樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

イケメンカズラ

2014年12月29日 | 木と美容
みなさんは整髪料に何を使っていますか? 私は現在はワックスを使っていますが、その前はムースでした。
男の整髪料にも流行り廃りがあって、ワックスやムースのほかにもウォーター、ミスト、オイル、リキッド、クリーム、グリース、ジェル、スプレー、ポマードなど10種類以上あります。
昔はどうだったかというと、サネカズラという樹木から作った整髪料を使っていたようです。


府立植物園で撮ったサネカズラの実

「サネ」は「実」のことで、「美しい実をつけるカズラ(ツル性植物)」という意味だそうです。別名「ビナンカズラ(美男蔓)」、現代風に言えば「イケメンカズラ」。
この木の樹皮から採取した粘液を昔の武士などが整髪に使ったことから、この名前で呼ばれるようになりました。粘液ということは、今でいう「ヘアージェル」でしょうか。整髪のほか、絹の糊づけや製紙にも使ったそうです。
私は年々髪が少なくなって、整髪料が要らなくなりつつあります。そうなれば、シャンプーも要らないし、散髪屋さんに行く必要もなくなるわけですね。寂しい気もしますが、いっそその方がサッパリしていいかな(笑)。
自虐ネタになりましたが、今年の更新はこれで最後です。1年間ご愛読いただき、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
よいお年をお迎えください。
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冬のシギ

2014年12月25日 | 野鳥
近くの干拓田を流れる小川に、今頃いるはずのない鳥がいました。9月29日の記事「シギは図太い」でご紹介したアオアシシギです。
その時は6羽の群れでしたが、現在は4羽に減っています。下の動画を撮影したのは12月10日。



このシギは旅鳥で、本来なら今頃は東南アジアで越冬しているはずです。調べてみると、沖縄では普通に越冬し、本州でも時々越冬する個体がいるようです。
アオアシシギを観察していると、その近くに小型のシギが2羽飛んできました。ハマシギです。この鳥は本州でも越冬するので不思議はありません。



15年程前の夏、アメリカの研究者がアラスカで50羽のハマシギに標識を着けたところ、翌年1月に千葉県の谷津干潟と三番瀬、神奈川県の多摩川河口で各1羽が確認されたそうです。
標識を着けた場所(北極海の河口)の夏の平均気温を調べてみると約3℃~4℃。一方、千葉県の冬の平均気温は6℃~8℃。わずか3℃~4℃の温度差のために、はるばるアラスカから日本まで渡ってくるわけです。リスクが高い割に、得られる環境は大差がないですね。
上のアオアシシギはそのことに気づいて、「南へ行っても大して温度は変わらへんし、面倒臭いし、ここで正月を迎えよう」と決めたのかも知れません。やっぱりシギは図太いです(笑)。
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カワセミの日々

2014年12月22日 | 野鳥
今日は冬至。しかも、新月と重なる19年に一度の「朔旦冬至(さくたんとうじ)」で、月の復活と太陽の復活が重なるめでたい日とのこと。
この冬至の前後2週間を、ヨーロッパではhalcyon days(ハルシオンデイズ=カワセミの日々)と呼ぶそうです。
英語でカワセミはkingfisherですが、ギリシャ神話に悲劇の死を遂げた夫を悲しんで自殺し、死後にカワセミになったハルシオンという女性が登場するので、こう呼ばれているようです。



このカワセミと冬至の関係について、ギリシャの哲学者アリストテレスが『動物誌』の中で次のように書いています。
鳥類はたいてい春から夏の初めにかけて交尾し産卵を行うが、カワセミだけは例外である。カワセミは冬至の頃産卵する。それゆえ、冬至が穏やかな日和ならば、冬至の前の7日と後の7日は「カワセミの日々」といわれるのである。(中略)カワセミは7日間で巣を造り、残りの7日間で卵を産み、雛をかえす、といわれている。
カワセミが冬至の頃に産卵するというのは神話のための作り話のようですが、日本のある研究者が3年間調査したところ、7日間で巣穴を掘り、7日間かけて1日に1個ずつ卵を産んだそうです。
この点では、アリストテレスの知見はきわめて正確だったわけです。驚きますね。
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月桂冠とオリーブ冠

2014年12月18日 | 木と文化
マラソンの優勝者には月桂冠が与えられます。また、F1レースの優勝者も月桂冠を首にかけて表彰台に登ります。
一般的に、オリンピックなどスポーツ大会の勝者は月桂冠を頭に飾ると思われていますが、これは間違いだそうです。スポーツの勝者に与えられるのは、本来は月桂冠ではなくオリーブで作った冠。


