樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

学名も英名も和名

2015年01月29日 | 野鳥
和名がそのまま学名になっている鳥が何種類かいます。例えば、日本固有種のアオゲラの学名はPicus awokera。
コマドリ、アカヒゲ、ミゾゴイの学名も日本語。ただし、この3種の学名にはミスがあり、コマドリがakahige、アカヒゲがkomadori、ミゾゴイがgoisagiと入れ替っていることは以前にもご紹介しました
あまり知られていませんが、ムギマキの学名もFicedula mugimaki。この鳥を見るために、昨年の秋少し遠出しました。



珍鳥の部類で、なかなか目にする機会がありません。一昨年も同じ場所に出向きましたが、3時間待ったものの結局会えませんでした。
ところが、鳥を見始めた頃に都市公園で偶然ムギマキに遭遇したことがあります。今思えばビギナーズラックでした。それ以来、24年ぶりの再会。
このムギマキ、学名だけでなく英名もMugimaki Flycatcherと日本語。気になって調べてみたところ、学名にも英名にも和名が使われている鳥はムギマキだけのようです。
ヤンバルクイナがOkinawa Rail、アカヒゲがRyukyu Robinというように地名を使った英名はありますが、和名がそのまま学名にも英名にもなった鳥はムギマキのみ。そういう意味でも珍しい鳥です。
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木と結婚する

2015年01月26日 | 木と文化
インドには木と結婚するという不思議な風習があります。例えば、弟は兄よりも先に結婚してはならないという掟がある地方では、兄が便宜的に木と結婚し、その後に弟が結婚するそうです。
また、8年ほど前、インドの有名な女優・アイシュワリヤー・ラーイさんが木と結婚しました。ある大富豪との結婚を占ってもらったところ、「その結婚には難がある。木と結婚すれば解消する」と言われたので、まず木と結婚してから本来の相手と挙式。初婚の相手はバナナの木だったそうです。昔の日本の「方違え」みたいな風習ですね。
もし私が結婚するなら、ツリーウォッチングの世界に引き込んだ初恋の木・カツラかな。雌雄別株でもあるし。


この丸い葉に一目ぼれしました

さらに、このインドの風習にヒントを得たのか、昨年11月、南米でリカルド・トーレスという男性が木と結婚しました。この人は俳優兼自然保護活動家で、森林伐採に歯止めをかけるためにこういう行動に出たのです。
結婚式が行われたのはコロンビアのボゴダ国立自然公園。トーレスさんは白いタキシードに身を包んで、新婦である木に誓いの口づけをしたそうです。過去にもアルゼンチン、メキシコ、ペルーで同様の結婚式を挙げていて今回で4度目。保護活動のパフォーマンスとしては面白いアイデアですね。
レオナルド・ディカプリオあたりが同じ意図で木と結婚すれば、世界中で森林保護への関心が高まるでしょうね。
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鳥を見た人間の心の動き

2015年01月22日 | 野鳥
本州の北のはずれで、私をじっと待っていて呉れたのは君だったのだね、と小声で挨拶すると、この白鶺鴒(はくせきれい)は真面(まとも)に私の方を見詰めずに、ひと声、小さい恥じらいの歌を聞かせそうになった。
私は嬉しさに、うっかり声を出しそうになってしまったが、この鳥の、おだやかな恥じらいの横顔から香気が漂うのが嬉しく、小鳥も私も現在、此処に生きていること、そして何故か最高の歓喜に浸っていることが、共に涙になりかけるのだった。

