樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

無名の人気者

2006年11月30日 | 街路樹・庭木
イチョウ並木がきれいに色づいて、街が黄色く染まっています。そのイチョウの陰にかくれて、人知れず街を彩っている樹があります。

      
           (トウカエデの黄葉)

それは、トウカエデ。この名前を知っている人は少ないですが、日本の街路樹のベスト3(私の記憶ではイチョウ、ケヤキ、トウカエデ)に入っています。
享保6年(1721年)、ザクロとともに中国から渡来したので「唐カエデ」。よく似た名前の「サトウカエデ」という外来種もあってややこしいのですが、こちらはシロップが採れるので「砂糖カエデ」。葉がカナダの国旗になっている樹です。

      
         (左がトウカエデ、右がイチョウ)

小石川植物園(東大植物園)には直径3.3m、つまり周囲10mの標本があるらしく、享保年間に渡来した日本最古のトウカエデではないかと言われています。ということは、渡来時点からだけでも樹齢300年。
それにはかないませんが、うちの近くには推定樹齢100年のトウカエデ(写真の樹)があって、宇治市名木百選に選ばれています。

         
         (ボロボロに剥がれたトウカエデの樹皮)

黄葉することと樹形が似ているためか、多くの人はイチョウと思い込んでいるようですが、よく見ると葉の形は違います。また、樹皮がボロボロに剥がれて汚く見えるのも特徴です。
そんな街路樹を見たら、ぜひ「トウカエデ」と覚えてやってください。
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ふるえる音楽

2006年11月29日 | 木と言葉
ポプラという樹があります。北海道の絵葉書によく登場する細長い樹です。私が通った小学校の校庭にも植えてありました。
このポプラは「ポピュラー」という言葉に似ているので以前から気になっていましたが、先日、ある本を読んでいたらそのことが書いてありました。

         
     (細くて高い樹形がポプラの特徴。黄葉も美しい。)

ラテン語のpopulus(ポプルス)が語源で、その意味は「ふるえる、さらさら鳴る」。ポプラの仲間(ヤナギ科ハコヤナギ属)には必ず「風で葉が揺れて音がする」という意味がからんでいて、日本では「山鳴らし」、中国では「風響樹」と呼びます。名前の由来は万国共通のようです。
ポプラやヤマナラシの葉の軸は断面が楕円形になっていて、わずかな風でもヒラヒラ揺れる構造になっています。そのために、カラカラ、サラサラと音をたてるのです。

      
  (左が軸の正面、右が軸の横面。葉が風を受けると軸がくるっと回転する。)
      
         (ポプラの葉はおにぎり型)

ポプラは、セイヨウハコヤナギとかイタリアヤマナラシという別名があるように、ヨーロッパ原産です。
古代ローマではこのポプラを広場に植えて、「人民の樹」と呼んでいたそうです。それ以降、ヨーロッパでは人民と自由のシンボルになり、フランス革命やアメリカ独立戦争では「自由の樹」とされていました。
英和辞典でpopularを調べてみると、最初に「民衆の」とあって、以後「大衆向きの」「評判のいい」「民間に普及している」と記されています。
つまり、もともと「ふるえる」という意味の言葉が樹の名前に使われ、その樹が人民のシンボルになったために、最終的にポピュラーという意味に転化したわけです。
ポピュラーミュージックは、語源で言えば「ふるえる音楽」なんですね。
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火を消す樹

2006年11月28日 | 伝説の樹
職員の逮捕など不祥事が相次いだ京都市役所の近くに本能寺があります。織田信長が最期を遂げた場所として知られています。
この本能寺は何度も火災に遭っていて、明智光秀による焼き討ち(1582年)の後、現在の地に再興されたものの、天明の大火(1788年)で再び焼失。さらに、幕末の蛤御門の変(1864年)でまたまた焼失。
何度も火災に遭遇するので火に敏感なのか、本能寺の「能」の字の右の「ヒヒ」を別の字にしたそうです(パソコンの漢字にはないので表記不可)。このことはscopsさんのブログで知りました。
そんな本能寺の境内に、これも火災がらみの「火伏せのイチョウ」があります。

         
  (信長の墓の横に立つ「火伏せのイチョウ」。今頃は黄葉しているでしょう。)

