樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

白いキジ

2022年10月27日 | 野鳥
日本の元号は、南北朝時代の二重元号を含めると295あります。その中に鳥を意味するものは2つしかありません。初めての元号「大化」の次に制定された「白雉(はくち)」と、その次に制定された「朱鳥(しゅちょう)」。後者は朱雀(すざく)を意味するようで、中国の伝説に登場する想像上の鳥ですが、白雉は文字どおり白いキジ。
『日本書紀』によると、大化6(650)年2月9日に現在の山口県の国司から孝徳天皇に白いキジが献上されました。ある僧が「これは吉祥というべき大変珍しいもので、王者に人徳があり、聖人である時に現れます」と説明したので、天皇は大喜びして、その年の2月15日を以って「白雉」と改元しました。
白いキジは現代でも時々発見されており、以下は2018年に岩手県久慈市で撮影されたもの。



動物の体色が白くなる理由は2つあって、1つは突然変異によってメラニン色素が生成されなくなり、黒や褐色が表れずに白くなる「白化症」。これがアルビノですが、眼だけは毛細血管が透けて見えるので赤くなります。虹彩が機能しないので多量の光が入り込んで視覚障害を起こし、採餌や飛行ができず自然界では生きていけないため、私たちが鳥のアルビノに遭遇することはほとんどないそうです。 
もう1つは「白変症」。体は白いものの眼には色素が残っているので赤くならず、視覚は機能するので生存できます。体のメラニンと眼のメラニンは生成過程が異なるので、こういうことが発生するそうです。この白変症の中には、体の一部が白くなる「部分白変」と全身が真っ白になる「完全白変」があります。
ただ、鳥の体色はメラニン色素だけでなく、太陽の光を反射する構造色によっても発色します。黒や褐色はメラニン色素によるものですが、青や緑、紫などは構造色。キジには緑や紫の部分がありますが、上掲の動画のキジは全身真っ白です。
完全白変個体は、メラニン色素に関係のない構造色も発色しないのでしょうか? 疑問が一つ増えました。
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エクリプス

2022年10月20日 | 野鳥
「そろそろカモが来てるかな?」と思って近所の池や川を回ってきました。京都市内(鴨川)にはすでに何種類かのカモが飛来しているようですが、少し南に位置する宇治はコガモばかりで他のカモの姿はまだ見られませんでした。しかも、まだエクリプスのままでコガモらしい色が出ていません。
エクリプスとはカモの換羽のことで、北国で繁殖(子育て)を終えると、♂はカラフルな羽を脱ぎ捨てて♀と同じような地味な羽に着替えます。そうしないと猛禽に狙われるからといわれています。
日本に渡来する今ごろはエクリプスで、冬になると♂はカラフルな生殖羽に変わります。小鳥の場合は夏に生殖羽(夏羽)に変わりますが、カモの場合は冬に生殖羽(冬羽)に変わるわけです。
この時期は、♂も♀も似たような色なので識別が難しいです。自信はありませんが、図鑑と首っ引きで一応雌雄を判別しました。



生殖羽は♂が♀とペアになるための美しい羽。つまり、カモは日本に滞在している冬の間にペアを形成し、北国に帰ってからそのペアが交尾・産卵・子育てします。「渡りの途中に離れ離れにならないのかな?」とか、「北国に帰ってからペアを形成すればいいのに…」と疑問が湧きますが、鳥の生態は不思議です。
ちなみに、エクリプスには日食や月食の意味があります。なぜ、換羽と日食・月食が同じ言葉なのか調べたところ、エクリプスには元来「覆い隠す」とか「輝きを失う」という意味があるそうです。カモは換羽によって本来の色や輝きを隠しているわけですね。
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若山牧水

2022年10月13日 | 野鳥
白鳥(しらとり)は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよう
確か高校の教科書だったと思いますが、この短歌が強く記憶に残っています。小さな鳥と大きな空や海、その青と鳥の白、その対比によって情景がくっきりと目に浮ぶからです。詠んだのは若山牧水(1885-1928)。
この「白い鳥」を何と見るかによって歌の世界が変わってきます。「哀しからずや」という心情を投影できるのは、ハクチョウのような大きな鳥ではなくカモメかアジサシでしょう。私のイメージに近い映像は以下。


Public Domain

牧水は鳥の歌を数多く残していて、短歌9000首のうち800首が鳥の歌といわれています。日本野鳥の会の創設者・中西悟堂とも親交があり、悟堂は「あれほど野生の小鳥に関心を持ち、旅と共に小鳥に愛着を寄せ、またその作も多かった牧水」と書いています。
くれないの 胸毛を見せて うちつけに 啼(な)くきつつきの 声のさびしさ
これはアカゲラでしょうかオオアカゲラでしょうか。「声のさびしさ」から想像するとアカゲラのようです。
当ブログで若山牧水を取り上げるのは3回目。実は、牧水はバードウォッチャーであると同時にツリーウォッチャーでもあったようで、樹をテーマにした作品もたくさん作り、『かなしき樹木』という詩集や『樹木とその葉』というエッセイ集を出版しています。詳細は8年前の記事「樹を愛した歌人」をご覧ください。


Public Domain

地元の景勝地で樹木伐採計画が浮上した際、反対運動の先頭に立って新聞などに投稿し、計画を中止に追い込んでもいます。その功績を称えて、その地には牧水の歌碑が立っているそうです。
同じく鳥と樹が好きな私は親近感を覚えます。
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ハッピーエンド

2022年10月06日 | 野鳥
前回の「田んぼから山へ」でご報告したように、干拓地のシギ・チドリ観察から山でのタカ観察へ転換しましたが、先週もう一度シギチ・チドリを観察するべく「山から田んぼへ」戻りました。今シーズンの干拓地巡りの最終回です。
その最後に、珍しい鳥に出会いました。アカアシシギです。前々回「△印の鳥」でご紹介したように、京都支部では「見聞の機会がごく少ない鳥」を×印で示しています。アカアシシギは×印。これまで別の場所では何度か見ていますが、この干拓地で遭遇したのは初めて。



「残り福」と言うべきか、「終わりよければ全て良し」と言うべきか、今季のシギ・チドリ観察はハッピーエンドでした。
もう1種、×印の鳥ではなく、〇印の「見聞の機会が比較的多い鳥」ですが、クサシギを発見しました。この干拓地で見るのは久しぶりで、ちょっぴり嬉しかった。ただ、左の翼が折れているようで、痛々しい。



飛べないので猛禽類に捕食されるリスクが高いですが、歩きながら採餌していたので、何とか草の中に隠れて生き延びてほしいものです。
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