樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

セラフィーヌの庭

2010年12月27日 | 木と作家

今年は映画を23本観ました。そのうち8本は自然や歴史などのドキュメント、5本は東宝系の年間企画「何度見てもすごい50本」。
観納めは、フランスのアカデミー賞と言われるセザール賞の7部門に輝いた『セラフィーヌの庭』。アメリカ映画のような派手さはないですが、ヨーロッパ映画ならではのしっとりとした作品です。
趣味で絵を描いている家政婦がある画商に見出されて売れっ子の作家になるという、実在の画家セラフィーヌ・ルイの物語。この画家のことは知りませんでしたが、ゴッホのような熱でルソーのような絵を描く作家です。


セラフィーヌは自然が大好きで、草や木から自分独自の絵の具を作ったり、時間があれば木に登って村の景色を眺めているというナチュラル・ウーマン。画商にも「悲しい時は田舎に行って木に触ったり、植物や動物と話をすると悲しみが消えますよ。本当です」と教えます。描く題材も樹木や花ばかり。
最終的には精神を病んで病院に収容されるのですが、その庭にある大きな木の下に小さなイスを持ち運んで座るというラストシーンがとても印象的でした。彼女にとっては、木のそばで過ごしているのがもっとも心安らぐ時間だったのでしょう。分かるような気がします。予告編の最後にもそのシーンがあります。

 さて、当ブログも今年はこれにて閉店です。1年間お付き合いいただきありがとうございました。来年は3日からスタートします。みなさま、良いお年をお迎えください。

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檜皮葺

2010年12月23日 | 木造建築

京都には神社や寺院がたくさんありますが、その建物の屋根の多くはヒノキの樹皮を使った檜皮葺(ひわだぶき)です。現在、日本全国に檜皮葺の建築物が約730棟あり、そのうちの2割、150棟が京都市内にあるそうです。

 
京都御所の建春門の桧皮葺。分厚くて立派

しかし、檜皮を採取する原皮師(もとかわし)や檜皮葺師が減少し、伝統的な建築物の保存や補修が難しくなったため、京都市はその後継者を育てるための拠点をつくりました。長ったらしい名前ですが、「京都市文化財建造物保存技術研修センター」。清水寺のすぐ近くにあります。
2階には檜皮葺のサンプルや資料が展示され、一般の人も見学できます。私が訪れた時は、1階の部屋で職人さん風の若い衆が実習していました。

 
普通は見上げるだけの檜皮葺が手で触れられます

神社や寺院の本体はヒノキで造られていますから、日本の伝統的建築物は上から下までヒノキということになります。ヒノキの皮を屋根に使うことを誰が最初に思いついたのか知りませんが、その発想の柔軟さに敬意を覚えます。

 
130kgの檜皮

 もともと伝統的な建築物は瓦葺が主流で、付属的な建物だけが檜皮葺だったそうですが、上の御所の門のように軒先を分厚く見せる技法が考案され、屋根が曲線を描くようになってから主要な建物にも採用されるようになったとのことです。
記録では、比叡山にあった崇福寺(廃寺)の金堂や三重塔などが檜皮葺だったことが確認されていて、その建築年は633年。奈良時代以前から檜皮葺が使われていたわけです。
1400年も続いてきた伝統技法を21世紀で途絶えさせないために、このセンターで若い後継者が育って欲しいですね。

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50本の木

2010年12月20日 | 木と作家

樹木の本を読むためにあちこちの図書館へ出かけます。宇治市立、京都市立(山科区)、京都府立、大阪市立、大阪府立、国立国会図書館(関西)。このうち宇治市立と京都府立は住民なので当然本を貸してくれますが、太っ腹なことに大阪市立図書館は住民ではない私にも貸してくれます。しかも蔵書が豊富で、探している本がたいてい見つかります。

先日、guitarbirdさんのブログで『50本の木』という写真集があることを知って、大阪市立図書館の蔵書を検索すると、予想どおりあったので借りてきました。

丹地保堯(たんじやすたか)というカメラマンが撮った樹木の写真に、谷川俊太郎が1行詩を書き添え、天野祐吉が編集した写真集です。この写真家のことは何も知らなかったのですが、ネットで調べると、樹木の写真集を何冊も出版していて、コンテストの審査員も務めるような人のようです。

 

 

谷川俊太郎の1行詩が20本掲載されていますが、その中で印象に残ったのは以下の作品。

林の中にいると心がからだになじんでくる

名づけ得ぬ緑の諧調を目は喜んでたどる

一本一本の木にくちづけしてから死にたい

この地上で木とともに生きることの恵み

この人が紡ぎ出す言葉は、レトリックはないのに、心に残ります。誰でも書けそうな身近な言葉使いで、「なるほど!」と納得させる表現ですね。私も言葉を生業にしているので勉強になります。

