樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

おしゃべりな樹

2018年11月29日 | 木と言葉
ヤマナラシという樹があります。わずかな風でも葉が左右にヒラヒラするのが特徴です。下の動画は以前栃の森で撮ったヤマナラシですが、葉のそよぎ方が隣の樹(ミズメ)と違います。



微風でも葉がヒラヒラするのは、葉柄(葉と枝をつなぐ軸)が扁平だから(正面が細く、側面が厚い)。そして、風にそよいで葉と葉が当たってカラカラと音をたてるので「山鳴らし」。
このことは以前から「面白いな」と納得していて、その先まで考えなかったのですが、前回の「目からウロコ」でご紹介した本には「何の目的でヒラヒラするのか」まで突っ込んで書いてありました。
他の樹木は葉の表でしか光合成ができないのに対して、ヤマナラシは葉の表でも裏でもできるのでヒラヒラするとのこと。その方が効率的だからでしょう。目からウロコでした。
このヤマナラシと同じ仲間(ヤナギ科ハコヤナギ属)のポプラも葉柄が扁平で、わずかな風でヒラヒラします。下の写真はポプラの葉柄ですが、表面(左)が細く側面(右)が厚いので、わずかな風でも葉がそよぐわけです。



面白いことに、この仲間の樹には「風で葉が揺れて音がする」という意味がからんでいて、ポプラの語源populus(ポプルス)はラテン語で「ふるえる、さらさら鳴る」という意味。また、中国ではハコヤナギを「風響樹」と呼ぶそうです。
さらに、英語ではヤマナラシをアスペンといい、おしゃべりな女性のことを「アスペン・リーフ」と表現するとか。「ハコヤナギ類=音がなる=おしゃべり」は万国共通のようです。
ちなみに、ハコヤナギという名前はこの木材で箱を作ったことに由来します。
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目からウロコ

2018年11月22日 | 樹木
久しぶりにいい本に出合いました。ドイツの森林管理官が書いた『樹木たちの知られざる生活』。
本国でベストセラーになり、アメリカでもワシントン・ポストが「樹木に対する愛の告白であり、木々の生態へのこの上なく興味深い入門書」と絶賛したとか。当ブログの「樹と水」に書いた吸水の謎もこの本の受け売りです。
木の本はこれまでにもたくさん読みましたが、その多くは植物学者によるもので、科学的な知見が記してありました。一方、この本には森林管理官として長年森を観察し続けた経験から生まれる樹木への愛情がにじみ出ていて、その実感を言語化しているので、読んでいるとフワ~とした気持ちになります。
例えば、落葉を次のように比喩します。「樹木にとってはトイレをすませる機会でもある。私たちが夜寝る前にトイレに行くように、樹木も余分な物質を葉に含ませて体から追い出そうとする」。



科学的な知見も随所にあり、それがドイツやヨーロッパの最新の研究成果なので新鮮。例えば、樹木は香りを発することでお互いにコミュニケーションしている、地下に張り巡らされた根と菌のネットワークよってお互いを助け合っているなど、驚くべき記述に出くわします。
当ブログの「紅葉の不思議」で紅葉の仕組みをご紹介しましたが、この著者は「なぜ紅葉するのか?」まで突っ込みます。理由の一つは、害虫に対する警告。黄葉や紅葉によって「私は健全だから寄生してもムダよ」と虫にアピールしているのだそうです。
さらに、「そもそも広葉樹はなぜ落葉するのか?」まで掘り下げ、雪や樹氷の重みで枝や幹が折れるのを防ぐためと書いています。常緑広葉樹が南に、落葉広葉樹が北に分布する理由も納得できます。
もう一つ驚いたことに、ドイツの憲法には「動物、植物、およびほかの生命体を扱うときは、その生き物の尊厳を尊重しなければならない」と書いてあるそうです。環境先進国といわれる由縁でしょう。日本の憲法にも世界に誇れる条文がありますが…。
樹木を見る私の目のウロコを剥がしてくれる本でした。
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困った鳥

2018年11月15日 | 野鳥
紅葉を満喫した栃の森では、キャンプサイトを朝5時半に出発し、渡ってくる冬鳥を森の入口で観察することにしました。まだ暗いのでヘッドランプをつけて林道を歩きます。
少し明るくなると、ツグミやアトリの群れが次々に飛ぶのが見えます。下はツグミの群れ。



1か月前(10月8日)は、同じ場所でヒヨドリの群れが次々に峠を越えていきました(下の動画)。ヒヨドリはどこにでもいるので珍しくもなく、わが家のブルーベリーを横取りする困った鳥ですが、こうして群れで渡っていく姿を見るとちょっと感動します。



