樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

珍鳥の分布と光学機器

2014年01月30日 | 野鳥
某所にヨーロッパトウネンがいるというので行ってきました。いわゆる「珍鳥」で、私も見たことがありません。
普通のトウネンによく似ていて、図鑑には「トウネンより関節の上が少し長い」とか「クチバシの先がやや細い」といったマニアックな識別ポイントが書いてあります。
私はどう違うのかよく分かりませんが、この鳥を観察し続けていらっしゃる地元の愛鳥会の方に「これがヨーロッパトウネン」と教えていただいたので間違いないはずです。
下の動画ではヨーロッパトウネンとトウネンの違いをお伝えしようと交互に編集しました(トウネンは昨年別の場所で撮影したもの)。



どこがどう違うのかよく分かりませんね~。
このヨーロッパトウネン、以前はきわめて珍しい鳥でしたが、最近はそうでもないようです。その要因はデジタルカメラ。
デジカメで鳥を撮影する人が増え、その場で拡大してトウネンかヨーロッパトウネンかを識別できるようになったため、全国的に記録が増えているそうです。
これまでは、普通種によく似た珍鳥を双眼鏡やスコープで目撃しても、記憶だけでは識別に自信が持てませんから「珍鳥を見た」と断言できませんし、フィルムカメラで撮っても現像やプリントなどに時間がかかりますが、デジカメならリアルタイムで確認できます。
タカの渡り調査でも、スコープで識別できない場合、カメラで撮影した画像をその場で拡大して雌雄や成幼を確認することが増えました。
ということは、カメラの進化によって、鳥の分布や生態が変わるということです。実態には変化がないのに、人間の認識レベルが変わるわけです。
ヨーロッパトウネンのようにかつての珍鳥がそれほどでもなくなることもあれば、それまでの常識ではあり得ない場所に、あり得ない珍鳥が記録される可能性もあるということです。
これまでも、双眼鏡やスコープ、超望遠レンズなどが登場するたびに人間の認識レベルが向上したのですから、光学機器の進化による野鳥の分布や生態の変化は今に始まったわけではありません。さらに押し広げれば、自然と科学は常にそういう関係にあるということでしょうね。
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樹木がくれる幸福

2014年01月27日 | 木と医薬
環境ジャーナリスト・枝廣淳子さんのメルマガに興味深いニュースがありましたのでご紹介します。
「緑地が幸福感を高め、ストレスを減らし、健康を促進する」という研究成果が増えているという記事が、イギリスの新聞「ガーディアン」に掲載されたそうです。
例えば、アメリカのペンシルバニア州の病院では、1972~1981年のデータを分析した結果、「手術後、ベッドから緑の木々を見ることができた患者はより早く回復する」ことが分かったそうです。
このデータは、以前当ブログの「病気と樹」で取り上げたものと出所が同じかも知れません。



また、オランダで25万人の市民を対象に同様の調査を行ったところ、緑地と健康・幸福に関して同じような結果が出たそうです。
このほか、「自然の中にいるとストレスが減り、仕事の業績が上がる」とか、自然とのふれあいが「囚人の体調不良の減少」や「都心の少女たちの自制力向上」「老人の死亡率低下」に関連しているという論文もあるそうです。
さらに、シカゴのある研究では、緑の多い場所に住む人々はコンクリートに囲まれて暮らす人々よりも近隣との交流が多く、家庭内暴力も少ないことが判明したとのこと。
枝廣さんは、「これまでは、環境問題といえば「人々から自然を守ること」が目的でしたが、「人々の幸福を保つために自然を守る」という考え方が出てきたのです」と解説しています。
私は樹木が好きでこんなブログを始めましたが、そもそも「樹木が嫌い」という人はいないはずで、好感度の高い自然物に囲まれていれば幸福度が高まるのは当然ですね。
この論調に従えば、樹木や野鳥を観察し続けている私の幸福度は高いはず。確かに、ストレスもなく、体調不良もなく、近隣との交流も多く、家庭内暴力もありません。
ただ一つ研究成果と違うのは、仕事の業績が上がらないことかな。
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軍師官兵衛の子孫

