樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

雁風呂

2012年02月27日 | 野鳥

私が広告業界に入った頃、サントリーがこんなCMを流していました。

 

 

 

雁は北から渡ってくるとき木の枝をくわえて飛び、疲れるとその枝を海に浮かべて止まって休む。青森県外ケ浜まで来ると、枝を捨ててさらに南へ渡る。そして、春になると再びその枝をくわえて北へ帰る。しかし、帰れなかった雁も多く、浜にはたくさんの枝が残る。この地方の人はその枝を集めて風呂を焚き、帰れなかった雁を供養する。

これが「雁風呂」の伝説。落語にもこの話があるそうで、「雁風呂」は春の季語にもなっています。

せつなさが漂う日本人好みの話ですが、バードウォッチャーでなくても、雁が木の枝をくわえて飛ぶことはありえないと分かるでしょう。全くの作り話で、青森県の人たちも「そんな説は聞いたことがない」と言っているそうです。

 

 

湖北で撮影したマガン

 

この話の出所は江戸時代の『採薬使記』という書物。「(前半略)他国にて多くの人の為に捕れたる雁の供養なる由、毎春の例とせり、これを俗に外ケ浜の雁風呂湯という」。

同じ書物に、これによく似た中国の話が載っているので、それをベースに作者が創作したのではないでしょうか。

ということは、サントリーのCMもその作り話に乗せられて、もっともらしくでっち上げたということになります。青森県のある公的機関のWebサイトによると、このCMが流れて以降、現地の人たちは観光客に「雁風呂」のことを聞かれて困ったそうです。

私もこの業界で長年仕事をしていますが、広告は時々こういう罪作りなことをしますね~。

 

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木が奏でる音楽

2012年02月23日 | 木と楽器

先日、NHKEテレで興味深い番組を放送していました。タイトルは「フォレストシンフォニー 森の生命の交響曲」。樹木が発する微弱な生体電位を音楽に変換するという坂本龍一の試みを紹介する番組です。

宮崎県の森ではコナラ、ツバキ、ヤブニッケイの3種類の樹木の電位を収集していました。幹に器具を取り付け、生体電位の変化を1100コマの速度で24時間記録。それを人間の可聴域の周波数に変換してから、ある音階に変換すると、不思議なことに音楽になるのです。

 

 

うちのコナラも生体電位を発しているのかな?

 

「木は光をエネルギーに換える天才。その周期性を音楽にしてみたい」というのがこの試みを始めた動機だそうです。

当ブログでも取り上げたことがありますが、坂本さんは以前から樹木に関心を持ち、NPO法人「More Trees」を設立して森林保全活動を展開しています。また、林業の町・岩手県住田町に地元産木材を使った被災者用住宅を建てるため、その資金集めに奔走しています。

 

 

庭のツバキも音楽を奏でるのかな?

 

番組では、ニューヨーク郊外の森でも樹木の電位を収集し、陸前高田市の「奇跡の一本松」からも記録をとっていました。最後の方で、その「奇跡の一本松」の電位を変換した音楽を流しながら、“教授”がエレクトリックピアノで伴奏をつけていました。

音楽を言葉で表現するのは難しいですが、前衛的なクラシックというか現代音楽というか、これまでに聞いたことがない種類の音楽でした。不快な音楽ではなく、むしろ「もっと聴いていたい」と思える音楽です。

YMOが登場した頃、私はテクノポップとは真逆の人間臭い音楽に入れ込んでいたので全く興味がなく、音楽家としての坂本龍一にも関心はなかったのですが、この番組を観て少し見方が変わりました。

 

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鳥取県

2012年02月20日 | 野鳥

以前から「鳥取」という県名がひっかかっていました。野鳥保護の立場に立つ者から見ると、「鳥を取る」とは不埒な県です。

「鳥を取るな!」と訴えている日本野鳥の会には鳥取県支部もありますが、現地の会員はその言語矛盾に悩んでおられるのではないでしょうか。

なぜこのような県名になったのか、ずーっと疑問でしたが、最近ようやくその由来が分かりました。その出所は『古事記』や『日本書紀』。

垂仁天皇の皇子は成人になっても言葉が話せなかったのですが、ある時、白鳥の群れが飛んで行くのを見て、「あれは何と言う鳥か」と初めて言葉を発しました。

喜んだ天皇は、臣下に白鳥を捕獲するよう命令。その臣下は各地を巡ってようやく生け捕り、天皇に献上しました。皇子は白鳥と遊ぶうちに言葉を話すようになったので、天皇はその臣下に鳥取造(ととりのみやつこ)という姓を賜って報いた…という話です。

 

 

鳥取県ではなく滋賀県・湖北で撮影したコハクチョウ

 

