樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

芸能人バードウォッチャー

2021年10月28日 | 野鳥
「大統領はバードウォッチャー」「殿下はバードウォッチャー」「科学者のバードウォッチャー」と有名人バードウォッチャーを紹介してきましたが、今回は芸能人バードウォッチャー。
日本の芸能界でバードウォッチャーといえば、映画・テレビ・洋画の吹き替えなど数多くの作品で知られる柳生博さんでしょう。日本野鳥の会の会長を15年間も務めた後、現在は名誉会長です。
長野県に「八ケ岳倶楽部」という拠点を設け、野鳥の森やレストラン、ショップなどを開設されています。以前、鳥見ツアーで八ケ岳倶楽部に寄ったら、たまたま会長(当時)がおられたので、仲間3人と30分ほどしゃべったことがあります。とても気さくで、ずーっと私たちの話に付き合ってくれました。
会長や名誉会長はボランティアで引き受けているはずですが、タレントとして出演依頼すると当然ながらギャラが必要で、以前、京都支部でイベントを企画した際に本部に問い合わせたら結構な額でした。



もう一人、バードウォッチャーの俳優といえば、『水戸黄門』の助さん役で知られるあおい輝彦さん。10年ほど前、NHKの番組でタカの渡りを本州から九州、沖縄まで追い続ける番組でガイド役を務めていました。
2019年に出演した『徹子の部屋』では、70代の今でも毎年海外に出かけて野鳥観察していること、ニューカレドニアでは固有種カグーを撮影したことなどを語ったそうです。鳥の鳴きまねも得意で、同番組でニューカレドニアカラスの鳴きまねを披露したとのこと。
意外なことに、演歌歌手・伍代夏子さんの趣味は鳥など野生生物の撮影。冬の北海道でオジロワシとシマフクロウを撮るために車と船をチャーターし、ガイドを雇って流氷ツアーを敢行。「指が取れるんじゃないかと思うくらい寒く、船酔いで吐きそうになりながら、一睡もせず撮った」そうです。上記2種で3,000枚、その他を含めて2日間で7,000枚撮影したとのこと。



「(鳥の撮影は)とにかく待つしかない。蚊に刺されながら“無”の状態で、自分を岩だと思ってひたすら待つ」とも語っています。性根のすわった本格派の野鳥フォトグラファーのようです。
いつもは新宿御苑で撮影していますが、ノーメイクの迷彩服姿で、上のような望遠レンズ付きのカメラを2台ぶら下げてウロウロするので、夫の杉良太郎さんは同行を嫌がっているそうです。
海外の芸能人バードウォッチャーとしては、ビートルズのポール・マッカートニーが有名です。小さい頃から鳥が大好きで、出身地のリバプールでは小さな図鑑を持って郊外に出かけて野鳥観察をしていたそうです。当時の自分を「私は鳥類学者のようでした」と振り返っています。


初めてのソロアルバム(1970年)

また、BBCの自然番組の熱心な視聴者で、番組宛に手紙を書いたほど。その50年後、あるラジオ番組でインタビューを受けて、子供の頃リバプールの荒れ地でさえずっていたヒバリが半分以上減少したことを嘆き、その保護を訴えたそうです。
ビートルズやポール・マッカートニーと野鳥の記事については、過去の記事「ビートルズと野鳥」「鳥とポップミュージック」をご覧ください。

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BIRD WATCHINGの起源

2021年10月21日 | 野鳥
前々回の記事「バードウォッチングの起源」で、その行為(あるいは趣味)のルーツを紹介しましたが、当時(19世紀末)はまだ「バードウォッチング」という言葉はありませんでした。
この言葉が生まれたのは1901年。イギリスの作家であり鳥類学者エドモンド・セラウス(1857-1934)が『BIRD WATCHING』という著書(下)を発行したのが最初です。



当ブログでも何度がお伝えしましたが、昔は鳥を研究したり絵に描く場合、銃で撃って実物を入手するのが当たり前でした。しかし、セラウスはある時期から、科学的研究といえども鳥を撃って殺すことに疑問を抱きます。兄が有名なハンターであったことも要因のようです。そのあたりの心境の変化について以下のように書いています。
私自身、かつては鳥の殺害者であったことを告白しなければならない。しかし、鳥を注意深く観察した今、それらの殺害はとても恐ろしいものに思える。私が撃ったり、撃ちそこなって逃がした鳥のことを思うと、自分自身に対する憎しみが増大する。(中略)
鳥を観察し推論することの喜びは、他の方法で得るものよりもはるかに大きい。目と頭があるなら、銃を横に置いて、1週間でも1日でも1時間でも鳥を観察すれば、二度と元に戻ろうとは思わないだろう。鳥を撃ち殺すことが残忍であるだけでなく、ひどくバカげていると理解できるはずだ。



