樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

株主のみなさまへ

2007年05月30日 | 伝説の樹
前回ご紹介した伏見稲荷には「根上がり松」という名物の木があります。写真のように、松の根が2本せり上がって大きく突き出ているのです。昔の人はこの根を人間の脚に見立て、その下をくぐると膝の痛みが直るという信仰を生み出しました。

      

ところが、現在は別のご利益があることで有名になっています。「根上がり」を「値上がり」と読みかえて、株を取引する相場師や証券業界の人々が参拝しているのです。私が訪れた時も、証券会社の名前を書いたミニ鳥居が奉納してありました。
まさに「語呂合わせは日本の文化」なのですが、私は単なる語呂合わせでないことを発見しました。
もともと「株」は「木の切り株」とか「苗の株分け」と言うように、植物の根元あたりを意味します。たくさんの根を張って1本の樹を支えるところから、共同の利益を守る同業組合を「株仲間」と呼ぶようになり、そこから「株式会社」や「株券」という言葉が生まれたのです。
つまり、「根上がり松」は「株上がり松」とも言えるのです。語呂合わせで「値上がり松」にしなくても、もともと株が上がっているわけです。稲荷神社の広報部に教えてあげようかな?
私は持っていませんが、株を持っている方はぜひ伏見稲荷にお参りください。ただし、「根上がり松」は現在は枯れていて、コンクリートで固めてあります。それでも、全国から投資家や株主が訪れるらしく、鳥居や小さな祠がたくさん建っていました。
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鳥が居る木

2007年05月28日 | 木と宗教
写真は、全国のお稲荷さんの総元締め・伏見稲荷の千本鳥居。たまにCMやドラマに登場するので、ご存知かも知れません。赤い鳥居のトンネルが山の上まで続いていて、総延長では2kmくらいあります。
鳥居は普通ヒノキで作られますが、伏見稲荷の鳥居はスギを使うそうです。お稲荷さんと杉は深い因縁があるからです。

      

平安時代、貴族が紀州の熊野詣でに出かける前、ここで道中の安全を祈って杉の枝を身に付けるという信仰が生まれました。それが、いつしか「しるしの杉」と言われるようになり、さらに稲荷山の杉を持ち帰り、庭に植えて根付けば願いが叶うという信仰に変りました。
「如月や 今日初午のしるしとて 稲荷の杉はもとつ葉もなし(初午に参詣した人々が小枝を持って帰るので稲荷山の杉はすっかり葉がなくなってしまった)」という歌が残っているほどです。
現在も2月の「初午大祭」には、多くの参拝客が商売繁盛や家内安全を祈りながら杉の枝を飾った「しるしの杉」を持ち帰ります。スギが伏見稲荷の神木になったので、鳥居にもスギを使うようになったようです。
ちなみに、参拝道には茶店が何軒かあるのですが、お勧めメニューはもちろん「きつねうどん」と「稲荷寿司」。

      
        (稲荷山の中腹には大杉を祀った社もあります)

さて、ツリー&バードウォッチャーとしてはこの「鳥居」という文字にひっかかります。なぜ「鳥が居る」のだろう? 調べてみて一応納得できるのは以下のような由来でした。
天照大御神(あまてらすおおみかみ)が岩戸にお隠れになった時、長鳴鳥(ながなきどり)を横木に止まらせて鳴かせたところ大神が出てこられた。その止まり木が鳥居の起源だそうです。
でも、「長鳴鳥」ってどんな鳥なんだろう? 
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幸せを運ぶコウノトリ

2007年05月25日 | 野鳥
4月に帰省した際、豊岡市まで足を延ばして「コウノトリの郷公園」に行ってきました。先日、43年ぶりに野外でヒナが誕生したとテレビで報道していたのでご存知の方も多いでしょう。
兵庫県北部はコウノトリの最後の生息地で、平成元年に人工繁殖に成功して以来、現在では100羽以上に増殖し、そのうちのいくつかが自然放鳥されています。
私が訪れた時も10羽ほどが水場にいて、3羽がどこかから飛んできて着地しました。真上を飛ぶコウノトリはやはり大きく、その姿は優雅でした。

      
        (見学棟の横の水場でゆったり採餌するコウノトリ)

