樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

鳥納め

2019年12月26日 | 野鳥
ある人から情報をいただいたので、近くの巨椋(おぐら)干拓地でヒシクイを観察してきました。この鳥はガンの仲間で、正確にいうと亜種オオヒシクイ。4年前にも1羽飛来しましたが、同じ個体かどうかは分かりません。



京都府南部にガンがやってくることはほとんどないですが、大昔は普通にいたようで、『万葉集』に以下の歌が残っています。作者は柿本人麻呂。

巨椋(おほくら)の入江響(とよ)むなり
射部人(いめびと)の伏見が田井に 雁(かり)渡るらし


「射部人」は伏見にかかる枕詞で、意味は「巨椋の入江に声が響いている。伏見の田園をガンが渡っていくようだ」。
現在は干拓されて広大な農耕地になっていますが、当時の巨椋は湖でした。内陸部なのに向島、槙島、大島、中書島といった地名が残っているのは、その湖にたくさんの島があったから。
その入江に声が響くほどの大群が、伏見~宇治の農耕地に飛来していたわけです。約2年前の昨年2月には34羽のマガンが飛来し、当ブログでもご紹介しました。
久しぶりに大型のガンをじっくり観察することができ、今年の鳥納めにすることができました。
ということで、今年の当ブログはこれが最後です。1年間ご愛読いただき、ありがとうございました。みなさま、良いお年をお迎えください。
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京都御苑で鳥見

2019年12月19日 | 野鳥
先週の土曜日に京都御苑で探鳥会を担当しました。ここで案内するのは久しぶりなので、前々日に下見しました。
例年見られるビンズイやトラツグミなど常連の冬鳥が、なぜかいません。普通種も少ない。担当者にとって、参加者の期待を背負って案内しているのに肝心の鳥がいないというのが最も苦しい状況です。「当日ちょっと苦労しそうだな~」と不安になってきました。
カメラを持参したものの収穫が少ないので、府立植物園まで足を伸ばしました。ここも探鳥で訪れるのは久ぶり。しかし、冬鳥の状況は京都御苑と同じく手応えがありません。



そして、本番当日。約30人が参加されました。中には、小さい娘さん2人を連れたお父さんが…。しかも、その姉妹が歩き疲れたら休めるようにと、折り畳みイスを担いでの参加です。優しいお父さんのおかげで、2人は写真のような「お姫様バードウオッチング」を楽しんでいました。上のお子さんは「将来は生物学者になりたい」そうです。



トラツグミは本番でも現れなかったものの、ビンズイはじっくり見ていただけました。アオゲラやミソサザイも登場しました。上空ではハイタカの雄と雌がゆっくり旋回してくれました。結果的には合計32種類の鳥を見聞することができ、みなさんにも喜んでいただけたようでほっとしました。
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電気よりもツルを選んだ国民

2019年12月12日 | 野鳥
国の豊かさをGDP(国内総生産)ではなく、GNH(国民総幸福量)で表そうと提唱しているのはヒマラヤ山脈にある人口76万人の小国・ブータン。
この国は現在、グローバルな資本主義を拒絶し、観光客も制限するなど、一種の鎖国状態を保っています。それによって固有の伝統や文化、自然環境、社会的な基盤を守ろうとしているのです。
そのブータンのフォプジカという村では、米や麦が栽培できないのでヒツジを飼ったりジャガイモを栽培して生活しています。電気も通じていません。
以前この村にも電気を引こうという構想が持ち上がりましたが、結局実現しませんでした。その経緯について、『もう一つの日本 失われた「心」を探して』(皆川豪志)は以下のように書いています。
実現しなかったのは、一帯がヒマラヤを越える渡り鳥「オグロヅル」の飛来地だからだ。渓谷に電線を引けば、そのコースを妨げることになり、ひっかかって命を落とす危険もある。(中略)
自給自足に近い生活を送るこの村の人々。電気がないのだから、テレビも炊飯器も冷蔵庫もない。日が昇れば田畑で働き、暗くなれば寝るという素朴な生活を、もう何世代も繰り返し続けてきた。
その一人、ハーンさん(31)は子供3人と妹、夫の6人家族。下の子はよちよち歩きを始めたばかりで農作業や牛の乳搾りの合間も目が離せない。休む時間はほとんどなく、残った家事やチーズ作りの仕事は夜が更けてからロウソクの明かりの下でするしかないという。
「やはり電気が欲しいですか? それともツルのほうが大事ですか?」
少々、意地悪な質問に、ハーンさんは、恥ずかしそうな笑顔でこう答えた。「電気はあればいいけど、なくてもいい。でもツルはそういうものじゃない。くると幸せな気分になれるから。子供のころからずっと見てきた烏だから」。この旅で、最も心に残る言葉だった。

下は多摩動物公園のオグロヅル。




「電気よりもツルの方が大切」という声はハーンさんだけではなく村の総意であったため、電気を引くという構想が頓挫したわけです。
私たちなら間違いなくツルよりも電気を選ぶでしょう。それとは逆の価値観があるということを知っておくべきですね。
この話は10年以上前のことですが、その後「太陽光発電が設置された」とか「政府がツルのために、お金を掛けて電線を地下に敷設した」という情報が伝わってきているそうです。

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黒い落ち葉

2019年12月05日 | 樹木
週末に栃の森に行ってきました。11月は参加できなかったので、2カ月ぶり。そして、今年最後の森歩き。
10月の台風による崖崩れで通行止めになり、いつもより3kmほど手前でキャンプしました。おかげで、往復約20km歩くことになりました。
当日は予想以上に寒く、車の中に断熱マットと敷布団と毛布2枚を敷き、毛布1枚と羽布団とこたつカバーを掛けて寝ましたが、それでも寒いので着ていたカシミヤセーターの上にフリースのジャケットを羽織って寝ました。同行メンバーによると、朝、飲み差しの缶コーヒーを飲もうとしたら凍っていたとのこと。
林内には4~5日前に降った雪が残っていました。今回、みなさまに冬枯れの森歩きの気分を味わっていただこうと、歩きながら動画を撮りましたのでご覧ください。




この森では何度もせせらぎを渡るので、いつも長靴です。時々出会う自然観察ツアーの参加者は高価なマウンテンシューズを履いておられますが、ホームセンターで売っている3000円程度の長靴の方が歩きやすいです。
紅葉はすでに終わり、足元には落ち葉がたくさん積み重なっています。ほとんどの葉は褐色ですが、中には黒い葉があります。いつも不思議に思うのですが、ミズキ(下)はなぜか赤や黄色ではなく黒く変色して落葉します。



紅葉はアントシアン、黄葉はやカロチノイドという色素によると説明されますが、黒葉はどういう仕組みなのでしょう。ハリギリ(下)も落葉すると黒くなります。



そう言えば、昔『黒い花びら』という歌が第1回レコード大賞を受賞しましたが、『黒い落ち葉』という歌もあるんですね。歌っているのはどちらも水原弘。
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