樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

山の塩

2006年10月31日 | 木と飲食
私のフィールドのひとつ「天ヶ瀬森林公園」では、ヌルデが白い実をつけていました。
この実には塩分があって、昔は山間部で塩の代用品に使ったそうです。一応ウルシの仲間なので少し勇気がいりますが、指で触るとヌルヌルしています。その指を舐めてみると、確かに塩辛いです。

      
       (今は白いですが、秋が深まると茶色くなります。)

ヌルデはあまり有名な樹ではありませんが、けっこう人間の暮らしに貢献してきました。塩の代わりのほか、この樹に発生する虫こぶからは、昔の女性のお歯黒に使う染料が採取されました。以前にも書きましたが、材は護摩木に使われました。また、漆ではありませんが、樹液は塗りものに使ったそうで、名前の由来もここにあると言われています。

      
       (羽状複葉の葉の間に翼があるのはヌルデ。)

野山を歩くと普通に見られる樹で、見分け方は葉と葉の間にある翼。こんな葉を見つけたら、その実を舐めてみてください。天然の塩味です。キャンプの料理で塩を忘れたら、ヌルデの実で代用できるはずです。
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レッドロビン

2006年10月30日 | 樹木
      

上の方だけ赤い葉のあるこんな生垣をよくご覧になると思いますが、レッドロビンと言います。カナメモチとオオカナメモチを交配した園芸品種です。
乾燥に強く、長期の干ばつでもほとんど枯れないので、水やりしにくい場所の緑化には最適だそうです。また、交雑種なので花は咲いても実ができないため、自然界に進出して生態系を撹乱することがなく、その意味でも植栽樹として理想的だとか。
レッドロビンの母樹であるカナメモチも赤い新芽を出します。その様子を清少納言が『枕草子』に書いています。「花の木とも散り果てて、をしなべたる緑になりたる中に、時もわかず濃き紅葉の艶めきて、思ひかけぬ青葉の中よりさし出たるめずらし」。花が散って緑ばかりの色の中に、赤い葉が出ていて面白い。

      

今はちょうど花の端境期ですが、あちこちの生垣のレッドロビンが、冬の花が開花するまで中継ぎをしてくれています。
レッドロビンと言うと、バードウォッチャーは「鳥の英名じゃないか?」と思うでしょう。私もそう思って調べてみましたが、近い名前はありましたがred robinという名前の鳥はいませんでした。
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伏見の蘇鉄

2006年10月27日 | 木と歌
車で15分くらいのところに、御香宮(ごこうぐう)という神社があります。日本酒で知られる伏見の産土神(うぶすまがみ)として、地域の人々の信仰を集めています。
このあたりは豊臣秀吉が築いた伏見城の城下町で、京都の中心地とは少し違った伝統や文化を誇っています。現在は京都市伏見区ですが、以前は伏見市として独立していた時期もあったくらい。
御香宮神社の表門は伏見城の大手門を移築したもので、重要文化財に指定されています。そう思って見ると、神社の門にしては派手な彫刻やカラフルな色彩が施してあります。

      

また、御香水(ごこうすい)という湧き水も有名で、毎日大勢の人々が水を汲みに来ています。伏見はもともと「伏水」と書き、昔はその湧き水で日本酒を造ったとか。現在は、環境省の「名水百選」に選ばれています。

      

ここに蘇鉄の巨木があるというので、見に行ってきました。
確かに大きいです。地際から私のウエストくらいの太さの幹が10本ほど出ています。案内板によると、「京都付近では冬期に覆いをする必要があるが、このソテツは覆いなしで越冬、開花結実しており、ソテツの生育域を考えるうえで貴重な資料になっている」とのこと。

      

樹齢は明らかではありませんが、本殿建築時(1605年)からそれほど下らない時期と推測されています。現在は京都市の天然記念物です。
古い話ですが、田端義夫の『島育ち』という歌に、「赤い蘇鉄の実の熟れる頃 加那も年頃 加那も年頃 大島育ち」という一節があります。赤い実が熟れるのは、ちょうど今ごろです。

           
       (ソテツの実はピンポン玉くらいの大きさです。)