案内板によると、本能寺の変の後この場所に移植されたもので、天明の大火で京都が猛火に襲われたとき、このイチョウから水が噴き出て木の下に身を寄せていた人々を救ったそうです。
イチョウには各地にこうした話が伝わっていて、京都にはもう一つ有名な「西本願寺の水噴きイチョウ」があります。こちらは、安政5年(1858年)の大火で西本願寺に火が迫ったとき、門前のこのイチョウが水を噴いて類焼を食い止めたそうです。
西本願寺は現在大修理の真っ最中で、このイチョウは工事用のテントに覆われていて見ることはできませんが、テントに映った陰を見るだけでも驚くほどの巨樹です。
このほか、滋賀県木の本町の石道寺にも「火伏せのイチョウ」がありますし、おそらく日本全国に防火に貢献したイチョウが残っているはずです。
イチョウが本当に水を噴くのか疑問ですが、ある専門家は、火が近づいて周囲が熱くなったとき、イチョウが樹体内の水分を一気に蒸発させる姿が水を噴いたように見えるのではないかと言っています。
イチョウのほか、以前ご紹介したサンゴジュにも防火の効果があるようですし、ある樹木学者はアオギリが火を防ぐシーンを目の当たりにしたと書いていました。
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樹皮ハンドブック

2006年11月27日 | 樹木
自称「プチ樹木ジャーナリスト」の林将之さんが、『葉で見分ける樹木』に続いて、文一総合出版から『樹皮ハンドブック』を出版されました。
林さんは樹木の鑑定サイト「このきなんのき」も開設されていますし、以前このブログにもコメントをいただいたことがあります。

         

一般向けの樹皮専門図鑑はおそらく初めてでしょう。私は樹を主に葉で識別しますが、葉だけでは見分けられないときは樹皮も手がかりにします。でも、これまでは樹皮専門の図鑑はありませんでした。
この図鑑がありがたいのは、樹木ごとに若木、成木、老木の3つの写真が掲載されていること。樹木も人間と同じで、年齢によって肌の様子が変化します。例えば、ケヤキは若い間はツルツルの滑らかな肌ですが、老木になると外皮がウロコ状に剥がれてガサガサした肌になります。その変化が一覧できるのがこの図鑑のポイントです。

      

林さんも書いておられますが、樹皮だけで樹を識別するのは難しいです。よく似た樹皮もあるし、葉以上に個体差や年齢差があります。でも、その違いを観察するのもツリーウォッチングの楽しみでしょう。
ちなみに、表紙に16種の樹皮が掲載されていますが、私はまぐれ当たりも含めて5種類しか正解できませんでした。
文一総合出版は日本で唯一のバードウォッチング雑誌『Birder』を出版していますし、鳥の図鑑もたくさん出しています。このハンドブックシリーズには、カモやタカ、シギチドリの図鑑もあり、バードウォッチャーにとっては馴染み深い図鑑シリーズです。値段も千円少しで、「こんな値段でいいの?」と思うくらい安くてオススメです。
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昔のタンスにゴン

2006年11月24日 | 木と医薬
クスノキの英名はCamphor Tree(カンフルツリー)。カンフル剤のCamphorです。私たちはこの言葉を「局所的に使う刺激薬」という意味で使っていますが、もともとは樟脳(しょうのう)を意味します。

      
      (クスノキの葉。ちぎって匂いを嗅ぐと樟脳の匂いがします。)

若い人はご存知ないでしょうが、樟脳は昔の「タンスにゴン」です。防虫剤といえばこれしかなく、タバコと同じように、今はなき専売公社の扱い品でした。クスノキはクスシキ(薬師木)に由来するとも言われ、防虫剤以外にも、痛み止めや下痢止め、痛風、強心などの薬の原料になります。
各地に巨木があり、すべての樹種を含めた日本一の巨樹は鹿児島県の「蒲生(がもう)の大クス」(幹周り24m)です。ところが、ある学者はクスノキは日本の自生種ではないのではないかと疑問を投げかけています。

         
    (自宅近くにもクスノキの巨木があります。推定樹齢150年)