コウノトリは昔からツルと混同されたようです。花札や掛け軸に「松と鶴」が描かれていますが、ツルは木に止まれないので、コウノトリを誤認したのだろうと言われています。豊岡でもコウノトリが生息する山を「鶴山」と呼んだり、田植え歌に「松の枝に止まる鶴」という歌詞があるそうです。
また、民話『鶴の恩返し』ではツルが機(はた)を織りますが、これもコウノトリのクラッタリング(嘴をカタカタ鳴らすこと)を機織りの音になぞったものだという説があります。

      
        (見学棟の屋根にも止まって姿を見せてくれました)

コウノトリと言えば「赤ちゃんを運んでくる鳥」。ヨーロッパのコウノトリは家の屋根に木の枝で籠のような巣を作ってヒナを育てるので、赤ちゃんを籠に入れて運んでくるという話が生まれたのではないか、と言われています。
「コウノトリの郷公園」の周辺には広い水田が確保され、立派な見学棟や研究棟が建ち、土産物を販売する店もあります。私が訪れた日も観光バスや車がいっぱいでした。豊岡市は2004年に円山川が氾濫して大きな被害を受けましたが、コウノトリによる町おこしは大成功のようです。
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樺燭の典

2007年05月23日 | 木と言葉
土曜日に姪の結婚式に参列してきました。媒酌人なしのシンプルなセレモニーでした。
結婚式のことを「華燭の典」と言いますが、正しくは「樺燭の典」だという説があります。「樺」はカバノキ、「燭」はあかり。
シラカバなどカバノキの樹皮は、適度に油を含んでいるため非常に燃えやすく、昔から照明用のタイマツに使われてきました。それをたくさん燃やして、婚礼の式典を演出したので「樺燭の典」が正しいと言うのです。

      
   (シラカバの樹皮。画像は北海道のguitarbirdさんにいただきました)

こういう話には疑り深くなっているので、図書館に行って大きな漢和辞典で調べてきました。結果、「樺燭」も「華燭」も掲載してありました。
樺燭は「カバノキの皮で蝋を巻いて作ったともしび」と解説して、白楽天の詩の一節を紹介しています。華燭は「①明るいともしび②結婚」とあり、これも昔の事例が示してあります。
私の推測ですが、もともとは「樺燭」という言葉だったものが、結婚式の華やかなイメージに引っ張られて「華」という字が使われるようになったのではないでしょうか。
カバノキの中にはウダイカンバという樹もあります。漢字で書くと「鵜松明樺」。鵜飼いをする際の松明(たいまつ)に使われたのでこの名があります。
キャンドルサービスなどがある現代の結婚式は、「樺燭の典」というよりも「蝋燭の典」でしょうか。
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タワシの木

2007年05月21日 | 木の材
美しいとは言えないので誰も注目しませんが、シュロが花を咲かせています。
シュロはヤシ科なので何となく南国のイメージですが、日本に自生するワジュロ(和棕櫚)は耐寒性があって東北地方でも育つようです。

      
        (これは唐棕櫚。近くの家の庭で花が咲いていました)

シュロの皮から取れる茶色い繊維は、昔からタワシやシュロ箒、シュロ縄に使いました。今では、タワシはスポンジに、シュロ箒は掃除機に、シュロ縄はビニール紐とって代わられ、目にする機会が少なくなりました。

           
      (いつも行く花寺の和棕櫚。茶色の繊維が役に立つんです)

和歌山県の野上町がかつてはシュロ製品の一大産地だったそうですが、現在では国産のシュロの繊維が入手できず、中国産を使いながら細々とタワシや箒を作っているようです。
シュロの繊維には油分が含まれているので耐水性に優れ、しかも柔らかく、弾力性や耐久性もあるのでタワシにはピッタリなのだそうです。

      
      (昭和30年代にタイムスリップしたようなシュロ製品のお店)

京都の三条大橋のたもとにシュロ製品を扱っている古いお店があります。看板も上がっていないのでお店の名前は分かりませんが、店頭にはタワシやブラシ、箒、玄関マットなどが並べてあります。こんなお店がメインストリートに残っているというのは、京都ならでは。私もタワシを一つ買いました。
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カネボウの逆襲

2007年05月18日 | 木と美容
以前、カネボウ化粧品が中国の桂花(日本で言うキンモクセイ)の香りにダイエット効果があることを発見したという報道がありました。
詳しく調べてみると、大阪大学大学院との共同研究で、桂花の香りが中枢神経にある物質の発生を抑え、結果的に飲食量が減るという研究でした。桂花の香りのあるグループとないグループに分けて実験したところ、前者は摂食量、飲水量、体重ともに減少し、気分が向上し、リラックス効果があることも分かったそうです。

      
      (日本のキンモクセイと中国の桂花は香りが違う?)

