樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

樹木がくれる幸福

2014年01月27日 | 木と医薬
環境ジャーナリスト・枝廣淳子さんのメルマガに興味深いニュースがありましたのでご紹介します。
「緑地が幸福感を高め、ストレスを減らし、健康を促進する」という研究成果が増えているという記事が、イギリスの新聞「ガーディアン」に掲載されたそうです。
例えば、アメリカのペンシルバニア州の病院では、1972~1981年のデータを分析した結果、「手術後、ベッドから緑の木々を見ることができた患者はより早く回復する」ことが分かったそうです。
このデータは、以前当ブログの「病気と樹」で取り上げたものと出所が同じかも知れません。



また、オランダで25万人の市民を対象に同様の調査を行ったところ、緑地と健康・幸福に関して同じような結果が出たそうです。
このほか、「自然の中にいるとストレスが減り、仕事の業績が上がる」とか、自然とのふれあいが「囚人の体調不良の減少」や「都心の少女たちの自制力向上」「老人の死亡率低下」に関連しているという論文もあるそうです。
さらに、シカゴのある研究では、緑の多い場所に住む人々はコンクリートに囲まれて暮らす人々よりも近隣との交流が多く、家庭内暴力も少ないことが判明したとのこと。
枝廣さんは、「これまでは、環境問題といえば「人々から自然を守ること」が目的でしたが、「人々の幸福を保つために自然を守る」という考え方が出てきたのです」と解説しています。
私は樹木が好きでこんなブログを始めましたが、そもそも「樹木が嫌い」という人はいないはずで、好感度の高い自然物に囲まれていれば幸福度が高まるのは当然ですね。
この論調に従えば、樹木や野鳥を観察し続けている私の幸福度は高いはず。確かに、ストレスもなく、体調不良もなく、近隣との交流も多く、家庭内暴力もありません。
ただ一つ研究成果と違うのは、仕事の業績が上がらないことかな。
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ヒポクラテスの木

2013年07月25日 | 木と医薬
古代ギリシャの医者・ヒポクラテスは「医学の父」とか「医聖」と呼ばれていて、死後2400年の今も「ヒポクラテスの誓い」が医師の倫理として受け継がれているそうです。
9項目の「誓い」には、「依頼されても人を殺す薬を与えない」とか「市民と奴隷の相違を問わず医術を行う」「患者の秘密を遵守する」などが掲げてあります。
生地であるギリシャのコス島にはプラタナスの巨樹があり、その下で弟子たちに医学を教えたことから、「ヒポクラテスの木」として現在も保存されています。ということは、樹齢3000年くらいのプラタナスということになります。
その「ヒポクラテスの木」の末裔が、日本の医学関係者によって持ち帰られ、あるいはギリシャから贈られ、各地の病院や医系大学の敷地に植えられています。京都大学医学部付属病院にも2株あるというので行ってきました。


昭和33年の卒業生が持ち帰って寄贈した「ヒポクラテスの木」


寄贈者は京都でも指折りの巨大病院グループの会長

プラタナスは街路樹として使われていますが、ほとんどはモミジバスズカケノキかアメリカスズカケノキで、「ヒポクラテスの木」はスズカケノキ。写真のように葉の切れ込みが深く、街路樹の葉とは少し形状が異なります。



日本には9系統の「ヒポクラテスの木」があるそうです。つまり、9人の医学関係者がギリシャから持ち帰ったり、ギリシャの友好団体から寄贈されたわけです。
そのすべての株を調べている人がいて、その調査結果によると、日本には250株が移入され、そのうち95株の生存が確認されています。
ただし、すべての株が現地の原木と同じDNAを持つかどうかは調査できていないとのこと。本物の「ヒポクラテスの木」の実から育ったもののほか、ギリシャで育った別の株も混じっているようです。
いずれにしても、2400年前の医者の倫理がゆかりの木とともに受け継がれていることは興味深いですね。
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スギ花粉症

2012年01月12日 | 木と医薬

明治天皇のお墓がある桃山御陵へ冬鳥を探しに出かけましたが、ツグミもシロハラもジョウビタキもルリビタキも不在。もう今年の冬の小鳥探しはあきらめました。

しょうがないのでツリーウォッチングに切り替えたら、スギの花が目につきました。2年前まで花粉症は他人事でしたが、現在は人並みに鼻や涙が出るようになったのでちょっと不気味。

「スギ花粉症は日本特有」と言われますが、スギ自体が日本固有の樹なので当然。でも、北海道と沖縄には分布しないので、この2地域ではスギ花粉症はありません。

その代わり、北海道民はシラカバ花粉症に悩まされているようです。沖縄は最近、花粉症を逃れて長期滞在するヤマトンチュが増えているとか。

 

 

 

欧米では150年以上前から花粉アレルギーが知られていましたが、「日本には存在しない」と言われていたそうです。ところが、昭和38年に栃木県の日光でスギの花粉症が発見されました。

日光といえば日本一の杉並木がありますが、その花粉でしょうか?

