樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

この世にいない鳥

2019年02月28日 | 野鳥
宇治といえば、10円玉に刻まれた平等院鳳凰堂。この鳳凰は実在しませんが、鳳がオス、凰がメスを表すそうです。
この世にいない鳥でありながら、江戸時代の絵師・伊藤若冲の手にかかると、得意の鶏の絵と同じく迫真のリアリティが生まれます。“奇想の画家”の頭の中には、羽毛1枚に至るまでディテールを備えた鳳凰が生きていたのでしょう。逆説的に言えば、イメージの中に実在する鳳凰…。



鳳凰が平等院などの屋根に飾られるのは、この鳥が風を司る神であることから、台風による建築物の倒壊を防ぐという意味があるそうです。「鳳凰」と「風」が似た文字であるのもそのためとか。
北米には雷を司る架空の鳥がいます。先住民族の間に伝わる巨鳥で、現在の名前はサンダーバード。トーテムポールによく彫られるのがこの鳥で、モデルはワシといわれています。下は以前、国立民族学博物館で撮影したトーテムポール。



東南アジアにはガルーダが生息しています。こちらもモチーフはワシのようで、下はインドネシアの国章ですが、タイ王国の国章では胴体は人間、頭部や翼、脚はワシとして描かれています。



鳳凰は花札にも登場しますが、もともとの生息域は中国。日本にとっては移入種ですが、日本オリジナルの架空の鳥もいます。神武天皇が東征する際に道案内をしたと『古事記』などに記されている八咫烏(やたがらす)。太陽の化身ともされていて、なぜか3本脚。日本サッカー協会のシンボルマークにも登場します。



このほか、中国には朱雀が、エジプト~ヨーロッパにはフェニックス(不死鳥)が生息します。人間は実在する鳥を見てさまざまな意味やイメージを獲得し、それをさらに膨らませながらさまざまな架空の鳥を生み出してきたわけです。
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初めての東北

2019年02月21日 | 野鳥
週末、日本野鳥の会の研修会に参加するため、1泊2日で仙台に行ってきました。これまで鳥見ツアーで長野県や新潟県、北海道にも何度か遠征しましたが、東北に足を踏み入れるのは初めて。
研修会が終わった日曜の午後、仙台から1時間ほど列車に揺られて伊豆沼まで足を延ばしました。目当てはガンの群れ。
日本には約23万羽のガンが渡ってきますが、その95%が宮城県で越冬します。中でも伊豆沼は、いわば“日本のガンの聖地”。最寄り駅に着くまでの車窓からも、田園のあちこちに群れが見られ、期待がどんどん膨らみます。
はやる心を抑えてとりあえず伊豆沼へ行くと、30羽ほどのオオハクチョウが、オナガガモやキンクロハジロを従えながら優雅に泳いでいます。関西で出合うことはほとんどなく、これほどの数のオオハクチョウを見るのは私も初めてです。



ガンは昼間は周辺の田んぼへ餌を食べに出ているので水面にはいません。オオハクチョウの声を背にして、ガンを探しに田園地帯へ向かいました。しかし、だだっ広い農耕地を1時間歩いてもそれらしい姿がありません。研修会で地元のバーダーから聞いた「歩いて探すのは厳しいかも…」という言葉が頭をよぎります。
最終便で宇治に着くために残された時間はあと2時間。しかし、双眼鏡で1km先を望んでも鳥影はありません。「やっぱり徒歩では無理か…」と諦めてUターンしたその時、背後の上空から「コー、コー」という聞き覚えのある声が聞こえてきました。
ガンだ! しかも「見てください」と言わんばかりに、すぐ近くの田んぼに舞い降りました。その数ざっと30羽。順光になる位置まで回り込んで、じっくり観察・撮影しました。