白鳥を捕獲した場所が現在の鳥取県という話と、鳥取造の領地が現在の鳥取県という話が残っていますが、いずれにしても「鳥取」の鳥は白鳥だったわけです。

確かに、現在も鳥取県の海沿いには多数の白鳥が飛来します。私も行ったことがありますが、米子にある水鳥公園はコハクチョウの越冬地として知られています。鳥取造は米子でコハクチョウを捕獲したのかも知れません。

そういう由緒正しい名前ですから、鳥取県の県鳥は当然ハクチョウだろうと思いきや、オシドリだそうです。ややこしいことに、お隣の島根県がハクチョウを県の鳥に指定しています。

 

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タイムカプセルの木

2012年02月16日 | 木と歴史

1970年に開催された大阪万博を記念して、大阪城公園にタイムカプセルが埋設されました。5000年後の世界に当時の日本の生活や文化、科学を伝えるために2000点以上の品々を収納したそうです。

埋設30年後の20003月、保存状態を調べるために試験開封された際、中に入っていた樹木の種を取り出して発芽試験が行われました。

その樹種と種の数は、スギ100粒、ヒノキ41粒、アカマツ96粒、トドマツ51粒。それらを森林総合研究所が発芽させ、最終的にヒノキ1本、アカマツ13本、トドマツ4本の苗木に育てました。

その木の一部が、近くの森林総研関西支所に植えてあります。

 

 

タイムカプセルの木の一つ、ヒノキ。樹高は約2.5m

 

アカマツ13本はこのプロジェクトを主催した毎日新聞大阪本社と松下電器産業(現パナソニック)本社に3本ずつ、そして万博記念公園にも3本植樹されました。

森林総研の植物園にもアカマツが3本植えてあります。うち1本は主幹が伐られていますが、他の2本は5mくらいまで元気に育っています。

 

 

タイムカプセルのアカマツ

 

計画では2100年にタイムカプセルを再度開封するそうですが、その頃には現在関わっている人たちはいないわけで、その経緯を知っているのはこれらの樹木だけということになります。

2100年を想像するのさえ難しいのに、5000年先の未来に現在の姿を伝えようという何とも壮大なプロジェクトですね。

 

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日本最強の鳥

2012年02月13日 | 野鳥

日本には約500種類の鳥がいますが、その中で最も強い鳥は何だろう?という素朴な疑問が湧いてきました。

猛禽類であることは間違いないでしょうが、タカよりもワシの方が強そうです。「タカとワシはどう違うの?」という質問を受けることがありますが、明確な違いはなく、タカの中でも大きい種類をワシと呼んでいます。英語でもhawkeagleを使い分けますから、世界共通なのでしょう。

日本でよく見られるワシはイヌワシ、オジロワシ、オオワシ。私は以前から「イヌワシが一番強い」と思っていましたが、「オオワシが近づいたらイヌワシが逃げた」という話もあるので、オオワシが最強かも知れません。

そのオオワシは主に北海道に渡来する冬鳥ですが、琵琶湖北部にも毎年1羽やってきます。先日の湖北ツアーも、それを見るのが大きな目的でした。

 

 

 

この後、頭上を飛んだのであわてて手持ちで撮った静止画が下です。やっぱり、デカい!

 

 

 

図鑑によると、翼を広げたサイズは約240cm。基本的にはデカい方が強いので、約215cmのイヌワシよりも強いだろうと推測できます。また、オジロワシは約230cmでほぼ同じですが、YouTubeにアップされている下の動画では、オオワシに席を譲っています。

 

 

 

オジロワシとイヌワシの2位決定戦では、少し大きいオジロワシの方が有利でしょう。となると、強さでは①オオワシ ②オジロワシ ③イヌワシという順序になります。

しかし、日本にはもう1種ワシがいます。石垣島に生息するカンムリワシ。

 

 

カンムリワシ photo by J.M.Garg

 

サイズは約140cmとかなり小さいですが、このワシが日本最強かも知れません。何と言っても、2423勝を誇るライトフライ級の世界チャンピオンですから。

 

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My Favorite Duck

2012年02月09日 | 野鳥

暖かい陽射しを背中に浴びながら、水面にプカプカ浮かぶカモをのんびりと眺める…。私の冬の楽しみの一つです。

この近辺で見られるカモは10種類くらいですが、その中でも私のお気に入りはヒドリガモ。他のカモは「ゲェゲェ」とか「ガァガァ」とか鳴き声が汚いですが、ヒドリガモだけは「ピューピュー」と指笛のような声で鳴きます。ちょっと哀愁があって惹かれます。その声を入れて撮影しました。

 

 

 

宇治川沿いに住んでいた頃、冬になるとこの「ピューピュー」が聞こえてきて、幸せな気分に浸っていました。

声もかわいいですが、エンジと黄色の頭の色もかわいいでしょう? アメリカンフットボールにワシントン・レッドスキンズというチームがあって、ヘルメットの配色が同じなのでいつも思い出します。

