樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

探す楽しみと撮る楽しみ

2021年05月27日 | 樹木
1カ月ほど前、ある人から近くの干拓地にコシャクシギがいると教えていただいたので、カメラをかついで出かけました。これまで京都府内で2例しか記録されていない珍しい鳥で、私も見たことがありません。
現地でしばらくウロウロしていると、たまたま私が立っている前の田んぼに6羽のコシャクシギが舞い降りました。田起こし後の背景に溶け込んでなかなか見つけにくいですが、シックな色合いとスマートな体形の美しいシギです。



初めて見る鳥なのでうれしいはずですが、あまり感激がありません。誰かに教えてもらって観察できた鳥は、撮る楽しみは味わえても探す楽しみが味わえないからだと思います。
バードウォッチングの醍醐味は、探鳥地に行っていろいろな鳥を見るところ、そしてたまに想定外の鳥に出会うところにあります。宝探しの面白さに似ていますが、「〇〇に△△がいる」と分かって鳥を見に行くのは、事前にありかが分かっている宝を探しにいくようなもので、ワクワク感がありません。
撮る楽しみよりも探す楽しみの方が数倍大きいのに、撮る楽しみだけに満足している人が多いように思えます。
今回、カメラをかついで出掛けた動機の半分は、「京都支部の記録として残しておかなければ」という義務感でした。私に情報をくれた人もそのために知らせてくれたわけです。6月号の会報に、私が撮った下手くそな写真とともに掲載しておきました。
1カ月遅れて当ブログで紹介したのは、情報が拡散してフォトグラファーが押し掛けるのを避けるためでした。私が行った2~3日後にはすでに20人ほど集まっていましたが…。

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世間の目

2021年05月20日 | 野鳥
私には記憶がありませんが、25年前、徳光和夫さんなど3人のおじさんが「日本胃腸の会」のタスキをかけ、双眼鏡とカウンターを持って食べ過ぎや飲み過ぎの人をチェックするという胃腸薬のCMが流れたようです。



そのCMがYouTubeに残っていました。当時は「日本野鳥の会=紅白歌合戦の集計」というイメージが強かったので、こういうCMが製作されたわけです。



CMにパロディとして使われるということは、日本野鳥の会に対する世間一般の目は「双眼鏡とカウンターを持ってカシャカシャやっている変な人たち」というものだったということでしょう。
「日本野鳥の会の会員です」と言うと、必ず「あ~、紅白歌合戦の…」という反応が返ってきました。紅白歌合戦での票のカウントは、認知度を高めるのに大いに貢献した反面、上記CMのような微妙なイメージも植え付けたわけです。
ちなみに、日本野鳥の会が紅白歌合戦に登場したのは1981~1985年、1992年、1993年の7回のみで、以後は麻布大学野鳥研究部が受け継いでいます。上記のCMが流れたのは1996年ですから、登場しなくなって3年も経っているのに「日本野鳥の会=紅白歌合戦」というイメージが残っていたわけです。

このCMは笑って済ませられますが、バードウォッチャーに対する世間の目にはもっと厳しいものがあります。ネットで「バードウォッチング」を検索すると、ウィキペディアの「野鳥観察」がヒットし、その中には以下の文面があります。

珍鳥とされる鳥の繁殖情報が他の愛鳥家の耳に届くと、現地に多数の自称を含む愛鳥家が押しかけ、断わりもなく勝手に他人の土地に踏み入る、プライバシーそっちのけで傍若無人にカメラを向ける、撮影の視界に入った無関係の人間を怒鳴りつける、あまつさえお目当ての鳥は繁殖をあきらめ巣を放棄して逃げさるなど、顰蹙(ひんしゅく)を買って当然の行為が多発するのも日常茶飯である。ゆえに多くの愛鳥家が吹聴する、野鳥を観察する行為は、自然と人間との間に全く何らの相互作用も発生させない、というのは全くのデタラメで、愛鳥家のこのような考えが独善的と評価される一因となっている。
また日本で野鳥観察という趣味がまだ認知されていなかった1950から70年代には、野鳥観察に理解を示さない人々からは、双眼鏡を持ってうろうろする様子をのぞき趣味と揶揄(やゆ)されていた。現在に至っても、一部の人からそのように呼ばれることがある。


繁殖期の野鳥撮影には注意を要するという文脈の中での記述ですが、後半には悪意さえ感じます。
こうした評価の原因はフォトグラファーのマナー違反にあり、私自身も不愉快な思いをしたので二度と行かない探鳥地もあります。マナーの悪いフォトグラファーとそうではないバードウォッチャーを分けて考えてほしいところですが、世間の人はひとくくりにして「鳥好きの人たち」と見ています。
こういう目で見ている人がいることを、私たちは常に意識しておく必要があります。
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ドローンと鳥