さらに、この研究の過程で、中国の桂花と日本のキンモクセイでは香りが異なり、桂花はフローラル系の柔らかい香り、キンモクセイは強い甘さを感じさせる鋭い香りだったそうです。私はキンモクセイ=桂花と思っていたので、ダイエット効果よりもこっちの発見の方が興味深かったです。
さらに、カネボウ化粧品はホオノキから抽出したエキスにメラニンの生成を抑える効果があることも発見しました。今年の夏には、この成分を配合した美白化粧品を商品化するそうです。偶然でしょうが、同じ会社が立て続けに樹木から美容効果のある成分を発見したのです。

      
      (ちょうど1年前の記事に使ったホオノキの写真)

カネボウグループは粉飾決算が発端で現在は再建中ですが、カネボウ化粧品は頑張っているようです。女性のみなさん、この夏カネボウ化粧品から発売されるホオノキエキスの美白化粧品に注目してくださいね。
タイトルを「カネボウの逆襲」としたのは、昨年の6月に「資生堂の逆襲」と題して椿のシャンプーを取り上げたからです。
なお、当ブログは1周年を迎えました。始めた頃は「1年も続くかな?」と思っておりましたが、みなさまのお陰でまだまだ続きそうです。これからもよろしくお願いします。
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ナンジャモンジャ

2007年05月16日 | 木と言葉
「ナンジャモンジャ」という変な名前の木があることは、けっこう知られています。
正式な名前もちょっと変で「ヒトツバタゴ」。意味は「一つ葉タゴ」で、普通のタゴ(=トネリコ)は複葉なのに単葉なのでこの名になりました。
日本では岐阜県と愛知県、対馬に自生し、いずれも国の天然記念物に指定されています。このように離れた地域に局地的に分布する樹木は珍しいそうです。植物園やたまに街路樹にも植えられています
写真は、京都市の洛西ニュータウンで見つけたヒトツバタゴ。宇治市の植物園にも1本ありますが、ここには約20本植えられていました。「雪のような花」という意味の学名どおり、白い花が樹を覆うように咲いていました。

      

現在はナンジャモンジャ=ヒトツバタゴと思われていますが、昔はこの名前で呼ばれる樹はたくさんあったようです。その一つ、千葉県の神埼神社にあるクスノキの巨木には、徳川光圀(水戸黄門)が何の木だか分からないので「なんじゃもんじゃの木」と名づけた、という話が伝わっています。
このほか伊豆三島神社のカツラ、埼玉県松山町のイヌザクラ、千葉県清登山のバクチノキなど、全国45ヶ所に29種類の「ナンジャモンジャ」があるそうです。東京の明治神宮にもヒトツバタゴがあり、その樹が「ナンジャモンジャ」と呼ばれていたので、首都の強みで一般的になったのではないでしょうか。
樹種がはっきり分からない樹を、各地でそれぞれ「なじゃもんじゃの木」と呼んでいたのでしょう。今で言うなら、「この木なんの木、気になる木」ですかね。
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ドングリを食べる豚を食べる

2007年05月14日 | 木と飲食
「ハモンイベリコ」ってご存知ですか? 最近話題になっているスペイン産のイベリコ豚の肉で作ったハムです。
グルメじゃないので流行の食材には無関心ですが、このイベリコ豚はコルクガシという樹のドングリだけを食べさせて育てると聞いて、前から気になっていました。コルクガシはヨーロッパ、北アフリカなど地中海沿岸原産で日本には自生しません。
ハモンイベリコは高価ですが、妻が近くのスーパーでスペイン産のイベリコ豚肉を買ってきてくれたので、さっそく塩と胡椒だけでソテーして食べてみました。

      

私は魚の脂は大好きですが、肉の脂は苦手で、メタボ防止もあって料理の際には脂身を取り除きます。でも、このイベリコ豚の脂はノープロブレム! 噂どおり、軽くてサラッとしていて、口の中で溶けました。しっかり豚肉の味もします。
コルクガシは名前のとおりコルクの原料。樹皮のコルク層が厚く、古代ギリシアの時代からワインの栓やサンダルなどに使われてきました。日本では戦争中、同じブナ科のアベマキやクヌギの樹皮をコルクの代用にしていたそうです。

         

