樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

Japanese Rose

2007年04月27日 | 樹木
宇治市の木はイロハモミジで、茶の木は別格扱いの宝木。そして、鳥はカワセミで、花はヤマブキです。
宇治川河畔に自生することや、芭蕉が「山吹や 宇治のほいろの 匂ふ時」と詠んだことに因んで制定されました。「ほいろ(焙炉)」とは茶の葉を炭火で乾燥させる道具。

      

いつも訪れる花寺(恵心院)の参道の両側にはヤマブキがいっぱい植えられていて、目の覚めるような鮮やかな黄色で迎えてくれます。英語ではJapanese RoseとかYellow Roseと呼ばれているそうで、そう言われればバラに似ているかな。
ヤマブキと言えば、江戸城を建てた太田道灌(どうかん)のエピソードが有名です。山里で雨に降られた道灌が農家で蓑(みの)を借りようとしたところ、娘は黙ってヤマブキの花を差し出した。後になって、それは「七重八重 花は咲けども 山吹の実の(蓑)一つだに なきぞ悲しき」という古い歌に託して蓑がないほど貧しいことを表現したことが分かった。道灌は無知を恥じ、以後は歌の道に励んだという話です。

      

この歌にもあるように、八重咲きのヤマブキは人工的に交配した栽培種なので結実しません。「七重八重…」の歌は平安時代のものですから、当時すでにヤマブキの栽培品種をつくっていたいうことですね。ちょっと驚きです。
芭蕉の最も有名な俳句「古池や 蛙飛び込む 水の音」も、最初は「山吹や…」だったそうです。やっぱり「古池や…」の方が、景色と音が想像しやすいですね。
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マツVSヒノキ

2007年04月25日 | 木と楽器
これまでに太鼓や琴など和楽器に使われる木を紹介しましたが、洋楽器にもいろんな木が使われています。
下の写真は友人のクラシックギター。スペインの名門、ラミレス製です。もともとギターの表板はスプルース(マツ科)が常識だったらしいですが、この名門家のラミレス3世が1963年にレッドシダー(ヒノキ科)のギターを作って以来、著名なギタリストもレッドシダー製のギターを使うようになったそうです。あのナルシソ・イエペスもラミレスのレッドシダー製で日本公演したとのこと。

         
     (ヒノキ科のレッドシダーを使ったラミレスのギター)

スプルース製はクールで透明感があり、キラキラ光るような音、レッドシダー製は音量が豊かで、音色が柔らかくて甘いそうです。友人はスプルース製のギターも持っていて、「音質は全く違うけど、良し悪しではなく好み」だそうです。
楽器に使われるスプルース(材木名)は、植物名で言うとヨーロッパトウヒ(またはドイツトウヒ)で、バイオリンやチェロの表板にも使われます。一方、レッドシダーは北アメリカ産の木で、材木の世界ではスギでもないのに「米杉(ベイスギ)」と呼ばれています。建材としても有用です。

      
     (マツ科のスプルースを使ったギター。こちらは日本が誇る河野製)

現在のギターの世界はスプルース(マツ)派とレッドシダー(ヒノキ)派に分かれているようで、それほどラミレス3世はギター史に大きな足跡を残したと言うことです。
表板は両派に分かれていますが、裏板と側板はローズウッド(マメ科)と決まっているようです。中でもブラジル産のローズウッド(別名ハカランダ)が最高で、写真のギターもハカランダ仕様。現在はワシントン条約で輸出が規制されているので、ハカランダを使ったギターは150万円以上するそうです。

      
        (裏板はブラジリアンローズウッド=ハカランダが最高)

バイオリンの裏板もカエデなどの広葉樹。弦楽器の場合、表板は軽くて柔らかい針葉樹、裏板は重くて硬い広葉樹というのが共通のようです。
また、指板にエボニー(黒檀)が使われるのも、ギターとバイオリンの共通点です。
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学園の木陰