 

 

丹地さんの樹木の写真を見ていて、以前ご紹介した東山魁夷の樹の絵を思い出しました。

 

丹地さんの写真

 

 東山魁夷の「並木」

 

 丹地さんの写真

 

 

東山魁夷の「樹」

 

樹木のシルエットに造形美を見出すと言うのか、画家も写真家も同じような感性を持っているんですね。

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円は紙、ドルは布

2010年12月16日 | 木の材

誰もが欲しがる人気者、紙幣の原料は当然ながら木です。国立印刷局のホームページを見ると、ミツマタなどを原料としたパルプを細かく刻んで紙にすると書いてあります。伝統的な和紙とは製法が違うようですが、材料は和紙と同じで、ミツマタのほか多分コウゾも使われているはずです。 

 

ミツマタはその名の通り枝が3つに分かれます 

 

図鑑によると、ミツマタは室町時代に中国から製紙用に移入された樹木で、ジンチョウゲの仲間。庭木にも使われていて、私がよく行く花寺にも一株植えてあります。コウゾは在来のクワの仲間ですが、栽培された雑種のようです。いずれも樹皮の部分が紙になるようです。

 

ある植物園で見つけたコウゾ

 

  

クワ科特有の変形した葉

 

アメリカのドル紙幣にはミツマタやコウゾは使われていないはず。どんな木で作られているのだろうと調べたら、綿75%、麻25%だそうです。これは紙というよりも布ですね。しかも綿も麻も草本ですから、木製の円に対して草製のドルということになります。

 

数十年前の旅行で残った1ドル札

 

面白い話が残っていて、天候不順で綿花が不足した年に、アメリカ造幣局はやむを得ずリーバイス社に頼んでジーンズの切れ端を譲ってもらって補ったそうです。布なので紙よりも耐久性があり、燃えた場合も紙のお札より形を保つそうです。

オーストラリアやニュージーランドはポリマー紙幣、つまりプラスチックのお札らしいですよ。知ってました?

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合格応援

2010年12月13日 | 木と言葉

受験シーズンに合わせて、宇治市植物公園が面白い企画を実施しています。「合格応援」と題して、園内で合格に因んだ植物を紹介しているのです。 

まず、入場する際に希望者にヤマコウバシの葉をパウチした栞を配布しています。落葉樹なのに冬でも落葉しないので、試験に落ちないおまじないになるというわけです。案内地図にはヤマコウバシが植えてある場所も明示してあります。

ローズマリーの枝も配っています。その香りが記憶力と集中力を高めるので、古代ギリシャの学生も頭に一枝挿して勉強したそうです。

 

受験生でもないのにヤマコウバシとローズマリーをもらいました

 

まだあります。合格電報の文面「サクラサク」に因んで、冬に開花するサクラを紹介しています。園芸樹木のことはよく知りませんが、冬でも花を咲かせる十月桜とか冬桜、子福桜といった品種があるようで、案内地図を片手に歩いて行くと、この寒空に56本の桜が開花していました。

 

 

春と初冬の2回開花する十月桜

 

そのまんまの名前、冬桜

 

また、温室には鸞凰玉というサボテンがあって、上から見ると五角形に見えるので「合格」に因んで紹介されています。

ご多分にもれず、宇治市植物公園も入場者数が減少していたのですが、私の知っている方が着任してからいろんな企画を実施されるようになり、その一環でこういう面白い企画を立てられたのでしょう。最近は入場者数が増えているようです。

冬でも葉が落ちない樹としてはヤマコウバシ以外にカシワやクヌギもあります。植物公園のチラシにも「カシワやアベマキは落ちない葉もありますが、落ちる葉もあります」と説明してあります。わが家の庭にもカシワが1本あって、茶色く変色し大きな葉が枝にしがみついています。

ヤマコウバシより大きい葉なので、合格の効果も大きいかも知れません。ご入用の方には差し上げますよ。

 

庭のカシワ

 

40年以上前、私は現役で4校受けて全部落ちました。あの時、この葉を持っていたら1校くらいは合格していたかも。……無理か?

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シイタケとドングリは兄弟?