ソテツは裸子植物なので、正確には実ではなく種子ですが、奄美大島ではこの実(種子)を何度も水にさらして毒を除去し、餅にしたり、味噌や醤油、焼酎の材料にするそうです。幹にもデンプンが含まれているので、飢饉の時には除毒して団子やお菓子にして食べたそうです。

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木の魚

2006年10月26日 | 木と楽器
お坊さんが読経するとき木魚を叩きます。
「木」と名がつくものは何でもひっかかる私は、以前から「なぜ木の魚と書くのだろう?」と気になっていました。調べてみると、なかなか面白いことが分かりました。
木魚は「魚鼓」「魚板」とも言い、もともとは魚の形をした鳴り物でした。なぜ魚かというと、魚は昼も夜も目覚めている(ように見える)ので、「不眠勉学を諭し、怠惰を戒めたから」だそうです。「魚みたいに夜も眠らずに修行しなさい」という厳しい教えなんですね。

      

上の木の魚は、以前にご紹介した万福寺にあります。寺の説明によると「木魚の原形」で、現在も時を知らせるのに使っているとか。けっこう有名で、宇治の観光ガイドにはこの木魚がよく出てきます。このタイプは、中がくり抜いてあるのを「魚鼓」、くり抜いてないのを「魚板」と言うそうです。
私たちが知っている木魚も、もともとは魚の形をしていたようですが、次第に鯱(シャチ)がモチーフになったり、「魚が化して龍となる」の故事に習い、凡から聖に至る意味から龍が彫られるようになりました。

      

上の写真も万福寺の本堂で見つけた木魚ですが、手前の玉を2頭の龍が左右からくわえているというモチーフです。お盆に帰省した際、実家で見た木魚も同じモチーフでした。
日本には1652年頃に禅の渡来とともに伝わり、禅、天台、浄土などの諸宗で使用されるようになりました。その頃は京都が主な産地でしたが、その後は尾張で盛んに作られるようになり、明治以降は尾張が一手に引き受けているようです。最近は、この世界でもmade in chinaが幅を利かせているとか。
材はほとんどがクスノキ。粘りがあって割れにくく、軟らかくて彫りやすいので仕上がりがいいらしいです。万福寺の木魚も実家の木魚も、匂いをかいだらクスモキの匂いがしました。
韓国の木の本には、「木魚にはアンズの木を使う」と書いてあります。所変れば品変る、ですね。
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死ぬかと思った

2006年10月25日 | 樹木
先日訪れた「天ヶ瀬森林公園」でナワシログミの花を見つけました。姿も可憐で、いい匂いを漂わせていますが、私にはグミにまつわる忌まわしい思い出があります。

      
      (釣鐘型の可愛い花。褐色の斑点があります。)

私の故郷は京都府北部の丹後。生家の裏には田んぼや畑、柿の木やブドウの木もありました。畑の横にはグミの木が1本ありました。
ある日、母親に裏庭から野菜を取ってくるように言われたので、包丁を持って畑に行き、ついでにグミの実を食べようとしました。グミの木は1メートルくらいのところから二股に分かれていたのですが、何かの拍子にその股に首を挟まれたのです。もがいても首が外れません。
「お母ちゃ~ん」と叫ぶのですが、顔は地面を向いたままですから、声が届きません。木の股に首を挟んだまま、包丁を振り回して「助けて~」と叫ぶ少年・・・。『八ツ墓村』のようなシーンを演じたのです。結局、隣のおばちゃんが見つけて助けてくれました。

      
  (グミの特徴は葉の裏が白いこと。こんなに葉裏が白い樹は他にないです。)

あれから、かれこれ50年。ツリーウォッチングでグミを見るたびに、あの忌まわしい過去を思い出します。
グミは果物屋さんにはあまり売っていないので、食べたことがない人が多いかも知れません。酸味が強くて、ほんのり甘い、田舎の味です。
私が首を挟まれたグミは多分ビックリグミですが、野山に自生してよく見られるのはナワシログミかアキグミ。苗代を作る初夏に実が赤くなるのがナワシログミ、秋に赤くなるのがアキグミです。
写真のように葉の縁が反っていて、裏が白い樹を見たら、首を挟まれないように注意してくださいね。
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行ってきました百樹会