2007年04月23日 | 木と歌
昨夜、NHKの「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」で、札幌の中学校の校庭に残っているハルニレの樹が紹介されました。guitarbirdさんのブログでも予告されていたので、しっかりチェックしました。
そして、以前に書き溜めながらお蔵入りにしていた記事をアップすることにしました。校庭の真ん中にある巨木でモモンガやオシドリが繁殖するという心温まる番組内容とは全く違って、アホらしい記事ですが

私が中学生の頃、「学園もの」と呼ばれる歌謡曲が流行しました。最大のヒット曲は『高校三年生』。舟木一夫が「♪赤い夕陽が校舎を染めて ニレの木陰に弾む声~」と歌っていました。そして、樹木に関心を持って以来、「あのニレはどんな樹だろう?」と気になっていたのです。
日本でニレと名がつくのは、ハルニレかアキニレ。番組でも紹介されたようにハルニレは主に北海道など寒い地方に分布していますが、本州以南の学校で植栽に使うことはまずないでしょう。

   (ハルニレの葉は大きいのでしっかり木陰を作ります)

アキニレはうちの近所にもあります。まだら模様の樹皮が面白い樹ですが、葉っぱが小さいので、歌にあるような木陰を作るにはふさわしくない樹です。夏に涼しい木陰を作ることが街路樹や公園樹の選定理由の一つですから、アキニレは植栽には使わないはずです。

   (アキニレの葉は小さいのでまばらな木陰になります)

『高校三年生』で歌われた「ニレの木陰」はハルニレでもアキニレでもない。とすれば、何の樹? 私はケヤキではないかと考えています。ケヤキはニレ科の中で最もポピュラーな樹で、街路樹や公園などにもよく使われます。

    (『高校三年生』で歌われた「ニレの木陰」はケヤキの木陰?)

放送されたような北海道の学校ならハルニレがあっても不思議ではありませんが、『高校三年生』で歌われたニレはケヤキ。私は勝手にそう断定します。
どっちでもいいですね(笑)。写真は、こんなショーモナイ記事を掲載するために、昨年の夏にわざわざ京都府立植物園へ行って撮影したものです
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滝の千年ツバキ

2007年04月20日 | 伝説の樹
「お国自慢の巨木の樹齢はほとんどウソ」と書いたばかりなのに、その舌の根も乾かないうちに何ですが、私の故郷の名木「滝の千年ツバキ」です。

      
          (ミソサザイが鳴くような山奥にあります)

滝という地域にあるのでこの名で呼ばれ、巨木やツバキの本にはよく登場する有名な樹です(プチ自慢)。日曜日に帰省した折に(というか開花時期に合わせて帰省したので)、久しぶりに訪れて撮影してきました。ところが、今年はどういうわけか花が少なく、本やネットで紹介されている美しい姿が見られませんでした。
昔から地元では「ムラサキツバキ」と呼んでいたようですが、昭和63年にツバキ研究家に調査してもらったところ、「推定樹齢1200年、日本最古のクロツバキ」ということになりました。本州に自生するツバキはヤブツバキかユキツバキなので、クロツバキはヤブツバキの変種でしょう。

      
        (ツバキの花弁をモチーフにした「椿文化資料館」)

平成6年には、近くに「椿文化資料館」という小さなミュージアムが建てられ、町おこしに一役買っています。その中の説明パネルによると、ツバキは1700年頃にヨーロッパに伝わり「東洋のバラ」と紹介されたそうです。展示物に混じって、母校の後輩の美術部員が描いた油絵も飾ってありました。
この「千年ツバキ」は私の故郷「与謝野(よさの)町」のシンボルツリーでもあるのですが、合併前の隣町にある樹なので、私自身はいまいち親近感がないです。でも、専門家が「樹齢1200年」と言っているのに、控えめに「千年ツバキ」と言うところが可愛いでしょ? 「千二百年ツバキ」と言いにくいだけか

      
      (当日は「椿祭」が開催され、大勢の人々で賑わっていました)
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世界一長寿の樹