2010年12月09日 | 木と飲食

最近、野菜は隣町の農協直売所で買っています。形が不ぞろいだったり、時々ナメクジが付いていたりしますが、安くて新鮮で美味しいです。野菜が高値だった夏も、ほうれん草1150円くらいでした。

シイタケも原木ものと菌床ものを販売していて、食べ比べるとやはり原木ものの方が食感があります。原木は多分クヌギかコナラでしょう。

 

 菌床もののシイタケ(1350円)

 

ところが、食通として知られる北大路魯山人に言わせると、シイタケはやっぱりシイノキのものに限るそうです。著書には次のように書いています。

「大分の椎茸は本当の椎の木にできた椎茸なので、皮が黒くなめらかで、香りや味がすばらしい。関東で賞味している椎茸は、実は椎の木にできたものではなく、櫟(くぬぎ)の木にできたものだから本当にうまいとは言えない。(中略)噛みごたえがあるという特徴はあるけれども、椎の木にできた椎茸のように香りがない。所詮は椎の木にできた椎茸にまさるものなしと言えよう」。

私はシイノキに生えたシイタケを食べたことがないので実感がないですが、魯山人先生がおっしゃるのだからそうなんでしょう。第一、シイタケというくらいですからシイノキが本家ですよね。

先生はまた、「椎茸のかさは、そのできる木の皮に似る性質があるので、櫟の木にできた椎茸のかさは櫟の皮と同じようになっており、椎の木にできた椎茸は椎の皮に似ている」とも書いています。

下の写真はコナラに育ったシイタケですが、言われてみれば原木の樹皮に似ています。

 

 

下の写真は栃の森で見つけた100%天然のシイタケ。生えていたのはミズナラの倒木で、こちらは樹皮には似ていません。

 

 

シイタケは本家のシイノキのほか、クヌギにもコナラにもミズナラにも生えるわけですが、これらの樹木には共通点があります。それはブナ科であること。つまり、ドングリの成る樹です。

ということは、ドングリとシイタケは異母兄弟か?

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ゲーテの恋

2010年12月06日 | 木と作家

今年は不順な天候のせいかイチョウの色づきに固体差があるようで、散歩コースにある宇治名木百選のうち1本はすでに葉が落ちているのに、もう1本はまだ緑色の葉をつけていました。

 

 散歩コースにある宇治名木百選のイチョウ 

 

イチョウの学名bilobaの“bi”はbicycleやbilingualと同じく「2つの」という意味で、葉っぱが2つに裂ける特徴に由来します。ドイツの文豪・ゲーテはその特徴を男女の愛にたとえて詩を書いています。

 

これは 東洋からやってきて 私の庭に植えられた木の葉です

もともと1枚の葉が裂かれて 2枚になったのか

それとも 2枚の葉が相手を見つけて 1枚になったのか

私は1枚の葉であり あなたと結ばれていることを

あなたは気づきせんか

 

 

数ある落葉の中に2つに裂けたイチョウがあります

 

イチョウは中国原産ですが、江戸時代にオランダの植物学者が日本で発見して18世紀にヨーロッパに持ち帰りました。オランダのユトレヒト植物園にはその樹がまだ残っているそうです。多分、ヨーロッパの人たちはこの扇形の葉を珍しく思い、東洋の不思議を感じていたのでしょうね。

 

 青葉の時から2つに裂けています(夏に撮影)

 

ゲーテが上の詩を書いたのは66歳の時。マリアンヌという人妻に叶わぬ恋心を抱いて、2つに裂けたイチョウの葉とともにこの詩を贈ったそうです。老いらくの恋、というやつですね。

ちなみに、詩の題は"Ginkgo Biloba"(ギンゴ・ビローバ)。イチョウの学名そのままです。

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ムービーデビュー

2010年12月02日 | 樹木

週末に今年最後となる栃の森探索に出かけました。前回は紅葉で「一眼レフデビュー」しましたが、今回は冬枯れの森で「ムービーデビュー」します(笑)。 

仕事用に購入したカメラは「一眼ムービー」という謳い文句で、ビデオカメラのような使い方ができるので、ちょっとチャレンジしてみました。手持ちで歩きながら撮ったので画面が揺れたり、私の息切れの音が入ったりしていますがお許しください。

家の近くはまだ紅葉が見られますが、栃の森はすっかり落葉して冬枯れ。ザクザクと枯葉を踏みしめながらの探索でした。まずは、「栃の森」の由来でもあるトチノキの巨木をご覧ください。数年前に計測した時は周囲6mほどありました。


 

この森は年に6~7回訪れます。若葉が広がる春、花が咲きそろう初夏もいいですが、冬枯れの森も捨てがたいです。今回、鳥は少なかったですが、初冬の落葉樹林をじっくり堪能してきました。下のムービーで少しはその魅力が伝わるといいのですが…。


 

前回イノシシとお伝えした死体はその後カモシカと判明。あれから20日後、どうなっているか確認すると、すでに骨だけになっていました。テンやイタチなど肉食系の小動物、タカなど猛禽類が肉を食べ尽くしたのでしょう。角度が90度ほど移動していましたから、キツネやタヌキがくわえたのかも知れません。


 

 

前回の写真

 

また機会があればムービーでアップします。

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