樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

落葉の紅葉

2007年10月31日 | 樹木
先日、紅葉を期待して「栃の森」に行ってきました。やはり少し早かったようで、目を洗われるような紅葉や黄葉には出会えませんでした。
でも、前日かなり強い雨風があったため、林床にはいろんな樹の葉が落ちていました。今日はいつものウンチク話はやめて、落葉の紅葉レポートです。

       

上の写真は森に入るまでの林道で見つけたヤマナラシ。葉の軸(葉柄)が長いうえに、断面が楕円形なので風の影響を受けやすく、他の樹の葉が動かないような微風でもヒラヒラします。風が強くなると激しくヒラめいて、葉と葉が当たってカラカラと音をたてます。だから、「山鳴らし」。

       

次はマンサク(正確にはマルバマンサク)。この名前は、「この樹の花がたくさん咲くと、その年は満作になるから」という説がありますが、私はこういうイージーな語源は信用していません。春一番に開花するので、東北弁の「まんず咲く」に由来するという説も、どーなんだろー?

       

次はヤマモミジ。みなさんがよくご覧になるイロハモミジ(=タカオモミジ)と同じ系統です。栃の森では、このヤマモミジとハウチワカエデの仲間が真っ赤になっていました。紅葉が早いカエデなのかな?

       

次はイタヤカエデ。いろんな形がありますが、上のヤマモミジ系統と大きく違うのは、葉のフチにギザギザ(鋸歯)がないこと。材はバイオリンなどの楽器やボーリングのピンなどスポーツ用品に多用されます。樹液はシロップになります。

      

次はミズメ。別名はアズサ。樹皮も葉もサクラに似ているので、私はしばらくヤマザクラと勘違いしていました。サクラと違うのは、葉の形がトランプのスペードのように元が切れ込んでいること。枝先の樹皮を爪で引っ掻いて匂うとサロンパスの匂いがします。

       

次はブナ。白神山地のブナ林が世界遺産に登録されたために一躍スター樹木になりましたが、それ以前は材木として役に立たないこともあって、長い間下積み生活を送っていました(笑)。私の名前のfagusはこの木の学名です。

実はこの日、「栃の森」である騒動がありました。前夜、いつものように仲間と酒盛りを終えて10時頃に車で寝ましたが、夜中の1時過ぎに懐中電灯を照らされて起こされました。外にはパトライトをチカチカさせたパトカーがいて、警察官にいろいろ質問されました。
何でも、「夕方には帰る」と言って出た登山者がまだ帰って来ないので、家族の連絡を受けて捜索に来たとのこと。そう言えば、私たちの車以外に1台だけセダンが停まっていました。
結局、警官は他の仲間3人も次々とも起こして質問し、その後、夜中の2時頃までサイレンを鳴らしたり、「○○さん、こちら滋賀県警です。応答してください」とスピーカーで呼びかけていました。翌日はヘリコプターも飛んでいました。
その後、無事に保護されたようです。「栃の森」は標高800mくらいの山ですが、谷が複雑に入り組んでいます。「一人で入るのは危ないな」と改めて思いました。
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掻敷(かいしき)

2007年10月29日 | 木と飲食
最近は「回る寿司」全盛であまり目にする機会がなくなりましたが、寿司屋さんのガラスケースの中ではネタの下にヒノキの葉が敷いてあります。また、マツタケもヒノキやシダの葉を敷いた籠に盛ってあります。
こうした食品の下に敷くものを掻敷(かいしき)と呼びます。室町時代の料理書『四条流包丁書』の中に「カイシキノ事 ヒバ ナンテン」と書いてあるそうで、ヒバは樹木としてはアスナロを意味しますが、ヒバ=桧葉(ヒノキの葉)ではないかと解釈されています。
関東では魚の掻敷にサワラの葉を使うそうですが、そのサワラの葉からは酸化を抑える物質が検出されています。サワラとヒノキは近縁なので、いずれも食品の腐敗を抑制する作用があるのでしょう。

      
       (最近は掻敷を使っている魚屋さんが少なくなりました)

