樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

死者の杖

2012年12月27日 | 木と宗教
「今年の10大ニュース」風に自分自身の1年を振り返ると、まず良いニュースでは、1月末に湖北、6月上旬に高知県へ鳥見ツアーに出かけました。いつもの3人で冬鳥と夏鳥をいろいろ見聞してきました。
悪いニュースは、8月の豪雨災害。わが家は被害がなかったものの、近所は大変でした。また、10月にはパソコンが壊れて買い換えたため、一時は仕事もプライベートも大混乱。
そして、一番のニュースは元旦に母が他界したこと。さらに、10月には義母も亡くなりました。母は86歳、義母は102歳、どちらも大往生でしたから、悪いニュースというよりも良いニュースと考えています。
そんな私に、たまたまですが、ある人が「死者の杖」をプレゼントしてくれました。



10年ほど前の樹木観察会で、センダンについて、昔は罪人の首をぶらさげた木であること、墓地に植えられること、この木で作った杖を棺に入れることなどを説明しました。
参加された野鳥の会の先輩がそれを覚えていて、シャレで私のために「死者の杖」を作り、いつか渡そうと保管しておられたのです。先月のあるイベントでご一緒した際に、それを持ってきてくださいました。
真っ直ぐな枝がなくて苦労されたそうです。樹皮を剥いで、サンドペーパーで磨いて、端には滑り止めのゴムキャップまで付けてあります。
センダンがなぜこうした死に関する用途に使われるのかを調べましたが、明確な由来は不明でした。ただ、古い時代の中国では、センダンに悪疫や邪気を払う霊力があるとされていたそうです。


今の時期のセンダンはたくさんの黄色い実が目立ちます

岡山地方ではセンダンで棺を作ると冥土への道が明るくなると言われているそうで、不吉なシンボルというよりも死者を天国に導くというような意味があるのではないでしょうか。「死者の杖」に使われたのも同じ由来でしょう。もっと早く受け取っていれば、母の棺に入れられたのにな~。
この世で使うとしても私にはまだ早いですが、5年後くらいに野山を歩く際に使わせていただきます。そして、私が死んだら棺に入れてもらうように妻に頼んでおきます(笑)。
Mさん、素敵なプレゼント、ありがとうございました。
さて、今年もそろそろ暮れようとしていますので、当ブログも「書納め」とさせていただきます。1年間ご愛読いただき、ありがとうございました。「書初め」は1月3日としますので、来年も宜しくお付き合いください。
では、みなさま良いお年を…。
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よく柿食う客

2012年12月24日 | 木と鳥・動物
先日、京都御苑に鳥見に出かけました。苑内を1周して疲れたので、歩いて探すのをやめ、柿の木の下で待ち伏せる作戦に変更。15分ほどの間に柿のレストランにやってきたのは以下のお客たちでした。



このほか、エナガやヒヨドリもやって来ました。ハシブトガラスは地面に落ちた実をくわえてどこかに飛んで行きました。
今回は見られなかったですが、シジュウカラやヤマガラ、ムクドリなども柿の実を食べます。以前、近所のお寺の柿をアオゲラが啄んでいるのを見て驚いたこともあります。柿は鳥の人気メニューのようです。
叶内拓哉さんの『野鳥と木の実ハンドブック』には、「完全に動物食の鳥は別として、私はカキの実を食べない鳥を知らない」と書いてあります。さらに、「人間向きの甘柿を食べる訳ではなく、霜に何度か当たって渋みが抜けた渋柿を食べている。多数ある品種から自分の好きな品種を見分けているようだ」とも。
私も柿が大好きで、しばらく前から毎日のように食べています。お正月の楽しみは干し柿。私の前世は鳥かも知れない。
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樹液

2012年12月20日 | 木と飲食
当ブログのもともとのテーマは、「樹木が人間の暮らしや文化にいかに広く関わっているか」。このことは、樹液という一つの要素に限っても納得できます。
例えば、漆も樹液。これがなければ、日本の食器はもちろん家具や工芸品も貧弱なものに終わっていたでしょう。
また、ゴムも樹液。現在は合成ゴムが主流のようですが、天然ゴムがなければ私たちの生活は不便だったはずです。さらに、松ヤニなどの樹脂も樹液。印刷インクや接着剤などさまざまな用途がありますし、これが固まったものが琥珀です。
樹液は食品にもなります。最も身近なものはメープルシロップ。サトウカエデの樹液を煮詰めたものを甘味料として使います。


メープルシロップはやっぱりMade in Canada

しかし、漆やゴムとメープルシロップが同じ樹液とは思えません。どう違うのだろうと調べてみました。
漆やゴムの材料となる乳液は、樹木が自分を守るために主に樹皮に蓄積した抗菌性物質。漆はウルシオールやチチオール、ゴムは高分子テルペン、マツヤニはテルペン類や高級アルコール、高級脂肪酸が主成分だそうです。
一方、メープルシロップは、葉の中で光合成によって作られた糖分が溶けた水溶液。幹の中のパイプを通って根の方へ移動する途中で人間が横取りするわけです。
飲料として販売されているシラカバの樹液も同じ。最近注目されているキシリトールもシラカバの樹液から抽出するようです。