根拠は、天然更新が見られないから。つまり、クスノキの実が落ちて発芽し、樹木に成長するという事例がないんだそうです。低木段階で在来種に負けてしまって、成長しないらしいです。
そういえば、鎮守の森やお寺の境内など人工的な環境で大木をよく見ますが、クスノキの天然林というのは聞いたことがないですね。
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ビジネス街のサワフタギ

2006年11月22日 | 樹木
大阪のビジネス街のど真ん中、御堂筋と本町通りの東南角は現在工事中です。そのフェンスに樹木の絵が描いてありました。



しかも、サワフタギとかサルトリイバラ、クサギといった一般的にはあまり知られていない、言わばマニアックな樹種もあります。アラカシ、クヌギ、ヤマボウシ、コブシなども含めて全部で12種類の樹の葉や花、実が描かれています。
写真のサワフタギは、沢(谷川)をふさぐように繁るのでこの名があります。また実が青く、枝を牛の鼻輪に使ったので、別名ルリミノウシコロシ(瑠璃実の牛殺し)。初夏には、樹を覆うように白い小さな花がいっぱい咲きます。



この工事の主体は積水ハウス。「環境のいい街は、環境にいい街になる。」というキャッチフレーズも書いてあるので、多分タワーマンションを建設するのでしょう。ちなみに、同業者として言わせてもらえば、このキャッチフレーズはいまいち伝わりにくいですね。よく考えないと意味が理解できない。



近くにもうひとつ工事中のフェンスがあって、そこにも木の写真が掲出されています。こちらはケヤキの若木でしょうか。ツリーウォッチャーとしては、こういう投げやりな(?)フェンスよりも、多様な樹種を丁寧に描いた積水ハウスのフェンスに好感を持ちます。「ほとんどの通行人が知らない樹の絵をよくぞここまで描いてくれました」と拍手を送りたくなります。
でも、結局は荒々しい工事を隠すために樹木が利用されているだけのことですけどね。サワフタギというよりもコウジフタギ・・・。
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木の名の役者

2006年11月21日 | 木と言葉
今日はいつもと違う視点で書きます。木に最も関わりの深い芸名の役者は誰でしょう?
私も最近になって気づいたのですが、樹木希林じゃないでしょうか。4文字のうち3文字が樹木がらみです。キキキリン、5つの音のうち「キ」が3つもあります。何か由来がありそうなので少し調べてみました。
覚えている方もあると思いますが、彼女はもともと悠木千帆(ゆうきちほ)という芸名でした。それを、「他に売るものがないから」という理由で、あるオークションで芸名を売ってしまったので改名したそうです。

ご本人は同じ音が重なる名前が好きなので現在の名前にしたそうですが、意味は特になかったそうです。後になってから、他の人に「大小の木が集まって希なる林になる」と意味づけしてもらったそうです。
役者としての評価は私にはできませんが、この人のこだわりのなさと言うか、自然体の生き方には好感を持ちます。プライベートではいっさい化粧をしないそうです。60才は過ぎていますが、化粧をしない女優というのはこの人くらいでしょう。

      
無理やりですが、「大小の木が集まって生れた希少価値の高い林」というのはこんな林でしょうか。私のフィールドの「栃の森」です。
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庭木の王の王

2006年11月20日 | 伝説の樹
京都市伏見区にある海宝寺というお寺にモッコクの巨木があると知って、カメラ片手に出かけてきました。

      

そのお寺はいつも私が渋滞を避ける抜け道にあって、秀吉が伏見城にいた頃は伊達政宗の屋敷だったそうです。境内にその経緯を説明した看板があるのですが、面白いことにその看板は仙台市の名前で立ててあります。伊達政宗の地元の仙台市がわざわざ京都のお寺で説明しているのです。こういうのは初めて見ました。
この辺りの地名は「桃山町正宗」、私が利用していた抜け道は「伊達街道」。独眼流政宗の影が色濃く残っています。

      
       (葉の軸が赤いのがモッコクの特徴)

