樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

キリの日米中3国関係

2017年03月16日 | 木の材
最近買った『150の樹木百科図鑑』の中に、キリについて面白いことが書いてありました。
「種子は非常に軽くて多く、20世紀初めにアメリカの中国人移民が壊れやすい品物を荷造りするのに使った。荷物の箱から種子がこぼれて、線路沿いにこの木が広まったと考えられている」。
キリの分布域は中国や日本などアジアと思っていたので、アメリカに自生しているとは知りませんでした。さらに調べると、ウィキペディアには次のように書いてあります。
「翼(よく)のついた小さい種子は風でよく撒布され、発芽率が高く生長が早いため、随所に野生化した個体が見られる。アメリカ合衆国でも野生化して問題となっている」。
アメリカでは侵略的外来種という位置付けのようです。原産は中国ですが、日本でも同じような経緯をたどって現在のような身近な樹木になったのでしょう。
確かにキリは繁殖力が旺盛で、日本でも野山はもちろん高速道路のガード下など都市環境の中でも若木がニョキニョキ生えています。



さらに調べると、日本のある桐専門の材木会社はアメリカから輸入しています。というよりも、現地に直営の貯木場を開設して北米各地から桐材を集積しています。その会社が扱う桐材の比率は、国産1:北米産2。
質的にどうなのかな?と思って調べると、京都の桐タンス専門メーカーは「外国産の輸入桐が、全て、国産の桐より劣るわけではありません。例えば、北米、アメリカの桐は、大変、目が細かく、詰まっていて、しっかりとしていて、質のよいものです」と評価しています。
桐はタンスや下駄、桐箱、琴の材料ですが、その軽さを利用して漁業用のウキ、救命具、サーフボード、義足などにも使われています。
中国から日本に拡散して用途開発が行われ、さらにアメリカに拡散した木材が日本に輸入されて用途が拡大する。そういう興味深い展開をキリは示しているわけです。
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木の意外な用途

2015年02月16日 | 木の材
このブログの元々の趣旨は、樹木と人間の暮らしや文化とのつながりをご紹介すること。右のカテゴリー欄は23に分かれていて、私自身、記事を書きながらいかに幅広く樹木と人間が関わっているかを実感しています。
先日も、「こんなところでも木が活躍しているんだ!」という意外な事実に遭遇しました。それは火薬。
黒色火薬は硫黄と硝酸カリウム(または硝酸ナトリウム)と木炭で作るそうです。私は全く無知でしたが、「黒色火薬」の黒色は木炭の黒なんですね。
その火薬の木炭に最も適した樹種はハンノキだそうです。


ハンノキの実。そう言えば火薬っぽい?

ドイツに、18世紀のナポレオン時代から黒色火薬を生産している老舗企業があります。その社長によると、「炭の材料としてハンノキ、ナラ、カエデなどいろいろ使うが、最高性能の炭はハンノキ」とのこと。
私の知識ではハンノキは有用材の範疇に入っていませんが、こんなところで活躍していたんですね。


ハンノキの幹。これが炭になって火薬になる

このドイツのメーカーでは花火用、鉱山用、銃砲用などの黒色火薬を年間1,700トンも生産しているそうですが、最も多いのは銃砲用。狩猟用も少しはあるでしょうが、圧倒的に多いのは戦闘用でしょう。
そう言えば、鉄砲の銃床にはオニグルミの木材が使われます。狂いが出ないので最適だそうです。そのために、戦争中は特に北海道のオニグルミが大量に伐採されました。
こういう危ない用途にも木は使われているわけです。
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偽装

2013年11月11日 | 木の材
ホテルやレストランの食材偽装が連鎖的に拡大しています。男のシェフが作った「おふくろの味」は違法か、いつも同じ内容の「シェフの気まぐれサラダ」は偽装かなど、笑える話も取り上げられています。
4年前、米や牛肉、鰻などの偽装が話題になったときにも「木材偽装」として記事にしましたが、木の世界でも偽装が横行しています。
「偽装」というよりも「常識」として扱われているのが、実際はダケカンバやミズメなどのカバ材なのにサクラ材として売られている家具類。消費者はサクラ(=ヤマザクラ)の木が使われていると思っていますが、家具業界では「サクラといえばカバのこと」が常識のようです。