日本は国土の67%が森林で、その19%がスギの人工林。戦中戦後に木材の需要増を予想して一生懸命植林した結果、国土の12%がスギ林になってしまいました。

そのスギが成長して花粉をつける樹齢になったので、国民の多くが花粉症に悩むという事態になっているわけです。

スギ花粉症は国の誤った植林政策が原因だとして、静岡の住民12人が6000万円の賠償を求めて訴訟を起こしたそうです。結果は知りませんが、スギ花粉症の要因は大気汚染や体質の変化にもあるようですから、勝訴は難しいのではないでしょうか。

 

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毒にも薬にもなる実

2010年11月04日 | 木と医薬
名古屋で開催されていたCOP10が終了しました。その報道の中で、生物が薬の材料になる例としてタミフルに使われる八角が何度か取り上げられました。中華料理の調味料としても使われる木の実で、うちにもあります。


八角

この八角はトウシキミという中国原産のシキミ科の木の実で、名前の通り八角形です。日本で仏事に使うシキミも同じ仲間ですから、八角形の実が成ります。
ところが、トウシキミの実(八角)は香辛料に使いますが、シキミの実は有毒で食べられません。その毒性はかなり強く、『毒物及び劇物取締法』で指定を受けている唯一の植物だそうです。抽出エキスだけでなく、実そのものが危険ということらしいです。
私は信用していませんが、江戸時代の博物学者・貝原益軒は「悪しき実」から「しきみ」という名前になったと言っています。


ある植物園で撮影したシキミの実。分りにくいですが八角形

この「悪しき実」がどういう訳か中国産の八角の中に混入してドイツに輸出され、たくさんの人が中毒を起こしたという事件が過去にあったそうです。また、日本でもたまに子どもが知らずに口にして中毒に陥ることがあるとか。
シキミは樹全体に有毒成分が含まれていて、昔はオオカミが遺体を食い荒らすのを防ぐために墓に植えたことから仏事に使うようになったという説もあります。中でも、実には有毒成分が凝縮されているそうです。
一方、八角の方はタミフルの原料になることで需要が増えて、品薄になり値上がりしているようです。同じような木の実が、片や薬に、片や毒になるわけですね。
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蚊取り線香

2010年07月19日 | 木と医薬
みなさんは蚊取りに何を使っていますか? うちは、私の部屋は電気蚊取りですが、敏感な妻は喉が痛くなるので居間では昔ながらの渦巻きの蚊取り線香を使っています。
この蚊取り線香の原料が除虫菊(現在は化学物質)であることはご存知でしょうが、木も使われています。キンチョーのホームページで調べると、化学物質(アレスリン)と木粉(つまりオガクズ)と植物性の糊粉をミキサーで混ぜ、緑色の染料と水を加えて作るとのこと。



この「植物性の糊粉」というのは、タブノキの樹皮にある粘液を乾燥させたもの。水と混ぜると強い粘性を発揮するので、蚊取り線香だけでなく普通の線香の成型にも使うそうです。タブノキはクスノキ科の常緑樹で、あまり特徴のない地味な存在。


タブノキの樹皮

ところが、分布には特徴があって、「最も北に分布する常緑広葉樹」と言われています。普通の常緑樹は寒い地方には自生しませんが、タブノキは日本海側では青森県、太平洋側では仙台あたりまで分布しているそうです。
しかも、海岸部に限定されていて、東北地方では内陸部にはないらしいです。面白いことに、琵琶湖でも湖岸エリアには見られるのに、離れると見られなくなるとか。水際が好きな常緑樹なんですね。海や大きな湖のそばでは水の緩衝効果によって冬の寒さが和らげられるからだそうです。


タブノキの葉

ところで、蚊取り線香と言えば陶器のブタですが、何故ブタなんでしょう? 渦巻き型の蚊取り線香が発明されるまでは、あのブタの中でスギの葉やオガクズを燻して蚊遣りにしたそうですが、火事にならないように火伏せの神様であるイノシシの形にしたり、水神の使いとされたブタの形にしたのではないかと言われています。
貯金箱のブタは何だろう?
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目薬の木

2009年07月23日 | 木と医薬
カエデの仲間にメグスリノキという木があります。樹皮や葉を煎じ、かすみ目や眼の疲労には飲んで、傷や「ものもらい」には洗眼して治したのでそう呼ばれています。
私は「迷信だろう」とタカをくくっていましたが、先日ある本で北米の先住民族・チェロキー族もカエデの樹皮で作った薬を眼の治療に使っていたことを知り、「ひょっとして本当かも」と思うようになりました。

       
           (メグスリノキ。この樹皮を煎じると目薬に…)

下の写真はメグスリノキのエキスが入ったキャンディー。鳥見ツアーで訪れた新潟県で見つけました。「IT時代のレスキューキャンディー」という物凄いネーミングで、Bはブルーベリー、Mはメグスリノキ、CはビタミンCを表しています。

       
                (エキス入りのキャンディー)

買いはしませんでしたが、他にもメグスリノキをチップ化したお茶、エキス入りの煎餅やうどんが並んでいました。

       
               (メグスリノキのお茶とうどん)

調べてみると、おもしろいことが分りました。東京にある星薬科大学の井上隆夫教授がメグスリノキについて長年研究を行い、樹皮に含まれる有効成分が眼病を予防したり、視神経を活性化することを解明しました。
しかも、その井上教授の実家は京都のど真ん中にある「井上目薬」という和薬の老舗。現在はもう営業していないようですが、老舗らしい店舗と古い看板はまだ残っています。

       
       (井上教授の実家。上の看板には「御めあらひ薬」とあります)

この「井上目薬」はメグスリノキを使っていたわけではなく、江戸時代に梅肉を使った練り薬をハマグリの貝殻に入れて売り出し、ただれ目、かすみ目、目の充血などに効くのでよく売れたそうです。その目薬屋の息子が別の目薬を科学的に解明したという何とも不思議な因縁です。

       
           (店名は「井上清七薬房」、商標は「井上目薬」)

「IT時代のレスキューキャンディー」を舐めてみたところ、かすみ目がすっかり解消しました……とはいきませんでした。もともとあまり眼が疲れない方なので、効果が出なかったのでしょうか。
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森林セラピー

2009年06月18日 | 木と医薬
鳥見ツアーで訪れた妙高高原の笹ヶ峰一帯は、林野庁が提唱する「森林セラピー」の基地として認定されています。
森林セラピーとは、森の癒し効果を利用してストレスを解消したり、うつ病など心身の病を治そうとする療法。これまで「森林浴」として感覚的に語られてきた癒し効果を科学的に解明し、一つの療法として確立しようとするものです。

       
                  (笹ヶ峰のブナ林)

具体的には、セラピストと会話しながら森を歩いたり、森の中でヨガや体操、瞑想などを体験するほか、写経など各基地オリジナルのプログラムもあります。
認定された森林セラピー基地は北海道から沖縄まで全国に31ヵ所あり、特に長野県は7カ所と最多。ちょうど私が笹ヶ峰を歩いていた6月7日に第1回目の森林セラピスト資格認定試験が行われたようです。

       
              (霧が出て幻想的なシラカバ林)

森の癒し効果に関する科学的なデータもあって、例えばせせらぎや鳥の声など聴覚刺激によって交感神経が鎮静化し、生理的にリラックスすることが確かめられたそうです。また、中高年30人に対する実験では、森林を散策すると免疫細胞の活性が1日目で27%、2日目で56%高まったというデータもあります。ヨーロッパでは広く認知されていて、ドイツでは健康保険も適用されるそうです。

       
              (巨木の周囲に広がるハルニレ林)

笹ヶ峰の森は確かに歩いていて気持ちのいいコースでした。多少のアップダウンはあるものの全体としては平坦で、歩くに従ってブナ林→シラカバ林→ハルニレ林→カラマツ林と異なった林層が迎えてくれるので飽きません。
また、所々に小川や展望台があり、野鳥も豊富で、聴覚や視覚が心地よく刺激されます。まだ始まったばかりの森林セラピーですが、今後は徐々に注目されるのではないでしょうか。

       
                    (カラマツ林)

