樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

鳳凰の尾羽

2006年12月28日 | 木と言葉
昨日の続きで、もう一つ鳳凰がらみの樹の話。
以前、海宝寺にあるモッコクの巨木をご紹介しましたが、この寺には大きな蘇鉄も植えてありました。この「蘇鉄」という名前の由来は、樹勢が衰えたとき鉄の釘を幹に打ち込んだり、根際に鉄くずを撒くと蘇るからだという説があります。
しかし、蘇鉄が自生する九州南部や沖縄ではいろんな呼び名があって、奄美大島では「スティチィ」、宮古島では「ソゥティツ」など島ごとに違うらしいです。「蘇鉄」から方言が生まれたのか、方言に「蘇鉄」という漢字を当てはめたのかは不明です。

      
            (海宝寺の鳳凰の尾羽?)

昔は、琉球王朝には中国の使者がよく訪れました。ある使者は、ソテツについて「シュロのようで、葉は鳳凰の尾羽に似ていて、四季を通じて色が変らない」という記録を残しています。これがルーツなのか、中国語ではソテツを鳳尾蕉(ほうびしょう)と表記します。しかし、実在しない鳥の尾に例えて樹の名前をつけると言うのも、いかにも中国らしいですね。
沖縄地方ではこのソテツの実を食用や薬に、葉を茶の代用や燃料にしたとか。特に、与論島や沖永良部島など山林のない島では、ソテツの葉は貴重な燃料だったそうです。
さて、当ブログも本日が今年の最終日です。長くお付き合いいただきありがとうございました。お正月明けにいつも通り始めますので、また飽きずに読んでください。
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鳳凰は渡り鳥

2006年12月27日 | 木と言葉
昨日、花札の鳥を紹介しましたが、今日は桐と鳳凰の話です。

         

花札に描かれているのはキリですが、本家の中国で鳳凰が住むと言われているのはアオギリ。名前は似ていますが、全く別の木です。
幹が緑色なのでこの名前があります。中国原産と言われていますが、日本でも街路樹に使われるほどポピュラーです。カカオの仲間で、戦争中は実をコーヒーの代用に使ったそうです。

         

漢字では「梧桐」と書きます。日本では秋の季語として「桐一葉」を使いますが、これは中国の「梧桐一葉落ち、天下尽く秋を知る」という詩がルーツ。花札の「桐に鳳凰」もそうですが、中国で梧桐(アオギリ)だったものが、日本でいつの間にか桐(キリ)にすり替わっているのです。
アオギリの英名はPhoenix tree。フェニックス(不死鳥)はエジプトの伝説上の霊鳥ですが、中国の鳳凰伝説に合わせてネーミングしたのでしょう。
一方、鳳凰は昔から「聖人が世に出るときにだけ現れる」とか「竹の実だけを食べる」と言われてきました。その幻の鳥が、実は宇治に生息しています。しかも2羽。アオギリではなく、平等院鳳凰堂の屋根の両端で向かい合って翼を広げています。

      
         (平等院に生息する鳳凰)

最近は1万円札の裏側にまで生息域を広げています。しかも、渡りの習性があるようで、貧乏人の家からどんどん飛び去って、お金持ちの家に集まるようです。
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花札でバードウォッチング

2006年12月26日 | 野鳥
日本の伝統的な遊びである花札にはいろんな鳥や樹が描かれています。鳥が描いてある札ばかり集めましたが、何という鳥だか分かりますか?

         