左はヤマザクラ、右はその偽装に使われるミズメ

そのほかサンショウ(実はカラスザンショウ)のすりこ木、ナンテン(実はイイギリ)の箸、ツゲ(実はツゲとは無縁のシャムツゲ)の櫛や判子など木材偽装はいろいろあります。
また、「ベイスギ」と呼ばれるアメリカからの輸入材はスギではなくヒノキ科クロベ属の木、「ベイマツ」もマツではなくトガサワラ。しかし、クロベをスギ、トガサワラをマツと言い換えたところで販売上優位になるとは思えないので、これらは意図的な偽装とは言えないかも知れません。
京都の北山杉、奈良の吉野杉、秋田杉など有名産地の木材も怪しいようです。無名の産地で伐採したスギをこうした有名産地経由で販売したり、吉野の業者が秋田で良質のスギを購入して「吉野杉」として売る例もあるそうです。
どこからが偽装で、どこまでは許されるのか。食材と同じく木材の線引きも難しいですが、木材業界では「偽装問題が自分たちの業界に飛び火するのではないか」と戦々恐々なのではないでしょうか。残念ながら、食材や木材だけでなくこういう偽装はあちこちで行われているんでしょうね。
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木質バイオマス

2012年07月30日 | 木の材
先日、京都の環境NPOが開催したセミナーに参加してきました。そのタイトルは、「100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域」。
再生可能エネルギーの先進国ドイツとスイスの事例を、それぞれの国に在住する日本人ジャーナリストが報告するというセミナーです。
樹木マニアとして関心があったのはドイツにおける木質バイオマス。林業地で木材を搬出した後に残る枝や倒木を「林地残材」と言いますが、これを薪やペレット、チップなどの燃料にしたのが木質バイオマス。ドイツではかなり効率的にその有効利用が進んでいるようです。


施業林ではないですが、近くの森にある林地残材

逆に、林地残材を回収し過ぎたために、森の栄養分が減少し、次の樹木が育たないという弊害も出ているとか。それを防ぐために、伐採した木の先7cmは切り捨てて森に残すというルールが決められたそうです。日本ではそこまで有効利用されていないでしょう。
木質バイオマス以外の再生可能エネルギーにも興味があって参加しましたが、驚いたのはスイスの事例。都市部にある未利用エネルギーの活用が進んでいて、例えばゴミ焼却場の排熱は地域暖房として有効利用することが義務付けられているそうです。さらに、生(なま)電気暖房、つまり電気ストーブとかエアコンなど電気で直接熱を得る暖房は使用禁止とか。
「ヨーロッパの人々は環境意識が高いからそんなことが実現できるんだな」と思っていましたが、そうではないそうです。モチベーションは、やはりお金、経済。
原油や天然ガスをアラブ諸国やロシアから買えばお金が外に出ていく。その金を自分たちの国や地域で回るようにすれば地域経済が潤い、雇用も生まれるという考え方なのだそうです。
モチベーションが経済という意味では同じかも知れませんが、原発で痛い目に遭っていながら凝りもせずに同じエネルギーを選ぼうとするどこかの国と違って、2歩も3歩も先を行っています。
ちなみに、昨日京都で行われた反原発デモに参加してきました。東京では毎週金曜日に行われているそうですが、そのきっかけをつくった関西電力の管内に住む私たちが連帯しないと申し訳ないと思って…。


関西電力京都支店前を周回するデモ


最もインパクトのあるコスチュームの参加者。彼は東京のデモにも参加したそうです。

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木ムリエ

2012年07月09日 | 木の材
検定ブームがまだ続いているのでしょうか、「木力(もくりょく)検定」というWebサイトを見つけました。樹木マニアとしては、当然トライしなければなりません。
初級と中級があり、それぞれ20問が出題されます。初級で14問以上正解すれば「木ムリエ」、中級で14問以上正解すれば「ウッドコンシェルジュ」の称号が与えられます。
私は初級では17問正解。「木ムリエ」を自称できるわけです。「中級も大したことないだろう」とタカをくくって挑戦したものの、えらく難しい。
木造建築の法律や大工さんの技術などかなり専門的な問題があって、とても歯が立ちません。結局7問しか正解できず落第。「ウッドコンシェルジュ」にはなれませんでした。
Web版に加えて書籍版もあるというので、意地になって即アマゾンに注文。こちらは100問あります。



「正解が50問以下なら、恥ずかしくてこのブログも閉鎖」と悲壮な決意でチャレンジしたところ、結果は73問正解。何とか面目が保て、ブログも継続できることになりました(笑)。
出題は「木力検定委員会」。20人の学者や専門家で構成され、吟味して問題が作成されているので、かなり本格的な検定です。
Web版にチャレンジしてみようと思う方はこちらでどうぞ。

