樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

ブッポウソウとコノハズク

2017年05月25日 | 野鳥
愛知県の県鳥はコノハズク。そして、愛知県警のマスコットはコノハズクをモチーフにした「コノハ警部」(下図)です。その理由は、ある出来事から、愛知県にある鳳来寺山がコノハズクの生息地として有名になったからのようです。



コノハズクは主に夜、「ブッキッポー、ブッキッポー」と鳴きます(下の動画は私が撮影したものではありません)。



昔の人はこの声を「仏法僧」と聞きなし、その声の主と思われる鳥をブッポウソウと名づけました。ところが、これがそもそもの間違いで、ブッポウソウは以下のように、コノハズクとは似ても似つかない鳥です(動画は私が撮影したもの)。



つまり、昔の人はコノハズクとブッポウソウを混同していたわけです。それが間違いであると判明したのは、今から82年前の1935(昭和10)年のこと。
当時、NHKは「生態放送」として野鳥など野生動物の鳴き声をラジオで生放送する番組を制作していました。昭和10年6月、名古屋局が担当したのが鳳来寺山のブッポウソウ。
放送を聞いた山梨県のある人物がその声を追い求め、神社の森で「仏法僧」と鳴く鳥を撃ったところ、落ちてきたのは小さなフクロウでした。また、別の聴取者から「放送の声につられて飼っている鳥が同じ声で鳴きだした」という連絡があり、鳥類学者・黒田長禮(ながみち)が自宅で預かったところ、2日目に「仏法僧」と鳴いたので声の主がコノハズクであることが確認されました。
これを受けて、日本鳥学会は「仏法僧」と鳴くのはブッポウソウではなくコノハズクであると認定しました。これ以降、「姿のブッポウソウ」「声のブッポウソウ」と呼び分けるようになりました。
NHKのこの放送は反響が大きく、鳳来寺山がコノハズクの生息する山として全国に知られるようになり、地元の町興しもあって観光客が増えました。こうした経緯から愛知県はコノハズクをシンボルに採用したのです。
間違いは正されたのですが、疑問が一つ残ります。昔の人はなぜ「仏法僧」の声の主を間違えたのでしょう? 
鳥類学者の中村浩志さんは、著書『甦れ、ブッポウソウ』の中で、両種が同じような環境に生息するため、夜行性のコノハズクの声を聞いた人が、日中に飛び回る鳥の姿を見てブッポウソウと名づけたのではないかと推測しています。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ピカソとフクロウ

2017年05月18日 | 野鳥
以前、ピカソはハトが大好きで、娘をパロマ(スペイン語で「ハト」)と名づけたり、ハトをモチーフにした作品を数多く残していることをご紹介しました。
この巨匠はフクロウも大好きだったようで、ハトと同じく自宅で飼ったり、アトリエに出没するネズミを自分で捕まえて餌として与えていたそうです。ピカソが飼っていたのはコキンメフクロウ。ヨーロッパでは最もポピュラーなフクロウのようです。


コキンメフクロウ(Public Domain)

ピカソの何人目かの夫人であり、上記のパロマの母親であるフランソワーズ・ジローは、著書『ピカソとの日々』の中で次のように書いています。
(ピカソは)籠の横木の間から指を突っ込んではフクロウに噛まれていた。でも、パブロの指は小さいけれど丈夫で、噛まれても怪我をすることはなかった。最後にはフクロウは彼に頭を撫でさせるようになり、指を差し出しても噛まずにその上にとまるまでになった。
ピカソがフクロウを愛した理由は、目が自分に似ているから。ピカソのギョロッとした大きな目は、確かにコキンメフクロウの目に似ています。


ピカソ(Public Domain)

1947年には、このコキンメフクロウをモデルにして「籠の中のフクロウ」という油絵を描いています。そのほか多くの版画や陶器にもフクロウが登場し、アメリカではフクロウを描いた作品だけを集めた画集が出版されたほど。
フクロウは他の鳥と違って、目が正面向きについていて人間の顔に似ているので感情移入しやすく、創作意欲を刺激するのではないでしょうか。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