2014年01月23日 | 野鳥
大河ドラマ『軍師官兵衛』が始まりました。信長や秀吉を裏で支えた黒田官兵衛が主人公です。
その官兵衛の子孫である黒田家の当主には著名な野鳥研究家がいます。もともと江戸時代から本草学(現在の博物学)に造詣が深い家系だったようですが、官兵衛から数えて15代目の当主・黒田長礼(ながみち)は日本の鳥類学の草分け的存在で、日本鳥学会の第4代会頭(在任期間:1947-63)を務めています。また、中西悟堂らと共に日本野鳥の会を設立しています。
鳥類学者としては、1917年(大正6)にカンムリツクシガモという新種を発見し、その学名(Pseudotadorna cristata Kuroda)に名前を残しています。このカモは現在は絶滅したと考えられていて、剥製が残っているだけですが、その近縁種であるツクシガモは今も健在。
私も先日、大阪南港で観察してきました。今年は枚方市の溜池や京都市の桂川など内陸部でも目撃されていて、関西ではツクシガモの当たり年のようです。



官兵衛の子孫の話に戻りますが、黒田長礼の長男、官兵衛から数えて16代目の当主・長久(ながひさ)も鳥類学者です。父親と同じく、日本鳥学会の第6代・第8代会頭(在任期間:1970-75、1981-90)を務めた後、日本野鳥の会の会長に就任。私が入会した頃の会長はこの人でした。
16代目当主は多才な人で、鳥の研究のほか、絵を描いたり、作曲も手がけたそうです。野鳥の会の職員の結婚披露宴などでは、本家本元の『黒田節』を歌ったとか。
官兵衛が活躍した後、黒田家は九州福岡の藩主になるわけですが、その末裔が「カンムリ筑紫ガモ」を発見するというのも何かの縁でしょうか。
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クルマとクルミ

2014年01月20日 | 木と乗物
昨日、宇治は初冠雪でした。寒さが厳しくなって、関西でも冬用タイヤに履き替えた人が多いと思いますが、クルミの殻を配合したスタッドレスタイヤがあることをご存知でしょうか?
そのメーカーである東洋タイヤのサイトによると、粉塵公害を起こしたスパイクタイヤに代わる冬用タイヤを開発する際、路面の氷をひっかく素材としてホタテの貝殻やカシの木、ヤシの種などを試したそうです。そして、最終的に行き着いたのがクルミの殻。精密機械の研磨材として使われていたクルミの殻の粒をタイヤの原料に混ぜたのです。
生産段階では混合機の内部をクルミの殻が削るリスクもあったようですが、1991年9月にクルミ殻配合のスタッドレスタイヤが誕生しました。


現在は「ガリット」というシリーズ名で販売されています

アスファルトの硬度は8.0、氷の硬度は1.0~2.5。これに対して、クルミの殻の硬度は3.5。氷より硬く、アスファルトより柔らかいので、路面を傷つけずにグリップ力を発揮するわけです。
さらにその後、「ひっかき効果を高めるため、より硬い“鬼クルミの殻”を採用」したそうです。「オニグルミ」のことでしょう。


栃の森にたくさん転がっている“鬼クルミ”の殻

それまで使っていたのは、食用として出回っているテウチグルミ(栽培種)の殻のはず。実(正確には種子の核)を取った後、不要になった殻を研磨材として利用していたということでしょう。
2008年に発売されたスタッドレスタイヤには、そのオニグルミの粒が700万個配合された「吸水クルミックスゴム」が使われたそうです。ゴムの名前がクルミです(笑)。
クルミの殻が冬のドライブを安全に保っているわけで、木は意外なところで社会に貢献しているのです。
クルマと木といえば、高級車のコントロールパネルやステアリングに木が使われます。材はウォールナットが多いそうです。欧米の高級家具に使われる木材ですが、ウォールナットとはクルミのこと。
スタッドレスタイヤといい、内装材といい、クルマとクルミは言葉が似ているからか、相性がいいようです。
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森鴎外と鳥

2014年01月16日 | 野鳥
年末とお正月に湖北へ出かけましたが、私の目的はオオワシではなく、まだ見たことがないサカツラガンに会うことでした。
残念ながらそのお目当てには2回とも振られたのですが、マガンとオオヒシクイはいつもの場所に群がっていました。この3種はいずれもガンの仲間です。



