樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

奇遇

2021年12月30日 | 野鳥
20年以上前の話。1997年に太平洋航路で車ごと北海道へ渡って約2週間、道東で鳥三昧しました。その2年後、太平洋航路よりも1日早く上陸できる舞鶴-小樽航路で車ごと渡って約10日間、今度は道北の鳥を楽しみました。
ハイライトの一つは、天売島。対岸の羽幌町に車を置いて船で島に渡り、関西ではお目にかかれない囀るノゴマやコヨシキリを堪能しました。そして、あるポイントに停まっている車を見てビックリ。何と、京都ナンバーです。私と同様車ごと北海道へ来て、天売島へも車ごと渡って来たわけです。
しばらくすると持ち主が現れてまたビックリ。何と、同じ京都支部のHさん! 向こうも私の顔を見てビックリ。お互いに「日本は狭いですね~」と奇遇を喜び合いました。
天売島名物・ウトウの大群の帰島を観察した翌朝、ケイマフリとウミガラスを見るために観光船に乗ると、Hさんや旅の途中で知り合った宮城県支部のIさんも乗船しています。沖に出るとケイマフリの群れが海に浮かんでいて、船が近づくと赤い足をバタつかせて一斉に飛び立ちます。アイヌ語で「赤い足」を意味する鳥名に納得しました。


ケイマフリ(Public Domain)

20mほど先に姿が見えたので「アビがいる」と叫ぶと、Iさんが「オロロン鳥ですよ」とカメラを向けます。よく見ると、目当てのウミガラス! その鳴き声から現地では「オロロン鳥」と呼ばれており、日本では絶滅寸前の希少種です。
Iさんは1回目の乗船では遭遇できなかったらしく、「おかげで2回目で見られました」と、最初はアビと誤認したのにお礼を言われてしまいました。私は1羽しか確認できなかったのですが、Hさんは2羽見たそうです。


ウミガラス(Public Domain)

もうふた昔も前のことですが、先日NHKで天売島の野鳥番組を放映していたので、Hさんとの奇遇を思い出しました。20年後の現在、ウミガラスは天売島でも見ることができなくなったようです。

さて、今年もあと2日。この1年、当ブログにお付き合いいただきありがとうございました。来年もよろしくお願いします。では、みなさまよいお年をお迎えください。
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中西悟堂、丹後で鳥見

2021年12月23日 | 野鳥
日本野鳥の会を創設した中西悟堂は何度も上洛していますが、1939(昭和14)年5月下旬には綾部や舞鶴まで足を伸ばしています。悟堂の夫人と綾部の愛鳥家の夫人が女学校の同窓であった縁で、講演を依頼されて訪れたのです。
そして、舞鶴での講演の後さらに天橋立まで足を伸ばし、そのときのことを以下のように書いています。

宮津の浜にむらがるウミネコの群れ、コアジサシの一つ二つ。どっと海から立ってまた海に落ちるウミスズメの一群。(中略)トベラなどの雑木の繁る梢にはコサメビタキの涼ろかにゆっくりとしたさえずりがつづき、汀には五、六十羽のキアシシギが二、三間まで近づくわれわれをおそれる気色もなく餌をあさっていて…

宮津や天橋立は私の故郷・丹後の観光地。帰省した折に鳥を見に行くこともありますが、ウミネコは見られるものの、ウミスズメはもちろんコアジサシもキアシシギも見たことがありません。80年前の豊かな鳥相がうらやましくなります。
特にキアシシギが50~60羽も群れていたというのは驚きです。下は、私が淀川で撮ったキアシシギ。



天橋立ではケーブルで笠松公園に登って股のぞきをした後、茶店の店員から、この辺には「オ菊二十四イー」と鳴く鳥がいると聞いて、「キュキーコーキーと鳴くイカルのことらしい」と書いています。悟堂は「お菊二十四」の聞きなしを知らなかったようです。関西特有の聞きなしだったのでしょうか。
悟堂の著作はよく読みますが、鳥の観察力もさることながら、それを表現する言葉の多彩さと的確さにいつも感服させられます。
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炭鉱のカナリア

2021年12月16日 | 野鳥
炭鉱では一酸化炭素などの有毒ガスが発生することがあるので、それを検知するためにカナリアが使われました。ここから、危険を予知することを「炭鉱のカナリア」と呼び、金融界では景気の危機を予告する場合に使われます。
昔はカナリアを鳥カゴに入れて使っていたようですが、すぐに死ぬので下の写真のような装置が作られました。前の丸窓を開けて炭坑内の空気を入れ、有毒ガスを吸ったカナリアが元気をなくして止まり木から落ちると丸窓を閉め、上にある酸素ボンベを開いてカナリアを蘇生させるというもの。