2007年04月18日 | 木と歴史
日本一長寿の樹に続いて、今日は世界一長寿の樹。
その樹はアメリカ東部のホワイト山という山中に生えているイガゴヨウマツという樹で、樹齢は4600年。下の写真はアッテンボローの『植物の私生活』という本を写したものですが、記事には「骨の折れる調査が続けられ、何本かは4600歳だと断定することができました」と書いてあります。写真を見ると空洞があるので、縄文杉と同じく中の木片を放射線炭素法で調べたのでしょう。

      
         (世界一長寿とされているイガゴヨウマツ)

ギネスブックにも「世界一長寿の樹」として記載されています。しかし、前回も書いたように空洞のない立木は放射性炭素法で樹齢が計測できませんから、このイガゴヨウマツ以上に長寿の樹が他にあるかも知れません。
屋久島の縄文杉を世界一長寿の樹として誰かが報告したらしく、ギネスブックには「日本から紀元前5200年生まれの樹の報告があった」という記録が残っているそうです。信憑性に問題があったのか、結局は世界一と認定されなかったようです。
前回の大王杉(樹齢3000年)にしても、このイガゴヨウマツにしても紀元前から生き続けているのです。おそらく地球上で最も古い生物でしょう。水野晴郎じゃないですが、「いや~、木ってホントに素晴らしいですね」。
なお、「世界一高い樹」で日本の樹に触れませんでしたが、「日本一高い樹」は私の知る限り3本あります。いずれもスギで、秋田県の「きみまち杉」は58m、高知県大豊町の「杉の大杉」は60m、山梨県身延山にある杉も60m。それぞれが「日本一」と主張しているようです。
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日本一長寿の樹

2007年04月16日 | 木と歴史
以前、「世界一高い樹」と「世界一太い樹」をアップしたところ、bulbulさんから「長寿の世界一や日本一の樹を紹介してほしい」というリクエストをいただきました。それにお応えして、とりあえず今日は日本一の方を。
一般的な木の本やサイトには、「屋久島の縄文杉は樹齢7200年」と書いてあります。これが本当なら縄文杉が日本一&世界一です。
ところが、縄文杉も含めて各地に伝わる樹齢○○年というのは、ほとんど根拠がありません。と言うか、科学がこれほど発達している現代でも、立木の樹齢を正確に計測する方法がないのです。
幹に穴をあけ棒状のサンプルを採取して年輪を数える「生長錐」という道具がありますが、あくまでも林業用なので直径1m以下の樹にしか使えません。また、X線によるCT検査という方法もありますが、機材が200kgもあって山の中に持ち運べず、しかも太い樹には使えないそうです。

      
 (京大・木材研究室にあった屋久杉のサンプル。直系180cm、推定樹齢900年)

放射性炭素法というのがあって、その樹が生まれた頃に固定された二酸化炭素を測定すれば年代が分かるのですが、樹木の中心部(つまり樹が誕生した頃)の木片を採取しないと樹齢は計測できません。遺跡から出土した木器や寺院の建築材の年代は計測できますが、立木は計測できないのです。
ただ、縄文杉は中が腐って空洞になっているので、そこにあった木片を取り出して放射性炭素法で調べた結果、樹齢2170年という数字が出ました。また、縄文杉が発見されるまで最大の屋久杉と言われていた大王杉も空洞の木片を採取して調べたところ3000年でした。

科学的な方法が確立できないのは、樹齢計測がタブー視されているという事情もあるようです。日本各地にお国自慢の巨樹があり、それぞれ樹齢一千年とか、源義経など歴史上の人物が植えたとか、中にはヤマトタケルノミコトがからんだ巨樹もあります。
樹齢を科学的に計測するとそれらの伝承樹齢がほとんどウソになり、地元の誇りや観光事業を傷つけるので専門家も積極的になれないようです。
千葉県の国の天然記念物のスギには、折衷案的に「樹齢1000年、実樹齢400余年」という札がかけてあるそうです。この400余年という実樹齢は、多分近くで切り倒されたスギの年輪とその太さからから冷静に推測した数字でしょう。
ということで、サンプルの木片が誕生当時のものという条件付きですが、日本一の長寿の樹は屋久島の大王杉(樹齢3000年)と決定!
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アンズの林