「まだ見ぬカリガネやシジュウカラガンが混じっているかも」との期待はすぐに消えましたが、無心に餌をあさるマガンたちと私だけの至福の世界にどっぷり浸ることができました。
27羽のマガンに「ありがとう」と告げて帰路に就きました。観察道具を片付けて駅まで歩く途中、10羽ほどの別の群れが飛んできて近くの田んぼに降りました。さすが“日本のガンの聖地”、私にとっては大満足の東北デビューとなりました。
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コスタリカという国

2019年02月14日 | 野鳥
先日、久しぶりに大阪に出る機会があったので、マニアックな映画館・第七芸術劇場で『最後の楽園コスタリカ~オサ半島の守り人~』を観てきました。
一時は開発によって豊かな自然を失ったコスタリカが、自国の生物多様性が世界トップレベルであることに気づき、それを資源としたエコツアーを産業にすることで、環境破壊を食い止めると同時に地域住民も経済的に自立した、というドキュメント映画です。



コスタリカはバードウオッチャーにとって憧れの国。「海外に鳥見ツアーに行くとすればどの国を選びますか?」というアンケートがあれば、多分第1位に選ばれるでしょう。熱帯ならではのカラフルで多様な鳥をはじめ、「世界一美しい鳥」といわれるケツァールが見られるからです。


ケツァール(Public Domain)

映画にもいろいろな鳥が登場しますが、それよりも、昔は野生動物を狩猟していた地元住民が「動物を保護しないと観光客が来なくなる」と語ったり、この運動のリーダーが「情熱と信念があれば国を変えられるんだ」と語るシーンが印象的でした。
コスタリカは軍隊を持たない国としても知られています。憲法で「恒久制度としての軍隊は廃止する」と定める一方、有事の際には「国防のためににのみ軍隊を組織できる」という条文もあります。
軍隊を持たない小国はほかにもあって、コスタリカもそうですが「軍隊によるクーデター」をなくすためという理由があるようです。いずれにしても、コスタリカは気になる国です。
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ものまねする鳥

2019年02月07日 | 野鳥
モズは他の鳥の鳴き声をまねすることで知られています。下は私が撮影した動画ではありませんが、ウグイスのさえずりをまねるモズには私も遭遇したことがあります。



生涯アマチュアを通した鳥類学者・仁部富之助によると、さえずりではウグイスのほかにホトトギス、ヒバリ、クロツグミ、セグロセキレイ、ホオジロ、カシラダカ、「かわったところでは、イソシギもかなり明瞭にやってのけた」とのこと。
地鳴きも「ムクドリ、ツグミ、ヒヨドリ、カケス、ツバメ、トビなど十数種類にのぼった」と記しています。
モズを「百舌鳥」と書くのはこのためですが、モズ以外にもものまねの上手な鳥がいます。カケスもよく知られていますし、コサメビタキも多彩な声色を使います。
仁部富之助はコサメビタキについて、「オオヨシキリ、ヒバリ、カシラダカのさえずりは最も得意でコカワラヒワ、クロツグミ、ツバメ、ホオジロ、シジュウカラも巧みにやってのける。(中略)おもしろいことにかん高くキャン、キャン、キャンとやるのはモズの鳴き声のまねである」と書いています。
また、オオヨシキリやホトトギスが渡来する前にモズがそのまねをすることから、前年以前に聴いた声を覚えているのではないかと推測しています。
そのモズやコサメビタキが舌を巻いて逃げ出すくらいものまね上手な鳥がオーストラリアにいます。名前はコトドリ。尾羽が竪琴に似ているのでこの名前があります。以下の動画をご覧ください。



現地では、コトドリがいる環境では子供の名前を呼んではいけないといわれているそうです。1度聞いただけでその音を完全にコピーして再生するので、子供が親の声と勘違いしてコトドリのいる方に行って迷子になることがあるからとのこと。恐るべきモノマネ能力です。
以前はテレビのものまね番組を観て喜んでいましたが、最近はオリジナルの歌や歌手を知らないために、似ているかどうか分からないのでもう観なくなりました。モズやカケスもオリジナルが不明のものまねをすることがあって耳と頭を悩ませてくれますが、こちらは何度でも観たいです。
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