2021年05月13日 | 野鳥
毎年1月に京都府北部の阿蘇海でカモの調査を担当していますが、内海とはいえ、沖にカモの群れがいるとスコープでもカウントが難しく、種類の識別も微妙になります。
また、波がある時にスコープをのぞき続けていると船酔い状態になり、同行メンバー2人がしばらく調査不能に陥ったこともありました。いつも「ドローンで上空から撮影したら楽なのにな~」と思いながら調査しています。
ドローンを使ったカモの調査は、鳥を調査研究するNPO法人バードリサーチが試験的に各地で実施しています。その一つ北海道ポロ沼で撮影された動画が以下。



ただ、カモは高度20mでも逃げなかったものの、宮城県伊豆沼のオオハクチョウは50mで、北海道野付湾のオオハクチョウは高度100mで泳いで逃げたとのこと。高度50mから撮影できる範囲は約100m四方で、調査地によってはかなりの枚数を撮影する必要があり、目印のない水面の写真をつなぎ合わせるのが難しいようです。
カモの調査にドローンを導入するのはまだ先になりそうですが、愛知県支部ではサギのコロニー調査にドローンを導入し、地上からの目視では30個しか発見できなかった巣が、ドローンでは223個確認されています。
一方、ドローンと鳥の事故も発生しており、福井県では飛行中のドローンがトビに衝突して海に落下しています。また、猛禽類がドローンを鳥と誤認して捕獲することもあるようで、以下の動画では2羽のワシがドローンを巣に持ち運んだようです。



さらに発展して、2015年に同時多発テロで130名もの犠牲者がでたフランスでは、テロ組織が偵察や爆弾投下にドローンを使う恐れがあるので、イヌワシによるドローン撃墜作戦を考案。4羽のイヌワシを生後3週間の幼鳥から育て、餌をドローンの残骸に載せて出したり、ドローンを撃墜するたびに褒美として肉を与えたりして訓練しています。その模様が以下。



鳥とドローンはいずれも空を飛ぶ存在。鳥にとっては迷惑な話でしょうが、今後の調査ではドローンが普及するでしょう。愛鳥団体には、鳥とドローンをどう共存させるかという新しい課題が突きつけられているわけです。
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バードウォッチング難民

2021年05月06日 | 野鳥
コロナの影響で探鳥会はほとんど中止、私自身も1年以上案内を担当していません。欲求不満に陥る会員が多いらしいので、それを少しでも解消するべく、オンライン探鳥会をやってみようと思って、一昨日ある探鳥地へ出向きました。
スマホでコースを撮影しながら、鳥がいたら望遠レンズ付きのカメラで撮り、それを編集してYouTubeに投稿し、会員に見てもらうという企画です。案内も撮影も編集も一人でやる自作自演。初めての試みなので試行錯誤もありましたが、何とか完成しました。スマホでのコース案内は以下のような感じです。



会員のためとはいえ、いくつかの鳥とのうれしい出会いもあって、私自身も楽しめました。その一つがキジをじっくり観察できたこと。



現地で4組のバードウォッチャーに出会いました。そのうちの一人の女性は、鳥を見始めて1年ほどの初心者。「コロナで仕事がなくなって暇なので、あちこちに一人で鳥を見に行くけど、やっぱり初心者では姿を見ても声を聞いても分からない。野鳥の会の探鳥会に参加したくてもコロナで中止になっている」とのことでした。コロナによってバードウォッチング難民が発生しているわけです。
コロナ以降バードウォッチグを始める人が増えています。オーストラリアでは昨年ロックダウンが行われた際、ステイホームで庭に来る鳥を見る機会が増え、そこからバードウォッチングがブームになっているそうです。
そういえば、ここ半年、探鳥会を中止しているにもかかわらず、うちの支部ではなぜか会員が増えています。全国レベルでも、これまでの減少傾向が増加傾向に転じています。
その女性と話していると、近くの草にセッカが止まりました。教えてあげると、「これがセッカですか! 初めてです。うれしい! かわいい!」。



コロナでバードウォッチングへのニーズが高まっている。だから野鳥の会に入会する人が増えた。その一方、探鳥会がないから入会してもしょうがないと思う人が、彼女のようなバードウォッチング難民になっている。そのことが分かったのも今回の収穫でした。
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