ツグミやアトリの群れを観察していると、聞き慣れない声が聞こえてきました。同行メンバーがすぐに「ガビチョウかな?」。念のため、別のメンバーがスマホのアプリで確認すると間違いなくガビチョウの声です。
こんな時期に大きな声でさえずっています。地鳴きも聞こえてきます。姿が確認できないので、声を記録するためにカメラを回しました。



ガビチョウは中国でペットとして飼われていた外来種ですが、日本でも関東を中心に野生化しています。餌や生息場所が在来種と競合し、本来の生態系をかく乱する恐れがあるので、環境省は特定外来種に指定して飼育や放鳥を禁止しています。侵略的外来種ワースト100にも選定されています。
実は、京都府ではまだ確認されていません。つまり、今回が初めての記録。よりによって、京都府で最も生物多様性の豊かなこの森で、うれしくない初記録となったわけです。
声から推測すると5羽前後。森に入ってからも同じほどの数の声が聞こえたので、同一の群れが移動していたようです。
通過ならいいのですが、府内で定着すると厄介です。ヒヨドリ以上に困った鳥です。
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紅葉の不思議

2018年11月08日 | 樹木
週末、栃の森に行ってきました。本来の目的は野鳥の調査ですが、今回は都市部より一足早い紅葉に期待して…。
林内は緑~黄~オレンジ~赤の鮮やかなグラデーション。さまざまな樹種の葉の色を観ていると、自然の不思議に心を持って行かれそうになります。
カラフルなのは、やはりカエデ類。中でも、ウリハダカエデとハウチワカエデは目の覚めるような黄や赤に染まっていました。


ハウチワカエデ。バックの黄色はウリハダカエデ

同じカエデ類なのに、なぜかイタヤカエデは黄葉しても紅葉しません。イチョウと同じです。



根粒菌によって窒素を自給するハンノキ類は、葉緑素(窒素が原料)を回収する必要がないので緑色のまま落葉しますが、普通の落葉樹は葉の中にある葉緑素を来年再利用するために窒素に分解して回収し、根に蓄えます。すると、葉の中に隠れていたカロチノイド(黄)やアントシアニン(赤)が目立つ、というのが紅葉の仕組み。
しかし、この説明では納得できない葉の変色があります。私がいつも不思議に思うのは、コシアブラ。写真のように、白く変色するのです。同じ仲間のタカノツメは黄葉するので多分カロチノイドを含んでいるのでしょうが、葉緑素といっしょに回収されるので白葉するのではないかと推測しています。



もう一つ不思議なのは、赤黒く変色する葉。なぜかミズキやヤマボウシなどミズキ類に多い。街路樹や庭木に多用されるハナミズキも同様です。アントシアニンだけでなくメラニンを含んでいるからではないでしょうか。


ミズキ


ヤマボウシ

そもそも広葉樹はなぜ落葉するのか? 針葉樹はなぜ紅葉も落葉もしないのか? 鳥もそうですが、樹を観ていると頭の中に次々と「?」が湧いてきます。
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樹と水

2018年11月01日 | 樹木
最近読んだ本によると、ブナの成木は1日に500リットルの水を吸収するとのこと。一般的なサイズのお風呂のお湯が200リットルですから、その2,5倍です。
比較するのも何ですが、私は尿酸値が高くて医者から1日1リットルの水を飲むように指示されているので、その500倍です。


ブナの樹皮。この内側で500リットルの水が流れている

ツリーウォッチングを始めた頃、樹木はどうやって数十メートルもの高さまで水を吸い上げるのだろうと疑問でした。世界で最も高い樹は115.5メートルですから、ポンプもないのに、高層ビルの高さまで水を送っているわけです。
その頃に読んだ樹木の本には、導管の毛細管現象と葉から蒸散する吸引圧力で吸い上げると書いてあって、「なるほど」と納得していました。


水分を蒸発させるブナの葉

しかし、最近読んだ本には、「毛細管現象で吸い上げるのはせいぜい1メートル」、「葉による蒸散圧力説は、落葉中にも水が樹冠部に達する事実を説明できない」と書いてあって、私の頭の中にあった「樹と水」の常識はガラガラと崩れました。
この著者によると、樹がどうやって100メートルの高さまで水を吸い上げるのかは、まだ解明されていないそうです。
「樹と水」についてもう一つ、「氷点下になると樹体内の水が凍って導管が破裂し、樹が死ぬのではないか」という疑問がありました。これについては、「樹木は冬になると内部の水の糖分濃度を高めて氷点を上げる」という説明で、今のところは納得しています。
どこまで掘り下げても樹木は不思議です。だから面白いんですけどね。
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