樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

ガス会社泣かせの木

2015年04月16日 | 木と香り
以前、ヒサカキの花はタクアンの臭いがするとご紹介しましたが、人によってはガスの臭いに感じるようです。
生垣にヒサカキを植えておられたあるお宅は、花が咲く今ごろの時期、「ピンポーン、お宅、ガス漏れしていませんか?」という人が後を絶たないので、伐採されたそうです。


ガスの臭いがするヒサカキの花

同じ仲間のハマヒサカキも似たような臭いを発します。
ある町でガス漏れ騒ぎがあって、ガス会社や消防車が出動したものの、あちこち検査してもガスが漏れている様子がない。結局、ハマヒサカキの花が原因であることが判明したそうです。
それでも、ガス会社は「ガスの臭いがしたら、ヒサカキやハマヒサカキのせいだと思わずに、とにかく連絡してください」とアピールしているとのこと。本物のガス漏れである可能性もあるわけです。
こういう騒ぎは時々あるようで、ガス会社にとっては迷惑この上ない木ですね。
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春から冬へ

2014年05月01日 | 木と香り
週末、5カ月ぶりに栃の森へ行ってきました。土曜の夕方、電気も水道もなく、東屋と簡易トイレがあるだけのキャンプサイトに集まり、仲間と飲食を共にしてから車泊。翌朝5時過ぎ、野鳥のさえずりを聞きながら出発します。
街中に比べると季節が1~2カ月ずれていて、森に入るまでの林道ではさまざまな花が遅い春の訪れを告げていました。
まず目についたのは、キンキマメザクラ。市街地のソメイヨシノとは一味違う可憐な姿を見せています。名前は「近畿」ですが、北陸や中国地方にも分布するようです。



斜面では、ミツバツツジが鮮やかな赤紫色でその存在を誇示しています。ミツバツツジにもいろいろあって、サイコク(西国)ミツバツツジ、ユキグニ(雪国)ミツバツツジ、コバノ(小葉の)ミツバツツジのいずれかですが、手や目が届かず同定できません。



林道のカーブを曲がると、かすかにタクアンの臭いが漂ってきます。犯人はヒサカキ。この樹の雌花はエタンチオール系の悪臭を放って虫を引き寄せるそうです。米粒ほどの花に鼻を近づけると、タクアンというよりもガス漏れの匂いがしました。「インスタント塩ラーメンの粉末スープの匂い」という人もいます。



このほか、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、アセビ、キイチゴ、キブシ、イワナシ、クロモジなどが開花して、林道は春の競演といった感じ。ところが、一歩森の中に入ると、あちこちに雪が残っていて、春から冬に逆戻りしたよう。50cm以上の積雪の上をザクザクと歩きました。



林道に比べると、目につく花も少なめ。タムシバやムシカリ(オオカメノキ)が所々で白い花を咲かせているくらいです。


忘れたハンカチのようなタムシバの花

この冬はそれほど雪が多くなかったはずですが、気温が低い日が続いたからでしょうか、森はようやく冬の眠りから覚めたところでした。


これから展葉するオオカメノキ(ムシカリ)

現在、この森は立入禁止ですが、私たちは20年前から野鳥生息調査を継続しているため、管理者から許可を得て入林しています。
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蘭奢待

2013年04月04日 | 木と香り
奈良・東大寺の正倉院に「蘭奢待(らんじゃたい)」と呼ばれる香木が残っています。収められたのは1200年前ですが、今もいい香りが立ち昇るそうです。
ベトナムなどに自生する「沈香(ジンコウ)」という木が、土の中に埋まって何年も経ったものが高級香木の「伽羅(キャラ)」。その最高級品に、東・大・寺の文字が隠された蘭・奢・待という文字を並べて命名したわけです。
沈香(ジンコウ)はジンチョウゲ科の常緑樹。そういえば、同じ仲間のジンチョウゲの花もいい香りがします。


蘭奢待の香りもジンチョウゲに似ているのでしょうか

「蘭奢待」の香りに魅せられた歴史上の人物も多く、織田信長が切り取ったという話はよく知られています。東大寺の記録によると、信長は1寸(3cm)四方を2カ所切り取ったようです。
信長以外にも足利義満、足利義政、徳川家康なども一部を切り取ったそうで、大阪大学の研究者が調べたところ、切り取り跡は38カ所あったとか。
「蘭奢待」は長さ156cm、最大直径43cm、重さ11.6kgというサイズ。高級な香木は1gで1万円の値段がつくそうですから、単純計算すると1億円以上の値打ちがあるわけです。もちろん、文化的な価値はお金には換算できませんが…。
1300年前に建てられた法隆寺の芯柱をカンナで削ると今でもヒノキの香りがするそうですが、いつまでたってもいい香りが残るというのは不思議ですね。
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七里香と九里香

