樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

巨木の最期

2009年04月29日 | 樹木
先日、5ヶ月ぶりに栃の森を歩いてきました。雨の予報をモノともせず、いつもの仲間が前夜から集合。私は車を手放したのでレンタカーでの参加です。
今回の大きな異変は、このコースで最も太いミズナラが倒れていたこと。5年前に私が測定した幹周は5.8mでした。推定ですが樹齢は500年くらい。

       
           (倒れたミズナラの巨木。横に写っているのは私)
       
               (中はほぼ空洞になっていました)

3年ほど前からカシノナガキクイムシが寄生していたので、いずれはナラ枯れ病に侵されるだろうと予想していましたが、これだけ貫禄のある巨木が実際に倒れているのを目の当たりにすると、淋しいというよりも厳かな気持ちになります。
中が空洞になっていましたから、雪の重みや風の圧力に耐えかねて倒れたのでしょう。主幹が折れる音、樹体が地面にぶつかる音、大枝や小枝が折れる音…、500年生きた老木の断末魔は物凄い音だったでしょう。

       
                (元気な頃のミズナラの巨木)

カシノナガキクイムシはこういう太い樹を好むようで、薪や炭など燃料として定期的に伐採されず大径木が増えるにつれて虫も激増し、ナラ枯れ病の被害が広がったそうです。韓国や南ヨーロッパでも大径木のブナ科樹木が被害に遭っているという話です。
このコースにはブナ、トチノキ、ミズナラの3本の巨木があり、訪れる度に写真を撮ったり撫で撫でしていました。そのうちの1本はなくなりましたが、コース最大の巨木・トチノキとブナはまだまだ元気でした。
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樹の落とし物

2009年04月27日 | 街路樹・庭木
落ち葉は秋の代名詞ですが、樹が葉を落とすのは晩秋とは限りません。常緑樹の中には今の時期、若葉と入れ替わるように古い葉を落とすものがあります。
下の写真はアラカシの葉がたくさん落ちた散歩コース。大阪のビジネス街でも周囲にクスノキを植えているビルでは、メンテナンスの方が掃き掃除に大わらわでした。カシ類やクスノキは今が落ち葉のピークです。

       

わが家も3本のアラカシとクスノキの仲間のゲッケイジュが落葉するので、しばらく掃き掃除が日課になっています。この時期はコンポストが満杯なので、結局ゴミとして処分せざるを得ません。

       
               (アラカシやゲッケイジュの落ち葉)

しかも、樹が落とすのは葉っぱだけではありません。実も落とします。アラカシはドングリを落とすので、秋にも掃き掃除しました。
さらに、樹は花も落とします。サクラは人気者ですし、花びらも小さいので風に吹かれてすぐにどこかへ運ばれていきますが、わが家のハクモクレンはお隣のガレージにぼってりとした白い花びらを落とすので、4月上旬は2週間ほど花びら拾いをします。

       

まだあります。上の写真は散歩コースに落ちていたソメイヨシノのガク。花びらが落ちた後、その花びらを支えていたガクが落ちるのです。わが家のハクモクレンは開花前に芽鱗(がりん=花芽を包んでいるビロード状のキャップ)を落とします。目立たないので全部は掃除しませんが、花と一緒に拾うこともあります。
ハクモクレンはグロテスクな形の実も落とします。芽鱗と花弁と実と葉を落とすハクモクレンが一番の厄介者。お隣は「花を楽しませてもらっていますから気にしないでください」と言ってくれますが、放っておくわけにはいかないので、季節ごとに落下物を拾い集めています。
植える位置が悪かったのかも知れませんが、1年中樹の落とし物を掃除している感じです。面倒臭いですが、「これも含めて樹の恩恵」と考えて掃除しています。
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木の商標

2009年04月24日 | 木と文化
以前、日本野鳥の会が社名や商標に鳥を使っている企業に寄付をお願いしたことがありました。鶴丸をマークにしていた当時の日本航空や、鳥の巣を意味するネッスルなどが候補だったと記憶します。
同じように「木の商標はあるかな?」と考えたら、いくつか思いつきました。桜や梅など花系の社名や商標はたくさんあるので省きます。

       

まず、ミドリ電化。関西の家電量販店なのでご存知ない方もあるでしょうが、このマークのモチーフはスギやモミなどの針葉樹でしょう。社名の由来が大阪らしい。
創業時に借りた空き店舗に「みどり洋装店」という看板が残っていたので、「洋装店」だけ塗り替えたら費用が安くなると考えて「みどり電化社」にしたそうです。その後、おそらく「社名が緑だから、やっぱりマークは木だろう…」というような経緯でこの形になったのでしょう。社名もマークも安易やな~(笑)。

