樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

生物の改名

2019年05月30日 | 野鳥
絶滅しそうになったアホウドリの保護に取り組まれた長谷川博さんの講演会が近くで行われたので行ってきました。
伊豆諸島最南端の鳥島にわずかに残っていたアホウドリを増殖するため、営巣地に草を植えたり、デコイと鳴き声で呼び寄せたり、40年以上活動され、当初69羽だったアホウドリが昨年5,000羽以上に増えたという感動的なお話しでした。


アホウドリ(Public Domain)

長谷川さんは「アホウドリ」という標準和名を「オキノタユウ」に変える運動も展開されています。昔、羽毛や肉を取るために人間が近づいても逃げなかったのでアホウドリと命名されたのですが、鳥に対して失礼なので、長崎県の地方名「オキノタユウ」(沖の神様)に変更したいそうです。
そういう微妙な名前の鳥は他にもいるのではないかと思って調べてみました。ひっかかったのは、トウゾクカモメ。他の鳥がくわえている餌を横取りする習性があるので「盗賊」と名付けられましたが、当のカモメにすればそれが生きる方法なので、人間の価値観で盗人呼ばわりされるのは不本意でしょう。トウゾクカモメを研究する鳥類学者がいたら、長谷川さんと同じように改名したいと思うはずです。


トウゾクカモメ(Public Domain)

「ハゲワシ」も微妙です。一般的には「ハゲタカ」という名前が知られていますが、そういう名前の鳥はいません。いるのはハゲワシ。私自身も年とともに髪が薄くなってきたので、気になる言葉ではあります。
魚の世界ではそういう名前の変更がすでに行われていて、例えば「バカジャコ」が「リュウキュウキビナゴ」に、「メクラウナギ」が「ホソヌタウナギ」に、「オシザメ」が「チヒロザメ」に改名されているそうです。
樹木の世界にも似たような話があります。昔、材木の展示会場でアカシアの名前でハリエンジュ(別名ニセアカシア)が出品されていました。ある学者が「これは正確にはニセアカシアです」と言うと、出品者が「ニセとは何だ!」とケンカになったそうです。
ハリエンジュの学名が「アカシアに似た」という意味なのでそう呼ばれていたのですが、今ではこの名前を口にする人はいません。一般に売られている「アカシアの蜂蜜」も、正確に言えば「ニセアカシアの蜂蜜」あるいは「ハリエンジュの蜂蜜」。アカシアは全く別の樹木です。


ハリエンジュ(ニセアカシア)の花

アホウドリをオキノタユウに改名すると、コアホウドリもコオキノタユウに、クロアシアホウドリもクロアシオキノタユウになるはずです。しばらくは混乱しそうですね。
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13億円の鳥の画集

2019年05月23日 | 野鳥
2010年にロンドンで行われた競売で、印刷物としては過去最高額の9億6千万円で落札された本があります。さらに、昨年ニューヨークの競売でも10億6600万円の値段がつきました。
それは、アメリカの鳥類学者であり野鳥画家のオーデュボンが制作した画集『アメリカの鳥類』。下のフラミンゴなども実物大で描かれているため、本のサイズも縦1m×横68cmと超大型です。本を開くと、縦1m×横1.3mになるわけです。



そんな高価な画集を盗むというスリリングな映画『アメリカン・アニマルズ』が現在公開されています。しかも、実話に基づくストーリーで、実際の犯人もインタビュー形式で登場するとのこと。興味津々で観に行ってきました。
『アメリカの鳥類』やダーウィンの『種の起源』初版本を所蔵しているアメリカの某大学。「人生を変えたい」という学生4人が、その貴重な収蔵品を盗むという大胆な計画を立てます。
1回目は、4人とも老人に変装して図書館の特別室に入ろうとするものの、1人しかいないはずの司書が3人いたために急きょ中止。一旦は強奪をあきらめますが、計画を練り直して再び犯行に及びます。



その結果は映画を観ていただくとして、バードウオッチャーの必見はオーデュボンが描いた鳥の絵。特にエンドロールでは、イヌワシ、ハヤブサ、フラミンゴ、クロエリセイタカシギなどの美しい絵が画面いっぱいに映し出されます。
上の予告編にも出てきますが、映画では「1200万ドルのヴィンテージ本」という設定になっています。つまり、昨年のニューヨークでの落札価格からさらに値上がりして、13億2000万円と評価されているわけです。
初版本は世界に120セットしかなく、日本では明星大学が保有していて、それを原画にした原寸大の復刻版が420万円で販売されています。鳥の絵が435枚あるので、1枚1万円と考えれば安いのかもしれません。
下はこの映画のポスター。4人の犯人の顔部分がメンフクロウ、カイツブリなど鳥の絵になっていますが、稚拙なのでオーデュボンの作品ではないと思います。


