樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

ペリカン文書

2017年06月22日 | 野鳥
環境保護に理解のあるワシントンの最高裁判事2人が殺害されたことに関して、ある女子学生が荒唐無稽な仮説を立てます。
ルイジアナ州で石油輸送のパイプラインを敷設しようとする開発業者と、その湿地に棲む水鳥を守ろうとする環境保護団体が法廷で争っており、いずれは最高裁に上告されることを予想した開発側が、不利な判決が出ないように殺害したのではないか…。
その仮説の文書がFBIに流れ、大統領やその大口献金者である開発業者にも伝わったことから、女子大学生が命を狙われる。つまり、その仮説は事実であった…。
という面白いサスペンス映画のタイトルが『ペリカン文書』。そのタイトルバック(下)には、ペリカンなどの水鳥が登場します。



映画の中で、仮説を立てた女子学生(ジュリア・ロバーツ)が新聞記者(デンゼル・ワシントン)に次のように説明します。
「この湿原にはミサゴやサギ、ペリカン、カモ、ツルが棲んでいて、主役はペリカン。30年に及ぶDDTなどの農薬汚染で州鳥のブラウンペリカンは絶滅寸前なの」。


ブラウンペリカン(カッショクペリカン)(画像はPublic Domain)

この映画が日本で公開されたのは1994年。私も観ましたが、20年以上も昔の映画を思い出したのは、家の近くにある干拓地に北陸新幹線の線路が建設されるらしいという話を耳にしたからです。
その干拓地は冬は猛禽や渡り鳥の越冬地、夏はシギやチドリの中継地になっていて、これまでにも数多くの珍鳥が記録されています。
すでにスーツ姿の男たちが干拓地を調査しているようです。いずれは野鳥の会として何らかの対応をせざるをえなくなるのではないかと憂慮しています。まぁ、命を狙われることはないと思いますが…(笑)。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳥と砂漠と湖と

2017年06月15日 | 野鳥
興味をそそる本を見つけましたが、宇治市立や京都府立の図書館には蔵書がないので、大阪市立図書館まで出向いて借りてきました。そのタイトルが『鳥と砂漠と湖と』。
アメリカのユタ州に住むバーダーが書いた小説で、母親のがんとその死に向き合いながら、巨大な湖(ソルトレイク)に生息する野鳥を描くという内容です。
ハードカバー約350ページの中編が36章に分けられ、その章のタイトルがすべて鳥の名前。アナホリフクロウ、マキバドリ、ソリハシセイタカシギなどバーダーならつい最後まで読んでしまう構成です。しかも、その章には必ずタイトルの鳥が登場します。
著者はテリー・テンペスト・ウィリアムスという女性。このシリーズ(AMERICAN NATURE LIBRARY)には、『森の生活』のH.D.ソローや『沈黙の春』のレイチェル・カーソンの著作が並んでいるので、まだ62歳の作家ながら、アメリカの環境系文学の世界では同列に扱われているようです。



この作品の魅力は、著者が経験豊富なバーダーであるために鳥の描写にリアリティがあることと、人間の行動や心の動きを鳥を使って表現していること。例えば以下のような記述は、バーダーなら「なるほど!」と納得するでしょう。

私たちはおそらく、私たち自身嘆かわしく思っているものをムクドリに重ねあわせているのだろう。私たちの数の多さ、攻撃性、貪欲さ、残酷さ。ムクドリと同じように、私たちは世界を乗っ取ろうとしている。

ホシムクドリのことでしょうが、人間のマイナス面を鳥に例えています。また、鳥の個性を次のように表現できるのは、相当な観察経験があるからでしょう。

ダイシャクシギがそばにいる時は空気がかきたてられる。彼らはせかせかしていて攻撃的だ。アメリカオオソリハシシギのほうは落ち着いている。観察する時の忍耐のほかには彼らがこちらに要求するものはほとんどない。ダイシャクシギは罪の意識を起こさせる。こちらが侵入していること、そこに属しているわけではないのだということを彼らは思い出させる。

私は野鳥の生態の常識に疑問を持ち、想像力を膨らませて勝手な仮説を立てるのが好きですが、この著者にも同じような性向があるようです。

カナダガンの家族が遺伝的にあらかじめ決められた傾向によってではなくて、種が共有するビジョンに対する欲求のために南へ旅していくということはないだろうか?

