樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

チョウゲンボウの小説

2024年10月31日 | 樹木
『ケス 鷹と少年』というイギリスの小説があります。「鷹」となっていますが、下の本の表紙が示すように、正しくは「チョウゲンボウ」。原題も「A Kestrel for a Knave(少年のためのチョウゲンボウ)」ですが、『チョウゲンボウと少年』では一般には通じない上に、以前はハヤブサ類もタカの仲間とされていたので「鷹」と訳されたようです。ただし、本文では「長元坊」と表記されています。



1968年に出版された本作はイギリス国内でベストセラーになり、翌年に映画化されました。上の表紙写真は映画の1シーン。その映画の題名が『Kes』なので、日本では本書の題名が『ケス 鷹と少年』になったわけです。KesはKestrelの略で、本作の中でも少年はチョウゲンボウを「ケス」と呼んでいます。
チョウゲンボウに魅せられた少年の物語で、以下のような記述があります。
鷹がブレーキをかけたように、突然、空中に留まったまま、見下ろすような体勢をとった。そのあいだ、気流を捉える風切り羽根が震え、尾は扇形になって下に傾(かし)いでいた。(中略)今度は翼を閉じ息を飲むほど見事な前傾姿勢で壁の背後に降下していった。爪で獲物をしっかり握ると、ふたたび舞い上がり、素早く牧草地に向けて進路を転じた。電柱の上で油断なく見守っていた雌の長元坊は、雄を出迎えるように鋭い鳴き声を上げて空中に飛び出した。
下は私が撮影したチョウゲンボウですが、作者は鳥に詳しいようで、ホバリングなどチョウゲンボウ独特の動きを言葉で巧みに表現しています。



また小説の中には、チョウゲンボウ以外にツグミ、ヒバリ、カケス、ミソサザイ、フクロウなど10種類以上の鳥が登場します。イギリスはバードウォッチング発祥の地なので、作者もバードウォッチャーだったのでしょう。
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北陸新幹線とタマシギ

2024年10月24日 | 野鳥
国交省が「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」を発表しました。京都市の地下を通るトンネルのルートと京都駅の位置が3案示されています。
この計画については、京都市の地下水への影響、残土の処理、京都府や京都市の財政負担など問題が山積していますが、私が驚いたのは、巨椋干拓地にトンネンルの出口と車両基地が開設されること。以下は、国交省発表の地図に私が文字を書き加えたもの。



車両基地建設予定地は、国交省による「宇治川洪水浸水想定区域」で5~10mの浸水が想定されています。2019年10月の台風19号で千曲川が氾濫し、長野車両基地が水没して3分の1の車両が廃棄されたので、浸水対策として約10mの盛り土の上に建設されるようです。
この計画が実施されれば、希少鳥類の宝庫である巨椋干拓地が壊滅的なダメージを受けます。ここには、京都府が絶滅危惧種に指定している約10種類のシギ・チドリが生息していますし、その中のタマシギは指定希少野生生物の鳥類5種にも位置付けられています。
車両基地建設予定地には、今季もタマシギが2家族生息していました。その映像が以下です。



今でさえオーバーツーリズムといわれて、京都市民がバスに乗れないとかゴミが散乱するとか弊害が出ているのに、京都に北陸新幹線が必要とは思えません。まして、希少な野鳥に悪影響が出るとなれば、野鳥の会としても対応する必要がありそうです。
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ミニホットスポット

2024年10月17日 | 野鳥
前回「ホットスポット&ハーレム」をご紹介しましたが、別の場所に、それほど多くの種類ではないにしても、5~6種類のシギやチドリが集まるミニホットスポットが出現しました。
もう10年ほど前からある2枚続きの休耕田で、今季はムナグロの13羽の群れがしばらく滞在しました。干拓地へ行くたびに覗きましたが、草むらからタシギが出て来たり、トウネンが立ち寄ったり、日替わりで楽しませてくれました。



毎年、シギ・チドリを観察する前に休耕田を探し、30~40カ所のポイントを一筆書きのルートで回りますが、何度訪れても鳥がいない休耕田がある一方、ここのように1カ所に数種類が集まる休耕田もあります。サギはいるけどシギ・チドリはいない休耕田もあります。
推測ですが、シギ・チドリは泥の中に潜むミミズやゴカイを食べるので、農薬をたくさん撒いた所は虫が少なく、そうでない所は虫が多いので鳥が集まるのでしょう。また、警戒心の強い鳥は、草や稲など隠れる場所が多い休耕田に集るようです。また、サギとシギ・チドリは食性が違うので、採餌する場所も異なります。
いずれにしても、今季はホットスポット&ハーレムとミニホットスポットでいろんな種類のシギ・チドリが観察できました。
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ホットスポット&ハーレム

2024年10月10日 | 野鳥
前回ご紹介したオグロシギがいた田んぼには、他にもシギやチドリが入れ替わり立ち替わり集まってきました。タシギが最も多く、最大15羽。そして、ヒバリシギ2羽、トウネン最大5羽、コチドリ数羽、ケリ約10羽も見られました。
こういう場所を、私は勝手に「ホットスポット」と呼んでいます。この言葉には「紛争地域」とか「流行の盛り場」という意味があるようですし、コロナが蔓延した頃は罹患者が集中した地域をそう呼びましたが、環境分野では「生物多様性の高い地域」という意味で使われるからです。NHKにも、福山雅治が案内する「ホットスポット 最後の楽園」という自然番組がありました。
しかもこの田んぼは、9月12日の「タマシギのヒナ救出」でお伝えしたように、タマシギのハーレムにもなっていました。つまり、ホットスポット&ハーレム。長年この農耕地でシギ・チドリを観察してきましたが、こういう場所は初めてです。



ここを発見して以降は毎回往復2回チェックしていましたが、行くたびに新しい発見があって、楽しませてもらいました。環境が徐々に悪化する中で、こういう場所があることは、鳥にとってもバードウォッチャーにとってもありがたいことです。
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オグロシギ

2024年10月03日 | 野鳥
干拓地ではほとんどの休耕田の水が抜かれ、シギ・チドリのシーズンもほぼ終了しました。8月中旬から昨日まで合計14回にわたって観察・撮影に出向きました。
その中で最もうれしかったのは、オグロシギとの邂逅。私がいちばん好きなシギですが、ここ2年は飛来しなかったので3年ぶりです。心臓の高鳴りを抑えつつ、カメラに収めました。以下は9月14日に撮影した動画ですが、その3日前にも同じ場所で確認しています。



この田んぼはジャンボタニシの食害があったようで、稲が少し残ったまま「耕作放棄地」という札が立っていました。本当の耕作放棄地は草が茫々と生い茂っていて、わざわざ札を立てたりしないので、「変だな?」と思って調べてみると、何かの建設用地になっていて地上げされたようです。
6月に田植えしたものの、ジャンボタニシに半分以上食い荒らされたので収穫をあきらめ、地上げ業者に売り渡したという経緯のようです。周囲には同じように「耕作放棄地」の札が立つ田んぼあちこちにあるので、地上げがかなり進んでいるようです。



北陸新幹線の延伸計画ではこの干拓地がルートになっているので、今後はこうした地上げがあちこちで始まるでしょう。そうなると、シギ・チドリだけでなく珍しい鳥が飛来する京都府有数の野鳥生息地がダメージを受けます。
どうなることやら、10年後、20年後が心配です。
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