庭のオリーブで作ったオリーブ冠

そもそも、古代ギリシャの英雄ヘラクレスがオリンピアの庭に植えたオリーブの枝を、オリンピックの勝者に与えたことが由来。2004年のアテネオリンピックでも、優勝者には金メダルとともにオリーブ冠が与えられたそうです。
一方、ゲッケイジュは文化芸術の神・アポロンの聖樹とされていて、その枝で作った月桂冠は詩人や文人の頭上を飾るもの。ノーベル賞受賞者がNobel Laureates(ノーベルのローリエを冠された者)と呼ばれるのも、そういう意味からだそうです。
スポーツではオリーブ冠、文化では月桂冠というわけです。


庭のゲッケイジュで作った月桂冠

最近はその間違いに気づいたスポーツ関係者も多いようで、2012年の大阪国際マラソンでは、それまで優勝者に授与していた月桂冠をオリーブ冠に変えたとのこと。
オリーブが平和のシンボルになったのも、都市国家どうしで戦争を繰り返していた古代ギリシャにおいて、オリンピック開催中だけは休戦にしたからだそうです。
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雪の木

2014年12月15日 | 樹木
先週と同様、厳しい寒波が襲った先々週の週末、栃の森に行ってきました。「哀愁の森」と題してご紹介した前回の訪問から2週間後ですが、森はすっかり雪景色でした。



私は樹種を主に葉で識別するので、この時期の落葉樹は苦手。動画のミヤマガマズミも、単なるガマズミやコバノガマズミ、あるいはオトコヨウゾメの可能性もありますが、実の形や標高から推定しました。
下の画像はカエデ。枝が左右対称に出ている中高木は、栃の森ならカエデの仲間と断定できますが、種類までは絞り込めません。樹皮を見るとウリハダカエデではないので、多分ハウチワカエデとかコハウチワカエデでしょう。



今回の散策で初めて出会った木もあります。下の樹木には「保存木・ユクノキ」という表札が掛けてありました。



名前は聞いたことがありますが、まったく予備知識がありません。図鑑によると、マメ科フジキ属の日本固有種とのこと。
白い花をたくさんつけるので「雪の木」と呼ばれ、それが「ユクノキ」に転じたという説があるようです。この時期はその白い花はありませんが、文字通り雪の木でした。
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最近出会った鳥たち

2014年12月11日 | 野鳥
以前ご紹介したように、ミツデカエデの黄葉を確認するために京阪電車「祇園四条」に出向きましたが、その際ついでに鴨川でダックウォッチングしてきました。すると、オナガガモやヒドリガモの群れにアメリカヒドリが1羽混じっています。
以前は結構珍しい鳥でしたが、最近はそれほどでもなくなってきました。それでも予期せぬ出会いが嬉しくてカメラに収めました。



その数日後、今度は淀川にホシムクドリを探しに出かけましたが、結局会えませんでした。しょうがないので、これまでに何度か訪れた葦原に寄ると、ホオジロやベニマシコがチョロチョロしています。
カシラダカも10羽ほどの群れが草むらから出たり入ったりしていました。隠れんぼしている子どもみたいで可愛いかった。
誰もいない葦原。聞こえてくるのは風にそよぐ葦の音と鳥の声…。飽きもせず、ずーっと眺めたり撮ったりしていました。



それから数日後、大阪南部の池にヘラサギが滞在しているというので、電車を乗り継いで行ってきました。こちらは「出会った鳥」というよりも、「わざわざ会いに行った鳥」。



この池はよく珍しい鳥がやってきます。昨シーズンはクロツラヘラサギやヨーロッパトウネンが滞在しました。
私自身の記録を調べると、1995年と2001年に九州でヘラサギとクロツラヘラサギを見ています。クロツラヘラサギはその後2008年に沖縄で出会っているので、ヘラサギは13年ぶりの再会です。
環境省のレッドリストでは、クロツラヘラサギは絶滅危惧種(ⅠB類)となっていますが、ヘラサギは「情報不足」。それだけ出現頻度が少ないということでしょうか。
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山茶花

2014年12月08日 | 木と言葉
私の祖母は「スパゲティ」が言えなくて「スカベッチ」と言ってました。みなさんも子ども時代、「鉄筋コンクリート」を「鉄コン筋クリート」と言ってませんでしたか?
こういうのを「音位転換」と呼ぶそうです。私がいちばん笑った音位転換は、中年の女性がタレントの「ケイン・コスギ」を「コイン・ケスギ」と言った事例。
いま花盛りの「サザンカ」も音位転換だそうです。もともとは「サンザカ」。そう言えば漢字の「山茶花」は「サンザカ」と読めます。