       

スギを商標にしているのはドラッグストアのスギ薬局。こちらは創業者の姓「杉浦」に由来するそうです。「天に向かって大きく伸び行く杉の木の若苗のようにありたい」という願いを込めてマークもスギ。愛知県の会社ですが、由来としてはマジメすぎておもしろくないですね。私はミドリ電化のいいかげんさが好きだな~。

       

次は、コンビニのポプラ。広島県で創業した企業です。ホームページによると、「生命力の強い樹として知られるポプラは、古代ギリシャ神話において「勝利」を表し、「愛」を表す樹とされています。また、その名の語源は英語の「POPULAR(ポピュラー)」と同じです。私たちは、ポピュラー(人気のある)な店になろう、そして、生き生きと成長するポプラ並木のように、チェーン本部とFC加盟店がまっすぐに一丸となって伸びていこうという、二つの願いをこめてこの「ポプラ」を社名といたしました」。
ポプラが「ポピュラー」の語源であるという話は私も以前記事にしましたが、生命力が強いとか「勝利」や「愛」を意味するという話は初耳です。でも、これも話としては優等生っぽくておもしろくないな~。
近所にお店があってよくお世話になっているせいか、私はやっぱりいいかげんなミドリ電化に親近感を覚えます。
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犬塚の欅

2009年04月22日 | 伝説の樹
3月に仕事で大津に行った後、取材漏れがあったので再度出向きました。終了後、せっかくなのでブログの取材で樹木のポイントをいくつか回ってきました。その一つが、犬塚の欅。
大津の日赤病院の横にケヤキの巨木があり、次のような伝説が残っています。

             
                (撮影したのは3月末)

室町時代、京都の仏教界で紛争があったため蓮如上人が大津へ逃れてきました。しかし、人望の厚い上人を快く思わない他宗の門徒が毒殺を計画。それを飼い犬が察知して毒が盛られた食事を先に食べて死にました。上人は身代りになった忠犬を手厚く葬り、ケヤキを植えたという話です。
その伝説から逆算すると樹齢550年。訪れた時はまだ若葉も芽吹いていませんでしたが、どっしりとした幹が長い歴史を語りかけていました。

       
              (550年の時間の蓄積を感じさせる幹)

私も幼い頃、病死した飼い犬を兄と妹の3人で泣きながら実家の裏庭に埋葬したことがあります。その時の悲しい記憶があるので、以来ペットは飼っていません。今は勝手に埋葬してはいけないのでしょうが、犬塚という地名や家名があるくらいですから、昔はそれが普通だったんでしょうね。
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木製飛行機

2009年04月20日 | 木と乗物
以前ご紹介した石清水八幡宮の近くに飛行神社があります。二宮忠八という人物がライト兄弟よりも早い1891年に飛行機の原理を考案したものの、協力者を得られないままライト兄弟に先を越されたために開発を断念し、その後、航空機事故の犠牲者を慰霊するために建立した神社です。
以前、NHKの「その時、歴史が動いた」でも「ライト兄弟に先がけた男・二宮忠八の挑戦」として紹介されました。犠牲者の遺族のほかパイロットや航空自衛隊員も参拝に訪れるようです。境内に資料館もあります。

       
              (二宮忠八が考案した飛行機の模型)

この飛行神社は木と関係ありませんが、飛行機が木で作られた時期があります。以前、イギリス空軍でモスキートという木製戦闘機が活躍したことを紹介しましたが、それに習って日本でも木製軍用機が作られました。
陸軍の命令で中島飛行機(現在の富士重工)が設計し、富山県にあった呉羽航空機と北海道江別にあった王子航空機が製作。材料は、富山ではヒノキ主体でしたが、北海道にはヒノキが自生しないので、機体にはブナやシナノキ、カバ、主翼の骨組みにはエゾマツやトドマツを使ったそうです。燃料タンクもカバの合板で製作しています。

       
        (飛行神社の資料館の入口に飾ってある木製のプロペラ)

テスト飛行では富山タイプが時速605km、北海道タイプが560kmを記録。モデルになった金属製の爆撃機・疾風(はやて)が624kmだったそうですから、少し遅い程度。約10機製造されましたが、実戦に配備される前に終戦を迎えました。北海道開拓記念館にはその当時の試作品の部品が保存されているそうです。
金属不足という事情もありましたが、敵のレーダーに捕捉されないという木の利点を生かした開発でもあったようです。

