樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

春の妖精

2013年03月28日 | 野草
私はスギやヒノキの花粉はほとんど影響ないですが、ブタクサなどの花粉にはやられます。樹木には強いのに、草本には弱いのです。自然観察でも同じで、野草の知識はまったくありません。
「これではいかん」と思い、しばらく前、いつもの仲間の誘いにのって野草観察に出かけました。滋賀県北部の山里にセツブンソウやアズマイチゲの自生地があるのです。これを機会に野草デビューしようと思います。
ただ、自慢できるような写真が撮れないので、動画でごまかします。しかも、文章を書くのが好きで始めたブログなので、野草音痴を顧みず、何がしかウンチクを傾けます(笑)。



セツブンソウやカタクリなど、早春に開花した後、数カ月で1年のサイクルを終える植物のことを「Spring Ephemeral」と呼ぶそうです。「春のはかない命」とか「春の妖精」という意味とのこと。確かに、山村の田畑の脇に咲く小さな花はそう呼ぶにふさわしい佇まいでした。
セツブンソウもアズマイチゲも、花弁に見えるのはガクなんですね。樹木にも同じように「花ではなく総苞片」(ハナミズキやヤマボウシ)とか「花ではなく装飾花」(アジサイ類)などややこしいのがありますが、野草も一筋縄ではいかないようですね。早くも、迷子になりそうです(笑)。
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首相を辞任させた鳥

2013年03月25日 | 野鳥
前回、アメリカの大統領と鳥の話をご紹介しましたが、日本ではある鳥が首相を辞任に追い込んでいます。
2009年夏の選挙で民主党が圧勝し、鳩山由紀夫代表が総理大臣に就任したものの、翌年の6月には早くも辞任しました。その際、民主党両院議員総会での「辞任会見」で、首脳会談のために滞在した済州島でのエピソードを披露しました。
「3日前、済州島に行ったときホテルのテラスに1羽のヒヨドリが飛んできました。わが家の庭にやってくるヒヨドリとまったく同じでした。そのヒヨドリが、もうそろそろ自宅に戻って来いよと、招いているように感じたところでございます」。



実際の会見では最初「ムクドリ」と言い間違え、途中で「ヒヨドリ」に訂正して会場の笑いを誘ったようですが、一国の首相に辞任を決意させたのはこの鳥だったのです。ヒヨドリがハトに引導を渡したわけですね。
ちなみに、祖父の鳩山一郎は総理大臣であった1955年5月10日に、日本野鳥の会の創設者・中西悟堂とオオルリやキビタキの声を聞きながら会談。それが、愛鳥週間創設のきっかけになったそうです。
もう一つちなみに、細川護煕元首相もバードウォッチングを趣味にしていたとか。

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政治家と鳥

2013年03月21日 | 野鳥
昨年まで仕事で某政治家の広報紙やホームページを担当していました。大臣も経験したベテラン議員で、尊敬できる誠実な人物でしたが、年末の選挙で落選したため引退しました。
その政治家は野鳥への関心が高く、自宅の庭に餌台を置いて観察するほか、国会議員の野鳥保護団体に所属して議事堂周辺の林に巣箱を掛ける活動もしていました。
野鳥に関心を持つ政治家は少ないようですが、調べてみると面白いことが分かりました。アメリカの第26代大統領セオドア・ルーズベルトは熱心なバーダーで、アマチュアの鳥類学者としてバードウォッチングの本まで著したそうです。
1903年にフロリダ州にペリカン保護区を開設しましたが、これは「世界初の野鳥保護政策」とのこと。
鳥に限らず動物が大好きで、ホワイトハウスに犬5匹、猫2匹、馬10頭、熊5頭、豚、アナグマ、コヨーテを各1頭飼い、故郷のロングアイランドにはペットの墓地も造ったそうです。


第26代大統領セオドア・ルーズベルト(画像はパブリックドメイン)

このセオドア・ルーズベルトの影響を受けたのが、従弟のフランクリン・ルーズベルト、後の第32代大統領です。
子どもの頃は野鳥の標本収集に情熱を傾け、「1種あたりオス・メス1羽ずつ」という父親の言いつけを守りながら300種以上の野鳥を収集したそうです。そのコレクションは、現在史跡として残された邸宅に展示されています。
大統領になってからも、シークレットサービスの警護から逃げ出して、自宅周辺の森で野鳥を観察していたようです。
その気持ち、よく分かります(笑)。
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抽象画と樹木

2013年03月18日 | 木と作家
小さい頃から絵が好きで、ピカソのキュビズムまではついていけますが、カンデンスキーやモンドリアンの抽象画には感覚が何も反応しません。