2010年03月18日 | 木と香り
ジンチョウゲがいい香りを漂わせる季節になりました。
この木のことを中国では「七里香」と呼ぶそうです。中国の1里は約500mらしいので7里はおよそ3.5km。日本の感覚より短いですが、それにしても「白髪三千丈」の国らしいネーミングです。


(散歩コースのジンチョウゲ)

さらにその上をいく「九里香」という木もあります。日本名は「キンモクセイ」。確かにあの香りは遠くまで漂ってきて、散歩していても目よりも先に鼻でその存在を知ることが多いです。それでも9里(約4.5km)は無理でしょう。
このジンチョウゲとキンモクセイにクチナシを加えて「三大芳香花」と呼ぶそうです。「ひょっとしてクチナシの中国名は五里香かな?」と思って調べましたが、香りとは関係のない名前でした。


(芳香剤の香りのモデルにされるキンモクセイ)

ジンチョウゲとキンモクセイには共通点がもう一つあって、日本では結実しません。いずれも雌雄別株の樹木ですが、中国から雄株だけが移入されたので子孫ができないそうです。せっかくあのいい香りで虫を呼び寄せても、雌株がないので受粉できないのです。
と言うことは、挿し木で殖やしているわけです。と言うことは、日本のキンモクセイやジンチョウゲはすべて同じ遺伝子を持つクローンということになります。ソメイヨシノと同じですね。
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クスノキの図書館

2008年02月01日 | 木と香り
京都には熊野と名がつく大きな神社が二つあります。どちらも、紀州の熊野神社に縁がありますが、その一つ新熊野(いまくまの)神社はクスノキの巨木で知られています。
840年前、後白河上皇が創建した際に紀州の熊野から移植したとか。事実なら、移植までの樹齢も加えて約900年。さもありなんと思える巨大さです。
大通りに面していて排ガスも多い場所なのに樹勢は衰えることなく、京都市の天然記念物に指定されています。

       
           (大きさが分かるように引いて撮影しました)

クスノキからは虫除けに使う樟脳が取れますが、京都の名木を紹介した本には、新熊野神社周辺の家では昔から衣類に虫がつかないと書いてあります。
九州では、落葉で堆肥を作るとき、クスノキの葉が混じると腐朽菌の繁殖が抑えられて熟成しないので、取り除くそうです。虫にも菌にも嫌われるんですね、クスノキは。
中国には、その防虫効果を生かした図書館があります。浙江省の寧波(ニンポウ)という町にある「天一閣」がそれ。貴重な図書を虫の食害から守るために、書庫にはすべてクスノキ材が使われているそうです。この天一閣は明代に造られたもので、中国及びアジアで最古の図書館だそうです。

       
           (クスノキの花。去年の春に撮影)

クスノキの葉をちぎって匂いをかぐと、確かに樟脳の薬品臭があります。ところが、花は意外にも柑橘系の爽やかな香りです。春に開花するので、一度葉と花の匂いを比べてみてくいださい。
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姿に似合わず強烈

2006年12月05日 | 木と香り
      

この可憐な実は、クサギ。赤紫色の部分はガクで、青い部分が実です。この青い実は昔は染料に使われたそうです。
クサギは「草木」ではなく「臭木」。葉をちぎって匂いをかぐと、ムッとする匂いがします。私は悪臭というよりも、ビタミン剤の匂いに似ていると思います。

      
      (この葉をちぎって匂いを嗅ぐと名前の由来が納得できます)

今年の6月に広島県にバードウォッチングツアーに出かけた際、道の駅の食堂に「くさぎ飯」というメニューが写真入りで貼ってあるのを見つけました。茹でて悪臭を取り除いたクサギの若葉をご飯の上にのせたものだそうです。
すでに別のものを注文していたので食べませんでしたが、臭い葉のイメージがあるので、おいしそうには思えませんでした。でも、ツリーウォッチャーとしてはトライするべきだったと後悔しています。

      