これは、詩人とも哲学者とも呼ばれる串田孫一の著作『鳥と花の贈りもの』の一節。鳥をテーマに綴った散文詩と、叶内拓哉さんの写真で構成された130ページほどの本です。


表紙の洒脱な鳥や草花の絵も串田孫一のもの

鳥に出会ったときの心の動きを、普通の人間はここまで言語化できせん。
私は一応言葉を生業にしているので、文章には多少こだわりがありますが、このブログでも「美しい」とか「可愛い」とか「感動した」といったありきたりの言葉でしか表現していません(創作の場ではないこともありますが)。
鳥を見たとき、私たちの心の中にはいろいろな動きが生まれます。さざ波のようなその微妙な動きを、この哲学者は微に入り細に入りして言葉にします。
ボキャブラリーやレトリックが多彩。バックグランドとしての読書量や素養も豊富。しかし、それ以前に、自分の心の動きをじっと眺める眼力があるから書けるのでしょう。
文章表現という意味だけでなく、バードウォッチャーの心の動きを知る意味でも、私にとっては貴重な読書体験でした。
長くなりますが、サギを描いた「化身」を引用します。
私にとって時間が消えていた。止まっていたのではない。
西方十萬億の國土を越えた極楽を、自分の好みに合わせて改造していた。四宝で飾られた建物も要らない。底に金紗の光る池も要らない。苦がなく楽にみちているというが、苦のない楽など私には考えられない。
でも、目の前の風景を、焦点を一ヶ所に置いて見ていると、頻りに身繕いしている白鷺は眩しい程に白く、蓮の花から生まれかわったものかも知れないと思う。すると此処は極楽であってもいい。きらびやかな楼閣がなくとも、楽の音らしいものがさっぱり聞こえて来なくとも、此処は私の、今日の地上の楽園である。これ以上の贅沢は望まない。
時々翼をひろげて飛ぶ姿を見せかけるこの鳥は、鷺といわれていることも知らない化身である。恐怖も知らず、孤独を寂しがる容子もなく、この鳥にも時間がない。だが鷺が飛び立って行くと私には時間が纏いついた。

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ライチョウを食べる

2015年01月19日 | 野鳥
近くにある龍谷大学で、鳥類学者・中村浩志さんの講演が行われたので聴講してきました。今回の講演は、「進化が確認できるカッコウの托卵研究」と「二万年の奇跡を生きた鳥ライチョウ」の2本。どちらも興味深いものでしたが、ライチョウについてご紹介します。
日本では信州あたりの高山に登らないとこの鳥には出会えませんが、ヨーロッパでは身近な場所に生息していて、現在でも狩猟鳥、つまり食料になっているそうです。
そのため、警戒心が全くない日本のライチョウとは対照的に、ヨーロッパのライチョウは人が近づくとすぐに逃げるとのこと。


スコットランドのライチョウ(画像はパブリックドメイン)

日本では特別天然記念物として保護されているので、「ライチョウを食べる」なんて考えられませんが、中村さんはノルウェーの雑誌を紹介しながら、ヨーロッパでは普通のジビエ料理であることを強調されていました(下はパワーポイントの画像)。



ところで、日本にはもう一つのライチョウがいます。北海道に生息するエゾライチョウで、こちらは狩猟鳥。つまり、日本でもライチョウを食べているのです。
食料にするほどたくさん生息していればいいのですが、ご多分にもれずエゾライチョウも激減しています。狩猟数では、1920~1950年代の5~6万羽が、1990年代には1千~2千羽に減少。道が行った生息密度調査でも、1994年から1996年にかけて、例えば阿寒湖畔では100ha当たり3.9羽から1.0羽に減っています。
個人的な体験ですが、私は北海道に3回鳥見ツアーに出かけたのにエゾライチョウには会えませんでした。
環境省のレッドリストが「情報不足」の一方、北海道は「希少種」に指定しています。その道庁が、自らのホームページに「蝦夷雷鳥の蕎麦」を採り上げ、「上品で良い出汁がでます。蕎麦やお雑煮、もち米と炊いてサムゲタン風にしてもおいしいです」と記載していたことが問題になって、すぐに削除されたそうです。


エゾライチョウ(画像はパブリックドメイン)

そんな希少な野鳥をわざわざ探し出して、撃ち殺して食べる必要はどこにもないでしょう。
似たような話は他にもあって、キジは日本の国鳥でありながら狩猟鳥ですし、ヤマシギも京都府以外では狩猟鳥。猟友会の圧力もあって、数が減ってもなかなか狩猟対象から外されません。
もう一つの要因は行政の怠慢というか不作為。例えば、エゾライチョウは北海道にしか生息しないにもかかわらず、なぜか京都府の狩猟対象鳥としてリストアップされています。日本野鳥の会京都支部が何度も削除を申し入れていますが、いまだに残ったまま。こんなことを続けているうちに、いろんな鳥が絶滅危惧種になるんでしょうね。
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日本のウイスキーを世界一にした木