オーデュボン協会(アメリカの野鳥の会)や州立博物館から調査を依頼されるほどのバーダーだけに、野鳥保護についても深い見識を示します。

こうした憩いの場がなければ何百万羽の鳥にとって渡りは成功しない。こうした拠点のどこも存在が保証されているわけではない。自然保護の法律はそれを支える人びとがしっかりしていれば効力を持つというにすぎない。私たちがよそ見をしていれば、ひっくり返されたり妥協に持ち込まれたり弱体化させられる危険がある。

最終章では、レイチェル・カーソンと同列に扱われている理由が分かります。母親、祖母、叔母など親族の女性9人がすべて乳がんのために乳房を切除した「片胸の女たちの一族」であり、そのうち7人が死亡し、残り2人もがんの治療中。その原因は、アメリカがネバダ州で行った核実験が原因であると訴えているのです。
カーソンの『沈黙の春』が農薬による環境破壊を告発したのに対して、この作品は放射能汚染による人間破壊を告発しているのです。そうした社会的な意味でも、単に野鳥の描写を楽しむだけでも、読み応えのある本でした。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

命を育む森

2017年06月08日 | 野鳥
5月末の栃の森では、野鳥もいろいろ観察できました。
キャンプサイトから森の入り口までの林道では、ヒガラがさえずっていました。早朝の上に天候が悪く、露出を補正しても画像はこの程度ですが、ヒガラらしい忙しい鳴き声が撮れました。



4月に訪れた時はオオルリが少なかったものの、今回はいつもどおり各所で鳴いていました。



前日の夕方に仲間6人が集まり、東屋で飲食を共にしながら話し込むのも楽しみですが、今の時期は突然聞こえる鳥の声で会話が中断されることがあります。今回もコノハズクの声が聞こえたので、全員が箸や缶ビールを持ったまま東屋の外に出ました。前々回の記事に書いたように、ブッポウソウに間違えられたフクロウです。
仲間のうち2人は少し離れた所にICレコーダーをセットして一晩中録音しています。それを聴くと、オオコノハズクやヨタカ、ジュウイチなども鳴いています。
夜明け前にはすぐ近くで鳴くアカショウビンの声が入っていましたし、森を歩いた時も姿は見られなかったものの声は何度か聞こえました。
帰路、2羽のキセキレイが崖の斜面でウロウロしていました。多分、子育ての中のペアだと思います。



今回、モリアオガエルの産卵シーンが見られました。卵塊は珍しくないのですが、雌の背中に雄がしがみついているシーンはほとんど見られません。この日は午前中雨が降っていたので、たまたまタイミングが合ったようです。小さな池に雌が4~5匹いました。下は、トチノキの葉の上で産卵するペア。



野鳥もカエルも繁殖期の真っ最中でした。この森には昆虫もいるし、魚もいます。何千何万という新しい命が生まれているわけですね。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブナの花

2017年06月01日 | 樹木
週末、栃の森に行ってきました。この時期は樹の花が最も多彩で、いつものコースを歩いていても目移りします。
まずは主役のトチノキ。白い花の中の小さな赤い点は「蜜売り切れ」のサイン。花粉を媒介するミツバチやマルハナバチはこの赤が識別できる一方、花粉を媒介しないコハナバチやチョウは識別できません。媒介者は蜜のある花へ誘導し、盗蜜者には無駄足を踏ませることで吸蜜効率を抑えるというトチノキの戦略だそうです。



この森でトチノキと同じくらい多い樹種はブナ。久しぶりにその花を見ることができました。
ブナは4~5年に一度しか開花しない上に、地味な色なので発見しにくく、訪れるタイミングが合わないとなかなか出会えません。今回、1株だけよく見える位置に咲いていました。垂れ下がっているのが雄花、上を向いて咲いているのが雌花です。



ブナとは逆に、最も目立ったのはミズキ。小さな花が集まって咲いて、白い雲のようです。



ヤブデマリもあちこちに白い花を咲かせていました。



タニウツギも満開でしたが、林道のいつもの場所に1株だけ白花のタニウツギが咲いています。私が依拠している図鑑には掲載されていませんが、Web上では「シロバナタニウツギ」とか「シロバナウツギ」という名前の品種として出ています。いずれにしても珍しいようです。



このほか、ホオノキ、ハクウンボク、ヤマボウシ、ナナカマド、アズキナシ、ガマズミなど白い花を中心に、フジ、キリ、コミネカエデ、ウリハダカエデ、オニグルミ、サワグルミ、カナクギノキなどの花が咲いていました。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする