樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

鳥になろうとした者たち

2022年02月24日 | 野鳥
「鳥のように自由に空を飛びたい」という人間の願望は根源的なもののようで、さまざまな民族の神話や伝説に空を飛ぶ神や人間が登場しますが、中でも特に有名な鳥人間はギリシャ神話のイカロスでしょう。
迷宮に幽閉された発明家のダイダロスとその息子イカロスは、鳥の羽根を集め、蜜ろうで固めて翼を作り、空へ飛んで脱出します。ところが、その飛翔能力を過信したイカロスは、父親の「あまり高く飛んではいけない」という忠告に背いて太陽に向かって飛んだため、熱で蜜ろうが解けて墜落死。父ダイダロスはシチリア島まで飛んで脱出したというストーリーです。


イギリスの画家ハーバート・ドレイパーの作品『イカロスへの哀歌』

11世紀のイギリスで数学と占星術を学んでいた修道士のエイルマーは、上記のダイダロスの神話を信じ込み、羽根を植えた人工の翼を両手両足に取り付けて動かし、修道院の塔から飛び出します。しかし、約200m滑空した後に墜落し、足を骨折。以後、障害をかかえることになりますが、なおも飛行術の改善に取り組み、自分が考案したグライダーに尾羽を付ければ操縦性の高い着地ができると信じていました。
2回目の飛行実験を準備したものの、命の危険を危惧した修道院長が実験を禁止。その修道院には、自作のグライダーを手にしたエイルマーのステンドグラス(下)が飾られています。



その後、ダ・ヴィンチ、リリエンタール、ライト兄弟などが空を飛ぶ器械を考案しますが、江戸時代の日本にも鳥になろうとした人間がいました。寛政元年(1789)、備前の表具師・浮田幸吉が人工の翼を作り、橋の欄干から飛んで軟着陸したという記録があります。
幸吉はハトを捕らえて翼や尾の面積、体重を調べ、自分の体重と比較して自身が飛ぶための翼の長さと面積を算出。表具の技術を生かして人工の翼を作りました。何度か実験を失敗した後、空気の流れに着目し、モデルをハトからトビに切り替えます。
トビが翼を動かす筋肉は体重の6分の1もあるのに人間の筋肉は100分の1しかないので、人力による羽ばたき飛翔は不可能であること、トビは他の鳥よりも長い翼で滑空できることに気付いて翼を作り直します。そして、橋の欄干から飛び出して約4分間の滑空に成功します。
また1840年代には、三河の戸田太郎太夫という人物が、飛行機の研究のために海岸にやぐらを組んで実験を繰り返し、墜落して重傷を負ったという記録が残っています。
鳥になろうとした人たちは、みんなロマンチストだったのでしょうね。

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奈良で水鳥三昧

2022年02月17日 | 野鳥
先週、いくつかの用事が重なったので、車を借りて奈良方面へ出かけました。奈良市内で妻を降ろした後、一人で平城宮跡付近の池へ…。知人のSNSで水上池にオシドリとトモエガモが、佐紀池にミコアイサが入っていると知ったからです。
まず水上池へ着くと、佐紀池にいるはずのミコアイサがいます。雄との再会は1年ぶりですが、頭を隠して眠ったまま動かないので、その間オシドリを観察・撮影しました。



ミコアイサが動き始めたかな?と双眼鏡で何度も確認しますが、まだ眠ったまま。しょうがないので、他の水鳥で時間つぶし。



池は静かで水鳥たちの楽園です。眠ったり、餌を捕ったり、仲間と戯れたりしている鳥たちを眺めていると、穏やかで幸せな気分に浸れます。
1時間ほどしてようやくミコアイサの雄が動き始めましたが、今度は潜水を繰り返して、なかなかじっくり観察させてくれません。それでも、白い衣装を着た巫女に例えられる美しい姿を久々に堪能することができました。



水上池にいるはずのトモエガモは佐紀池に移動したのか不在です。眠るミコアイサに時間を取られて佐紀池にまわる余裕がなくなったので、トモエガモを諦めて、妻を迎えに約束の場所へ急ぎました。
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バードウォッチングで和解

2022年02月10日 | 野鳥
野鳥関係のニュースをチェックしていたら、とてもいい話に巡り合いました。
半世紀以上内戦が続いていた南米のコロンビアでは、2016年に和平合意が結ばれたものの、まだ心の傷が残っている双方の住民たちが反目し合っているので、現地の有力者が地域の人々を集めてバードウォッチングで交流を図る取り組みを始めました。
最初はお互いにほとんど会話がなかったようですが、ハチドリやベニタイランチョウなど南米ならではの美しい鳥を見ているうちに雰囲気が和らぎ、少しずつ交流が始まったそうです。


ベニタイランチョウ(Public Domain)

野鳥観察を指導する鳥類学者は、次のように語っています。
鳥を観察すると、自分が住んでいる土地を違った目で見ることができます。生態学的価値や観光的な価値を広めることにもなります。自然と調和すれば、他者とも調和できるようになります。
そして、参加した元ゲリラの原住民の一人は、「以前は吹き矢でハチドリを殺して食べていました。今では、子どもたちとハチドリを眺めています。子どもは私たちの庭や森の豊かさを学んでいます」と話しているとのこと。
「鳥は私たちを結び付けてくれます。私たちがここで手にしているものを守れと教えてくれます」と語る元ゲリラの女性兵士もいるそうです。
バードウォッチングの効用については私なりにいろいろ考えてきましたが、社会的・政治的にこんな大きな役割を果たすことができるとは思っていませんでした。感動しました。
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オンライン探鳥会

2022年02月03日 | 野鳥
京都府にもまん延防止等重点措置が適用されたので、探鳥会をすべて中止することになりました。その代替策として、会員の欲求不満を少しでも和らげるため、昨年と同様、オンライン探鳥会を実施することにしました。私が探鳥地に出かけて撮影した動画を会員に配信し、探鳥会気分を味わってもらおうという企画です。
まん防が適用される前の1月24日に予定してした宇治探鳥会も、感染者数が急増していたので私の判断で中止し、その代わりに7分程度の動画を会員に配信しました。
この探鳥会のハイライトは宇治川の水鳥と大吉山のクロジ。最近、そのクロジの数が減ってきているので撮影できるかどうか不安でしたが、いつものポイントに出てきてくれました。後半には雌がすぐ近くの木に止まって愛嬌を振りまいてくれました。



そして、昨日は京都御苑へ出かけました。目についたのはイカルの大群。地上で採餌する数百羽の群れに3度遭遇しました。毎年冬には見られるシーンですが、これほどの頻度でお目にかかるのは初めて。



うれしかったのは、ミヤマホオジロとの出会い。1月2日に新春探鳥会を開催した際に出現したので、「今回も出てくれるといいな。でも、無理だろうな」と思っていたら、同じ場所で同じように雄2羽が再出演してくれました。



京都御苑でミヤマホオジロを撮影したのは8年ぶり。この鳥が都市公園に飛来することは珍しく、正月の探鳥会でも参加者と一緒にその僥倖を喜び合いました。
まん延は2月20日まで適用されるので、今後も近くの探鳥地へ出かけてオンライン探鳥会を実施するつもりです。
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