山の林道脇によく生えている木で、低いので草本のようにも見えます。上の写真は、実の写真を撮る前の10月に撮影した同じ個体の花。強烈な匂いを放つとは思えないほど、花も実も可憐でしょう?
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トイレの匂い

2006年10月18日 | 木と香り
5、6年前、樹の香りに関して面白いシーンに出くわしました。
お母さんに手を引かれた小さな男の子がうちの前を通りかかったとき、「トイレの匂いがする」と言うのです。「え? うちは水洗だから匂いなんかしないはず」とびっくりしてあたりを見回すと、向かいの家のキンモクセイが満開でした。
トイレの消臭剤にキンモクセイの人工香料が使ってあるので、男の子はそれがトイレの匂いだと思っていたのです。それが分かって、お母さんも笑っていました。

      

今、ちょうどキンモクセイが満開で、散歩していてもあちこちからいい香りが漂ってきます。
5月25日の記事に書きましたが、中国では「桂」の字がキンモクセイを意味します。月にはキンモクセイの大木があり、今の時期は花が満開になるので月が輝くという伝説もあります。また、有名な観光地「桂林」はキンモクセイが多い場所です。

      

日本には中国から渡ってきたのですが、雄株だけが移入されたようで、花は咲いても結実しないので挿し木で増やしているそうです。ということは、日本中のすべてのキンモクセイは同じDNAだということになります。
江戸時代の学者・新井白石はこの樹が好きで、引越しするたびに移植して手元から離さなかったそうです(「木犀」としか書いてないのでギンモクセイかも知れません)。
現在も多くの家に植えられていますが、あの男の子にとってはキンモクセイは嫌な匂いなのでしょうね。
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厚化粧の静かな女?

2006年06月22日 | 木と香り
昨日、仕事の打ち合わせのために久しぶりに京都の街を歩いたら、クチナシの花がたくさん咲いていました。今まで気づきませんでしたが、御池通り(烏丸あたり)にはケヤキの下にクチナシが植栽されているのです。
こんなこともあろうかと、(仕事なのに)デジカメを携帯していたので撮ってきました。

      

花を嗅ぐまでもなく、あたりにはいい香りが漂っています。中国では、このクチナシと梅、蘭、百合、水仙、茉莉(ジャスミン)、桂(キンモクセイ)を合わせて「七香」と呼ぶそうです。

私はこの花の強い匂いを嗅いだとき、何となく中国原産の植物だろうと思っていましたが、日本にも自生しているんですね。
天照大神が天香山(あまのかぐやま)の産物としてこのクチナシを取り用いた、という話も残っています。

      
      (別の通りにはヤエクチナシが咲いていました。)

クチナシの語源については、「果実が裂開しないので口無し」というのが一般的です。
碁盤や将棋盤の脚がこのクチナシの実をかたどっているのは、傍観者の口出しを戒めるためだそうです。

渡哲也の『くちなしの花』では、不幸な女性を描いて「お前のような花だった」と歌っています。でも、匂いが濃厚なためか、薄幸の女性というよりも、私は化粧の濃い派手な女性をイメージします。作詞家は、この花の名前で「静かな女性」という意味を表現したかったのでしょうか。
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フルーツの香り

2006年06月13日 | 木と香り
先日、京都府立植物園に行ったとき、半木(なからぎ)神社の近くを歩いていたら、バナナのような甘い香りが漂ってきました。すぐに、「近くにカラタネオガタマがあるな」と分かりました。

      

中国原産のモクレン科の木です。日本原産の「オガタマ」もありますが、私はカラタネオガタマしか見たことがありません。神社によく植えられている木で、「招魂(おきたま)が語源」という説もあります。
交野市にある大阪市立大学理学部附属植物園には、入ったところにカラタネオガタマの大木が10本くらいあって、この時期には甘いバナナの匂いをムンムンさせています。

      

モクレン科にはフルーツの香りを放つ木が多いように思います。タイサンボクの花に鼻を近づけると、ほんのりと柑橘系の匂いがします。この木は北アメリカ原産で、庭木によく使われます。
葉がバシバシに硬くて可愛げがないし、花も名前(大山木・泰山木)のとおりデカくて馴染めませんが、香りだけは優しくて気持ちが和らぎます。

      

このタイサンボクの仲間に日本原産のオオヤマレンゲがありますが、こちらにも柑橘系の匂いがあります。タイサンボクよりも匂いが強かったように記憶しています。
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