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桐箱

2012年01月19日 | 木の材

日本ではタンスを一棹、二棹と数えます。これにはおもしろい由来があります。タンスが普及する以前の江戸時代は、長持の下に車をつけた「車長持」が一般的でした。火事になるとそのまま運び出せるからです。

ところが、明暦の大火で誰もが車長持を引っぱり出したために、路地が塞がって大惨事が発生。幕府は、江戸、大阪、京都の三都で車長持の製造を禁止しました。その後、タンスが普及しはじめ、火事の際には棹を通して持ち運べるタイプが主流になり、一棹、二棹と数えるようになったそうです。

タンスと言えば、材はキリ。私の推測ですが、棹を通して持ち運ぶ以前の長持やタンスはスギやケヤキ製だったと思います。正倉院の長持もスギです。人間が持ち運ぶことになって、軽いキリ材に切り替えられたのではないでしょうか。

キリは日本の木材で最も軽く、比重は0.20.4くらい。燃えにくいという特性は、2次的なものだったのでしょう。

キリはタンス以外にも、大切な掛軸とか陶磁器を保管する箱にも使われます。わが家にも、桐箱に入った由緒のありそうな焼物が1個だけあります。

 

 

 

白州正子は『木』というエッセイ集で、明治時代に茶道具など国宝級の作品を持ち出した欧米人は桐箱を無用と見なして全て焼いてしまった、と書いています。西洋には木の箱に入れて保管するという習慣がないのでしょうか。

キリには軽い、燃えにくいに加えて、収縮しにくいという特性があります。これによって隙間のない箱を作ることができるので、内部は外気の温度や湿度の変化を受けにくいそうです。

物を保存するには湿度を一定に保つことが大切だそうですが、軽い木材ほど調湿性(湿気を吸ったり吐いたりして湿度を一定に保つ作用)が高いので、貴重な物を保存する箱にはキリが最適なわけです。

欧米人もそのことにようやく気づいて、例えばボストン美術館は作品を保管する桐箱を京都の指物師に大量に発注しているそうです。

 

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銘木見学

2011年10月13日 | 木の材

十と八を組み合わせると「木」になるので、108日は「木の日」。これに因んで、京都のある材木屋さんが「銘木見学会」を催されたので参加してきました。 

幕末には坂本龍馬をかくまったことでも知られる創業290年の老舗で、以前も当ブログで取り上げました。主に茶室や寺院建築に欠かせない銘木を扱っておられます。現在、除夜の鐘で有名な知恩院の修復工事にも木材を供給されているそうです。 

いつもは建築関係者や大工さんなど専門業者しか入れない材木置き場や加工場の中を歩きながら、貴重な木材や北山杉の磨き丸太を見せていただきました。 

 

 

材木置き場

 

 

北山杉の磨き丸太

 

説明の中で私が面白いと思ったのは、木を製材する際、たまに中に金属物が含まれていて、帯ノコが「チン」と音を立てるそうです。その原因は、猟師が放った銃の弾か、誰かが打ち込んだ呪いの五寸釘。銃弾はもちろん自然の森に自生していた巨木に、五寸釘は神社の境内にあった巨木に多いとのこと。

最近も丹波地方で買い付けたケヤキの巨木の製材中に「チン」と音がして、調べると林業用の針金が食い込んでいたそうです。金属が含まれていると、木取りの効率が悪くなるだけでなく、帯ノコも弁償しなければならないので、材木屋さんには大損。一種のギャンブルですね。

 

 

針金が食い込んでいたケヤキを製材したもの

 

値段がつけられないという屋久杉の銘木や天井用の吉野杉、秋田杉などは撮影禁止。素人には分かりませんが、プロが見るとその価値が分かるからだそうです。

 

 

撮影OKの屋久杉の銘木

 

 

きれいな縮み杢が表れたトチノキ

 

二条駅近くに材木屋さんが集中しているのは、国鉄時代に全国から木材が集荷され、ここに木場があったからだそうです。それまでは、淀川や保津川から運河を経由する船便でしたから、高瀬川沿いの木屋町が集荷場所でした。物流手段の変化によって木場も変わったわけですね。

 

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スプーンの森

2011年09月01日 | 木の材

高知県に面白い人がいて、369種類もの木を使ってコーヒースプーンやカレースプーンを作りました。それを地元の林業NPO84プロジェクト」が「木の種類‐スプーンの森‐」という冊子にしました。