2015年01月15日 | 木と飲食
昨年、サントリーのウイスキー「山崎」が、本場英国の「ウイスキー・バイブル2015」で“世界最高”と評価されました。他のコンテストでも日本のウイスキーが賞を総なめにしていて、輸出も5年前の2倍に伸びています。
その要因は、日本の水と樽の材料にあるようです。「山崎」の場合、水は千利休が着目したという、京都府と大阪府の境に位置する山崎の天然水。
そして、サントリーが主に使っている樽材は国産のミズナラ。「山崎」シリーズには、この樽材の名を冠した「山崎ミズナラ2014」という飲食店用の商品もあります。


ミズナラ材

サントリーによると、「ミズナラ樽原酒は白檀(びゃくだん)や伽羅(きゃら)を想わせるオリエンタルな香味が特長で、昨今では海外のブレンダーやウイスキーファンからも高い評価を受けています」とのこと。いわば、ミズナラが日本のウイスキーを世界一にしたわけです。
しかし、当初は樽には不向きだったそうです。戦争によってヨーロッパから樽材が輸入できなくなったため、しかたなく国産のミズナラを使用したものの、原酒が漏れやすく、材の選別や樽づくりは苦労の連続。しかも、木の香りが強すぎて、ミズナラ樽の原酒はほとんど評価されませんでした。
ところが、同じ樽を2回、3回と使い込むうちに、上記のビャクダンやキャラのような香りが加わって独特の味わいの原酒になったそうです。


ミズナラの実(ドングリ)と葉

ウイスキーの世界ではミズナラを「ジャパニーズオーク」と呼び、日本ウイスキーの香味を語るときのシンボルになっているとのこと。
私はサントリーファンなので若い頃は「白」や「角」を飲んでいましたが、現在はバーボン党。バーボンの樽材はジャパニーズオークと同じ仲間のホワイトオークですが、内側を焼き焦がして仕込みます。ビャクダンやキャラの香りはありませんが、チャコールの香りを楽しんでいます。
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野鳥の所有権

2015年01月12日 | 野鳥
土曜日、例年どおりガン・カモ調査のため淀競馬場へ行ってきました。今年はこれまでで最も少なく、7種類198羽でした。
競馬場の池にはカモのほかに数十羽のコブハクチョウがいます。もちろんWild Birdではなく、外来の飼育鳥。本来の生息地はヨーロッパで、一般的に「白鳥」と言えば本種を指すようです。



面白いことに、イギリスでは野生のコブハクチョウはすべて王室の所有物とされています。12世紀に成立した法律でそう定められ、白鳥を殺したり傷つけたりすると反逆罪になるとのこと。
実際、一昨年の8月、テームズ河畔でコブハクチョウが捕獲されてバーベキューにされる事件が発生し、警察が犯人を追っているというニュースが流れました。
とんでもない話ですが、白鳥を食べるという習慣はヨーロッパに伝統的にあったらしく、晩さん会などで高級料理として白鳥の肉が供されていたようです。そう言えば、日本でも江戸時代には鶴を高級料理の食材にしていました。
それにしても、野生の白鳥はすべて王室の所有物という発想はスゴイですね。世界広しと言えども、法律的に所有権が認められている野鳥は、イギリスのコブハクチョウだけでしょう。
ただ、現在のエリザベス女王は、テームズ川とその支流の一部流域に生息する個体だけに限定しているとのこと。そして、王室として毎年そのエリアで生息数調査を実施しているそうです。
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森のノーベル賞

2015年01月08日 | 木と文化
昨年、3人の日本人がノーベル賞を受賞しました。この賞には物理学、化学、生理学・医学、文学、経済学、平和の6分野しかなく、その他の分野で世界に貢献した人は顕彰されません。
それを補うためか、林業分野で活躍した人には「森のノーベル賞」(正式名「マルクス・ヴァレンベリ賞」)が授与されます。日本ではまったく無名で、ネットで検索してもほとんどヒットしませんが、スウェーデンの財団が運営するもので、ノーベル賞と同様グスタフ国王が授与し、賞金も同額の200万クローネ(約3000万円)という由緒ある賞です。



