樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

鳥の聖域

2013年02月28日 | 野鳥
2カ月ほど前、ツクシガモが来ていると知って大阪南港野鳥園へ出かけました。名前のとおり、主に九州に渡ってくる冬鳥です。私自身の記録を見ると、1996年に岡山県で出会って以来17年ぶりの再会です。
もともとの生息域は有明海でしたが、悪名高い干拓事業に追い出され、大阪湾にもやってくるようになったと言われています。私が訪れた日は32羽がのんびりと水面に浮かんでいました。



ところが、2月20日、大阪市がこの野鳥園の閉鎖を決めたというニュースが流れました。当ブログの昨年9月の記事「バードサンクチュアリー」では、「存続となったようで一安心」と書きましたが、結局は廃止となったわけです。
正確には、観察舎は取り壊すものの鳥が見られるよう跡地を緑地にするらしいですが、これまで継続してきた干潟の清掃や管理が難しくなるでしょう。日本野鳥の会大阪支部やWWFジャパンが中心になって存続を求めてきましたが聞き入れてもらえなかったわけです。
廃止の理由は、「公共が関与する必要性の低い事業である。料金非設定で、税等を投入して継続する合理性が低い」というもの。しかし、自然環境や生物多様性の保全に公共が関与しないでどこが関与するのでしょう。行財政改革は必要ですが、自然保護を「費用対効果」という経済の評価基準で測るのは間違っていると私は思います。
南港野鳥園は貴重な「バードサンクチュアリー」だと思って昨年の記事のタイトルにしました。でも、英語にするとおしゃれな施設に聞こえますが、切迫感が伝わりません。「鳥の聖域」と日本語で表現した方がその重要さが伝わるように思えます。
国の愚策によって追い出されたツクシガモが、今度は大阪市の愚策によって行き場を失います。日本の「鳥の聖域」がまた一つ消えてしまうのです。
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紛らわしい名前

2013年02月25日 | 野鳥
鳥を見始めた頃、カワラヒワという鳥を覚えました。宇治川沿いでよく見かけたので、名前のとおり「河原に生息するヒワ」と思っていました。
ところが、イヌワシを見る探鳥会で滋賀県の伊吹山に登ったとき、5合目でカワラヒワを発見。思わず「こんな高い山にカワラヒワがいる!」と叫んで、周囲のベテラン会員の冷ややかな視線を浴びました。カワラヒワは河原だけでなく、高い山にもいるんですね。
そのカワラヒワよりも紛らわしいのはイソヒヨドリ。名前からは「磯に生息するヒヨドリ」と思いがちですが、海から遠く離れた宇治にもいます。先日、すぐ近くの畑でオスとメスを見つけました。



私が初めてこの鳥を見たのも、宇治川の上流にある天ケ瀬ダムでした。実家は海から10km以上離れていますが、連休の頃に帰省するとさえずりが聞こえます。
もともとは名前の通り海辺を生息域にしていたようですが、近年は内陸部まで分布を広げていて、その変化を研究している人もいます。
この鳥がさらに紛らわしいのは、名前はヒヨドリなのにツグミの仲間 (しかも新しい分類によるとヒタキに近い種類)であること。
磯じゃない場所にもたくさんいるイソシギ、青くないのにアオサギなど、紛らわしい名前の鳥は他にもいますが、イソヒヨドリは二重に紛らわしいです。
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死ぬまでに見たい木

2013年02月21日 | 伝説の樹
旅行のクチコミサイト「トリップアドバイザー」が、「死ぬまでに一度は訪れてみたい世界の観光スポット」をテーマ別にリストアップしています。その中で「死ぬまでに見たい世界の巨木・奇木16選」を発表しました。
その第1位は、ハワイのモアナルア・ガーデンズ・パークにあるモンキー・ポッド。下の画像(著作権フリー)がそれです。見覚えありませんか?



日立のテレビCM「この木なんの木 気になる木…」に登場する巨木です。
以前の記事でもご紹介しましたが、この木の別名は「アメリカネム」。ネムノキはマメ科ですが、猿がその豆のさや(pod)を好んで食べるので「モンキー・ポッド」。樹齢は約130年で、高さ25m、広げた枝の幅は40mもあります。
第2位はイエメンにある「切ると赤い血のような樹液を出す不思議な木」。第3位はマダガスカル島の「バオバブの木」。
そのほか、アメリカにある「世界最大の木」「世界一高い木」など、以前当ブログでご紹介した木もリストアップされています。
日本からも2つ選ばれていて、1つは西表島のサキシマスオウ。私も一度現地で見たことがありますが、根が板のようになって張り出している木です。
もう1つは、福島県の三春滝桜。樹齢1000年、高さ12m、根回り11mのベニシダレザクラです。
16選の中で私が「死ぬまでに見たい」と思ったのは、アメリカにある樹齢5000年の「世界最古の樹木・ブリストルコーンパイン」。実際にはスウェーデンで樹齢9550年のトウヒが発見されているので世界最古ではありませんが、この老木は風格があって、樹形も面白くて魅力的です。
「16選」はこちらで見られます。
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歌人の化身