モッコクという名はあまりご存知ないかもしれませんが、「庭木の王」と呼ばれていて、園芸の世界では優等生です。個性がないので私は好きになれませんが、葉に光沢があって美しい、手がかからない、大きくならないので剪定も不要など、庭木にするにはいいことずくめです。
大きくならない樹なのに、こんなに大きな海宝寺のモッコクは相当な樹齢のはずです。伊達政宗が自ら植えたといいますから、その時点からでも約400年になります。
モッコクが「庭木の王」なら、この海宝寺の樹は「モッコクの王」。幹に巻かれた布が痛々しいですが、もうしばらくは王座に君臨できそうです。
モッコクはツバキ科。沖縄では重要な建築材で、首里城にも使われているそうです。
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新・世界7不思議

2006年11月17日 | 木の材
エジプトのピラミッドなど「世界7不思議」に代わる「新・世界7不思議」の最終候補に、万里の長城やエッフェル塔、自由の女神像などとともに日本から唯一、清水寺が選ばれたというニュースが流れました。木造建築としてもただ一つだそうです。有名な「清水の舞台」が対象になったのでしょう。たまたま、しばらく前に清水寺を取材していたのでご紹介します。

      

清水の舞台は本来は能のステージとして作られているそうです。能舞台は昔からヒノキで作られており、人が晴れ姿を披露する場所を「檜舞台」と言うのもここに由来します。
材の使い方にも工夫があって、優良材のヒノキも若干は反るので、普通の床板では凹型に反るように使いますが、能舞台では逆に凸型に反るように施工するそうです。その方が、演者がスムーズに摺り足できるからです。
現在の清水の舞台を見ると、さすがのヒノキも観光客の靴で凹型に磨り減っていました。ここで能を舞うのは難しいでしょうね。

      

舞台の板材はヒノキですが、それを支える柱はケヤキです。ケヤキは城や橋などの構造材に使われるくらい強度の高い材なので柱に使われたのでしょう。
この舞台は釘を1本も使わずに組み立てられていて、それが「新・世界7不思議」の候補に選定された理由の一つのようです。
清水寺にはもう一つ、奥の院にも舞台があって、こちらの柱にはケヤキではなくスギが使われていたようです。このことは、以前訪れた京大宇治キャンパスの「材鑑調査室」で知りました。
修理の際に提供された標本が展示してあり、「清水寺 奥の院 舞台柱 寛永再建時の当初材 スギ」と書いてあります。さすがの清水寺も、サブステージの建設には、ケヤキの代わりに入手しやすく安価なスギを使ったのでしょう。

      
     (京大「材鑑調査室」に展示されている奥の院の柱材・スギ)

この「新・世界7不思議」はスイスの財団が主催していて、21の候補からインターネットや電話の投票で選び、7にちなんで来年の7月7日午前7時に締め切って選ぶそうです。そのサイトは英語版ですがこちらです。
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街路樹の剪定は落葉前?落葉後?

2006年11月16日 | 街路樹・庭木
10月中旬、車で京都の烏丸通りを走っていたら、街路樹のプラタナスを剪定していました。「葉が大きくて邪魔になるから、落葉する前に剪定するんだな」と思って見ていました。そんな折、リビング新聞に京都の街路樹の記事が掲載されていました。

      
      (街路樹に多いプラタナス。撮影は9月。)

それによると、私たちが目にする街路樹は、国(主に国道沿い)、府、市、町など管理主体が異なっていて、剪定にもそれぞれの方針があるようです。
例えば京都市では、北山通りや白川通りなどは紅葉を観光資源と位置付けているので落葉後に剪定するそうです。ということは、私が目撃した烏丸通りのプラタナスは観光資源ではない?
紅葉が美しい街路樹でも、沿道の住民から「掃除が大変だから落葉前に剪定して欲しい」と要望されることもあるとか。

      
      (白川通りの街路樹は、分離帯がケヤキ、両歩道がイチョウ)

さて、どれくらいの数の街路樹があるか想像できますか?
京都市が管理しているのは、イチョウ、トウカエデなどの落葉高木が4万7千本、常緑高木150本、低木が82万2千本。わが宇治市はモミジバフウ、トウカエデなど高木6千本、シャリンバイなどの低木9万2千本。このほか京都府や国道事務所(つまり国)が管理している街路樹もたくさんあります。何気なく見ていますが、スゴイ数ですね。
ちなみに、剪定された枝葉は焼却処分することもありますが、ほとんどの場合はチップ化して土に還したり、堆肥に加工して園芸用土として再利用するそうです。
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