ガンといえば、森鴎外の代表作に『雁』があります。私は大学で近代日本文学を専攻しましたが、恥ずかしながら一度も読んだことがありません。どんなシーンにガンが登場するのか気になって、今回初めて読んでみました。
物語の後半、主人公を含む3人の学生が不忍池の周りを歩いているとき、1人が「池にいるガンに石を投げよう」と言い出します。主人公が「それは可愛そうだから」と、ガンを逃がすために石を投げるのですが、運悪くその石が当たってガンは死にます。
さらに、そのガンを寮に持ち帰り、鍋にして食べるという、バードウォッチャーには読むに耐えないストーリーでした。
ただ、持ち帰る途中、交番の前を通るときにコートでガンを隠すくだりがあり、当時も野鳥を捕獲することに後ろめたさがあったことをうかがわせます。
「明治時代とはいえ、不忍池にガンが渡来したのだろうか?」と疑問になって調べたところ、当時の文人が次のように記しています。
「本郷あたりにいると、秋の末から冬の初には、ほとんど屋根をかすめて飛びまして、例の船の舵の音に似たような、趣のある雁の声を聞いたものであります」。
この頃は都心にもガンが渡来していたわけです。
鴎外はこの作品の中で、死んだガンを拾い上げるために池の中を歩く同僚の姿をサギに例えています。また『雁』のほかに『鴉(からす)』という翻訳作品もあります。そもそもペンネームの「鴎」はカモメです。鳥に関心があったのでしょうか。
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アメリカ生まれはノッポ

2014年01月13日 | 樹木
新年から鳥の話が続いているので、きょうは樹の話です。その前に、人間の話。
ギネスブックに記録されている「世界で最も背が高い人」は、ロバート・パーシング・ワドローという人で、死亡時の身長が272cmもあったそうです。
2番目に高いのはジョン・ウィリアム・ローガンという人で267cm。3番目はグラディ・パターソンという人で265cm。不思議なことに3人ともアメリカ人です。
そして、「世界で最も背が高い樹」ベスト3もアメリカにあります。いずれもセンペルセコイヤ(通称レッドウッド)で、カリフォルニア州のレッドウッド公園にあります。しかも、それぞれが固有の名前を持っています。


レッドウッド@森林総研関西支所・樹木園

最も高いのは、「ハイペリオン」という名前の樹で115.61m。「ハイペリオン」とはギリシャ神話に登場する神の一人で、「高みを行く者」という意味だそうです。
ノッポの樹の第2位は、「ヘリオス」という名で114.58m、第3位は「イカロス」で113.14m。20006年までは「ヘリオス」が第1位だったのですが、その年に2人のナチュラリストが「ハイペリオン」を発見して王座が入れ替わったそうです。
日本で最も高い樹はスギで60mくらいですから、その2倍です。人間の身長が272cmというのも想像を絶しますが、100m以上の樹というのも頭がクラクラします。人間も樹木もアメリカ生まれはノッポというのは偶然でしょうか。
蛇足ながら、私の身長は以前は176cmでしたが、先日病院で測ったら172cmでした。年を重ねると縮むんですね。高齢者の悲哀を味わっています(笑)。
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鷲の季節感

2014年01月09日 | 野鳥
前々回、「鷹の季節感」と題して「鷹渡る」や「鷹柱」は秋の季語、「鷹」や「鷹狩り」は冬の季語と書きました。じゃあ「鷲」はどうなんだろうと気になって調べたら、これも冬の季語でした。
で、鷲の俳句を探してみると、有名どころでは高浜虚子の次の句がありました。
大鷲の 嘴(はし)にありたる ぬけ毛かな
オオワシがカモか何かを捕え、羽根をむしって食べた後、羽毛の一部がクチバシに付いているところを詠んだのでしょう。リアルというか、生々しいというか、「客観写生」を唱えた虚子らしい句です。
それにしても、こんなディテールは肉眼では見えないはずで、双眼鏡か望遠鏡で観察したのではないでしょうか。ということは、虚子はバーダーだったのかな?
私もオオワシを観察するために年末とお正月の2回、知人と湖北へ行ってきました。



後半のアップのオオワシはカイツブリを捕獲し、食べ終わったところ。クチバシに羽毛は付いていませんが、爪は血で赤くなっています。そこで、またまた盗作。
大鷲の 爪にありたる 血糊かな
ところで、「大鷲」や「尾白鷲」は冬鳥なので冬の季語というのは理解できるのですが、「犬鷲」も冬の季語だそうです。イヌワシは留鳥なので、バードウォッチャーには納得しにくい季語です。
ところが、高浜虚子の師匠である正岡子規は次の句を詠んでいます。
鷲の子の 兎をつかむ 霰(あられ)かな
この句の季語は「鷲」ではなく「霰」とのこと。ウサギを捕食するのはイヌワシでしょうから、子規はイヌワシを冬の季語とは考えていなかったことになります。
俳句のルールがよく分かりませんが、詠む人によって季語が違うこともあるのでしょうか。
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鳥初め