2013年02月18日 | 野鳥
近くのフィールドで鳥を探していたら、30羽ほどのニュウナイスズメの群れに出会いました。スズメの群れに数羽混じっているのは見たことありますが、この種類だけの群れは初めて。
普通のスズメと違って、頬に黒い班がなく、頭が赤。繁殖地は東北~北海道で、京都府では冬鳥ですが、見る機会は少ないです。私も久しぶりでした。
「ニュウナイ」とは何だろうと思って調べると、面白いエピソードに行き当たりました。



平安時代、一条天皇の家臣で名高い歌人でもあった藤原実方(さねかた)は、ライバルと口論した際に相手の冠を奪って投げ捨てるという無礼な振る舞いをしたため、東北地方に左遷された。実方はその怨みと京都への思いを募らせたまま失意のうちに死亡。
すると、京都の内裏(清涼殿)に1羽の雀が入り込み、台盤(食事を盛る台)の飯をついばんで平らげてしまった。人々は、京が恋しい実方の怨念が雀と化して帰ってきたと考えた。そして、「内裏に侵入する雀」から「入内雀」と呼んだ。
東北地方で繁殖し、秋になると関西へ飛来して稲を食べるというニュウナイスズメの生態に由来する伝説でしょう。しかし、この話には続きがあります。
同じ頃、京都の勧学院の住職の夢に雀が現れ、「私は京が恋しくて雀になった実方である。成仏できるよう読経してほしい」と告げた。翌朝、住職は境内で1羽の雀の死骸を見つけた。そして、その霊を弔うために塚を築いた。
この勧学院は京都市左京区に現存し、別名「雀寺」と呼ばれています。雀塚も残っています。ということは、本当にニュウナイスズメが実方の化身であると信じられていたわけですね。
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しょくらとを

2013年02月14日 | 木と飲食
バレンタインデーに因んでカカオの話。
カカオ豆(正確には種)の現在の主産地はアフリカですが、原産地は中南米。コロンブスが持ち帰って以降、ヨーロッパでチョコレートが生まれたそうです。
その中南米では紀元前1000年頃すでにカカオ豆の栽培が行われていて、それを引き継いだマヤ文明ではカカオ豆を炒ってすりつぶし、お湯に溶かして飲んだ記録が残っているとのこと。
ヨーロッパに伝わった当初も、チョコレートは液体(今のココアのようなもの)として飲まれていたわけです。


宇治市植物公園の温室で成っていたカカオの実

カカオ豆は貴重品で、中南米では貨幣としても扱われ、兎1匹がカカオ豆10粒、よく働く奴隷が100粒で取り引きされていたとか。コロンブスが初めてカカオ豆に出会った時のことを、次男が次のように書き記しています。
「そのアーモンド(=カカオ豆)は彼らの間ではたいそう高価なものらしかった。いろいろな物資と一緒にこちらの船に移す際に、何粒かがこぼれ落ちると、まるで目玉でも落としたかのように、全員が大慌てで屈み込んで拾い上げていた」。


誰もくれないので自分で買いました。チョコレートといえばやっぱりコレでしょう

日本にチョコレートが伝わった時期は不明ですが、1797年の文献に「しょくらとを」という名前で登場し、「西洋人が持ってきた腎薬で、その塊りを削ってお湯に溶かし、卵と砂糖を加え、茶筅で泡立ててから服用すべし」と記されているそうです。
卵を入れたココア? 飲みたいとは思いませんが、当時は薬だったわけですね。
現在のようなお菓子としてのチョコレートを初めて見た日本人は、岩倉具視のようです。明治4~6年に欧米を視察した際、フランスでチョコレート工場を見学したことが史料に残っています。
そういえば、私も修学旅行だか社会見学で明治製菓のチョコレート工場を見学しました。もう50年も前ですが、その頃からMeiji Milk Chocolateはチョコレートの定番でした。
なお、「カカオとココアはどう違うか?」については以前の記事を覧ください。
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鳥のヘアスタイル

