樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

木を生かす手とこころ

2009年07月30日 | 木造建築
仕事で能登半島の七尾に行く機会がありました。せっかくなので、他のスタッフよりも早めに出かけて寄り道してきました。建具を見るためです。
七尾で能登鉄道に乗り換えて2つめの田鶴浜は、建具の町として知られています。何軒も並ぶ建具屋さんや塗り屋さんを覗きながら向ったのは、田鶴浜建具センター。

       
                  (田鶴浜建具センター)

2階のショールームには障子や襖、引き戸、屏風などのほか、細かい組木細工の模型や建具用の特殊な道具も展示してあります。中には漆仕上げの150万円という衝立も…。

       
            (漆塗りの枠で仕上げた衝立は150万円)

江戸時代、領主が菩提寺を再建する際、尾張から指物の名工を呼び寄せて戸や障子を作らせたところ、その素晴らしさに感動した村人たちが技術を学んだのが始まり。その後、木材の伐採禁止令を緩和して使用を許したことから、建具づくりが盛んになったそうです。

       
             (組木細工を取り入れた4枚仕立の襖)

樹種を見ると、スギ、ヒノキ、ベイマツなどさまざま。この地方ならではのアテもありました。東北地方ではヒバ、全国的にはアスナロと呼ぶ木です。
昔、能登の林業家が津軽からヒバの苗木を密かに持ち帰り、バレないようにアテと名前を変えて育てたというエピソードがあります。ちなみに、アテは石川県の県木。

       
           (ミニ屏風やミニ衝立は手が出せそうな金額)

田鶴浜建具のキャッチフレーズは「木を生かす手とこころ」。金沢の仏壇といい、富山県砺波の欄間といい、北陸地方にはそのフレーズどおり豊かな木工の文化が残っています。
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インドの“緑の父”

2009年07月27日 | 樹木
宇治市には名木百選があり、その中に1本だけ自衛隊の敷地に生えている木があります。樹種はユーカリ。
先日、近くを通った際に撮影してきました。自衛隊の施設にカメラを向けるのは勇気が要りますが、スパイ容疑で逮捕される覚悟で撮ってきました(笑)。
フェンスの向こうに看板があって肉眼では読めませんが、画像を拡大して読むと、樹高22m、幹周2.8m、推定樹齢60年とあります。ユーカリは成長が早いので60年でも巨木になります。樹皮がはがれて、すでに老木のたたずまい。

             
            (陸上自衛隊宇治駐屯地のユーカリ)

先日、テレビでこのユーカリに関する興味深い話を放送していました。それによると、インドで「独立の父はガンジー、緑の父はスギヤマ」と呼ばれている日本人がいるそうです。
杉山龍丸(たつまる)という人物が、飢饉にあえぐインドの国民を救うために私財を投げ売って砂漠を緑化したからです。その緑化に使われたのがユーカリ。他の木が育たないような悪条件でも成長するので砂漠の緑化に使われたのでしょう。
それだけでなく、杉山は門外不出の米の種をインドに持ち込んで稲作を成功させ、米の輸入国であったインドを米の輸出国にまで成長させたそうです。

       
            (樹齢60年なのに樹皮がはがれ老木のよう)

しかも、この杉山龍丸は小説家・夢野久作の長男。私は読んだことないですが、夢野久作(本名・杉山直樹)は『ドグラ・マグラ』という幻想小説の著者として知られています。他にSF小説や探偵小説も書いています。
その小説家の息子がユーカリでインドの砂漠を緑化し、「緑の父」と呼ばれるようになったという話は、私には大変興味深いものでした。
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目薬の木

2009年07月23日 | 木と医薬
カエデの仲間にメグスリノキという木があります。樹皮や葉を煎じ、かすみ目や眼の疲労には飲んで、傷や「ものもらい」には洗眼して治したのでそう呼ばれています。
私は「迷信だろう」とタカをくくっていましたが、先日ある本で北米の先住民族・チェロキー族もカエデの樹皮で作った薬を眼の治療に使っていたことを知り、「ひょっとして本当かも」と思うようになりました。

       
           (メグスリノキ。この樹皮を煎じると目薬に…)

下の写真はメグスリノキのエキスが入ったキャンディー。鳥見ツアーで訪れた新潟県で見つけました。「IT時代のレスキューキャンディー」という物凄いネーミングで、Bはブルーベリー、Mはメグスリノキ、CはビタミンCを表しています。

       
                (エキス入りのキャンディー)

買いはしませんでしたが、他にもメグスリノキをチップ化したお茶、エキス入りの煎餅やうどんが並んでいました。

       
               (メグスリノキのお茶とうどん)

調べてみると、おもしろいことが分りました。東京にある星薬科大学の井上隆夫教授がメグスリノキについて長年研究を行い、樹皮に含まれる有効成分が眼病を予防したり、視神経を活性化することを解明しました。
しかも、その井上教授の実家は京都のど真ん中にある「井上目薬」という和薬の老舗。現在はもう営業していないようですが、老舗らしい店舗と古い看板はまだ残っています。

       
       (井上教授の実家。上の看板には「御めあらひ薬」とあります)

この「井上目薬」はメグスリノキを使っていたわけではなく、江戸時代に梅肉を使った練り薬をハマグリの貝殻に入れて売り出し、ただれ目、かすみ目、目の充血などに効くのでよく売れたそうです。その目薬屋の息子が別の目薬を科学的に解明したという何とも不思議な因縁です。

       
           (店名は「井上清七薬房」、商標は「井上目薬」)

「IT時代のレスキューキャンディー」を舐めてみたところ、かすみ目がすっかり解消しました……とはいきませんでした。もともとあまり眼が疲れない方なので、効果が出なかったのでしょうか。
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食べるお茶

2009年07月20日 | 木と飲食
お茶も木なので当ブログのコンセプトからは外れませんが、今日は木というよりも宇治茶の珍メニュー特集です。
アイスクリームやスイーツなど全国的に普及している抹茶入り商品に加えて、本場・宇治には「そこまでやるか?」という抹茶モンがあります。
まずはパン。宇治橋商店街にあるパン屋さんは抹茶入りのパンをいろいろ作っています。抹茶アン入りのアンパンとかデニッシュは想定内でしたが、抹茶入りの食パンには少しのけ反りました。

       
           (中のアンだけでなく、トッピングにも抹茶が…)

抹茶アンパンはみなさんも大体予想できる味でした。甘いものと抹茶は合うのでしょうか。食パンの方は微妙。ほのかな苦味があって、よもぎパンのような感じです。

       
              (抹茶入り食パンで作ったサンドイッチ)

平等院の近くには茶の葉の天ぷらを売っている店があります。以前、箕面のモミジの天ぷらを食べに行きましたが、地元贔屓を抜きにして、茶の葉の天ぷらの方がイケます。
口に入れると、最初は天ぷらの香ばしい風味があり、飲み込む時ほんのりと苦味が残ります。モミジの天ぷらは甘味のないカリントウみたいでしたが、大人の口には苦味のある茶の葉の天ぷらが合います。しかも1袋(両手に一杯くらいの量)で100円は安い!

       
               (お茶の新芽を揚げた天ぷら)

同じ店で見つけたのが抹茶入りコロッケ。宇治市民の私も少々たじろぎました(笑)。でも食べてみると、クリーミーな食感とほんのりした苦味が調和してなかなかです。これも1個100円。

       
                   (抹茶入りコロッケ)

以前、抹茶入りタコ焼きのお店もあったのですが、しばらく前に閉店したので結局食べずじまいでした。やっぱり無理があったかな~? 
しかし、本来は飲むだけであったお茶を食べ物に混ぜることで抹茶の用途が広がり、製茶産業は大きく伸びたはず。誰が最初に考えたのか知りませんが、宇治市は感謝しなければ…。
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野外コンサートと木

2009年07月16日 | 森林保護
年に1度、宇治に1万人以上の若者が集まります。府立運動公園で「京都大作戦」という大規模なコンサートが開催されるからです。今年も先週の土日に行われ、約30組のバンドが2つのステージに分かれて演奏しました。

       
                  (入場受付は長蛇の列)
       
               (メインステージの競技場入口)

FM京都の主催で2007年に始まり、今年で3回目。毎年おもしろいサブタイトルがついており、2007年は「祇園祭とかぶってごめんな祭」。ところが、開催予定の7月15日に台風が襲来して中止となり、翌2008年は「去年は台風でごめんな祭」。そして今年は「暑いのに熱くてごめんな祭」。いつも謝っている、気の弱いイベントです(笑)。

             
           (会場では舞妓さんが案内してくれます)

そのイベントに、どういうわけか我が森林ボランティア「フォレスター宇治」も出店するとのこと。「場違いだな~」と思いつつ会場に行くと、15人ほどのメンバーが木工品を販売したり、緑の募金を集めています。
隣のテントでも、京都府立大学森林科学科の学生や緑の募金のマスコット「どんぐりくん」が募金活動の真っ最中。

       
              (緑の募金のマスコット、どんぐりくん)

テントには木工体験コーナーもありますが、興味を示す若者は誰もいません。やっぱりミスマッチ…。それでも、木工品を「コンサート終了後に受け取りに来ます」と予約する若い女性もいました。

       
         (若者向けのコンサート会場で木工体験コーナー?)
       
           (中には木工品に興味を示す若者もいました)

多分、京都府モデルフォレスト協会が「ちょっと無理があるけど、人が大勢集まるから緑の募金をやろう」と働きかけたのでしょう。まぁ、若い人に少しでも植林への関心を持ってもらえればいいですけど…。
私は午後から予定があったのでお手伝いはできませんでしたが、フォレスター宇治のみなさん、どんぐりくん、暑い中ご苦労様でした。
京都大作戦2009のオフィシャルサイトはこちら
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木の狛犬

2009年07月13日 | 木と歴史
家の近くに、宇治神社と宇治上(うじがみ)神社という同じような名前の神社が隣り合って建っています。宇治神社は国の重要文化財、宇治上神社は国宝で世界遺産。

       
                    (宇治神社)

この宇治神社には、珍しい木製の狛犬があります。と言っても、屋外に設置したままでは痛むので、現在は宇治市歴史博物館に保存され、修理も加えられています。その修理がようやく完了し、一般公開されているというので、しばらく前に見てきました。

             
        (ガラスケースで見にくいですが阿形(あぎょう)像)

この狛犬は鎌倉時代に制作されたもので、ヒノキの一木造りだそうです。現存する木造の狛犬では最大級に属し、口を開けた阿形(あぎょう)像は約81cm、口を閉じた吽形(うんぎょう)像は88cm。特に阿形像の出来がすばらしく、格調高い顔つきで、たてがみの先端部の微妙なそよぎまで写実的に表現されているとか。

             
              (こちらは吽形(うんぎょう)像)

歴史博物館に保存されたのは1987年。それまでの約700年間は境内で野ざらしだったたわけで、修理が必要なくらい痛んだとは言え、よくぞ風化もせず原型をとどめていたものだと驚きます。
恐るべし、ヒノキの耐久力!
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ふるさとの森

2009年07月09日 | 樹木
国会議事堂の庭に47都道府県の木が植えてあることを以前ご紹介しました。それに似たような場所が神戸にあると聞いて行ってきました。
「大倉山公園」という市街地の運動公園に「ふるさとの森」というゾーンがあります。ここは昭和47年に、神戸市の和歌山県人会が「ふるさとをしのぶ森をつくろう」と35の県人会に呼びかけて生れた森。
県ごとに5~10坪の敷地があり、県木やその地方ならではの樹木、石で造園されています。例えば、宮崎県の森には県木のフェニックスが、宮城県の森には県木であり仙台箪笥の材料であるケヤキが植えてあります。

       
              (宮崎県の森は立派なフェニックス)
       
                  (宮城県の森はケヤキ)

長野県の森にはシナノキが植えてありました。県木はシラカバですが、関西では生育しないので、「信濃」の語源になったというシナノキを選んだのでしょう。

       
         (シナノキは信濃を代表する木。長野市の木でもある)

栃木県の森では、説明板には「県木のトチノキ」と書いてありますが、トチノキが見当たりません。おそらく、この公園が乾燥する環境なので湿気を好むトチノキは枯れたのだと思います。私も庭に植えて失敗したことがあります。

       
                 (鹿児島県の森にはソテツ)

高知県の森に植えてあるのはトサミズキ。県木はスギですが、樹種名で選んだのでしょう。鳥取県の森にイチイが植えてある理由はすぐに分りました。説明板にも、「大山の頂上付近に生えるキャラボクはイチイの変種」と書いてあります。

       
              (高知県の森に植えてあるトサミズキ)

県によって力の入れ方が違うようですが、こういう場所を提供した神戸市と、自らの費用で造成した各県人会に敬意を抱きました。
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七夕伝説

2009年07月06日 | 木と宗教
宇治市と大阪市の中間にある交野(かたの)市は、関西では七夕伝説で有名です。天野川という川が流れ、星田や星が丘などの地名が残り、織姫を祭る機物(はたもの)神社があります。
この神社では毎年7月6日~7日に七夕祭りが行われ、境内に立てられた約40本の竹に多くの人々が短冊を結びつけます。

       
        (機物神社の参道には七夕祭りの幟が立っていました)

竹は当ブログの守備範囲ではないのでパスしますが、この神社ではタラヨウの葉に願いごとを書き記す風習があるというので見てきました。
以前ご紹介しましたが、昔タラヨウの葉の裏に文字を書いたことから「葉書」と呼ばれ、現在も「郵便局の木」に指定されています。先が尖ったもので書くと、しばらく後にその部分だけ黒く変色するのです。

       
                  (機物神社の本殿)

本殿の左右にタラヨウが1本ずつ植えてあり、人の手が届く範囲の葉の裏にはいろんな願いごとが書き記してあります。中には「仕事が早く見つかるように」という世相を映す願いもありました。
タラヨウを絵馬がわりにして願いごとを書く神社というのは珍しいのではないでしょうか。私は初めて知りました。

       
       (タラヨウの葉の裏にはいろんな願いごとが記されています)

もう一つ驚いたのは、両方のタラヨウの横にカジノキが植えてあったこと。カジノキも昔は葉の裏に墨で文字を書いたと言われています。試したことはないですが、細かい毛が密生してビロードのようになっているので字が書けるそうです。
タラヨウといいカジノキといい、葉に文字が書ける木が本殿の左右に植えてあるというのは何か意味があるはずです。

       
                  (カジノキの葉)

帰って調べたら、昔は七夕にはサトイモの葉にたまった夜露で墨をすってカジノキの葉に願いごとを書いて供えたそうです。公家の末裔・冷泉家では現在も七夕の日に歌を詠んでカジノキの葉に書き記すそうです。
今はカラフルな短冊に願いごとを書きますが、紙が貴重だった昔はカジノキやタラヨウの葉に書いて竹に飾ったのでしょう。想像するだけで風情がありますね。
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アジサイの謎

2009年07月02日 | 樹木
近所にアジサイで有名なお寺があります。時々テレビで生中継されるほどで、6月にはたくさんの観光客が訪れ、土日は周辺道路が渋滞、わが家の横では客待ちタクシーが迷惑駐車という状態が続きます。

       
                    (青いアジサイ)

そのアジサイの花の色について、土が酸性の場合は青く、アルカリ性の場合は赤くなると言われています。以前は私もそれを信じて、「リトマス試験紙みたいな花やな~」と納得していました。
ところが、樹木に関心を持つようになってじっくり観察すると、同じ地面から生えている株なのに青い花も赤い花も咲かせている光景に何度か出くわしました。以来、「酸性、アルカリ性の話は怪しいな~」と疑っていました。
詳しく調べてみると、アジサイの花の色は、①土壌のpH、②細胞液の酸性度、③助色素という物質、④日照条件で決まるとのこと。でも、私の疑問はまだ解けません。

       

上の写真のように、隣同士で青い花と赤い花があるということは、土壌のpHや日照条件が色を決める要因ではないということです。さらに、同じ個体が年によって違う色の花を咲かせたり、一つの花が赤~紫~青と変化することもあります。アジサイの花言葉が「移り気」である所以です。
いろいろ調べても、花の色を決める要因は書いてありますが、隣同士なのに、あるいは同一個体なのに青になったり赤になったりする仕組みが説明されていません。

       
                    (赤いアジサイ)

ところが先日、私の疑問に答える記事が新聞に掲載されていました。要するに、どのような仕組みで色が変わるのかはまだ科学的に解明されていないのです。名古屋大学の研究者によると、遺伝子も環境も同じなのにこれだけ花の色が違う植物は珍しいそうで、「今後そのメカニズムを解明したい」とのこと。やっぱりそうか、まだ分ってないんだ!
アジサイのピークが過ぎて近所のお寺もようやく静かになりました。謎が解けたわけではないですが、私の疑問も一応収まって心穏やかになりました。
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