モンドリアンの代表的な作品

ところが、モンドリアンは初期には樹木や風景の具象画を描いていたそうです。しかも、樹木の連作で、具象画がいかに抽象画に変化するかを示しています。
まずは、『赤い木』と題された1908年の作品。



色は現実的ではありませんが、幹や枝が写実的に描かれ、全体の樹形が分かります。
次に描かれたのが『灰色の木』(1912年)。



細かい枝や葉が省略され、樹木の姿が単純化されています。
その次が『花咲くリンゴの木』(1912年)。



単純化がさらに進み、樹木が円弧とT字型のラインだけで表現されています。
そして、最終的に『白と黒のコンポジション』(1915年)という抽象画にたどりつきます。



樹木がT字型の黒いラインだけで表現されるわけです。
さらに抽象度が増すと、一番上の絵のような、水平・垂直の線と赤・青・黄の3原色だけですべての世界が表現できるという地平に至るようです。
モンドリアンは「不要な部分を省き、本質的な要素だけを取り出せば、自然の再現ではなく本質の世界が表現できる」と考えたそうです。
分かったような分からないようなコンセプトですが(笑)、抽象画が樹木という具体的なモチーフから始まったことはガッテンできました。
※著作権の保護期間を過ぎた画像を使用しました
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雅楽と鳥

2013年03月14日 | 野鳥
京都府南部を流れる宇治川・木津川・桂川は大阪府との境あたりで合流し、淀川と名前を変えて大阪湾に注ぎます。その合流地点の下流に、鵜殿(うどの)と呼ばれるヨシ原が広がっています。
そこにコホオアカが来ていると知って見に行ってきました。この鳥は、日本野鳥の会京都支部の記録によると府内では過去3回しか観察されておらず、私も見たことありませんが、淀川の中流域には毎年渡来するようです。



この鵜殿のヨシは他の地域のヨシと違って茎が太く、繊維が緻密なことから、雅楽に使われる篳篥(ひちりき)の蘆舌(ろぜつ・洋楽器で言うリード)に最適とのこと。宮内庁の雅楽部は、この鵜殿のヨシしか使わないそうです。
ところが、その貴重なヨシ原の上を新名神高速道路が通る予定で、橋脚がヨシの地下茎に悪影響を及ぼす、高速道路を煙が包むと危険なためヨシ焼きができなくなるなどの理由から、コースの変更を求める運動が進められています。
篳篥の演奏家である東儀秀樹さんは、その運動の発起人の一人として、昨年11月に国交大臣と面会して見直しを申し入れました。その後、政権が自民党に移り、大臣も替ったのでどうなったか知りませんが、署名活動はまだ続いています。
鵜殿のヨシ原にはコホオアカ以外にもさまざまな鳥がいました(下の動画)。このほか、ツグミ、ヒバリ、カワラヒワ、ホオジロ、アオジ、ウグイス、カワセミ、ケリなど、河川敷やヨシ原をすみかにする野鳥がたくさんいて、飽きることなくバードウォッチングが楽しめました。



鵜殿は雅楽器にとってなくてはならないヨシ原ですが、野鳥にとっても聖域です。できることならヨシの生育に影響がないように、少しだけルートを変えてほしいものです。
「SAVE THE 鵜殿ヨシ原~雅楽を未来へつなぐ~」のサイトには、雅楽と鵜殿のヨシのことが詳しく書いてあります。
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冬芽

2013年03月11日 | 樹木
ツリーウォッチングを始めた頃、勉強のために通った大阪市立大学附属植物園へ久しぶりに行ってきました。目的は冬鳥と冬芽の観察。
私は樹種の識別を葉に頼っているので、冬の落葉樹はほとんどお手上げです。ツリーウォッチャーの中には冬芽で樹種を同定する方もいらっしゃるので、私もそろそろ勉強しようかなと思った次第。
まず、ホオノキ。これは以前から知っている場所に立っているので樹種は分かっていました。
モクレンの仲間で冬芽が大きいですが、モクレンみたいな毛がなく、革質の芽鱗(がりん)に包まれています。後1カ月ほどでこれが剥がれ、5月頃には大きな白い花を咲かせます。



次もモクレンの仲間のようですが、樹種は同定できません。芽が毛に包まれています。名札を見るとコブシ。ホオノキよりも早く4月には開花するはずです。



次は、枝が左右対称に出ているのでカエデの仲間だろうと推測しましたが、樹種は分かりません。名札にはハナノキとありました。
愛知県と岐阜県に局地的に自生するカエデなので、関西では植物園以外でお目にかかることはありません。もうすぐこの芽から赤い花が咲き、樹全体が赤くなるのでこの名になったそうです。