左上から右下の順に、松に鶴(1月)、梅に鶯(2月)、藤に時鳥(ホトトギス)(4月)、芒(ススキ)に雁(8月)、柳に燕(11月)、桐に鳳凰(12月)。
正直言って、私はホトトギスとツバメが識別できませんでした。ホトトギスツグミみたいだし、ツバメはサンコウチョウに見えます。ちなみに、尾羽の長いサンコウチョウのオスは日本で見られる最も美しい小鳥だと私は思います。
もう一つ、花札に対してバードウォッチャーが必ず突っ込みを入れることがあります。それは、「梅の枝に止まっているのはウグイスじゃなくてメジロ」ということ。
理由は、ウグイスはほとんど姿を見せないし、色も地味な茶色。一方、メジロはいわゆるウグイス色で、花の蜜を吸うために枝に止まることが多いから。
そうは言っても、昔から「梅に鶯」はセット物で、花札以外に歌や文学にも登場しますし、日本の文化として定着していますから、今さら「あれはメジロだ!」と目くじら立てるのは野暮ですけどね。
不思議なのは、柳(11月)と桐(12月)が季節に合わないこと。柳もツバメも春から初夏ですし、桐の花も初夏です。また、他の月のカス札が全部2枚なのに、11月(霜月)は1枚、12月(師走)は3枚というのもイレギュラーです。花札の歴史も面白そうですが、深入りは止めときます。
guitarbirdさんの「レコードジャケットでバードウォッチング」に比べると、種類も少なく地味な探鳥会になりました。
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X’masケーキとハリウッド

2006年12月25日 | 木と言葉
映画のメッカHOLLY WOODは「聖なる森」だと思っていませんか?
昔は「聖林」と書いてハリウッドと読ませたので誤解が広がったようですが、「聖なる」はHOLYでLが一つ少ない。HOLLYは「ヒイラギ」だから、ハリウッドは「柊の森」です。

      
   (わが家のHOLY NIGHTのケーキ。西洋ヒイラギとモミが飾ってあります。)

ヒイラギにもいろいろあって、みなさんが昨夜召し上がったクリスマスケーキに飾ってあるのはセイヨウヒイラギ(これがHOLLY)。名前のとおり日本には自生しません。モチノキ科で、葉は互生(左右に互い違いに出る)、実はご存知のように赤です。「聖林」という当て字はクリスマスつながりだったのかも知れません。

      
        (節分にイワシの頭を刺すのはヒイラギ)

一方、「ヒイラギ」はモクセイ科で、葉は対生(左右同じ位置から出る)、実の色は青。節分にイワシの頭を刺すのはこの木で、日本に自生します。意外ですが、葉のトゲトゲは若木の間だけで、老木になるとトゲトゲがなくなります。人間と一緒で、年を取ると丸くなるんですね。

      
      (玄関先によく植えられるヒイラギナンテンは羽状複葉)

もう一つ、「ヒイラギナンテン」もよく庭に植えられます。これはメギ科で、葉が羽状複葉(小さい葉が集まって1セットの葉になる)、実はヒイラギと同じく青。名前のとおりナンテンの仲間で、大陸から移入された栽培種です。
さて、HOLLY WOODは「柊の森」ですが、実際にはハリウッド周辺に柊はないそうです。ここに住んでいたある女性が旅行中にHOLLY WOODという別荘地の話を聞き、その名前が気に入ったので地名にしたと伝えられています。
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書き間違い

2006年12月22日 | 木と言葉
以前、樹の名前を聞き間違えてエノキを一里塚にしてしまったという話を紹介しましたが、似たようなエピソードが学名にもあります。
イチョウの学名はGINKGO BILOBA(ギンクゴ・ビローバ)。1690年頃に来日していたドイツの医師が、日本の植物図鑑に「銀杏(ぎんきょう)」と紹介されているイチョウを自分の著書に掲載したのですが、GINKJOとするべきところをGINKGOと綴ってしまいました。JをGに書き間違えたのです。
それを、リンネ(生物の分類方法や学名のつけ方を考案した植物学者)がミススペルのまま学名として登録してしまったのです。当時、日本では「銀杏」という漢字を「イチョウ」「ギンナン」のほかに「ギンキョウ」と読んでいたようです。

      
    (「金色の小さき鳥の形して 銀杏散るなり夕日の丘に」与謝野晶子)