赤花と白花が咲くサザンカ

ただ、中国では「山茶」と書いて「ツバキ」を意味します。茶の木とツバキは同じ仲間なので、茶の木は里の茶、ツバキは山の茶と考えていたのでしょう。
サザンカもツバキ科ですが中国にはないので文字がなく、漢字が日本に移入されてから、サザンカに「山茶」を充てたようです。ちなみに、中国で「椿」は「チャンチン」という別の木を意味します。

 
花弁がバラバラに散るのはサザンカ、花ごと落ちるのはツバキ。

「山茶」という漢字と「サンザカ」という読みがどこでどう繋がったのかは分かりませんが、いずれにしても「山茶花」→「サンザカ」→「サザンカ」と転位したようです。
「♪サザンカ サザンカ 咲いた道 たき火だ たき火だ 落ち葉焚き」も本来は「サンザカ サンザカ 咲いた道…」になるわけです。
ついでながら、「新しい」も奈良時代の「あらたし」が平安時代に音位転換して「あたらし」になったそうです。「新(あら)たに」は奈良時代の名残りとのこと。
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哀愁の森

2014年12月04日 | 樹木
11月下旬の3連休、栃の森へ行ってきました。7月以来、4カ月半ぶりです。今回はいつもの道が工事中のため、別ルートからアクセスしました。
林内は紅葉のピークを過ぎ、落葉樹は葉を落として冬支度の真っ最中。もう光合成もしませんから、春まで休眠状態に入ります。あとは、樹液中の糖度を高めて凍結に備えるのみ。
そんな樹木の姿を撮ってきました。



一方、すでに植物としての生命を全うし、いわば終末期を迎えている樹もたくさん見かけました。
コース最大のブナも数年前に台風で幹が折れ、瀕死の状態のところに、今回新たにキツツキの大きな食痕がありました。こうなれば後は静かに死を待つのみ。
そして、キノコが木の昇天に手を貸します。ナメコやエノキタケなどの木材腐朽菌が樹体を分解し、落ち葉や枯れ枝もホコリタケなどの菌類や微生物が分解して土に戻します。



春の芽吹きの頃の森も魅力的ですが、この時期の森には哀愁があって妙に惹かれます。自分自身が人生の晩秋を迎えつつあるからでしょうか。
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ワタリガラスはやかまし屋

2014年12月01日 | 野鳥
2年前、バードウォッチャーが主人公の映画『ビッグボーイズ』が各地で上映されました。その原作はドキュメントでしたが、小説でバードウォッチャーが活躍するものはないだろうかと調べたら、面白そうな作品があったので図書館で借りてきました。
そのタイトルが『ワタリガラスはやかまし屋』。創元推理文庫から出ているミステリー小説です。



休暇を過ごすためにコロラド州の叔母の家へやってきた女性が殺人事件に巻き込まれ、バードウォッチャーたちと一緒に解決するというストーリー。
珍鳥(シロスジヒメドリ)を探しに出かけた山中で、主人公が死体を発見します。被害者は猛禽類の不正輸出を追及していた野鳥雑誌の記者。猛禽のリハビリ施設を運営している叔母が犯人ではないかという疑惑が生まれたり、証拠品のCDをワタリガラスがくわえて巣に持ち運んだり、ストーリーのすべてが鳥がらみ。登場人物も刑事以外はほとんどがバードウォッチャーかレンジャーです。
面白いと思ったのは、鳥をおびき寄せる「ピッシュアウト」という方法。登場人物のセリフをそのまま書くと、「ピッシュアウトというのはバードウォッチャーの用語で、おしっこに似た音をたてることをいうの。そうやって、藪に潜んでいる野鳥を誘い出すのよ」。
作品の中でもシロスジヒメドリをおびき寄せるために、「クシュクシュクシュ」と音をたてています。


事件のきっかけとなるシロスジヒメドリ(Photo by Laura Erickson)

結局、犯人は叔母さんではなく、環境保護の過激派。日本では聞きませんが、アメリカには環境保護や動物愛護のために暴力も辞さないグループが存在し、「エコテロリズム」と呼ばれているようです。反捕鯨活動でよく報道される「シーシェパード」もその一つ。
作者のクリスティン・ゴフはバードウォッチャー・ミステリーを5冊書いていて、うち2つが翻訳されています。もう1冊もすでに読了しましたので、いつかまたご紹介します。
いずれもストーリー展開が面白く、バードウォッチャーにはたまらないミステリーです。
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