樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

糞から生まれた枝

2016年12月22日 | 木と文化
ヨーロッパではクリスマスの頃に、ヤドリギの枝を赤いリボンで結んだものを廊下や天上に吊り下げ、そこで出会った女性にはキスをしてもいいという風習があるそうです。東京ディズニーランドでもカップル向けの装飾に導入されているとか。
クリスマスソングにもヤドリギ(mistletoe)がよく登場します。例えば、マライヤ・キャリーの「恋人たちのクリスマス」は以下のとおり。
I won't ask for much this Christmas(今年のクリスマスは高いものをねだったりしないわ)
I won't even wish for snow(雪だって降らなくていい)
I'm just gonna keep on waiting(私はずっと待ち続けるわ)
Underneath the mistletoe(ヤドリギの下で)

さらに、いつも当ブログにコメントをくださるguitarbirdさんは、ヤドリギが登場するクリスマスソングを6曲も紹介されています。ヤドリギは欧米ではクリスマスの恋人たちには欠かせないアイテムになっているわけです。
日本人はそういうロマンチックなイメージは持っていないでしょう。特にバードウオッチャーは、「ヤドリギの実はレンジャクが大好きで、食べた後、粘っこい糞をする」というロマンチックとは言えない知識を持っています。


真ん中に白く垂れているのがヒレンジャクの糞

実は、ヤドリギの英名mistletoeもロマンチックではないようで、語源を調べると「糞」を意味するmistelと、「枝」を意味するtanが結合して生まれた単語で、mistletoeは「糞から生まれた枝」という意味。
多分、アングロサクソン民族はヤドリギとレンジャクの生態を知っていて、「糞から生まれた枝」と名付けたのでしょう。
クリスマスの風習のロマンチズムと、語源のリアリズム…。ギャップがありますね~。
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木がシンボルの大学

2016年11月24日 | 木と文化
3週間前に「鳥がシンボルの大学」をご紹介しましたが、同じように木をシンボルにしている大学も結構あります。
まず、東西の雄、東京大学はイチョウ、京都大学はクスノキ。京大については以前も取り上げましたが、本校のキャンパスにあるレストラン「カンフォーラ」はクスノキの学名です。



面白いことに、大阪大学のシンボルもイチョウ(下左)。ついでながら、今いろいろと話題の多い東京都のマークもイチョウ(下右)です。



そして、東北大学はハギ。同学のホームページには種名までは明記してありませんが、多分センダイハギ(仙台萩)に由来するのでしょう。



旧帝国大学7校のうち4校が木をシンボルにしているわけです。
地元の京都府立大学も木の葉がシンボル。同学のホームページには説明がないですが、この葉は明らかにカツラです。



筑波大学はキリ。皇室や日本国政府の紋章は五七の桐ですが、こちらは五三の桐。特にいわれはないようです。



「なるほど」と思ったのは、お茶の水大学。左は学章、右は学生専用のロゴマークですが、モチーフは同じ木です。何だと思いますか?



学章は茶の花、ロゴマークは茶の葉だそうです。宇治市民としては喜ぶべきマークです。
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プラントハンター

2016年03月10日 | 木と文化
しばらく鳥の話題が続きましたので、久しぶりに木の話を…。アオキに赤い実が成る季節になりました。
アオキは日本原産で、学名はaucuba japonica(アウクバ・ジャポニカ)。18世紀の中頃に来日したツンベルクというスウェーデンの医師が命名したもので、当時、関西ではアオキバと呼んでいたために「アウクバ」という属名になったようです。



意外なことに、このアオキは日本よりもヨーロッパで人気が高く、特にロンドンでは公園や庭園に多用されているそうです。
ヨーロッパに持ち込まれたのは1783年。各地に普及しましたが、雌雄別株であることに気づかず、持ち込んだのが雌株ばかりだったので、アオキの特徴である赤い実が成りませんでした。
そこで、イギリスのフォーチュンという人物が雄株を求めてわざわざ来日しました。そのことを『江戸と北京』という著書に書き残しています。

冬から春にかけて鮮やかな赤い実が多数生じて飾られる庭園を想像してもらいたい。イギリスから日本までの旅に値するものだった。

雄株を求めて地球の裏側から船に乗ってやってくるとはご苦労なことです。その甲斐あって、現在ではヨーロッパでも「アオキ」と呼ばれるほどに普及したわけです。
中国のチャノキをインドのダージリンに持ち込み、イギリスの紅茶文化を築いたのもフォーチュン。私自身はプラントハンターに疑問を持っていますが、紅茶にしてもアオキにしても、その社会的な影響力は大きいですね。
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森とハイレゾ

2015年04月09日 | 木と文化

久しぶりに映画を観てきました。といってもドキュメントですが。
タイトルは「うみやまあひだ」、キャッチフレーズは「伊勢神宮の森から響くメッセージ」。
当ブログでご紹介した樹木のプロが何人か出演されています。例えば、法隆寺の宮大工・小川三夫さん木を料理するシェフ・成澤由浩さん4000万本の木を植えた男・宮脇昭さん「森は海の恋人」運動を始めた畠山重篤さんなど。
今回初めて知る人物も登場しました。脳科学者であり芸能山城組の主宰者である大橋力さん。その話は非常に興味深いものでした。
森の中には人間の耳では聞こえない20kHz以上の超高周波(ハイパーソニック)が満ちていて、それが脳に好影響を及ぼすので、森を歩くと心地よくなったり、免疫力が高まったりするそうです。



最近、音響の世界でハイレゾが話題になっています。従来、超高周波を含む音(ハイレゾ)は耳で聴いて良い音に感じるとされていたのですが、この大橋さんが耳ではなく脳が刺激されて活性化するので良い音に感じることを発見したそうです。
人間の可聴域には限界があって、それ以上の超高周波は耳では捕えられないけれど、脳が捕えるということですね。
いずれにしても、森を歩くことで気分が良くなったり、免疫力が高まったり、ストレスホルモンが減ったりするのは確かなようです。
ということは、毎月栃の森を歩いている私は、免疫力が高く、ストレスも少ないということですね。
長生きできそうです。

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木と結婚する

2015年01月26日 | 木と文化
インドには木と結婚するという不思議な風習があります。例えば、弟は兄よりも先に結婚してはならないという掟がある地方では、兄が便宜的に木と結婚し、その後に弟が結婚するそうです。
また、8年ほど前、インドの有名な女優・アイシュワリヤー・ラーイさんが木と結婚しました。ある大富豪との結婚を占ってもらったところ、「その結婚には難がある。木と結婚すれば解消する」と言われたので、まず木と結婚してから本来の相手と挙式。初婚の相手はバナナの木だったそうです。昔の日本の「方違え」みたいな風習ですね。
もし私が結婚するなら、ツリーウォッチングの世界に引き込んだ初恋の木・カツラかな。雌雄別株でもあるし。


この丸い葉に一目ぼれしました

さらに、このインドの風習にヒントを得たのか、昨年11月、南米でリカルド・トーレスという男性が木と結婚しました。この人は俳優兼自然保護活動家で、森林伐採に歯止めをかけるためにこういう行動に出たのです。
結婚式が行われたのはコロンビアのボゴダ国立自然公園。トーレスさんは白いタキシードに身を包んで、新婦である木に誓いの口づけをしたそうです。過去にもアルゼンチン、メキシコ、ペルーで同様の結婚式を挙げていて今回で4度目。保護活動のパフォーマンスとしては面白いアイデアですね。
レオナルド・ディカプリオあたりが同じ意図で木と結婚すれば、世界中で森林保護への関心が高まるでしょうね。
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森のノーベル賞

2015年01月08日 | 木と文化
昨年、3人の日本人がノーベル賞を受賞しました。この賞には物理学、化学、生理学・医学、文学、経済学、平和の6分野しかなく、その他の分野で世界に貢献した人は顕彰されません。
それを補うためか、林業分野で活躍した人には「森のノーベル賞」(正式名「マルクス・ヴァレンベリ賞」)が授与されます。日本ではまったく無名で、ネットで検索してもほとんどヒットしませんが、スウェーデンの財団が運営するもので、ノーベル賞と同様グスタフ国王が授与し、賞金も同額の200万クローネ(約3000万円)という由緒ある賞です。



これまで、例えば2010年には、7階建ての木造マンションの建築法を考案したドイツの研究者が受賞しています。この木造マンションは阪神・淡路大震災級の地震にも耐えるそうです。
さらに、2011年には、森の樹木の高さやサイズ、木質重量などを飛行機からのレーザーで計測するシステムを開発したノルウェーの大学教授が受賞しています。このシステムによって、従来は目視に頼っていた木材の質や量の計測が簡単に正確にできるようになったようです。
調べてみると、このシステムはすでに実用化されていて、日本でもレーザーによる森林の樹木調査を請け負っている会社があります。
残念ながら「森のノーベル賞」を受賞した日本人はまだいませんが、賞の選考にかかわるアドバイザーに日本人が就任しています。
日本人が受賞すれば「森のノーベル賞」の知名度も一気に上がるでしょうね。
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月桂冠とオリーブ冠

2014年12月18日 | 木と文化
マラソンの優勝者には月桂冠が与えられます。また、F1レースの優勝者も月桂冠を首にかけて表彰台に登ります。
一般的に、オリンピックなどスポーツ大会の勝者は月桂冠を頭に飾ると思われていますが、これは間違いだそうです。スポーツの勝者に与えられるのは、本来は月桂冠ではなくオリーブで作った冠。


庭のオリーブで作ったオリーブ冠

そもそも、古代ギリシャの英雄ヘラクレスがオリンピアの庭に植えたオリーブの枝を、オリンピックの勝者に与えたことが由来。2004年のアテネオリンピックでも、優勝者には金メダルとともにオリーブ冠が与えられたそうです。
一方、ゲッケイジュは文化芸術の神・アポロンの聖樹とされていて、その枝で作った月桂冠は詩人や文人の頭上を飾るもの。ノーベル賞受賞者がNobel Laureates(ノーベルのローリエを冠された者)と呼ばれるのも、そういう意味からだそうです。
スポーツではオリーブ冠、文化では月桂冠というわけです。


庭のゲッケイジュで作った月桂冠

最近はその間違いに気づいたスポーツ関係者も多いようで、2012年の大阪国際マラソンでは、それまで優勝者に授与していた月桂冠をオリーブ冠に変えたとのこと。
オリーブが平和のシンボルになったのも、都市国家どうしで戦争を繰り返していた古代ギリシャにおいて、オリンピック開催中だけは休戦にしたからだそうです。
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木の国旗

2014年10月02日 | 木と文化
ニュージーランドで国旗をリニューアルする話が進んでいます。現在のユニオンジャック&南十字星から、ラグビーのオールブラックスでお馴染みのシダ(シルバーファーン)に変更されるようです。
旧イギリス植民地の国では、カナダが1964年にユニオンジャックを捨ててサトウカエデのデザインに変更しました。どちらも植物に変わるところが面白いですね。

 
昔のカナダ国旗(右の紋章の下にすでにサトウカエデが描かれています)  現在のカナダ国旗

樹木を国旗のデザインにしている国はカナダとレバノン(レバノンスギ)が有名ですが、その他にもいろいろあります。
まず、地中海の島国キプロス。自国の領土とオリーブが描かれています。枝が2本あるのは、「ギリシャ系住民とトルコ系住民の平和と協力」という意味だそうです。



次は、イタリア半島の中東部に位置する小国サンマリノ。中央の紋章の左にゲッケイジュ、右にカシワの葉が描かれています。樹種の意味は不明ですが、リボンに描かれているのは「自由」を意味するイタリア語。



次は、アフリカにある赤道ギニア。中央の国章に描かれているのは「神の木」とされるパンヤ。綿や油が採れる樹木だそうです。



このほかにも、木の葉のリースを描いた国旗がいくつかあります。
日本の国旗をもし樹木で表現するとすれば、やはり固有種のスギでしょうか。私としては、同じく固有種であるカツラの葉をデザイン化してほしいです。
ニュージーランドはシルバーファーン(固有のシダ)だけでなく、国鳥キーウィを組み合わせればいいのに…。
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国章の木

2013年09月26日 | 木と文化
日本では法令で国章が定められておらず、慣例として皇室の家紋である菊の花が使用されているほか、総理大臣や政府は五七の桐を事実上の国章にしています。



以前、国旗に樹木を使用している国としてカナダとレバノンをご紹介しましたが、日本と同じように国章に樹木を使用している国があるかどうか調べてみました。
ヨーロッパ諸国やその植民地であった国は、オリーブやオーク(ナラ)、ゲッケイジュを使う例が多いです。その代表としてイタリアの国章をピックアップしました。左がオリーブ、右がオークです。



南の国や中近東ではヤシが目立ちます。下はフィジー諸島共和国。盾の中の左上はサトウキビ、右上はココヤシ、左下はオリーブをくわえたハト、右下はバナナ。フィジーにオリーブは自生しないと思いますが、ここにもヨーロッパの影響が残っています。



ブラジルの国章には、期待どおりコーヒーが描かれていました。左が赤い実をつけたコーヒーの木、右はタバコの葉。
ちなみに、ブラジルという国名も樹木に由来します。ポルトガルがブラジルに侵入したとき、赤い染料が採取できる木を発見して「パウ・ブラジル(赤い木)」と名づけたのが始まりだとか。



私が最も気に入ったのはベリーズの国章。ベリーズはメキシコの南に位置する小国です。
周囲を取り囲むのは50枚のゲッケイジュの葉。イギリスからの独立運動が1950年に始まったことに由来するそうです。
盾の上に描かれている樹はマホガニー。高級家具に使用される木材です。盾の中の左右には斧や鋸など木材を伐採したり加工する道具が描かれています。左右の人間もその道具を持っています。船は多分、木材輸出を意味しているのだと思います。



さらに、下のリボンに書いてある“SUB UMBRA FLOREO”は、ラテン語で「木陰で栄える」という意味の国の標語。すべてのモチーフが樹木がらみで、一つ一つに意味があるいい国章ですね。
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落語の中の樹木

2013年06月10日 | 木と文化
この冬、見たいテレビ番組がないので、自室に閉じこもってYouTubeで落語ばかり聞いていました。その中に、樹木をテーマにした演目が2つありました。
一つは「植木屋」という軽いサゲ話。もう一つは、オーバーに言うと植物の生態系をテーマにした「百年目」という話。
そのストーリーは、表面は堅物・裏は遊び人の番頭が、ある夜遊び呆けているところを旦那に見つかり、翌日クビにされると覚悟していたところ、「遊ぶときは思いきり遊びなさい」と勧められたうえに、日頃の真面目さを認められて暖簾分けの約束までしてもらうというもの。
店では真面目すぎる番頭を、旦那は次のように諭します。
「店の主を“旦那”と言う訳をご存知か。昔、天竺に栴檀(センダン)という立派な木があり、その下に南縁草(ナンエンソウ)という汚い草がいっぱい生えていた。目障りなので南縁草を取り除いたら、栴檀が枯れてしまった。
調べてみると、栴檀は南縁草を肥やしにして、南縁草は栴檀から露をもらって育っていたことが分かった。栴檀が育つと、南縁草も育つ。栴檀の“ダン”と南縁草の“ナン”から“ダンナン”となり、それが“旦那”になったそうです。
こじつけだろうが、私とお前の仲も栴檀と南縁草。そして、店ではお前が栴檀、店の者が南縁草。その南縁草は最近元気がない。南縁草にも少し露を降ろしてやってください」。
つまり、部下をもっと自由にやらせなさいと専務を諭す太っ腹な社長の話です。


「双葉より芳し」と言われる栴檀はインド原産の樹。こちらは日本在来のセンダンの花。

いろんな落語を聞きましたが、上方落語はやっぱり米朝ですね。話に艶と奥行があります。この「百年目」も米朝で聞きました。
関西では枝雀ファンも多いですが、コミカルな動きや表情、「すびばせんね~」といったギャグで笑わせるのは私には邪道に思えます。
江戸では、やはり志ん朝でしょう。談志は小骨が多くて滑らかではないですが、「芝浜」だけは絶品。落語を聞いて泣いたのは初めてです。
学生時代、浅草や新宿の寄席に通ったことがありましたが、久しぶりに寄席で落語が聞きたくなりました。
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