 鐘が響くよ 楽しいな~。
誰も聞いたことないでしょうが、私の小学校の校歌です。昨日のことはすぐ忘れるくせに、半世紀も前の歌を覚えているはどういう訳でしょう? 歌詞のとおり、校庭(五輪ヶ丘とは大層な名前)にはポプラの木が5~6本植えてありました。

         
  (こんな感じで校庭にポプラが並んでいました。写真は宇治川の淀あたり)

以前、「木枯らし紋次郎の楊枝」で紹介しましたが、ポプラはセイヨウハコヤナギとも言い、ヤナギ科の樹木です。日本のハコヤナギ(=ヤマナラシ)と同様、葉っぱが風に揺れやすく、カラカラと音をたてます。
北海道の絵はがきによく登場するスリムで背の高い木です。競馬ファンなら淀の競馬場をご存知でしょう。競馬中継でもよく映りますが、いちばん奥(宇治川との境)にあるのがポプラ並木です。

      
(宇治川側から撮影した淀競馬場のポプラ並木。この時もカラカラ鳴っていました。)

日本ではハコヤナギから箱や楊枝を作りましたが、ヨーロッパではポプラから木靴を作ります。軽くて水に強いそうです。
さて、私の母校のポプラですが、数年前帰省した折に訪れましたが、並木はもうありませんでした。背が高くて風の影響を受けやすいので、台風で倒れたのでしょう。でも、後輩たちは相変わらず「♪ポプラ並木の~」と歌っているようです。
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お木軽に

2006年07月20日 | 木の材
2日続けておやじギャグタイトルで申し訳ない。
日本で最も重い木はウバメガシですが、逆に最も軽い木はキリです。気乾比重は約0.3。写真は桐の下駄ですが、手に持ってみると頼りないくらいに軽い。スケールで計ったら250グラム。私がいつも散歩に履く、いちばん軽いスニーカー(布製)は600グラムでした。

      

では、「世界で最も軽い木は?」と言うと、気乾比重0.17のバルサ。私も子供の頃、模型飛行機をよく作りましたが、あの材料がバルサです。日本で最も軽いキリのさらに半分ですから、バルサで下駄を作ったら130グラムくらい。履いているのを忘れそうな軽さです。
この世界一軽いバルサも、昨日ご紹介した世界一重いリグナムバイタやブラックアイアンウッドも中南米産というのが面白いです。
昨日、気乾比重が1以上の重い木があると書きました。木の主な成分はセルロース、リグニン、ヘミセルロースで、どの樹木もほぼ同じです。なのに、なぜ比重がこうも違うのか?

         
      (キリの幹。樹皮は白っぽく、見るからに軽そう。)
 
それは、空気です。軽い木には空気がたくさん含まれている(つまり空洞が多い)のです。昔、日本では「女の子が生れたら桐を植えて、その木で婚礼用の箪笥を作る」と言われていました。20年くらいで箪笥が作れるほどの大木になるということは、それだけ成長が早いということ。つまり、空洞が多いということです。
「火事になっても桐の箪笥なら中身が燃えない」と言われるのは、空洞が多くて熱伝導率が低いためだそうです。
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木が重い

2006年07月19日 | 木の材
おやじギャグのタイトルですみません、木の重さの話です。
木の重さは「気乾比重」という基準で表示します。ある程度乾かした状態での比重です。
日本で最も重い木はウバメガシ。備長炭の材料として知られています。アカガシやイスノキも重く、気乾比重はいずれも0.8~0.9。このクラスになると、生木なら水に沈みます。
写真の備長炭は、打ち合わせると金属のような硬質な音がします。なお、炭のことは「いい炭ドットコム」が詳しく教えてくれます。この備長炭もここから購入しました。

      
(わが家では備長炭をホルムアルデヒド対策や冷蔵庫の消臭用に使っています。)

このウバメガシは生垣にもよく使われます。京都御所でも烏丸通りと丸太町通りに沿った石垣の上に延々とウバメガシが植えてあります。
ある本には「京都ではナンキンガシと称して庭に植える」と書いてありましたが、関東では生垣や庭に使わないのでしょうか。

      
      (私の近所にもウバメガシの生垣があちこちにあります。)

さて、世界一重い木は、一般的にはリグナムバイタと言われていて、気乾比重は約1.3。つまり、乾かした状態でも水に沈むのです。主に船のスクリューの軸受けに使われていて、適度に油が滲み出てくるので最適だそうです。
ところが、最近ある材木屋さんの本を読んでいたら、それよりも重い木があると書いてありました。その名はブラックアイアンウッド、黒い鉄の木。いかにも重そうでしょう? 気乾比重は、何と1.5。こんな木を何に使うのかと言うと、日本では算盤の枠材だそうです。

木をギュッと圧縮して空気のない状態にしたら、どの木も比重は1.5くらいになるそうです。ということは、ブラックアイアンウッドは空気がほとんど含まれていない木ということですね。
私の比重はいくらかな? 脂肪が多いから水には沈まないだろう。って安心している場合じゃないな。
軽い木の話は明日。
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エッチな木

2006年07月18日 | 樹木
ネムノキの花が咲き始めました。
「夜になると葉を閉じて眠るからネムノキ」という由来は、木に詳しくない人でもご存知でしょう。中国では「合歓木」。日本にも「合歓の郷(ねむのさと)」というレジャー施設があります。

      
      (ピンクの糸のような花を咲かせます)

このネムノキ、中国や韓国では少しエッチなイメージがあるようです。日本では単に「葉が眠る」ですが、あちらでは「夜になると必ず二つの葉がぴったり重なり合う」夫婦和合のシンボル。
「合歓」という字も、じっと見ると何となくそれっぽい。中国では「夜合樹」とも書くそうです。

      (マウスオンすると、夜の葉の姿になります)
      

また、ネムノキの花を乾かして、夫の機嫌が悪いときに酒に入れて飲ませたら、気が和らいだ。それ以来、人々は愛の秘薬としてネムノキの花を乾燥させるようになった、という話も伝わっています。
韓国の古い医書には、「合歓の木の樹皮は精神を安定させ、万事を楽しくしてくれる」と書いてあるそうです。

こんな記事にはコメントしにくいですよね。すみません。
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