2013年02月11日 | 野鳥
前回は鳥の顔つきの話でしたが、今回は鳥のヘアスタイル。
カシラダカとかカンムリカイツブリとか、名前にヘアスタイルが表現された種類もいますが、名前ほどには目立った髪型ではありません。
それよりも、カワアイサ。オスはそうでもないですが、なぜかメスだけ後頭部のヘアが長いです。みんなの党の渡辺喜美代表がこんな感じ。政治家のヘアスタイルも少し変わってきましたね。



ボサボサ頭では、カワアイサよりもウミアイサの方がスゴイです。しかも、こちらはオスもメスも同じくヘビメタ系。下の動画では、風が強くてそのボサボサ頭が変形しています。



後頭部だけでなく頭頂部も尖がっている鳥もいます。その代表格はヤマセミ。宇治川のヤマセミは釣り人にもよく知られていて、彼らはヤマセミと呼ばずに、イギリスのサッカー選手のヘアスタイルに例えて「ベッカム」と呼んでいます。



この系統ではヤツガシラの方が派手かも知れませんが、残念ながらまだお目にかかったことはありません。
前回ご紹介したレンジャクは顔つきもインパクトありますが、ヘアスタイルも相当個性的ですね。
私は学生時代は肩までのロングヘア、卒業後は長らくパーマをあてていましたが、今はその面影もありません(笑)。
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鳥相

2013年02月08日 | 野鳥
昨日はルーターが故障したためネットが利用できず、記事がアップできませんでした。定期的にご覧いただいている方にはご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
さて、一定のエリアにどんな鳥が生息しているかを「鳥相」といいますが、今回の「鳥相」は人間でいう「人相」、鳥の顔つきの話です。
例えば、コサメビタキやエゾビタキ、ジョウビタキのメスなどは、誰が見ても「可愛い~」と思える鳥相です。下は京都御苑で出会ったルリビタキの若鳥ですが、つぶらな瞳と無邪気な顔は幼児のようでとても可愛いです。



一般的に「ヒタキ」の名がつく種類には可愛い鳥が多いです。
一方、鳥相の悪い鳥もいます。その代表格はシメ。一見すると、あごひげを生やしてサングラスをかけた強面です。



体形もずんぐりしていてふてぶてしい印象があるうえに、木に止まる姿勢が直立型なので威張っているように見えます。シメは顔と体形、姿勢でかなり損をしているのではないでしょうか。
シメよりもっと鳥相が悪いのに、それほど憎まれていない鳥もいます。ヒレンジャクやキレンジャクは、あごひげ、サングラスに加えて、尖がったヘアスタイル。これが人間なら近寄りがたいですが、なぜかシメほど憎らしくない。



でも、1羽ではそうでもないのに、動画の後半にあったように群れになると、よからぬ輩の集団みたいでちょっと怖いですね。
シメもじっくり観察すると可愛いんですが、私はやっぱりヒタキの方が好感度高いです。
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針葉樹は偉い

2013年02月04日 | 樹木
日本に生息する鳥は約500種。一方、樹木はその3倍の1500種といわれていて、私が準拠している図鑑にも1300種が網羅されています。
このうち最も多く生えている樹は何だと思いますか?
日本の国土の67%が森林で、そのうちの19%がスギの人工林。つまり国土の12%にスギが植えてあるわけですから、本数は不明ですがスギが最多でしょう。その次は、おそらくヒノキ。
関西にはスギとヒノキが混植されている森が多く、樹皮を見てもどっちがどっちか分かりにくいですが、きれいに整っている方がスギ、カサついて荒れている方がヒノキです。


左はきれいに整っているのでスギ、右は荒れているのでヒノキ

また、日本一高い樹もスギ。世界一高い樹はセンペルセコイヤで、こちらもスギ科です。スギをはじめ針葉樹は上に成長することで光を得ようとするため、樹高が高くなる傾向があります。
日本の針葉樹はカラマツを除いてすべて常緑ですが、全く落葉しないわけではありません。杉林へ行くといっぱい葉が落ちています。茶色く枯れた葉だけでなく、緑のままの葉も落ちています。



落葉のサイクルは環境によって違うようで、一般的な針葉の寿命は1~2年。マツの中には10年も落ちない針葉があるそうです。ちなみに、最も寿命が長い針葉はアメリカのイガゴヨウマツで33年。
スギ、ヒノキに次いで多いのは、多分カラマツ。北海道をはじめ北部の人工林はカラマツが多いからです。
この3種の植林が多いということは、それだけ人間にとって利用価値があるということ。針葉樹と広葉樹で分ければ、私たちの暮らしに役立っているのは圧倒的に針葉樹でしょう。
どこにでもあるし、花も目立たないし、姿も面白くないし、実が食べられるわけでもないし、花粉症になるし、人間から冷たい視線を浴びていますが、針葉樹は偉いです。
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