2006年10月24日 | 樹木
大阪に「百樹会」というツリーウォッチングのクラブがあり、毎月1回、大阪周辺で樹を見る会を開催されています。
私も以前から参加したかったのですが、日程が合わなかったり、場所が遠かったりでなかなか果たせませんでした。先日の日曜日ようやく実現して、奈良の春日原生林に行ってきました。
自分が言い出しっぺで「鳥と樹を見る会」をやったことはありますが、ツリーウォッチングクラブの催しは初めて。ワクワクしながら、宇治から奈良まで1時間半かけて行ってきました。
集合地では20人ほどの参加者が名簿に名前を書いたり、参加費(400円)を払ったり、仲間うちで楽しそうに話をしたりしています。雰囲気も参加者の層も、野鳥の会の探鳥会とほとんど同じです。

      
      (春日原生林の中で、講師がカシの説明をしてくれました。)

春日原生林は10年以上前に鳥を見に行ったことはありますが、樹を見るのは初めて。ここは原生的な照葉樹林として貴重で、周辺の東大寺や春日大社とともに世界遺産に登録されています。
講師の説明では、日本のすべてのカシ類が見られるとのこと。私も植物園でしか見たことのないイチイガシの、しかも樹齢何百年という巨木がたくさんありました。以前ご紹介したナギも数多く自生していました。

           
       (イチイガシは樹皮が四角く剥がれるのが特徴。)

途中、会員の方が持参されたイヌマキの実を分けていただきました。以前から庭木に植えられているのを見ながら、「2色団子みたいな実だな」と思っていました。図鑑には「食べられる」と書いてありますが、よその庭木なので勝手に取って食べるわけにはいきません。今回やっと味わうことができました。少し松ヤニ臭いですが、ほのかに甘く、ゼリーのような食感でした。

      
  (赤と緑で1セットになっている“2色団子”。赤い部分が食べられます。)

イヌマキを庭に植えられている方、ぜひ実を食べてみてください。ただし、2色団子の緑の方は有毒なので食べないように。ラカンマキもイヌマキの変種なので、食べられるはずです。
イヌマキは裸子植物なので正確には実ではなく種子で、赤い部分は「果床」と言うそうです。

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誰かに似ている

2006年10月23日 | 樹木
         
鬼の金棒ではありません。カラスザンショウという樹の幹です。
葉の軸にもトゲがあって、人や動物は近寄りがたい樹です。それが、この樹の作戦なんでしょうが・・・。葉っぱも大きな羽状複葉で、可愛げがないです。
こんな憎々しい姿をしていますが、ミカン科なので実や種には柑橘系の香りがあって、香袋に入れる人もあるそうです。

      
      (大きな羽状複葉が重なるように繁っています。)

サンショウ属の中には、実を食用にしたり材をすりこ木に使うサンショウのほかに、このカラスザンショウとイヌザンショウがあります。サンショウに比べると利用価値が低いので、カラスとかイヌという蔑称をつけられたようです。
それでも、カラスザンショウはキリの代用品として下駄などに使われたようで、ヤマギリとかゲタギいう別名があります。山の林道脇などでけっこう目にする木で、幹のトゲと大きな羽状複葉ですぐに見分けられます。
さすがのカラスザンショウも老木になると穏健になるのか、トゲが消えて平凡な皮目になります。人間にもいますね、こういうタイプ。昔はヤンチャしていたけど、今はいいオジサン・・・。
私は違いますよ、昔も今も穏やかな性格です。・・・ホントだってば!。
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役立たず

2006年10月20日 | 樹木
宇治には「宇治市植物公園」とは別に、「天ヶ瀬森林公園」という場所があります。普通の山に歩道や休憩所を設置しただけの公園ですが、自然のままの樹木を観察したい私には格好のフィールドです。眼下には天ヶ瀬ダムも見えます。

      
    (森林公園から見下ろす天ヶ瀬ダム。このダム湖の名前は鳳凰湖。)