次はミズキ。これも葉があればすぐに同定できますが、冬芽だけでは無理。こんなに芽が赤いとは知りませんでした。



次の常緑樹は、大きな葉とこんもりした樹形からすぐにオオカナメモチと識別できました。



冬芽での識別は難しいです。
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かわいい妖怪

2013年03月07日 | 野鳥
『平家物語』にヌエという妖怪の話が出てきます。
…平安時代末期、御所で毎晩のように不気味な声が響き、恐怖におののいた天皇が病気になったため、弓の達人・源頼政が退治した。その妖怪は、顔が猿、胴体が狸、手足が虎、尾が蛇、そして声は鵺(ぬえ)のようであった…
鵺とはトラツグミのこと。確かに、夜中に「ヒョー、ヒョー」と気味の悪い声で鳴きますし、現在も毎年冬になると京都御苑に数羽がやってきます。



このヌエ伝説には続きがあります。
…都の人々はヌエのたたりを恐れ、死骸を船に乗せて鴨川に流した。その屍が淀川の下流に流れ着くと、周囲の村人はたたりがないようにねんごろに葬り、鵺塚を造って弔った…
その鵺塚が今も残っているというので見てきました。大阪の都島商店街の近くに小さな社が祀ってあり、石碑が建っています。



こういう塚があるということは、ヌエ伝説が根も葉もない作り話ではなく、何か実際の出来事があったということでしょう。
話がトラツグミからドンドン離れますが、面白いことに、大阪港の紋章にこのヌエが採用されています。鵺塚にはその紋章も掲げてありました。



中央の盾を左右から支えている2頭のサポーターがヌエ。紋章学の専門家に依頼して作製したもので、サポーターには怪獣が描かれることが多いため、当初は天狗や河童の案もあったそうですが、大阪にふさわしい怪獣としてヌエが選ばれたそうです。
しかし、実際のトラツグミは、上の動画のように、妖怪とは程遠いかわいい鳥。ツグミ独特のキョトンとした顔つきで、動きも他のツグミよりのろく、同じ場所をウロウロしている愚鈍なヤツです。
私も久しぶりに会っていちだんと好きになりました。かわいい姿と、気味の悪い声、そのギャップが大き過ぎるんですね。
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インドの木の文化

2013年03月04日 | 木と文化
京都大学生存圏研究所主催の「木の文化と科学」というシンポジウムに行ってきました。このシリーズにはこれまでにも何度か参加していますが、今回のテーマは「インドの木の文化」。
講演が2つあって、インド森林研究所の博士による「インドの木の文化:過去・現在・未来」と、京都大学生存圏研究所の博士による「ヒマラヤシッキム地方における寺院建築用材の樹種識別」。どちらも女性で、母国語は英語です。
同時通訳があるだろうと気軽に出向いたものの、受付で聞くと「同時通訳はありませんが、時々日本語の解説が入ります」とのこと。渡された資料もほとんど英文。
「聴講しても分からないし、帰ろうかな」と思いましたが、せっかく来たので最後まで参加しました。部分的にしか理解できないうえに、インド在来の樹種が学名で表示されるのでチンプンカンプン。それでも、パワーポイントの写真や図表、時々入る日本語の解説でぼんやりとは理解できました。
最初の講演で面白かったのは、インドの楽器に使われる木。チークやシタン、クルミなどが使われているようです。


インドの楽器(下に列記されている学名を帰宅後に調べて樹種が判明しました)

もう一つ「なるほど!」と思ったのは、クリケットのバット。インドはイギリスの文化圏なので、野球ではなくクリケットが主流ですが、バットの素材はポプラだそうです。野球のバットにポプラは無理でしょうが、ワンバウンドしたボールを打つクリケットでは軽くて軟らかいポプラが最適なんでしょう。
びっくりしたのは、インド森林研究所の建物(下の写真)。おそらく昔の宮殿をそのまま使っているんでしょうね。日本の「森林総合研究所」の職員はうらやましいでしょう。



2つ目の寺院の用材の講演では、「ヒマラヤだから用材もヒマラヤスギが多いだろうな」と思っていましたが、予想は外れて主な材料はヒマラヤモミとのこと。
下の写真はあるお寺の内部。柱はヒマラヤモミで、赤や緑に塗ってある肘木などにはヒマラヤポプラやネパールハンノキが使ってあるそうです。
日本の神社仏閣はほとんどがヒノキ製ですが、インドの場合、部位によって木材を使い分けているようです。




ヒマラヤモミ材の表面

講演後の質疑応答も英語。参加者の大半が京大の学生や研究者のようで、私は場違いな存在でした。それなりに面白かったけど、マニアックな世界に深入りし過ぎたかな? 
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