北海道開拓記念館に保存されている部品の写真はこちら
北海道新聞社が発行した『幻の木製戦闘機キ106』はこちら
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大津絵

2009年04月17日 | 木と作家
先日、仕事で大津の街を取材しました。その一つ「大津絵の店」では木に描いた作品がたくさんあったので、仕事の撮影はプロのカメラマンに任せて、私はブログの取材に精を出していました。
大津絵は江戸時代に仏画から派生した絵画で、大津は東海道の53番目の宿場町だったことから旅人も多く、土産物として人気を博したようです。芸術品というよりも、身近なものに描いた大衆画ですね。

               
         (舟の廃材に描いた大津絵。鬼は大津絵の代表的な題材)

私が理解していた大津絵は掛け軸や色紙など紙が中心で、木に描かれたものは知りませんでした。店主の絵師によると「琵琶湖には舟がたくさんあったので、その廃材に描いたのが始まり」とのこと。舟の材=スギと思っていましたが、このあたりではマツだそうです。

       
           (水車の廃材なので組み木用の穴があります)

現在は木製の舟はなくなったので、舟以外の木製品の廃材を使っているようです。例えば、水車や臼の古材のほか、釣瓶の桶に描いたものもありました。
店の隅にいろんな板が置いてあるので「これは何ですか?」と尋ねると、「古い家を解体した人がその廃材に描いて欲しいと特注で持ち込んだもの」だとか。

       
                (臼の廃材。ケヤキかな?)
       
              (釣瓶の汲み桶に描かれた大津絵)

木材のほか瓢箪や竹、扇子、団扇などにも描かれていました。これほど画材を選ばない自由な日本の伝統絵画は他にないのではないでしょうか。
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お多福桜

2009年04月15日 | 樹木
京都の御室(おむろ)という地域に仁和寺(にんなじ)というお寺があります。石庭で有名な近くの竜安寺の陰に隠れて全国的にはマイナーですが、京都では遅咲きの桜の名所として知られています。遅いだけでなく、樹高が低いのも特徴。
わたしゃお多福 御室の桜 はなが低くても 人が好く
という歌があり、花が低い御室の桜と鼻が低いお多福(不美人)とを掛けています。この歌から、別名「お多福桜」とも呼ばれます。

       
             (地面すれすれに満開の枝が伸びています)

他の名所と同じ品種を植えても高く成長しないので、昔から「御室桜の謎」と言われているそうです。なぜ御室の桜は樹高が低いのか?
仁和寺と住友林業が共同で調べたところ、土壌の下に粘土層があって根が1mくらいしか伸びておらず、広がりも少ないことが判明。一般的に根の長さと樹高は比例しますから、粘土層のために根が伸びず成長できなかったようです。

       
                  (仁和寺の仁王門)

しかし、ここからは私の推測ですが、庭師は意図的に粘土を入れて樹高を低くしたのではないでしょうか。元々から粘土層があるなら境内にある他の樹木も低いはずですが、マツやスギなどは普通に高く成長しています。
桜の花が間近に見られるようにわざわざ粘土を敷き詰め、その上に盛り土をして桜を植えたのでしょう。遅く咲くのも根が短いからかも知れません。そうだとすると、スゴイ発想です。
ちなみに、血圧計や体脂肪計で知られるオムロンの社名はこの地で創業したことに由来します。私も独身時代この近くに住んでいました。お多福桜を見たのはその頃以来です。
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自信喪失

2009年04月13日 | 木の材
4月4日~5日、恒例の「宇治川桜祭り」が開催されました。今年は開花時期がドンピシャで、晴天の日曜日はたくさんの人出でした。
会場には木材組合が毎年ブースを出していて、端材の即売会や子供向けの木工コーナーを催しています。今年の新しいプログラムは木材クイズ。2枚目の写真のように番号をプリントした木材の種類を当て、全問正解すると賞品がもらえます。

       
                 (端材の即売コーナー)

こんなブログを3年も続けているくらいですから、普通の人に比べれば木の名前は知っているはず。そう思って、冷やかし半分で挑戦しました。ところが、10問中正解は4問のみ。我ながらガッカリしました。
鳥を見に行く森の樹の名前を知りたくてツリーウォッチングを始め、身の回りにある木製品の種類を知りたくて、木材サンプルを買ったり、木材図鑑を眺めたり、それなりに勉強したはずなのにこのていたらく。やっぱりウッドウォッチングは難しいわ~。