この掻敷をきちんと使っている魚屋さんが少なくて、たまたま歩いていた商店街でやっと1軒発見しました。店主に聞くと、「外人が珍しがってヒバに触る」とのこと。外国には食品保存のために木の葉を使うという習慣がないのでしょうか。
なお、上の写真の魚は甘鯛ですが、京都ではグジと呼びます。ちょうど今頃が旬です。
室町時代の料理書にもあるように、ナンテンの葉も赤飯の上に置いたり、料理屋などで焼き魚に添えて出てきます。ナンテンの実はのど飴にも使われますが、葉にも殺菌作用があるそうです。昔の人々は経験的にこうした樹木の殺菌作用を知っていたわけですね。昔の人も偉いけど、木も偉い!
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便秘に効く樹

2007年10月26日 | 木と医薬
最近、テレビCMで石倉三郎が「整腸生薬アカメガシワ」を宣伝しています(商品名は「ストッパ・デイバランス」)。
春の新芽が赤いのでアカメガシワと呼ばれますが、柏餅のカシワとは無縁です。以前、アカメガシワのお茶がストレスを和らげることをご紹介しましたが、消化器官にも効果があるとは知りませんでした。

      
       (アカメガシワの葉。もうすぐ鮮やかな黄色に変色します)

発売元のライオンのホームページによると、アカメガシワの樹皮エキスは乱れた腸のぜん動運動を正常にし、軟便や便秘に効果を発揮するそうです。古くから民間薬として使われてきたとも書いてあります。
このアカメガシワは繁殖力が強く、どこにでも生えてきます。うちの近くにコンクリートで固めた山の斜面がありますが、あちこちで株を伸ばしています。時々、手入れの悪い庭で生えているのを見かけます。

      
         (コンクリートで固めた法面でも生えてきます)

黄葉はきれいですが、所かまわず厚かましく繁殖するので私はどうも好きになれません。でも、腸の調子が悪くなったら、この「整腸生薬アカメガシワ」のお世話になるかも。
ライオンって歯磨きや洗剤のメーカーだと思っていたら、いつの間にか医薬品事業もやっているんですね。中外製薬の一般薬部門を買収したらしいです。知らなかったな~。
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どんぐり銀行

2007年10月24日 | 森林保護
朝の散歩コース、大吉山の遊歩道にたくさんのドングリが落ちていました。ひと口に「ドングリ」と言ってもいろいろ種類がありますが、これはコナラのドングリ。

      

このドングリを拾い集めて預けると、通帳を発行し、たくさん貯まれば苗木として払い戻してくれる銀行があります。香川県が運営する「どんぐり銀行」で、平成4年に緑化事業の一環として高松市で「創業」されました。
預け入れ期間は毎年10月~12月。コナラやアラカシのドングリは1個1D(ドングリのDを使った通貨単位)、クヌギやアベマキのドングリは1個10Dとして計算されます。苗木の払い戻しは翌年の3月。
平成17年度は約82万個のドングリが預けられ、222人に2,367本の苗木が払い戻されたそうです。苗木のほか絵本やポストカードなどと交換することもできます。
預け入れたドングリは、県の森林センターで「運用」されたり、治山工事での緑化に「融資」されたり、食体験やクラフトの材料に活用されているとか。
この銀行はその後いくつかの自治体にも広がり、和歌山県では「かしの木バンク」という名前で実施されています。
なかなかおもしろい銀行でしょ? どんぐり銀行の詳細はこちら
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お山の杉の子

2007年10月22日 | 木と歌
私でさえウロ覚えなので若い人はご存知ないでしょうが、『お山の杉の子』という童謡があります。「昔々のその昔 椎の木林のすぐそばに 小さなお山があったとさ~」という歌詞です。
ハゲ山に植えられた杉の苗が成長し、やがて隣の椎の木よりも大きくなって、いろいろ役に立つようになるというストーリー。その5番は、以下のようになっています。
    ♪ 大きな杉は何になる お船の帆柱 はしご段 
     とんとん大工さん 建てる家 建てる家 
     本箱 お机 下駄 足駄 おいしいお弁当食べる箸 
     鉛筆 筆入れ そのほかに 楽しや まだまだ役に立つ
実際には下駄や鉛筆にはスギは使わないはずですが、木の用途に関心のある私には非常に面白い歌詞です。

      
     (最近、ホームセンターでも杉の板が売られるようになりました)