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わが家は鳥獣保護区

2019年05月16日 | 野鳥
珍しく仕事が入ったために、10連休の半分は家で仕事をしていました。あとの半分は野鳥の調査と探鳥会の案内。
前回ご紹介した栃の森は20年前に鳥獣保護区に指定されたので、その後の変化を把握するために昨年から再び調査し、今年の第1回目を連休最初に実施しました。それとは別に、今年度から新たに宇治市の鳥獣保護区の調査が始まったので、5月1日に参加しました。
その地図を見てびっくり。わが町内がすっぽり鳥獣保護区に入っているのです。今まで、全く気づきませんでした。良く言えば「それだけ自然が豊か」、悪く言えば「それだけ田舎」ということでしょうが、何となくうれしかった。
連休明けの7日にようやく自由時間ができたので、自分の楽しみのために大阪へ出かけました。最初は大阪南港野鳥園。珍しい鳥はいないもののキアシシギとチュウシャクシギがたくさんいて、久しぶりに個人的に鳥見を楽しみました。



大阪南港野鳥園を後にして、淀川の干潟・海老江にも足を延ばしました。こちらもキアシシギが5羽とチュウシャクシギが1羽くらいで珍しい鳥は見当たりませんが、人間は私だけ。自由気ままに、眼前の自然を独り占めして、じっくりと鳥たちを観察してきました。



その後も、仕事や鳥関係で結構忙しい日々を過ごしています。
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萌木色の森

2019年05月09日 | 樹木
前回のご報告どおり、栃の森では花もいろいろ咲いていましたが、若葉も開き始めていて、森の中は萌木色に染まっていました。「萌黄色」とも書くようですが「萌木色」のほうが近い感じです。



春先の樹木が描き出すこの色と風景を見ると、毎年のことながら、気持ちが和らぎます。フーッと息が抜けていくような、安らかな気分になります。
こういう中に足を踏み入れて、その空気を呼吸し、音を聞き、匂いを嗅いでいると、樹や森を好きにならざるを得ないですね。



林道では、生まれたばかりのアカシデの葉が鮮やかな緑で、赤い枝とのコントラストを強調していました。



谷側に生えているイヌシデは、葉も花も展開しています。上のアカシデと下のイヌシデは葉も樹皮もよく似ていて識別が難しいですが、今の時期は分かりやすいです。



下は、一見するとシデ類に見えますが、ミズメ。関西で見られる唯一のカバノキ属です。枝の皮を爪で削って匂うとサロンパスの匂いがします。別名、アズサ(梓)。



この森はトチノキが多いので、私は勝手に「栃の森」と名付けました。その主も展葉し始めました。葉を包んでいる芽鱗は、なぜかネバネバしています。



これから、樹々の葉は大きく広がって、数もどんどん増えて、次に訪れる頃には森は緑一色に染まっているでしょう。
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雨の森歩き

2019年05月02日 | 樹木
久しぶりに樹木の話題です。週末に、栃の森に行ってきました。昨年12月2日以来、約5カ月ぶり。あいにくの雨の中、いつものメンバーが全員そろいました。
車で寝るのですが、屋根を打つ雨の音がうるさくてなかなか眠れません。朝6時、レインウェアを着用し、リュックにも防水カバーをつけて出発。雨で濡れるので動画用カメラはあきらめて、コンパクトカメラだけ持参しました。
下界はすでに初夏ですが、この森は季節が1か月以上遅く、春の目覚めを迎えたばかり。林道には、まだアセビが咲いていました。



下はイワナシの花。これでも草本ではなく、木本です。確か、日本でいちばん小さい木。



桜も満開で、下のキンキマメザクラのほか、ヤマザクラやオオヤマザクラが目を楽しませてくれました。



林内には所々に雪が残っています。でも、例年よりも少ない感じです。写真の手前の緑はバイケイソウ。有毒でシカが食べないので、どんどん増えています。



途中、オオカメノキ(ムシカリ)があちこちに白い花を咲かせていましたが、遠いので撮影を諦めていたら、折り返し地点の休憩場所の近くに1株ありました。



ヒサカキも小さな花をつけていました。この花は匂いが独特で、人によって「タクアンの匂い」とか「都市ガスの匂い」といいます。ガス漏れの通報を受けて係員が急行すると、近所の生け垣にヒサカキが植えてあったという事件が時々あるようです。



ありがたいことに復路は雨も止んで、冷たい思いをせずに歩けました。往路は気づかなかったのですが、林道ではウスギヨウラクやキイチゴ、クロモジもそれぞれの花を開いて春を告げていました。





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