これまで、例えば2010年には、7階建ての木造マンションの建築法を考案したドイツの研究者が受賞しています。この木造マンションは阪神・淡路大震災級の地震にも耐えるそうです。
さらに、2011年には、森の樹木の高さやサイズ、木質重量などを飛行機からのレーザーで計測するシステムを開発したノルウェーの大学教授が受賞しています。このシステムによって、従来は目視に頼っていた木材の質や量の計測が簡単に正確にできるようになったようです。
調べてみると、このシステムはすでに実用化されていて、日本でもレーザーによる森林の樹木調査を請け負っている会社があります。
残念ながら「森のノーベル賞」を受賞した日本人はまだいませんが、賞の選考にかかわるアドバイザーに日本人が就任しています。
日本人が受賞すれば「森のノーベル賞」の知名度も一気に上がるでしょうね。
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フクロウの首

2015年01月05日 | 野鳥
フクロウは「不苦労」とか「福来郎」と書いて幸せのシンボルになっています。また、「借金で首が回らない」という慣用句に対応して、首がよく回るフクロウは商売上の縁起物に仕立てられています。
実際、フクロウの首はどれくらい回るのか? 気になって調べてみると、左右にそれぞれ270°回るそうです。合計540°回転するわけです。ちなみに、人間の首は左右それぞれ60°。
下の動画は、日本では数少ない草原性のフクロウ、コミミズク。これを見ても少なくとも片方180°は回っています。



「こんなに首を回して、なぜ血流が途切れないのだろう?」と疑問を抱いたアメリカの学者が、自然死したシロフクロウとアメリカワシミミズクを調べました。そして、人間や他の鳥とは異なる血管の構造を発見しました。
まず、椎骨動脈が他の鳥よりも頸部に入り込み、大きなたるみを持っているそうです。首を回しても血管が伸びるわけです。
また、椎骨動脈と頸動脈の間にバイパスのような血管があって、一方の動脈が遮断されると、もう一方の動脈から血液が供給される仕組みになっているそうです。
しかも、顎の下の血管が膨らんで一時的に血液を貯め、首を回転させたときに脳や目の機能に必要な血流を確保しているとのこと。こうした仕組みによって、フクロウは血流に支障なく首を270°も回すことができるわけです。
しかし、よく考えれば、フクロウに限らず鳥は首を回します。小鳥でも120°くらいは回しています。ツルやサギなど首の長い鳥はもっと回すでしょう。
鳥は人間のように目玉を左右に動かせないので、広い視野を確保するには首を回さなければならないという要因もあるようです。
それに加えて(私の推測ですが)、フクロウの聴覚は正面向きなので、広範囲に獲物の音をキャッチするには、レーダーのように常に首を回転させる必要があるのではないでしょうか。
フクロウは、「商売でも常に広範囲の情報をキャッチしていないと、そのうち借金で首が回らなくなるよ」と教えているのかも知れません。
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初めて描かれた鳥

2015年01月01日 | 野鳥
明けましておめでとうございます。本年もよろしくご愛読ください。
さて、年の初めにちなんで、「人間が初めて描いた鳥は何か?」について考察します。
「花鳥風月」をテーマとする日本画にはたくさんの鳥が描かれてきましたが、もちろんそれが「初」ではありません。日本で初めて描かれた鳥の絵は、弥生中期(紀元前1世紀~紀元1世紀)の器に描かれた「魚をくわえた鳥」。針のようなもので線描されていて、幼児の絵のような拙いものとのこと。
絵ではありませんが、5世紀後半に築かれた応神天皇陵からは、以下の埴輪が出土しています。


大阪府羽曳野市応神天皇陵から出土した「水鳥」(画像提供:東京国立博物館

私にはハクチョウに見えますし、十分に芸術的な価値があると思います。
では、世界で初めて描かれた鳥の絵はどんなものでしょう。ご存知のようにナスカの地上絵にはハチドリ、コンドル、サギ、ペリカンが描かれています。この遺跡は紀元前200年~紀元後500年のものなので、日本初の鳥の絵とほぼ同じ時期です。
しかし、「世界初」はさすがにそんな生易しいものではありません。何と1万5000年前の旧石器時代までさかのぼります。
フランスのラスコー洞窟にはいろいろな動物の絵が描かれていて、その中には鳥もいます。ただし、牛や鹿の絵はけっこうリアルで芸術的ですが、鳥は何かのシンボルとして描かれたようで幼児的なもの。宗教的な意味で描かれたようです。
いずれにしても、人間は旧石器時代から鳥を描き続けてきたわけです。
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