ところが、この歌詞は改変されたもので、昭和19年(つまり戦争中)に発表されたオリジナルでは、上の2行が以下のようになっていました。
    ♪ 大きな杉は何になる 兵隊さんを 運ぶ船 
     傷痍の勇士の 寝るお家 寝るお家
軍用船や軍人病院にスギを使うと歌っているのです。このほかにも軍国主義的な歌詞があったので、戦後になってサトウハチローが作り変えたのが現在の『お山の杉の子』だそうです。
日本の人工林の多くはスギで、オリジナルの歌詞にあるように、軍用資材として利用するために植林されたものもあるようです。
オリジナルの「お山の杉の子」はこちらで聴けます。
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木でお菓子をつくる京の匠

2007年10月19日 | 木と飲食
「仕事そっちのけ京の匠取材」シリーズ、第3弾。今回は木とお菓子。
京都では丁寧に「お干菓子」と言いますが、豆の粉や砂糖などを混ぜて固めた伝統的なお菓子があります。日常的にはあまり食べませんが、茶席や贈答によく使われます。

      
              (干菓子の詰め合わせ)

その干菓子の専門店を仕事で取材しました。お店に一歩入ると、下の写真のような木型が飾ってあったので、これ幸いに話題をそっちに振りました。
干菓子の木型は浮世絵の版木と同じくサクラ材(ヤマザクラ)と知っていたので、店主に確かめると「そうや!」。でも、今はこの木型の職人が少なくなって、なかなか入手できないそうです。
「一穴、七千円や」と店主。くり抜いた型(穴)一つが7,000円という意味で、梅の花の木型は36個ありましたから約25万円。「その代わり、一つ作ったら2代、3代使える」とのこと。
いろんな木型があって、私は「細かい模様の方が難しいだろう」と思いましたが、球形の型を彫るのが最も難しいらしいです。「模様はごまかしが効くけど、丸はそうはいかん」。

      
            (干菓子の木型はヤマザクラ)

京菓子は季節感を大切にしますから、春夏秋冬を表現するにはたくさんの木型が必要でしょう。ざっと数えたところ30枚くらいありました。このお店はまだ創業が新しいので木型が少ないでしょうが、老舗はもっとたくさん揃えているはずです。
何気なく見たり食べたりしているお菓子ですが、その裏には深い世界があるんですね。
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木曽ヒノキを削る宮師

2007年10月17日 | 木と宗教
前回に続いて、「仕事そっちのけ京の匠取材」シリーズ。この前は仏様でしたが、今回は神様。
京都の都心の少し南に、現世と冥界の境目と言い伝えられる地域があります。その伝説と関係があるのかどうか分かりませんが、町の一角に神具を作っている店があったので取材しました。

      
           (製作中の三宝と木曽ヒノキの鉋くず)

店主の名刺の肩書きは「宮師」。神祭具をつくる職人をこう呼ぶそうです。店内には木のいい香りが漂っていて、いろんな道具や作りかけの三宝が並んでいます。こういう職人の世界は大好き。
例によって、木材のことを尋ねると「木曽ヒノキ」とのこと。しかも、最高級のヒノキでないと威厳のある神具が作れないそうです。ヒノキならではのきめの細かい肌や、清浄感のある白い色が神具には必要なのでしょう。しかし、前回の仏像も今回の神具も木材はヒノキ。「日本はヒノキの文化だな~」と実感しました。

      
        (神棚に飾るお社。木曽ヒノキならではの美しい木肌)

今の私たちは神棚に飾る三宝やお社を買うことはほとんどないと思いますが、このお店は神社用ではなく、一般用の神具を作っています。京都にはそれだけの需要があるということですね。ちなみに値段を尋ねたら、三宝は7寸サイズが7,300円、お社は20,000円からということでした。
こうした伝統工芸の多くは後継者難を抱えていますが、この店では娘さんが跡を継ぐことになったそうです。別の日に店の前を通ったら、若い女性が黙々と作業していました。
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尾州ヒノキを彫る仏師

2007年10月15日 | 木と宗教
先日、仕事で京都市内にある仏像彫刻の工房を取材しました。
樹木とは関係のない仕事でしたが、これ幸いとばかりに木のこともしっかり聞いてきました。歴史的に仏像の材がクスノキからヒノキに変ったことは知っていたので確認したら、やはりヒノキが中心とのこと。

          
          (工房にあった制作途中の仏像)