私はしょっちゅう森の中で鳥を見たり聴いたり、木の花を探したり、葉っぱの匂いをかいだりいているせいかストレスもなく、心身ともすこぶる健康ですが、森林セラピーはメタボには効果がないようです(笑)。
森林セラピーのポータルサイトはこちら
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病気と樹

2008年10月24日 | 木と医薬
O.ヘンリーの短編小説『最後の一葉』は、病室から見えるツタの葉に生きる勇気をもらって、瀕死の女性が回復するというストーリー。以前、当ブログでもご紹介しました。その話を科学的に実証するようなデータが『サイエンス』誌に発表されたことがあります。

       
      (近くの大病院の植え込み。サクラ、ナンキンハゼ、クスノキなど)

アメリカのある病院で、胆のう摘出手術を受けた患者を、窓から庭の樹木が見える病室と、建物の壁しか見えない病室に分けて比較したところ、前者の患者の退院までの日数が平均7.9日であったのに対し、後者は8.7日。わずかな差のようですが、統計学的には有意な数字だそうです。
また、術後の痛み止めや精神安定剤の使用量にも差が出たとのこと。調査した研究者は、「単調な壁よりも緑色の自然な景色が手術後の不安を鎮めるのではないか」と話しているそうです。

       
             (この病院にはバラ園も設けてあります)

私も足の骨折で4ヶ月入院したことがありますが、その病室からは隣のビルしか見えませんでした。病気とケガでは効果が違うかも知れませんが、樹木が見えていたらもっと早く退院できたかも…。
みなさんも、もし入院するようなことになったら、樹木の見える病室を希望した方がいいですよ。
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手洗いの水

2008年10月06日 | 木と医薬
昔の日本家屋には厠(かわや=トイレ)の横に石で造った手水鉢が置いてありました。そして、何故かその傍らにはナンテンが植えてあります。
「難を転ずる」という語呂合わせから玄関や鬼門に植えられることが多いナンテンですが、手水鉢の横に植えるのも、「難転→不浄を清める」といったような意味づけをしてのことでしょう。
その一方、「ナンテンの殺菌作用を利用したのではないか」という実用説もあります。ナンテンの葉を赤飯に乗せるのはチアン水素という解毒成分があるからだそうですし、赤い実に含まれているアルカロイドは喉飴やうがい薬に使われます。
そうしたナンテンの殺菌成分が雨水とともに手水鉢に溜まって、手洗い時に消毒効果を発揮するというのです。

       
       (京都の観光スポット、詩仙堂の手水鉢。横にはナンテンが)

また、伝統的な造園の世界には、同じような理由から手水鉢の横にはウメを植えるという定石があるそうです。ウメにも殺菌効果があると考えられていて、手水鉢の上に枝がかかるように植えれば、雨がウメの葉を伝わって消毒効果のある水になるというもの。この園芸手法を「袖ケ香(そでがか)」と呼ぶそうです。
科学的に検証されたわけではないですが、「なるほど!」と納得してしまう話ですね。
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便秘に効く樹

2007年10月26日 | 木と医薬
最近、テレビCMで石倉三郎が「整腸生薬アカメガシワ」を宣伝しています(商品名は「ストッパ・デイバランス」)。
春の新芽が赤いのでアカメガシワと呼ばれますが、柏餅のカシワとは無縁です。以前、アカメガシワのお茶がストレスを和らげることをご紹介しましたが、消化器官にも効果があるとは知りませんでした。

      
       (アカメガシワの葉。もうすぐ鮮やかな黄色に変色します)

発売元のライオンのホームページによると、アカメガシワの樹皮エキスは乱れた腸のぜん動運動を正常にし、軟便や便秘に効果を発揮するそうです。古くから民間薬として使われてきたとも書いてあります。
このアカメガシワは繁殖力が強く、どこにでも生えてきます。うちの近くにコンクリートで固めた山の斜面がありますが、あちこちで株を伸ばしています。時々、手入れの悪い庭で生えているのを見かけます。

      
         (コンクリートで固めた法面でも生えてきます)

黄葉はきれいですが、所かまわず厚かましく繁殖するので私はどうも好きになれません。でも、腸の調子が悪くなったら、この「整腸生薬アカメガシワ」のお世話になるかも。
ライオンって歯磨きや洗剤のメーカーだと思っていたら、いつの間にか医薬品事業もやっているんですね。中外製薬の一般薬部門を買収したらしいです。知らなかったな~。
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