樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

電線と鳥

2021年03月25日 | 野鳥
釧路にある環境省猛禽類医学研究所によると、2013年までにオオワシ25件、オジロワシ9件、シマフクロウ13件の感電死があったそうです。猛禽類は見晴らしのいい電柱や鉄塔に止まる習性があるので感電死しやすいとのこと。
感電ではなく、電線に衝突して命を落とす鳥もいます。2004年の春、北海道の宮島沼付近で6羽のマガンが高圧線に衝突して犠牲になる事故がありました。


電線の近くを飛ぶヒドリガモ(画像:pixabay提供)

世界ではどうなのか調べてみると、2011年にUNEP(国連環境計画)が「アフリカ・ユーラシア大陸地域では年間数十万羽が感電、数千万羽が電線への衝突で死に至っている。特に、休憩や営巣ができる樹木などのない草原や砂漠では感電死が、水辺の近くや渡りのルートでは衝突が多く、大型の鳥では地域的な絶滅に至るとも指摘されている」と報告しています。
下は、そのUNEPが電線での数百万羽の鳥の死を阻止するためにガイドラインを発表したことを伝えるウェブサイト。写真は電線に衝突して死んだハゴロモヅル。



アメリカでもオーデュボン協会の会長が「感電など米国全土の数えきれないほどのデス・トラップで野鳥が無用の死を迎えています。その数は毎年数百万羽に達するのです」と語っています。
こうした鳥たちの受難を回避するために、UNEPのガイドラインは、地下ケーブル化が望ましいが費用が高いので、絶縁、止まり木や営巣器具の設置、電線へのマーカーの取り付けを勧めています。
実際に、冒頭の猛禽類医学研究所では北海道電力の協力を得て、猛禽類を接近させない器具を取り付けたり、安全な場所に止まり木を設けたそうです。また、マガンが事故に遭った宮島沼では、高圧線に光を反射する赤いマーカーを3,500個取り付けたそうです。
以前、当ブログで「電気よりもツルを選んだ国民」と題して、ブータンのある村の住民がオグロヅルが電線で命を落とすので電気の導入を拒み、その後国が地下ケーブルで村に電気を引いたことを紹介しました。鳥と文明の両方を守るには、電線を地下に埋設するしかないようです。
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鳥が教えてくれたテクノロジー

2021年03月18日 | 野鳥
蚊の針を応用して痛くない注射針が開発されたことをご存じでしょう。こうした自然界の生物をヒントにして生まれた技術を「生物模倣技術」と呼ぶそうです。鳥から生まれたものもいくつかあります。
例えば、新幹線の先頭の車体はカワセミの嘴を模倣したものですし、そのパンタグラフの騒音を抑えているのはフクロウの羽根の消音構造を応用しています。ちなみに、これを開発したのはバードウォッチャーで、日本野鳥の会京都支部の会員です。
家電メーカーのシャープは生物模倣技術の開発に積極的で、エアコン室外機のファンに3種類の鳥の翼を取り入れて、送風効率を20%向上させています。以下は、同社のウェブサイトにある図。



まず、アホウドリの翼を模倣してファンの円周部にできる渦を極小化。そして、ファンの後端をイヌワシの翼のようにすることで排出される渦を小さくし、次の羽根への衝突を抑制。さらに、アマツバメの翼の形状(厚み)を取り入れて空気を吸い込む力を向上させたそうです。
シャープはこうしたファンの構造を扇風機にも展開して風量を約50%向上させたり、ヘアドライヤーのファンの回転速度を高めてドライ時間を約50%短縮したりしています。
EUの航空機メーカー、エアバス社は2019年にアホウドリの翼を取り入れた飛行機の試験飛行に成功しています。はばたくことなく長距離を飛ぶアホウドリが、通常は翼を固定していながら突風が吹くと翼を柔軟に動かして風に乗っていることに着目し、飛行中に翼の先端を上下に曲げられるようにしたのです。これによって空気抵抗を減らし、燃費が向上するそうです。模型による試験飛行が以下の動画。



一方、研究機関として生物模倣技術に積極的に取り組んでいるのが東北大学大学院。そのサイトには、将来応用できそうな技術が190項目取り上げられていて、鳥に関するものが13項目あります。
「なるほど!」と思うのは、鳥の卵。他の鳥が嘴でつついても割れにくい強度がある一方、ヒナがふ化しやすいよう殻の内側からは割れやすい構造になっているのですが、これを応用すれば、地震や強風に強い建築物、外からの衝撃には強く内側からの衝撃には弱い車のフロントガラスが開発できるのです。
自然の仕組みは面白いですね。