取材した若い2代目は「尾州ヒノキ」と言っていましたが、木曽ヒノキのことでしょう。尾張藩が管理していたのでそう呼ぶのだと思います。年輪が細かく均一なので彫刻しやすいそうです。
その尾州ヒノキを丸太で買って、使う土地(京都)で5~10年乾燥させ、しかも、粗彫り、本彫り、仕上げまで2年くらいかけて彫るのが理想的だそうです。

      
           (仏像や位牌を彫るための道具)

「芸術系の大学で彫刻を勉強されたのですか?」と尋ねると、仏師には彫刻の技術以上に仏教の知識が必要だそうで、仏教系の大学で勉強したとのこと。彫刻の技術はお父さんに教わったそうです。

          
       (この工房オリジナルの位牌。値段は10万円~)

仏像以外に位牌も作っていて、たくさんの位牌が並んでいました。最近は生前に位牌を作る人も多く、しかも、例えば魚釣りが好きな人が魚の絵柄を描いて欲しいと注文することもあるそうです。以前、位牌はケヤキやホオノキと紹介しましたが、この工房ではマツを使っていました。
仕事で訪れた工房でしたが、仕事そっちのけでワクワクしながらインタビューしてきました。
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木のレンガ

2007年10月12日 | 木と防災
前回ご報告した通り、友人に誘われて京大宇治キャンパスのバイオマスセミナーに参加しました。午前中の研究所ツアーでは、エコハウスの実験棟も見学しました。
その中に、アルゼンチンの留学生が考案した木のレンガのコーナーがありました。アルゼンチンの住宅の材料はレンガが中心で、地震が発生するとその下敷きになって亡くなる人が多い。重いレンガの代わりに、軽い木で家を建てればそうした被害が防げるのではないか、というのが開発の動機だそうです。

      
         (約30×10cmの木のレンガを積み上げた壁)

実用化するには強度や建築構造など課題は多いようですが、木のレンガに込められた留学生の切実な思いがじんわりと伝わってきました。
このエコハウスはほとんど木製。昔ながらの壁土の欠点を、木枠で土を固めたブロック状にすることで解消する実験も行われていました。実際に学生に寝泊りさせたところ、冬は暖房が必要だったものの、今年の猛暑でもクーラーなしで過ごせたそうです。

      
            (実験中のエコハウス)

このエコハウスは昨年も紹介しましたが、柱と梁の新しい木組みや木質断熱材、シロアリ対策などさまざまな実験が行われています。将来、この実験棟から実際の私たちの暮らしに役立つ製品やシステムが生まれることを期待しましょう。
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木の自動車

2007年10月10日 | 木と乗物
先日、テレビで木製スーパーカーを紹介していました。岡山県の家具メーカーが製作したもので、ボディはタモ、内装はヒノキ、床はモミ。175ccのエンジンを積み、最高速度は80km、3人乗りです。こちらで動画が見られます。
木と乗物というテーマでこれまで祇園祭の鉾や木製飛行機を紹介した私ですが、この木製スーパーカーには度肝を抜かれました。実際にナンバーを取得し、高速道路も走れるところがスゴイ!

          
 (本論とは無縁ですが、京大宇治キャンパスに展示されていた木の自転車)

ところが、もっとびっくりすることがありました。先週、近くの京大宇治キャンパスで行われたバイオマスのセミナーに出席した際、ある教授の講演でこんなことを聞きました。
樹木など植物を構成しているナノファイバーを使えば、自動車のボディがつくれるというのです。しかも、机上の空論ではなく、すでに産学協同のプロジェクトが始まっているとのこと。
金属やプラスチックはもちろん、ガラスやゴムに代わる素材も可能で、車のボディから内装、窓、タイヤにいたるまでナノファイバーでつくれるそうです。石油や金属など地下資源ではなく、間伐材やトウモロコシの芯など未利用の植物資源から、自動車はもちろん家電製品や建材もつくれるのです。
ナノファイバー製の樹脂サンプルも見せてもらいました。暗い会場で撮影したので不鮮明ですが、固くて白いタイルのようでした。軽いのに鉄鋼並みの強度があるそうです。

      

近い将来、植物由来の素材でつくった車が、植物由来のバイオ燃料で走るという時代が来るかも知れません。
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