画像提供:ロンドン科学博物館

この装置ではないでしょうが、日本の炭鉱ではカナリアのほかメジロやジュウシマツが使われたそうです。また、サリンやVXガスを製造したオウム真理教の拠点を家宅捜索する際には、カゴに入れたカナリアが使われたとのこと。
鳥は飛ぶために多くの酸素が必要なので体重比20%(人間は5%)もの呼吸器を持っており、大量の空気を吸い込むため毒性への反応が敏感なことから検知役に使われたわけです。
しかし、あまりにも残酷なので、1986年にイギリスは炭鉱でカナリアを使うことを法律で禁じ、200羽ほどのカナリアが解放されました。現在は電子式のガス検知器を使っているそうです。
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三代将軍が描いた鳥

2021年12月09日 | 野鳥
徳川三代将軍・家光は鷹狩りが大好きで、在職中に数百回行ったそうです。その一方、絵心もあったらしく、墨絵を描いて家臣に与えていたそうです。その中には鳥の絵もあって、下のミミズクもその一つ。



明治時代の美術書『扶桑画人伝』は、家光が狩野探幽に絵を学んでいたことを伝え、「筆力盛ンニシテ」とか「奇画」と評しています。また、大正・昭和期の美術研究家・金井紫雲は、著書『鳥と芸術』の「鷽(うそ)」の項で次のように書いています。
変わったものでは、徳川家光公に有名な『鷽鳥(うそ)』の幅がある。藤田男爵家の襲蔵であった。鳥はさして巧者でもないが、これに沢庵和尚が「世の人の それはそれにて このとりの うそとよぶこそ 有名無実(ひとのため)なれ」と賛をしているので名高くなっているのである。
昨年の11月には長野県で家光の新しい絵が発見されました。それが、下の「竹に雀図」。家光の絵に詳しい府中市美術館の学芸員が筆使いや掛け軸の覚書などから家光作と判断したとのこと。



「奇画」という評価を今風に言えば「ヘタウマ」ということでしょうか。いずれにしても、三代将軍のイメージとはちょっと違う印象を受けます。
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面白い学名

2021年12月02日 | 野鳥
鳥には属名と種小名をラテン語などで表した学名があり、イタリック体(斜体)で表記します。発音しにくいので縁遠く、普段は学名を意識することはありませんが、中には面白い意味やストーリーを持つ学名があります。
オカヨシガモの学名はAnas strepera (アナス・ストゥレペラ)。anasは「カモ」、strepera は「騒々しい」なので「うるさいカモ」。しかし、マガモやカルガモは「ゲェゲェ」とうるさいですが、私はオカヨシガモの声を聞いたことがありません。下は宇治川で撮影したオカヨシガモのペア。



野鳥録音の第一人者・松田道生さんもオカヨシガモの声を録音するのに苦労し、「私にとってオカヨシガモは鳴かないカモでした」と書いた後、ようやく録れた声を「シックな装いと同じように鳴き声もシックでした」としています。誰が「うるさいカモ」と命名したのか知りませんが、繁殖地ではうるさいのでしょうか。
ヤマセミの学名Megaceryle lugubris (メガケリュレ・ルグブリス) は、「悲しげな声の大きなまだら模様の鳥」。「キャララ…」という声が「悲しげ」と解釈されたわけです。声は入っていませんが、下は宇治川で5年前に撮影したヤマセミ。



声や音にどのような情感を抱くかは人によって違いますが、きっと命名者には恋人との別離とか家族との死別など悲しい出来事があったのでしょう。
もともと埼玉県に局所的に分布していたシラコバトが、昨年、京都府でも初めて記録されました。この鳥の学名 Streptopelia decaocto(ステプトペリア・デカオクト)のdecaは10、octoは8で、デカオクトはギリシャ語で18を意味します。理由は鳴き声を「デカオクトー」と聞きなすから。しかも、この18には次のような悲しい物語があります。
ある女性が男の子をほしがっていたにもかかわらず、女の子ばかり18人も産まれた。18番目の娘は母親から特に憎まれて虐待されたので、哀れに思った神様がその娘をシラコバトに変えた。以来シラコバトは「デカオクトー(18)」と繰り返し鳴くようになった…。ギリシャのサモス島に残る伝説だそうです。
下は私が撮影したものではなく、上野動物園のシラコバト。



私には「デカオクトー」とは聞こえませんが、ウグイスの「ホーホケキョ」が外国人にはそう聞こえないのと同じで、ギリシャ人には「18」と聞こえるのでしょう。

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