著書『BIRD WATCHING』の中扉はミヤコドリの図

セラウスが鳥を殺して研究することから、鳥の行動を観察して研究するように転向したのは1898年。家の近くで鳥の行動を観察し続けて詳細なフィールドノートを残しており、それらはオックスフォードの図書館に保存されているそうです。自分の目で見ることにこだわるセラウスは、『BIRD WATCHING』の序文で次のように書いています。
この本に含まれている私が見たすべてのものは、それが起こった直後または実際に起こっている間に私が書き留めたメモから引用している。このため、私は本書を「バードウォッチング」とした。
この本は全部で12章からなっていますが、そのタイトルのすべてが「WATCHING GREAT PLOVERS(ハジロコチドリ)」とか「WATCHING GULLS AND SKUAS(カモメとトウゾクカモメ)」というようにWATCHINGで始まっています。鳥を見て(watch)その行動を観察する(observe)ことを重視していたのです。
私たちバードウォッチャーは、このBIRD WATCHINGの元祖の姿勢を真摯に受け継いでいかなければなりません。
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秋の色

2021年10月14日 | 樹木
週末、栃の森に行ってきました。7月は大雨で中止になり、8月9月は毎年野鳥調査をしないので4カ月ぶり。このところ降雨がなく、林床部が乾燥していて、歩くとザクザクと落ち葉が音をたてます。
実りの季節なので、木の実を探しながら歩きました。まず目に付いたのは、鮮やかなブルーのサワフタギ。



この場所では鈴なりでしたが、別の場所では実が少なく、結実の分布はまだらでした。鳥は青い実をあまり食べないようですが、色には意味があるはずです。特定の種類が好むのでしょうか?
同じ仲間のタンナサワフタギも黒い実を付けていました。鳥は黒い実が大好きですが、鳥の眼には黒ではなく別の色に見えているはずです。



日本の鳥が好む木の実の色は黒と赤。種子散布を鳥に依存している樹木の実の色を調べた研究によると、亜寒帯では赤58.6%、黒24.1%、冷温帯では赤と黒がほぼ同数、暖温帯では赤35.0%、黒47.0%とのこと。青い実のサワフタギよりも黒い実のタンナサワフタギの方が種子散布されやすいはずです。
一方、下のヤマボウシは鳥が好む赤ですが、『野鳥と木の実ハンドブック』の著者・叶内拓哉さんによると、オナガやムクドリ以外が食べているのを見たことがないそうです。鳥にとっては、色だけでなく、含まれている脂肪分が大きなポイントのようです。



いつもの休憩場所にはリョウブの実がたくさん成っていました。昔は葉を救荒作物として利用したそうですが、実は食べなかったのかな?



今回、2カ所でハチの巣を発見しました。ニホンミツバチの巣を見つけたのは初めて。このハチは刺されてもあまり痛くないらしいので近くまで寄って撮影しましたが、スズメバチは危険なので遠巻きにして撮りました。



今回、なぜか鳥が低調でした。カメラに収まってくれたのは、この森でいつも元気なミソサザイ。白い羽根が残っているので若鳥のようです。


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バードウォッチングの起源

2021年10月07日 | 野鳥
私が現(うつつ)を抜かしているバードウォッチングという趣味が生まれたのは19世紀末。当時の欧米では帽子など女性ファッションに羽根を使うために鳥が乱獲され、絶滅しそうな種類もあったことから、ファッション産業から野鳥を守るために女性が中心メンバーとなっていくつかの保護団体が設立されました。それがイギリスの王立鳥類保護協会であり、アメリカのオーデュボン協会。これらの団体が「鳥を撃つのではなく、自然のままの姿を見て楽しもう」という運動を始めたのが始まりです。
1889年にアメリカのフローレンス・メリアムという女性が、『BIRD THROUGH AN OPERA-GRASS(オペラグラスを介した鳥たち)』という本を出版します。モノクロの図と詳しい文章で70種類以上の鳥を解説した図鑑で、“北米初のフィールドガイド”と呼ばれています。


『BIRD THROUGH AN OPERA-GRASS』

タイトルが示すように、当時はまだ双眼鏡が一般的ではなかったので、オペラグラスでの野鳥観察を勧める図鑑です。鳥を見て楽しむのは肉眼だけでは難しいので、オペラグラスを使うことを提案しているわけです。


オペラグラス(イメージ・Public Domain)

著者のメリアムは若い頃から野生の鳥とその行動を研究することに興味を持っていました。米国最大の女子大学・スミス大学に入学すると、鳥の羽根を飾った帽子に反対するために、オーデュボン協会のスミス大学支部を組織し、鳥の羽根の代わりにリボンで帽子を飾る運動を始めます。
そして、ほとんどの学生がオペラを鑑賞するような裕福な家庭の子女なので、オペラグラスによる野鳥観察を勧めるべく本書を発刊したのです。まだ26歳の若さでした。その序文で、次のようなことを書いています。


フローレンス・メリアム(1863-1948)(Public Domain)

鳥がいて人がいる場所ならどこでも、羽の生えた隣人と真剣に向き合うことで美しい野鳥に出会えます。オペラグラスとノートを用意し、目立たない色の服を着て、小川の土手や牧草地へ行って下草の中に座ったり、木の幹に隠れて静かに見たり聞いたりしてください。鳥はめったに姿を現さないので、囀りがどこから届くのかを見つけ、その動きを観察すれば種類が分かります。ノートに鳥の大まかな図を描き、姿や声の特徴を書き留めておくと役に立ちます。
「オペラグラス」を「双眼鏡」に置き換えれば、現在の私たちがやっていることと全く同じです。私たちバードウォッチャーは、フローレンス・メリアムをはじめこの趣味を確立してくれた大先輩たちに感謝しないといけませんね。
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