リンネの分類法では「イチョウ綱イチョウ目イチョウ科イチョウ属イチョウ」。大分類から小分類まで一つの名前で通す唯一の樹だそうです。つまり、他に仲間のない孤高の木。化石では20種類くらい発見されているようですが、現存するのは1種類だけです。
イチョウは植物学的には針葉樹でもなく広葉樹でもなく中途半端な位置づけになっていて、強いて分けるときは針葉樹として扱われています。
私も今の仕事を始めた頃、ひどい文字のミスをしたことがあります。ある京料理店の新館オープンのチラシで、「本日、開店」とすべきところを「本日、閉店」とやってしまいました。もちろん印刷はやり直し、関係者にえらい迷惑をかけました。
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中国の三大紅葉樹

2006年12月21日 | 樹木
大阪の仕事先のビルの前にナンキンハゼの街路樹があります。先日、打ち合わせの後、落葉を拾って撮影しました。先が尖った菱形の葉が特徴です。

      
           (大阪・長堀通りのナンキンハゼ)

名前の通り中国から渡来した樹で、日本には自生しません。種子のロウ分から油を採取し、ローソクや石鹸、灯油、頭髪用の油などを生産するために、江戸時代から数多く植栽されました。
奈良のツリーウォッチングの会に参加したとき、「奈良公園にナンキンハゼが多いのは鹿が食べないからだ」と教えてもらいました。同じ理由でアセビが多いのは知っていましたが、ナンキンハゼのことは知りませんでした。確かに、お弁当を広げた場所にもナンキンハゼの幼木が点々とありました。

      
           (奈良公園のナンキンハゼの幼木)

アセビは「馬酔木」と書くように有毒成分が含まれています。ナンキンハゼの白い実はポップコーンみたいで、鳥は食べますが、哺乳類には有害。奈良の鹿は本能的にそれを知っているのでしょう。

      
          (フウの紅葉。葉が三つに分かれています。)

中国では、このナンキンハゼとフウ、マユミを三大紅葉樹と呼んでいます。カエデ類が入っていないのは、種類が少ないからでしょうか。
フウには中国では「楓」の文字を当てます。この漢字は日本では「カエデ」と読みますが、同じように紅葉が美しいのでどこかで混同されたのでしょう。

      
               (マユミの紅葉)

マユミの紅葉の魅力は、少しピンクがかっているところでしょうか。昔、弓の材料にしたのでこの名があります。
なお、ハゼという名前がついていますが、日本でロウを採取するハゼノキはウルシ科、ナンキンハゼはトウダイグサ科で全く別の樹です。
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白い葉

2006年12月20日 | 樹木
紅葉シーズンも終りました。みなさんも黄、赤、褐色などカラフルな葉をたくさんご覧になったでしょう。
そんな中、葉が白くなる珍しい樹があります。コシアブラです。

      

秋になると葉の細胞内にある葉緑素が分解されてなくなり、もともとあったカロチノイド(黄)やクリサンテミン(赤)という色素が目立つようになるのが紅葉の仕組み。私の推測ですが、コシアブラにはこの暖色系の色素がないために脱色状態になるのでしょう。
マタタビも夏の花期に一部の葉が白くなりますが、紅葉シーズンに葉が白くなるのは、私の知る限りコシアブラだけです。若葉は天ぷらにして食べますし、夏は元気で鮮やかな緑の葉を出していますが、秋になると病人みたいに青白くなる妙な樹です。

      
          (夏のコシアブラの葉)

「白い葉」は「白い歯」と聞こえるでしょう? そのうち、某歯磨きメーカーがコシアブラの葉をマークにした新製品を発売するんじゃないかと、駄洒落好きの私は期待しています。そのときのCMは、「芸能人は歯が命、コシアブラは葉が命」。
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家にありたき木

2006年12月19日 | 樹木
しばらく前から、わが家の玄関には綿菓子屋さんのような匂いが漂っています。
カツラの枯葉の匂いです。玄関の脇に大好きなカツラを植えているのですが、黄葉する頃から砂糖を焦がしたような甘い匂いを出します。

      
        (落葉前で汚くなりましたが、匂いはいいです。)