上の写真は時々訪れる「森林総合研究所関西支所」に植えてあるコルクガシ。春に撮影したのでドングリは確認できませんでしたが、樹皮は「さすが本物のコルク」と思わせました。
ガチョウにむりやり餌を食べさせて作るフォアグラもそうですが、おいしい肉を食べるためにドングリだけを豚に食べさせるという人間の、良く言えば「こだわり」、悪く言えば「欲深さ」には驚きます。
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砂を噛むような果物

2007年05月11日 | 木と飲食
大人気の韓国ドラマはほとんど見ませんが、中世の宮廷料理人を描いた「チャングム」だけは見ました。現在も衛星放送で再々放送されていて、一度見たのにまた見ています。
その中で、料理にナシを使うシーンがたびたび出てきます。すり下ろして調味料にしたり、カットしたものを料理に使っています。キムチにもナシを入れるようで、朝鮮料理にナシは不可欠のようです。

      

写真はそのナシの花です。4月に帰省した折に、果物の産地として知られる久美浜町で撮ってきました。ナシはサクラやウメと同じくバラ科。こうして見るとなかなかきれいですが、なぜか昔の人はナシの花を見下していて、平安時代は愛嬌のない人の顔に例えたようです。
ちなみに、鳥取県の花はナシ。しかも「二十世紀」と品種まで限定しています。
歌舞伎の世界を「梨園」と言いますが、これは中国の玄宗皇帝が梨の樹を植えた庭に音楽や舞踊の学校を作った故事に由来し、江戸時代の漢学者が演劇界のことを「梨園」と呼んだのが始まりだそうです。
欧米では西洋梨が普通で、私たちが食べる梨はsand pearと呼んでいます。シャリシャリした食感が砂を噛むように思えるのでしょうか。逆に、日本人には西洋梨の食感は頼りないですね。
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木のオーケストラ

2007年05月09日 | 木と楽器
4月25日のギターに続いて、「木と洋楽器」のパート2はピアノです。
私が木に興味を持ったのは、植物としての不思議さもさることながら、材としての用途の多彩さに感心したからです。例えば、ピアノは響版にドイツトウヒ、鍵盤にバスウッド(シナノキ)、絃を叩くハンマーにシデ、木枠にはカエデが使われていると本に書いてあります。その細分化された用途に、自然の創造とそれを活用する人間の知恵の偉大さを感じて木の世界に引きずり込まれました。

      
      (ピアノの響板は産地によって名前が違うものの全てトウヒ類)

その耳学問を確かめるために、先日、鳥仲間のピアノの先生を訪ねてきました。驚いたことに、そのレッスン室にはグランドとスタンドの2台のピアノのほかにチェンバロ2台、電気ピアノ1台、なぜかチェロも2台置いてありました。
ピアノの最も大切なパーツは弦の音を共鳴させる響板。その先生がメーカーに確認したところ、「ドイツ製のスタンドピアノはドイツトウヒ、ヤマハのグランドピアノはスプルース」だそうです。スプルースはドイツトウヒを意味したり、北米産のトウヒを意味したり、あるいはトウヒ属の材木を総称することもあります。また、日本産のアカエゾマツ(マツ科トウヒ属)もピアノの響板に使われています。いずれにしても、響板はトウヒ類と決まっているようです。

      
    (ドイツ製のスタンドピアノ。響板はドイツトウヒ、鍵盤はスプルース)

次は、鍵盤。本には「日本ではアカエゾマツ。欧米ではバスウッド(アメリカシナノキ)を、狂いを防ぐために凍結した丸太から製材し、天然乾燥して使う」と書いてあります。先生のピアノはグランドもスタンドもスプルースだそうです。昔は白鍵には象牙、黒鍵にはコクタンを使ったそうですが、今では望むべくもないでしょう。

      
      (ハンマーはカエデ。硬い素材がいいようです)

絃を叩くハンマー(アクション部)について、本には「シデ、カエデ、ツバキ」とあり、先生の確認でもカエデということでした。また、絃の張力を支える木枠(ボディ)は強さが必要なので、現在はカエデやケヤキ、ブナなどの合板が使われているようです。
カワイのホームページによると、最近は黒いピアノだけでなく木目を生かしたピアノも人気があり、それらはマホガニー、ウォルナット(クルミ)、チェリーなどの化粧材が使われているとか。
「ピアノは楽器のオーケストラ」と言われるそうですが、私にとっては木のオーケストラです。
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