2007年04月13日 | 木と医薬
写真はアンズのチョコレートケーキ。大阪で評判になっている「五感」というお店で買ってきました。ケーキ好きの妻が「今まで食べた中でこの店がNo.1」と言うので、最近よく利用しています。トッピングだけじゃなく、ケーキの中にも刻んだアンズが入っていて、とても美味しかったです。

      

このアンズ(杏)ですが、杏林(キョーリン)製薬という薬メーカーがありますし、杏林大学という医科大学(現在は4学部の総合大学)があります。アンズの林は医学に関係しているようです。
この「杏林」は中国の故事に由来します。その昔、中国に董奉(とうほう)という医師がいました。彼は患者を治療してもお金を受け取らず、その代わりに病気が治った人には杏の苗を植えてもらいました。
その杏が10万株もの林になると、今度はその実を売って穀物に換え、貧しい人々に配りました。以来、良心的な医者のことを「杏林」と呼ぶようになったそうです。アンズの苗ならいくらでも植えるので、こんな医者に治療してほしいものです。

      
         (アンズの花。万博公園で3月末に撮影)

アンズは植物学的にはウメに近い樹で、アンズとウメとスモモが一つのグループに分類されています。中国原産ですが、平安時代にはすでに日本に渡来していたようで、当時は「唐桃(からもも)」と呼ばれていました。
昨年、妻の具合が悪くなったので、近くの医者に往診してもらいました。高級外車に乗って看護士と一緒に…と思っていたら、意外にもトヨタのスターレットで一人で来られました。私の車よりも小さく古いタイプです。それを見て、「この医者は信頼できるな」と思いました。
その後、薬を受け取りに病院に行きましたが、狭い待合室は患者さんでいっぱいでした。このあたりでは評判のいい医者のようです。わが町の杏林かな?
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お菊二十四

2007年04月11日 | 野鳥
このタイトルだけでバードウォッチャーは内容が分かるはずですが、鳥の声の話です。散歩コースの大吉山でも鳥がさえずり始め、賑やかになってきました。
一般的には「鳥の声=さえずり」と思われているようですが、正確には違います。さえずりは春から夏の繁殖期に縄張りを主張したり、オスがメスに求愛(分かりやすく言うとナンパ)するために出す声で、それ以外の季節の声は「さえずり」とは言いません。また、さえずるのは基本的にはオスだけです。繁殖期以外の鳴き声は「地鳴き」と言います。さえずりと違って地味です。
最もポピュラーな小鳥のさえずりは、ウグイスの「ホーホケキョ」。こうした鳥の声を昔の人は「聞きなし」で覚えました。ウグイスの声を「法、法華経」、ホトトギスの声を「東京特許許可局」と覚えるのが「聞きなし」。
メジロは「長兵衛、忠兵衛、長忠兵衛」、ホオジロは「一筆啓上つかまつり候(そうろう)」。音が若干違うものもありますが、リズムやアクセントで確かにそう聞こえるのです。

      
       (大吉山のメジロ。「チューチューチュー」と鳴きます)

さえずりにも美しいのとそうでないのがあって、日本ではウグイスオオルリコマドリが声の三名鳥とされています。これらの鳥の声は確かに美しいですが、私がいちばん好きな声はイカル。その聞きなしが、タイトルの「お菊二十四」です。最後の「四」が尻上がりに高くなります。
決して美しくはないのですが、のどかというか、ノホホ~ンというか、緊張感がないというか、聞くと肩の力が抜けるようなさえずり。三名鳥は「一生懸命鳴いています!」という鳴き方ですが、イカルは「適当に鳴いてま~す」という鳴き方です。
緊張感のない生き方をしているせいか、私にはこの声が一番フィットします。以下のサイトでいろんな小鳥の声がアップされていますので、ぜひイカルのさえずりを聴いてみてください。肩の力、抜けますよ~。