2014年01月06日 | 野鳥
お正月の2日目、近くの干拓田で行われた野鳥の会恒例「新春探鳥会」のお手伝いをしてきました。昨年役員に復帰したので、約10年のブランクを経て久しぶりの担当です。
私自身もそうですが、参加者ほとんどが「鳥初め」でしょう。コタツでミカン食べながら正月番組を見ているよりも、寒いけど野外で鳥を見たいという物好き(笑)が約30名集まりました。
それに輪をかけて物好きなことに、鹿児島から京都の友人宅へ遊びに来たという若い女性が参加してくれました。お正月の京都なら他に行くところはたくさんあるでしょうに、頼もしい鳥ガールです。
九州には生息しないケリが見たいというリクエストに応えて、特別扱いでじっくり見せてあげました。彼女いわく「あ~、図鑑と同じですね」。



25年前、私が探鳥会デビューしたのもこの干拓田。まだ野鳥の会に入る前、朝日新聞の催しに妻とともに参加しました。
その時、同行のベテランが空を指さして「あっ、チョウゲンボウだ!」と叫びました。その様子で珍しい鳥らしいことは分かりました。そして、人の名前のような妙な鳥の名前も覚えました。
妻も印象に残ったようで、今でもこの場所(巨椋干拓田)のことを「チョウゲンボウ」と呼びます。この日も「今日はチョウゲンボウへ行くんでしょう」と言いながらサンドイッチを作ってくれました。
その「長元坊」はこの日も何度か現れました。



この干拓田ではミヤマガラスやコクマルガラスなど渡りのカラスが群れています。この日も、ハシボソ、ハシブトを含めてカラス4種が見られました。


ミヤマ、コクマル、ハシボソのカラスの混群に見入る参加者

物好きな“薩摩おごじょ”は、翌日に開催される別の探鳥会にも参加するとのこと。はるばる鹿児島から上洛して数日しか滞在できないのに、探鳥会をハシゴするとは見上げたバーダー魂です。期待していたベニマシコやキクイタダキは見られただろうか。
※動画は別の日に撮影したものです。
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鷹の季節感

2014年01月02日 | 野鳥
あけましておめでとうございます。今年も樹や鳥の話によろしくお付き合いください。
さて、みなさまは昨夜どんな夢をご覧になりましたか? 初夢のベスト3は「一富士、二鷹、三なすび」とされていますが、その由来について、徳川家康が富士山と鷹狩りと初物のナスを好んだからという説があるそうです。
この「鷹狩り」は俳句の季語では冬。鷹狩りは主に冬に行われたからのようです。
どういうわけか、「鷹」そのものも冬の季語。オオタカもハイタカも1年中いますが、冬になると里に出てくることが多いからでしょうか。
あるいは、冬になると農地や河川敷に現れるノスリがそうさせたのかも知れません。私も年末に滋賀県の早崎という田園地帯で、このタカをすぐ近くでじっくり見ることができました。



「鷹」や「鷹狩り」が冬の季語である一方、「鷹渡る」や「鷹柱」は秋の季語。鷹を季語にした俳句はたくさんあります。例えば、芭蕉の次の一句。
鷹ひとつ 見つけてうれし いらこ崎
芭蕉が弟子を訪ねて渥美半島の村へ行ったときに詠んだものです。バードウォッチャーなら秋のタカの渡りで有名な伊良湖岬を思い起こすはず。私も何度か行きました。
ところが、これが詠まれたのは貞享4年(1687年)11月12日、新暦では12月中旬頃。芭蕉は冬の季語として「鷹」を使っていて、秋の渡りのタカを詠んだわけではないのです。
話はさらにややこしくなりますが、芭蕉は西行法師の次の短歌に触発されて詠んでいます。
巣鷹渡る 伊良胡が崎を疑ひて なほ木に帰る山がへりかな
「巣鷹」はヒナのときに捕えた鷹、「山がへり」は2歳以降に捕えた鷹。西行は、「伊良湖の海を2羽の鷹に渡らせようとしたところ、1羽は渡ったのに、もう1羽は木に止まったまま渡ろうとしない」という地元民の話を聞いてこの歌を詠んだそうです。
つまり、西行の短歌は秋の渡りのタカを、芭蕉の俳句は冬のタカを詠んでいるわけです。種類で言えば、西行が詠んだのはサシバかハチクマ、ノスリの可能性もあります。一方、芭蕉が詠んだのはノスリかオオタカ、チュウヒ、それともクマタカ?
私は早崎でノスリを見つけてうれしかったので、芭蕉が見たのもノスリではないかと推測しました。そこで、一句。
鷹ひとつ 見つけてうれし 早ケ崎 (盗作!)
ちなみに、私は鷹や富士山どころか、初夢を見ませんでした。夢のない人生を送っております。
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