そのアメリカにはヒドリガモによく似たアメリカヒドリが生息しますが、時々日本にもやってきます。図鑑によると、ヒドリガモの繁殖地はシベリア、アメリカヒドリはアラスカと分かれていますが、ベーリング海峡あたりで混じるのでしょう。交雑することも多く、日本にやってくるのはほとんどが雑種で、年末に鴨川で撮影した個体も雑種だと思います。

 

 

 

本物のアメリカヒドリは頭が鮮やかな緑色で、アメフトのヘルメットに例えるとフィラデルフィア・イーグルス。この雑種はシルバーグレーなので、あえて言えばオークランド・レイダースかな。

そのアメフトも先日、ニューヨーク・ジャイアンツがスーパーボウルを制して閉幕しました。ここに上げた3チームはプレイオフにも進めませんでした。

 

 

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落書き寺

2012年02月06日 | 木と宗教

南北朝時代の武将・楠木正成は鎌倉幕府に反抗したため関東では悪党扱いのようですが、関西では英雄です。各地に伝説や史跡が残っていて、いずれもクスノキがからんでいます。

たまたま通りがかった大阪の公園には楠木正成・正行の親子分かれの場という史跡があり、クスノキ林になっていました。また、正成が自害したという神戸の湊川神社も境内がクスノキだらけです。

宇治市の隣・八幡市にも、楠木正成が武運長久を祈願してクスノキを寄進し、その残り株で作った大黒天を安置したというお寺があります。

 

 

クスノキで作られた大黒天

 

楠木正成とクスノキの縁について、『太平記』には次のように書かれているそうです。

倒幕の謀議が発覚して都を追われた後醍醐天皇が、大きな木の南側に玉座(天皇が座る場所)があり、童子が現れて導いたという夢を見た。木に南と書くとクスノキになるので、後醍醐天皇がクスノキという名前の武将を探して楠木正成を呼び寄せた…。

歴史上の人物の姓と樹木を結びつけた史跡や伝説がこんなにたくさん残る例は珍しいのではないでしょうか。

ところで、大黒天のあるお寺は単伝寺と言いますが、「落書き寺」という名前の方が通っています。普通のお寺は落書き禁止ですが、この大黒堂の内壁は遠慮なく落書きできるのです。

もともと和尚もいない荒れ寺を多くの人が援助して復興したので、「せめてみんなの願い事を大黒さんによく見えるように、お堂の白壁に書いてもらおう」ということで始まった風習だそうです。

 

 

壁に書かれた願い事

 

落書きを見ると、合格祈願、恋愛成就、安産祈願など、要するに絵馬の代わりに壁に願い事が書いてあります。堂内には落書き用のマスが置いてあり、その範囲に書くようになっています。

 

 

落書き用のマス

 

年末に白く塗り替えるそうですが、私が訪れた1月下旬にはすでに半分くらいのスペースがうまっていたので、遠慮して落書きしませんでした。

 

 

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湖北ミニツアー

2012年02月02日 | 野鳥

毎年初夏に鳥見ツアーに出かける仲間3人で、琵琶湖北部へミニツアーに出かけました。目的はハクチョウなど大型の冬の水鳥とワシタカ類。

この寒波の中、彦根や長浜あたりまで北上するとやはり白銀の世界。私は雪国育ちなので、ほっとするような懐かしい風景でした。最初のポイントは湖北野鳥センター。私は78年ぶりの再訪です。

バリバリに凍った道を歩きながら湖を眺めていると、コハクチョウやオオヒシクイ、数種類のカモ、タゲリなどが目を楽しませてくれます。中でも、ここならではの冬の風物詩はオオヒシクイ。ガンの仲間では最も大きい種類ですが、図鑑ではヒシクイの亜種として扱われています。

 

 

 

少し南へ下った早崎ビオトープでは、池の中でたくさんのコハクチョウやカモが泳いでいます。池の真ん中は氷が張っていて、その上をコハクチョウが滑りながら歩いていました。

この日の温度は2℃くらい。手袋をはずすとかじかむほどでしたが、陽射しを浴びながら、のんびりと白い鳥を見ていると気持ちがホカホカしてきます。下の動画の頭は雪を被った伊吹山。

 

 

 

それからさらに南へ下った干拓田でノスリを見た後、夕方に活動する猛禽ハイイロチュウヒを観察するためにヨシ原へ。

しばらく待った後5時過ぎに、バーダーの間で「ハイチュウ」と略称で呼ばれるタカが出現。ヨシ原の上を何度も旋回しながら、その雄姿(メスですが)を見せてくれました。

 

 

 

湖北のもうひとつのハイライトであるオオワシは日を改めてご紹介します。

 

 

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