以前は、天ヶ瀬ダムの下でヤマセミを見て、この公園で樹を見る「鳥と樹を見る会」を3年ほどお世話したこともあります。先日、木の実を観察するために、久しぶりに上まで登ってきました。
目当ての一つは、ゴンズイ。ご存じない方が多いでしょうが、秋に赤い実をいっぱいつける結構きれいな樹です。

      
        (赤い袋から黒い実がのぞいています。)

この妙な名前は、魚に由来します。私は釣りをしないのでよく知りませんが、ゴンズイという魚は食べられないので、人間には何の役にもたたない魚とされているそうです。この樹も、材質がもろくて使い道がないので、そう呼ぶようになったと牧野富太郎博士は書いています。
また、春先に枝を切ると樹液があふれ出るので、四国や九州ではショウベンノキと呼ぶそうです(この名を正式名とする別の樹もあります)。役立たずとか小便とか、人間に勝手な名前をつけられた不憫なヤツです。

      

そんな訳で、いつもは注目されることもなく山の隅でひっそりと立っていますが、この時期だけは人間を見返すように派手な色の実で存在を主張しています。
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世界一の並木道

2006年10月19日 | 街路樹・庭木
先日、3ヵ月ぶりに訪れた「栃の森」で、スギの落葉の美しさに目を奪われました。杉林の林床に黄色や茶色、緑のスギの葉がいっぱい落ちていて、日本画を見ているようでした。
この森には10年以上通っているのに、スギの落葉に感動したのは初めてです。樹を見るようになって7~8年ですが、広葉樹にしか興味がなかったので今まで見過ごしてきたのでしょう。
スギの場合、正確には落葉というよりも落枝(らくし)と言うべきかも知れません。

      

スギは日本特産で、1属1種。京都の北山杉のほか秋田杉や吉野杉などがありますが、樹木としてはすべて同じです。昔から木材として幅広く使われてきましたし、神社や寺院にも宗教的な意味のある巨木が残っています。
意外なことに、世界一長い並木道が日本にあって、それも杉の並木道。日光東照宮の参道にある杉並木は総延長距離が37kmもあり、ギネスブックに登録されています。植えられているスギの数は12,500本。

      
      (日光の杉並木ではありません。栃の森の杉林)

ところが、樹齢400年でそろそろ寿命を迎えていること、排気ガス、住宅と道路に挟まれて根を張るスペースがないことなどから、年間100本ほどが倒れるそうです。国の天然記念物と特別史跡の二重指定を受けていますが、そのうち世界一ではなくなるかも知れません。
杉並木と言えば、東京都には杉並区という区があります。江戸初期、このあたりの領主が境界を定めるために、青梅街道沿いに杉を植えて並木をつくったのがその由来だそうです。

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トイレの匂い

2006年10月18日 | 木と香り
5、6年前、樹の香りに関して面白いシーンに出くわしました。
お母さんに手を引かれた小さな男の子がうちの前を通りかかったとき、「トイレの匂いがする」と言うのです。「え? うちは水洗だから匂いなんかしないはず」とびっくりしてあたりを見回すと、向かいの家のキンモクセイが満開でした。
トイレの消臭剤にキンモクセイの人工香料が使ってあるので、男の子はそれがトイレの匂いだと思っていたのです。それが分かって、お母さんも笑っていました。

      

今、ちょうどキンモクセイが満開で、散歩していてもあちこちからいい香りが漂ってきます。
5月25日の記事に書きましたが、中国では「桂」の字がキンモクセイを意味します。月にはキンモクセイの大木があり、今の時期は花が満開になるので月が輝くという伝説もあります。また、有名な観光地「桂林」はキンモクセイが多い場所です。

      

日本には中国から渡ってきたのですが、雄株だけが移入されたようで、花は咲いても結実しないので挿し木で増やしているそうです。ということは、日本中のすべてのキンモクセイは同じDNAだということになります。
江戸時代の学者・新井白石はこの樹が好きで、引越しするたびに移植して手元から離さなかったそうです(「木犀」としか書いてないのでギンモクセイかも知れません)。
現在も多くの家に植えられていますが、あの男の子にとってはキンモクセイは嫌な匂いなのでしょうね。
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