以前、北海道フェアで入手した白樺樹液100%の「森の雫」

こうして人間の暮らしや文化に不可欠な樹液を供給してくれる樹木を、私たちは多少のコストがかかっても守り育てなければなりません。これがいわゆる「受益者負担」です(笑)。

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嫌われ者

2012年12月17日 | 野鳥
さすがに、バードウォッチャーの間でも「カラスが好き」という人はほとんどいません。ましてや一般の人々にとって、カラスは嫌いな鳥の筆頭ではないでしょうか。
松尾芭蕉も大嫌いだったようで、『烏之賦』という散文で口を極めて罵っています。私流に現代語訳すると、以下のような内容。
「カラスは性格がねじれていて強悪で、トビをあなどり、タカも恐れずにチョッカイを出す。肉はカモに比べようもなくまずく、声もウグイスとは大違い。しかも、鳴けば人に不正の心を抱かせ、必ず凶事が起きる…」。「そこまで言うか?」と突っ込みたくなるほどの毛嫌いぶりです。
しかし、カラスにもいろいろあって、冬鳥として渡ってくるミヤマガラスやコクマルガラスにはバードウォッチャーも関心を示します。私も近くの干拓田へ観察に行きました。
稲を刈った後の田んぼにミヤマガラスが30羽ほど群れていました。電線に並んでいたのが下の2羽。クチバシがグレーで、基部が白いところが普通のカラスと違います。
おそらくペアでしょう。右の(多分)オスが左のメスの羽づくろいをしています。サルのノミ取りみたいで微笑ましいですね。



芭蕉がミヤマガラスやコクマルガラスを認識していたかどうかは分かりませんが、上述のカラス批判はさらにヒートアップします。
「人里では栗や柿の実を荒らし、田畑では農作物を喰い散らす。小鳥の卵を盗み、沼のカエルを喰らう。人の屍を狙い、牛や馬の内臓をむさぼる。挙句の果てに、凧にまでチョッカイを出して糸にからまって命を落とす。カワウの真似をして溺れる。むさぼることばかり考えて知恵を働かさないから、そんなことになるのだ。まるで、表面だけ墨染めの衣をまとった偽坊主のようだ。中国の伝説の3本足のカラスのように、矢に打たれて死ぬがいい」。
ここまで罵詈雑言を浴びせられると、カラスが少しかわいそうに思えます。
その一方で、“俳聖”はカラスを句に詠んでいます。
枯れ枝に烏の止まりたるや秋の暮れ
風景としての烏は絵になるから許す、ということなんでしょうか。他にもカラスの句があって、
ひごろ憎き烏も雪の朝哉 (大嫌いなカラスも雪に映えていつもと違う風情がある)
やっぱり嫌いなんですね(笑)。
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冬の樹

2012年12月13日 | 樹木
先々週の週末は今年最後の栃の森の野鳥調査でしたが、私は今回の選挙に関する仕事があって参加できませんでした。
メンバーによると、森は雪に覆われ、鳥は少なかったものの雪の上のアニマルトラッキング(足跡)が楽しめたとのこと。樹木にも雪や氷柱が張り付いていたようです。


メンバーに借りた写真

こういうシーンを見ると、素朴な疑問が湧いてきます。氷点下の極寒の中で、なぜ樹木は生きていられるのだろう? 樹の中の水分が凍れば細胞が破壊されたり、幹や枝が破裂するはずなのに、なぜ-20℃くらいの寒さでも平気なんだろう?
最近その疑問が解けました。秘密は細胞の中の糖分濃度。寒くなると、樹木は細胞の中にあるデンプンを溶かして低分子の糖に変え、細胞内の糖分濃度を高めるそうです。そうすると凝固点が下がって、氷点下でも細胞は凍らないという仕組みらしいです。


ナメコからツララが。樹はミズナラかな?