ことりのさえずり

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桜は偽物

2007年04月09日 | 木と言葉
桜シリーズのおまけで、いろんなエピソードをご紹介します。
まず、馬の肉を「サクラ」と呼びますが、その由来をご存知ですか? いろんな説があって、その一つは、馬肉を鍋で煮るとピンク色になるからというもの。もう一つは、桜の咲く頃が最もうまいからという説。
そして、「咲いた桜になぜ駒つなぐ 駒が勇めば花が散る」という江戸時代の歌に由来するという説もあります。猪の肉を「牡丹」、鹿の肉を「紅葉」と呼ぶ風流な流れから推測して、私はこの説を信じます。
また、「サクラ」は偽の客も意味します。こちらも諸説あって、歌舞伎で客のふりをして大きな声で役者を褒め、すぐに姿を消す人のことを、パッと咲いてすぐに散る桜に例えたというのが一つ。もう一つは、前述の馬肉に由来するもの。偽の客のことをその世界で「つけ馬」とか「あて馬」と呼んだので、馬→馬肉→桜で隠語になったという説。私はこちらを信じます。

      
         (昨日、宇治川で行われた恒例の桜祭)

私くらいの世代の人は、アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンは子どもの頃、あやまって桜の樹を切ったことを正直に父に告白して褒められた、という話を聞いたことがあると思います。
ところが、このワシントンの逸話は作り話のようです。ロック・ウィームズという牧師が「ワシントンの生涯と記憶すべき活動」というパンフレットに書いたのが最初ですが、どうやら本が売れるように勝手に付け加えた話らしいです。しかも、牧師というのも自称で怪しいとのこと。こちらのサクラも偽物のようです。
アメリカに自生する桜は日本の桜とは種類が違いますが、明治45年に当時の東京市長がアメリカにソメイヨシノなど3,000本の桜を贈り、今でも首都ワシントンでは桜祭が行われているそうです。その返礼として贈られたのが、最近日本でも人気の高いアメリカハナミズキです。
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桜にご用心

2007年04月06日 | 木の材
桜は花だけでなく、材としても重用されてきました。例えば、版木。日本が世界に誇る浮世絵などの版画はほとんどがヤマザクラの版木で刷られているそうです。
版画だけでなく、昔は書籍も版木で印刷しました。前回も登場した本居宣長の息子の本居春庭は、「言の葉の 花ちりばめて 遠き世に 匂うもうれし 桜木の板」という歌を残していますが、これは「桜の版木で言葉を後世に伝えるのは素晴らしいことだ」という意味です。
版木に使われるのは、硬いのに削りやすく、しかもエッジがしっかりしているからでしょう。

      
           (わが家の桜のタンス)

桜材と言えば家具やインテリアなどに使われる赤い木として知られています。わが家にも桜の和ダンスが一棹あります。
ところが、私も木の勉強を始めてから知ったことですが、いま日本の家具業界や建築業界で言われている桜はほとんどが樺(ダケカンバやミズメ)だそうです。みなさんの家にあるサクラの家具や床材も多分カバです。
「それって詐欺じゃないの?」と私も思いました。ところが、家具業界では樺材のことを「桜」と呼ぶのが当り前で、「知らないほうが悪い」みたいな状況です。最初は桜の代用品として樺が使われたのでしょうが、ヤマザクラが入手しにくいこともあって、いつの間にか「材は樺、名前は桜」になったようです。

         
     (秋田県の樺細工の茶筒。京大・木材研究室で撮影)

話はややこしくなりますが、これとは逆に名前は「樺」なのに材は「桜」というものがあります。写真のような木の皮を貼った木製品をご覧になったことがあると思いますが、これは「樺細工」という名前なのに材はヤマザクラの皮です。
植物学的には全く別の樹種ですが、桜も樺も横向きの皮目が共通していますし、材質も似ているので、用材の世界では桜=樺になっているのでしょう。

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