バードウォッチングの先輩の植木屋さんに、「カツラはグングン伸びるから、一般の庭には植えない方がいい」と言われたことがあります。
最初は裏庭に植えていたのですが、数年後に隣の空き地に家が建ち、カツラの落ち葉がトユにつまって迷惑なので、玄関側に移植しました。その先輩はもう亡くなりましたが、結果的に忠告は当ったのでした。
あたりかまわず落ち葉は散るし、枝は伸びるし、虫はつくし、けっこう世話がやけますが、爽やかな新緑を目にしたり甘い匂いを嗅ぐと、やっぱりカツラを植えて良かったと思います。

      
            (初夏のカツラの葉)

私のようにカツラが好きな人は昔からいたようで、吉田兼好は『徒然草』の中で「家にありたき木」として松、桜、梅、柳とともに桂を勧めています。当ブログでおなじみの清少納言に至っては、花が目立たない木の第1位に桂を挙げています。ちなみに、2位は松、3位は柳。
カツラの葉は、アオイの葉とともに京都の葵祭で使われますから、平安時代の貴族にとっては特別な意味があったのかも知れません。
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SATOYAMA

2006年12月18日 | 木と文化
「里山とは何か~自然と文化の多様性~」という国際シンポジウムが、近くにある龍谷大学で開催されたので行ってきました。
龍谷大学は1639年に西本願寺の学寮としてスタートした大学で、以前は「お坊さんの大学」というイメージでしたが、最近は7学部を擁する大規模な総合大学です。
私が樹を見始めた5年ほど前にも同じようなシンポジウムが行われたので参加したことがあります。そのときの講演は日本人だけでしたが、今回はオーストリアと韓国の学者の発表もあり、英語と日本語の同時通訳をイヤホーンで聴くという本格的なものでした。

      
     (オーストリアの学者のBiodiversity=生物多様性に関する説明)

ウィーン農芸大学の教授は生物多様性について、アルプスでの事例を交えて講演しました。長くなるので省略しますが、印象に残ったことだけご紹介します。
ドイツ語や英語には「里山」に相当する言葉がなく、SATOYAMAは国際語になりつつあるそうです。自然と人間が共生するゾーンという意味でしょうか。また、「生物多様性の保全とは、生物の種類を科学的に究明することではなく、畏敬や驚異の念を持ってそれを体験することである」とも言ってました。

      
        (ホオノキの花を描いた江戸時代の図鑑と和歌)

龍谷大学からも3人の教授が講演しました。その中で私が特に興味を持ったのは、「江戸の市民が見た自然」。大隈言道(おおくまことみち)という、樹や草花の歌をたくさん詠んでいる歌人のことを初めて知りました。いろいろ面白いネタが入手できたので、おいおいご紹介します。
このシンポジウムは無料で、事前の登録も不要。いろいろ勉強させていただいて、同時通訳で外国の学者の話も聞かせていただいて、資料もいただいて…。ありがたい催しでした。
10月には京大宇治キャンパスの催しに参加しました。仕事では今も兵庫県の甲子園大学へ取材に通っています。今年は何かと大学に縁のある年でした。
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ハエが群がる花

2006年12月15日 | 木と鳥・動物
ヤツデという樹があります。日陰でも育つので、昔からトイレや風呂の横などジメッとした場所に植えられています。わが家の北側にも1本あります。
そのせいか暗いイメージがあって、日本ではあまり人気者とは言えませんが、欧米では人気が高く、アオキとともに庭園樹の双璧になっているそうです。ちなみに、アオキもヤツデも日本特産です。

      

名前は「八ツ手」ですが、実際には葉は7裂か9裂で8つに裂けることはありません。別名「天狗の葉うちわ」。天狗が棲むと言われる京都の鞍馬寺の寺紋はこの葉がモチーフになっているそうです。
以前読んだ本に「ヤツデの花にはギンバエが群がる」と書いてあったのですが、うちのヤツデにはそういう現象がないので「本当かな?」と思っていたら、散歩コースにあるヤツデの花にハエがたくさん集まっていました。

      

ハエだけではなく、アブのような虫もたかっています。花と昆虫は切っても切れませんが、ハエが好きな花というのもあるんですね。
ヤツデは薬用植物としても利用されていて、葉や根皮に含まれるサポニンが去痰薬に使われるそうです。
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