ただし、樹木が糖分濃度を高める前に厳しい寒さが到来した秋、逆に糖分濃度を下げてから寒波が到来した春、あるいは樹木の持つ耐寒性(凝固点)を超える寒さが襲ったときは、やはり細胞が凍結して死んでしまうそうです。
そうならないために、私も寒い日に鳥を見に行くときは、甘いものをたくさん食べて糖分濃度を上げてから出かけようと思います(笑)。
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カモの味

2012年12月10日 | 野鳥
「カモがネギを背負って来る」という諺があるように、昔は野生のカモを普通に食べていました。現在は捕獲が禁止されているので、合鴨やアヒルなど家禽の肉が鴨肉として販売されています。
しかし、野鳥保護を標榜する「日本野鳥の会」の会員としては不謹慎と思いつつ、「野生のカモはどんな味なんだろう?」とか「カモにもいろいろ種類があるけど、どれが一番おいしいんだろう?」という興味を禁じえません(笑)。
実際に食べ比べるわけにいかないので、資料を探すと、カモの味に関する記述がありました。カモの研究家である黒田長禮(ながみち)博士の著書によると、「オカヨシガモが一番おいしく、ついでマガモ、コガモの順」らしいです。


一番おいしいオカヨシガモ(宇治川)

ちなみに、黒田博士は「酒は飲め飲め~」の「黒田節」で知られる福岡・黒田藩14代目当主。
その長男である黒田長久氏も鳥類学者で、私が入会した頃の日本野鳥の会の会長でした。その長久博士の著書『愛鳥譜』には次のように書いてあります。
「カモは植物性の餌を多く採るものほどうまいといいます。ですから早く渡ってきて、例えば鴨場で長く穀類を食べたカモの方が銃で捕ったカモよりもおいしい。父はオカヨシガモが「カモ類中もっとも美味といわれている」と書いていますが、数の少ないカモなので私は味わっていません。父自身はオナガガモをいちばん好んだのですが、私はコガモが好きでした。コガモは体が小さいだけに味が濃いように思います。一般に喜ばれるのはアヒルの先祖のマガモでしょうか。少し大味のような気がします。植物性の餌摂取率マガモ99%、コガモ98%ですが、この辺になると好みですね。もっともどんなカモにも個体差があって、まずいとされているカモでも長く餌付けしたものはおいしく、うまいカモでさえ渡ってきた10月ごろはみなまずかったそうです」


長久博士が好んだというコガモ(近くの池)

やっぱり草食系のカモの方がおいしいわけですね。私もカモを観察している時、プックリ膨らんだコガモの胸や脇腹を見るといつも「おいしそう!」と思います。
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お寺のグリーンウォッシュ

2012年12月06日 | 森林保護
滋賀県大津市にある三井寺が、針葉樹中心の境内の森を広葉樹林に切り替えると発表しました。
甲子園球場30個分の面積を有し、現在はその7割が人工のヒノキ林、2割がシイ林。これを「動物と共存できる多様性に富む森林に転換したい」というのがその趣旨です。
ところが、そのニュースの中に「サクラやモミジを植えて多様化したい」という関係者の声があって、「あ~、やっぱり」と幻滅しました。



「動物との共生」とか「多様性に富む森林」とか環境に配慮したふりをしながら、実際にはサクラやモミジを植えて、春と秋の観光客を増やしたいということでしょう。
こういう動きは三井寺だけでなく京都のお寺にもあります。最も観光客が多い清水寺も同様の口実で裏山にサクラやモミジを植えています。嵐山では「嵐山保勝会」という団体が中心になって積極的に植樹を進めていますが、この団体の構成メンバーの多くは料理旅館や土産物屋。



「人工林を天然林に戻す」あるいは「動物と共存できる森を作る」というなら、サクラやモミジではなく、コナラやクヌギ、タカノツメ、コシアブラなどの落葉樹、ソヨゴ、ヤブツバキなどの常緑樹といった近畿地方の天然林に自生する樹種をまんべんなく植えるべきでしょう。
以前、“環境にやさしい企業”を偽装する「グリーンウォッシュ」をご紹介しましたが、お寺でもこんなグリーンウォッシュが行われているんですね。
「観光客を増やしたいのでサクラとモミジを植えます」と正直に言えばいいのに、多様性や動物との共存を持ち出す…。仏の教えでは、こういう行為を何と言うんでしょうね~。
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みさご鮨

2012年12月03日 | 野鳥
先月中旬に母の1周忌で帰省してきました。本来は1月ですが、雪が降ると実家にもお墓にもアクセスできないので早めました。
帰途、コハクチョウを期待して天橋立の内海へ寄りましたが、まだ渡来していないのか近くの田んぼに採餌に出かけたのかお留守。でも、もう一つの狙いのミサゴが2~3羽飛んでいました。
この鳥は最近、英名「オスプレイ」で嫌われ者になってしまいましたが、私の好きなタカの一つです。英語の別名はsea hawk。タカのなかでは珍しく魚を獲って食べます。
下の動画の後半でも、杭の上で魚を貪っています。



ミサゴが巣に持ち帰った魚が自然発酵し、それを人間が取って食べたのがお鮨のルーツであるという説があります。曲亭馬琴の『椿説弓張月』などにそう書いてあるそうで、「みさご鮨」という言葉が辞典にも載っています。
「みさご鮨」という名前のお鮨屋さんが多いのはこのためだそうです。私の近くにはありませんが、みなさんの近くに「みさご鮨」というお鮨屋さんはありますか?
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