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バードウォッチングと人種差別

2021年03月11日 | 野鳥
昨年5月25日、アメリカのミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察の強引な拘束によって死亡し、それがきっかけになって「Black Lives Matter」運動が世界中に広がりました。その報道の陰に隠れて日本ではあまり知られていませんが、同じ日にニューヨークでバードウォッチングに関連する人種差別事件が発生しています。
セントラルパークで鳥を観察していた黒人男性が、リードなしで犬を遊ばせていた白人女性を注意したところ、逆ギレして食ってかかってきたので動画撮影すると、女性は警察に「アフリカ系アメリカ人の男が私の命を脅かしている」と通報しました。
翌日その動画がツイートされると、女性は謝罪しましたが、勤務先の投資会社は人種差別を理由に解雇。検事局は虚偽通報で起訴しました(その後取り下げ)。
一方、アメリカのバーダーや愛鳥団体、鳥類学者などの間では、ジョージ・フロイド事件が重なったこともあって大きな問題になり、5月31日から6月5日まで「Black Birders Week」というオンラインイベントが開催されました。
その目的は「バードウォッチングと自然科学のコミュニティに黒人が存在するという事実を認識させること」。そして、「黒人は歴史的に学術的な世界から除外されており、自然科学コミュニティ、特に野鳥観察者の間での視覚化や表現が不足しているため、自然を楽しむ能力に萎縮効果をもたらしている」と訴えています。後半の文意は、バードウォッチングを表現する映像に黒人が登場しないので、周囲が黒人の野鳥観察を奇異に感じてしまい、黒人自身も委縮するということのようです。
このイベントには全米オーデュボン協会、全米バードウォッチング協会などの愛鳥団体のほか、アメリカ生態学会、全米野生生物連盟、国立公園局などさまざまな団体が連携しました。特に、当事者の黒人男性がオーデュボン協会の理事であったことから、同協会は積極的にメッセージを発信。下は同協会のウェブサイトですが、「アウトドアでの多様性を促し、人種差別を撤廃します」と訴えています。写真の黒人女性はジョージアサザン大学で鳥を研究している大学院生。



こうした黒人差別は日本人にはあまり実感が湧きませんが、もしアジア人だったらどうだったでしょう?  20年以上前、仕事でニューヨークへ行った際、セントラルパークでバードウォッチングしたことがあるのでそんな想像をしました。
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逃げない鳥

2021年03月04日 | 野鳥
最近、ハクセキレイは「コンビニ鳥」と呼ばれているそうです。都市環境に慣れ、コンビニの駐車場で人の食べこぼしを餌にするようになったからのようで、さらに「近づいても逃げないからかわいい」とか、逆に「車が近づいても逃げないので危ない」とも言われています。下の動画は近くの宇治川で撮ったハクセキレイ。



そのハクセキレイよりも、さらに図太いのがウソ。戦前に活躍した野鳥研究家・仁部富之助が以下のようなことを書き残しています。ウソは桜の蕾を食べるので、どれくらいの量を摂取するか調べるために銃で撃ちます(当時は研究のために鳥を撃って調べるのが当たり前でした)。下の動画は桜の蕾を食べるウソ。



私が姿をみせて1発あびせるときはあたふたと逃げてしまうが、隠れて撃つと逃げも隠れもせず平気で食い続けることである。そこである日、火薬の量をぐっと減らし、弾も細かい12号を詰め、若杉の密林に隠れながら20数羽一団の2、3羽ずつ重なったところを狙い1発で2羽落とした。
このとき他の連中はしばらく食いかたを止め「ああびっくりした」と言いたげな態度を示したが、それから10分間と経たないうちに何事もなかったように再びぼりぼり啄(ついば)み始める。そしてしばらくの間をおき2発目に3羽、3発目に1羽、4発目に4羽と連れがつぎつぎと姿を消すのであるが、例の態度で平気の平左で食い続けるのには呆(あき)れて物が言えなかった。

そして、最後に次のように書いています。
彼らは図太いのか、間抜けなのか、鈍感というのか。(中略)いやいや鳥社会の大バカの、いのち知らずの標本ということができよう。
銃で撃ってもウソが逃げないというのは信じられませんが、仁部の調査フィールドは秋田県なので、地域差や時代の差があるのかもしれません。
コメント (2)
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