       

みなさん、何の木だか分かります? 正解と私の答(カッコ内)を記しておきます。
①スギ(×サクラ 赤いのでサクラと思いましたが、スギの心材でした)
②タモ(×クスノキ このへんは自信がなかった)
③ホオノキ(○ 以前、年賀状をホオノキの木版で作っていたので分かりました)
④キリ(○ 持ってみて軽かったのと外見で判断)
⑤ヒノキ(×スギ 木目だけでは識別できないので臭ってみましたが…)
⑥マツ(○ これも半分まぐれ当り)
⑦クリ(×タモ バットの材で、うちのバットがこんな木目だったので…)
⑧ケヤキ(○ こういうはっきりした木目はケヤキかセンのはず)
⑨クスノキ(×クリ 臭いを嗅げば分ったかも…)
⑩サクラ(×ヒノキ 檜の臭いがしたんだけどな~)
私が挑戦した時点では8問正解がベストでしたが、その後ある木工作家が10問正解されたようです。さすが~
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ヒカルゲンジ

2009年04月10日 | 樹木
宇治市は昨年、観光客がよく通る道沿いにツバキを植樹しました。そのほとんどが「ヒカルゲンジ」という品種。「源氏物語のまち・宇治」をアピールするためでしょう。私の散歩コースにも2ヶ所あります。

       
        (赤い縦絞りや白い斑がヒカルゲンジの特徴だそうです)

こうした地道なPR活動が功を奏したのか、宇治市の観光客は増えているようで、特に源氏物語千年紀に当たる昨年は「源氏物語ミュージアム」の年間入場者数が倍増し、20万人を突破したそうです。

       

ただ、私が「?」と思うのは、上の写真のように案内看板が竹の柵の中にあり、ツバキがその外に植えてあること。普通は主役のツバキを柵で囲って、その外に看板を設置しますよね? これでは主客転倒でしょう。
ツバキが10株ほど植えてある広い場所もあるので柵で囲うのが大変なのかも知れませんが、それなら看板だけを竹で囲う必要はないのでは。看板には品種名や特徴、開花時期が記されているだけで、特にガードしなければならない要素はありません。

       
             (花弁の間にも雄しべがあることも特徴)

それに、宇治が『源氏物語』の舞台になるのは光源氏が死んだ後のエピローグなので、そんなに深い縁はないんですけどね~。
まっ、いいか! 観光客も増えていることだし。みなさんもぜひ「源氏物語のまち」へ来てくださいね。
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さくらとむくげ

2009年04月08日 | 木と歴史
宇治市の隣の城陽市に「さくらとむくげの会」という団体があります。サクラは日本の、ムクゲは韓国の象徴。つまり、日韓交流を目的とした会です。
その韓国では戦後、桜の排斥運動が起きたそうです。植民地時代に各地に植えられたソメイヨシノが日本のシンボルと見なされて伐採されたのです。

       

ところが、ある植物学者が「ソメイヨシノは韓国の済州島が原産である」という説を発表して以降、その伐採運動が沈静化。さらに、日本海軍の軍港であった鎮海という町には桜がたくさん植えられていたため、大統領が「鎮海を世界一の桜花都市にしよう」と呼び掛けて植樹運動を行い、現在では韓国でも有名な桜の名所になっているそうです。
戦中世代には今でも桜を嫌う人がいるようですが、一般的には桜を楽しむ人が多く、韓国ドラマにも満開シーンが登場するとか。

       

ソメイヨシノが済州島原産という説はその後のDNA調査で否定されていますが、私はその植物学者がそれを承知の上で発表したのではないかと思います。樹木に罪はないのに、政治的な理由で次々に伐られることに心を痛めたのではないでしょうか。
現地では今でもソメイヨシノは韓国原産と思っている人が多いそうです。
一方、ムクゲは日本の神社やお寺の境内、公園、一般の庭まで広く植えられ、夏の貴重な花として目を楽しませてくれます。その中に「日の丸」という品種があるのですが、「韓国の戦中世代にとっては微妙な命名だな」と以前から気になっています。

       
                 (ムクゲの品種「日の丸」)

前回ご紹介した近所の桜は「進駐軍が来て騒ぐと困るから」という理由で伐られました、一方、韓国では「占領国のシンボルだから」という理由で伐られました。どちらも戦争が原因です。戦争では、人間だけでなくたくさんの樹木も殺されます。
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