その冊子がまた、全長10メートルの蛇腹折りという面白い形態。私も釣られて注文しました。家の廊下に広げて撮ったのが下の写真。往復してもまだ余っています。

 

 

 

作者のフクドメさんは、知り合いの人が作ったタンナサワフタギのスプーンに触った時に電気が走ったそうです。その象牙のような触り心地に心を奪われてスプーン作りを始めたとのこと。木の枝をナタで削り、ムクノキの葉で磨いてツヤを出すという方法で作っています。

それにしてもハンパじゃない数です。私が今までにツリーウォッチングした木の種類は、多分369種類もないと思います。

冊子を見ると、日本の自生種だけではなく、ワシントンネーブルとかフェイジョアなど外来種もあります。また「にいたかなし」とか「おきつ」など、聞いたこともなく、図鑑にも載っていないような木もあります。おそらく地方名でしょう。

 

 

 

スプーンは五十音順に並んでいて、たとえば上のページは左から、さわぐるみ、さわしば、さわふたぎ、さんごじゅ、さんしゅゆ、さんしょう、さんぽうかん、しきみ、しじみばな、しだれやなぎ。

「木の種類」というタイトルどおり木材図鑑としても使えますが、こういうものは「何かに使える」というよりも、ただ「面白い!」というだけで価値があるのだと思います。

84プロジェクトの「84」は高知県の森林面積比率が84%であることに由来します。高知県は林業県としても知られていますが、なかなか面白い人が多いですね。

84プロジェクトの「スプーンの森」はこちら

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プラスチックのような木

2011年01月10日 | 木の材

前回ご紹介した「木の町KYOTOフォーラム21010」で、岐阜大学がおもしろい技術を展示していました。木を高圧の蒸気で圧縮して変質・変形させることで、木材の用途を拡大しようという試みです。 

例えば下の写真は、左が高圧蒸気で圧縮した桐材のスライス、右はそれを型にはめて変形させたもの。

 

 

薄い木片がトレイになるのです。これが実用化されれば、プラスチックのトレイや容器を木製に切り替えることができます。 

この技術は一部ですでに実用化されていて、NTTドコモが発表した木製の携帯電話に採用されているそうです。また、以前ビクターが木製のスピーカーを商品化したことをご紹介しましたが、現在この技術を使って新たに試作されているそうです。

 

 

スピーカーとして変形させることも可能

 

スライスを変形させるだけでなく、丸太をそのまま高圧蒸気で変形させれば、切ったり削ったりせずに角材を生産することも可能で、さらに、下の写真のように複雑な変形もできるそうです。

 

つる細工みたいですが木です

 

また、スギなど軟質の木材を硬化させて強度を高めることもできるそうです。この技術がもっと普及すれば、木材が石油系樹脂に取って代る可能性もあります。科学っておもしろいですね~。

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円は紙、ドルは布

2010年12月16日 | 木の材

誰もが欲しがる人気者、紙幣の原料は当然ながら木です。国立印刷局のホームページを見ると、ミツマタなどを原料としたパルプを細かく刻んで紙にすると書いてあります。伝統的な和紙とは製法が違うようですが、材料は和紙と同じで、ミツマタのほか多分コウゾも使われているはずです。 

 

ミツマタはその名の通り枝が3つに分かれます 

 

図鑑によると、ミツマタは室町時代に中国から製紙用に移入された樹木で、ジンチョウゲの仲間。庭木にも使われていて、私がよく行く花寺にも一株植えてあります。コウゾは在来のクワの仲間ですが、栽培された雑種のようです。いずれも樹皮の部分が紙になるようです。

 

ある植物園で見つけたコウゾ

 

  

クワ科特有の変形した葉

 

アメリカのドル紙幣にはミツマタやコウゾは使われていないはず。どんな木で作られているのだろうと調べたら、綿75%、麻25%だそうです。これは紙というよりも布ですね。しかも綿も麻も草本ですから、木製の円に対して草製のドルということになります。

 

数十年前の旅行で残った1ドル札

 

面白い話が残っていて、天候不順で綿花が不足した年に、アメリカ造幣局はやむを得ずリーバイス社に頼んでジーンズの切れ端を譲ってもらって補ったそうです。布なので紙よりも耐久性があり、燃えた場合も紙のお札より形を保つそうです。

オーストラリアやニュージーランドはポリマー紙幣、つまりプラスチックのお札らしいですよ。知ってました?

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