野鳥を食べる part-3

2017年05月11日 | 野鳥
野鳥保護団体の会員としては禁断のテーマですが(笑)、しつこく追いかけています。いろいろ資料を読んでいると、真逆の視点からの新しい知見が得られて興味が尽きません。
『死ぬ前に味わいたい1001食品』という面白いタイトルの本があります。オリジナルはフランス。その中に鳥が21種類取り上げられていて、北京ダックやターキーなど飼育鳥を除くと6種類の野鳥が食品として登場します。



以前、「カモの味」という記事で鳥類学者の黒田長禮(ながみち)が「オカヨシガモが一番おいしい」と書いていることを紹介しました。この本でもオカヨシガモを取り上げていて、以下のように記しています。
野生のため飼育鳥より自然に体がひきしまっている。きめの粗い肉は、オレンジなど伝統的な鴨用のソースとよく合う。脂肪が少ないため、ベーコンかラードと一緒にローストするか、正統派フレンチスタイルに従いターニップとともに料理するか、クールブイヨンで煮込んだあとに高温のオーブンでローストして肉のしっとりした味わいを保つとよい。



上記の黒田長禮の長男・長久も鳥類学者ですが、「私はコガモが好きでした」と書いています。そのコガモ(ヨーロッパコガモ)も登場します。その前半の記述は以下。
小型で素早く方向転換する能力があり、行く方向が予測できないため、最も狩猟が難しい野鳥の1つと考えられている。また他の鳥と違ってバードコールやデコイ(おとり)に反応しないため、いっそう狩猟が難しい。
こういう知識は狩猟者ならでは。野鳥の会の会員では知りようのない生態です。料理法や味については以下のように書いています。
比類ない美味しさは、脂肪がたっぷりついていることが理由の1つ。ただし、肉はきめ細かく、切ると完璧なほどなめらかな断面が現れる。大半の野生の鴨と同様に、ピンク色が残る程度に丸焼きにするのが最高。
味:コガモが食べる大麦、サムファイア(セリ科の植物)の種、草が、コガモの脂肪となり、濃厚なバターのような素晴らしい風味を作り出している。

私もコガモを観察する度に、ぷっくりした胸を見て「おいしそう!」と思います。下の動画を見てみなさんもそう思いませんか?



ムナグロについても、興味深い記述があります。
「貧しい人のヤマウズラ」などと称されることがあるが、適切ではない。多くの美食家が、ムナグロはフランスのヤマウズラより美味しいと考えている。
昔から「かすみを食べて生きている」と言われており、内臓を残したまま供される数少ない猟鳥の1つである。
さっとローストしてトーストにのせて供されることが多い。(中略)胸肉は旨みのある脂肪がたっぷりついていて、非常にジューシー。特に繁殖シーズンの初夏のムナグロが美味しい。




ムナグロを食べてみたいとは思いませんが、ヤマウズラは(名前からの推測ですが)美味しそうですね(笑)。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミソサザイの森

2017年05月04日 | 野鳥
連休の冒頭、栃の森に行ってきました。12月初旬に行けなかったので、5カ月ぶり。いつものことながら、谷の奥や日陰にはまだ雪が残っています。



森の中にはすでに夏鳥が到着していて、オオルリは少なかったものの、キビタキはあちこちでピッコロを演奏していました。コサメビタキも芽吹いたばかりの枝先でチョロチョロ。ツツドリの声も聞こえました。
鳥はあまり期待せず、樹木を撮るために軽い三脚にカメラをセットして持ち歩きましたが、逆に鳥の撮影チャンスが増えました。うれしかったのは、カケス。声を聞いたり、姿を見ることはよくあるのですが、警戒心が強くてすぐに隠れるので動画では撮りにくい鳥です。そのカケスが、少し前の斜面でこちらを警戒することなくドングリでも探しているようでした。



ミソサザイも相変わらず元気でした。川沿いのコースを歩くので、行く先々で声が聞こえてきます。この森にはトチノキが多いので私が勝手に「栃の森」と名づけましたが、鳥で名づけるなら「ミソサザイの森」と言ってもいいくらい。
何回かさえずりシーンに遭遇しましたが、最も近くで鳴いていたいたのが以下の個体。日本で一番小さい鳥なのに、鳴き声は大きいです。


コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする