樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

花も鳥も早い

2015年04月30日 | 樹木
週末、栃の森に行ってきました。冬は積雪でアクセスできないので、12月以降4カ月ぶりです。
今年は全般的に植物の開花が早いようで、この時期によく見られるマルバマンサクはもちろん、毎年4月末の訪問時には必ず咲いていたキンキマメザクラもほとんど散った後でした。
開花が早いせいか、単に今まで私が気づかなかっただけなのか、今回初めてブナの花を観察することができました。図鑑には「5月頃、葉の展開と同時に開花する」と書いてあるので、やはり例年より少し早いようです。
そのほか、キイチゴやハウチワカエデの花を動画にまとめましたのでご覧ください。



この森歩きの本来の目的は野鳥生息調査。現在は入林禁止ですが、20年前から実施している調査を継続するために、管理者から許可を得て入っています。
その鳥は、オオルリ、キビタキ、センダイムシクイなどの夏鳥がほぼ例年どおりの個体数確認できましたが、留鳥のミソサザイがいつもより少ないのが気になりました。
オオルリのさえずりとゴジュウカラの採餌を動画にまとめました。



私は仕事のために一足先に下山したのですが、他のメンバーによるとその後にアカショウビンの声を確認したとのこと。花も鳥も今年は早いようです。
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人間はいつ托卵を知ったか?

2015年04月27日 | 野鳥
昔、カッコウの托卵を扱ったNHKの番組で、孵ったばかりで羽毛も生えていない、目も見えないヒナが宿主の卵を巣の外に放り出すシーンを見て衝撃を受けました。
ホトトギスやツツドリ、ジュウイチも同様の托卵をするわけですが、人間はいつごろからこの生態を知っていたのでしょう? 
私は双眼鏡などの光学機器が発明されて以降だろうと思っていましたが、驚くべきことに、『万葉集』に托卵を詠んだ歌があります。

うぐいすの生卵(かいこ)の中に ほととぎすひとり生まれて
己(な)が父に似ては鳴かず 己が母に似ては鳴かず…


「ウグイスの巣の中でホトトギスが1羽生まれたが、父親に似た声では鳴かないし、母親に似た声でも鳴かない」という歌です。作者は高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)。
『万葉集』が編纂されたのは6~7世紀。双眼鏡も望遠鏡もカメラもないのにホトトギスの托卵を知っていたわけです。
ただ、この歌の前には「霍公鳥を詠める一首」というイントロダクションがあり、「霍公鳥」はカッコウを意味するそうです。イントロで「カッコウ」と紹介しながら、歌の中では「保登等藝須(ホトトギス)」と表記しているのです。当時はカッコウとホトトギスを同一種と認識していたからではないかという人もいます。



いずれにしても、万葉人はトケン類の托卵行動を知っていたわけですが、驚くのはまだ早くて、世界的にはもっと昔、紀元前4世紀にアリストテレスが『動物誌』の中でカッコウの托卵について書いています。

カッコウも卵を産むには産むが、巣を作らずに産むのであって、ときには自分よりも小さいいろいろな鳥の巣の中に、その鳥の卵を食ってから、卵を産むこともあるが、特にモリバトの巣の中に、やはりその卵を食ってから、産むのである。(第6巻 第7章 カッコウとその産卵習性)(岩波文庫版)

肉眼でしか鳥の行動を見られなかった当時、こんな細かいところまでよく観察できたものだと感心します。
それに引き替え、双眼鏡や望遠鏡、さらには1000mmのレンズ付きカメラで鳥の動きを記録していながら、いまだにカッコウとホトトギスの区別がつかない私は何なんでしょう(笑)。
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木の実の色

2015年04月23日 | 木と鳥・動物
人間が食べる果物の色は赤や黄色が多いですが、樹木は実の色にどういう意味を込めているのでしょう。理由もなく赤になったり黄色になったりはしていないはずです。
一つ考えられるのは、実の色で鳥や哺乳類の食欲を刺激する → 食後に糞とともに種子が排泄される → 子孫が繁栄するという樹木の生き残り戦略。
ツリーウォッチャー兼バードウォッチャーとしては、木の実の色と鳥の食欲の関係が気になるので調べてみました。
日本のある学者が、種子散布を鳥に依存している樹木の実の色を調べたところ、冷温帯の地域では赤が46.1%、黒が44.9%で、以下、青、オレンジと続くそうです。ところが、暖温帯になると黒47.0%、赤35.0%と逆転します。


冷温帯~亜寒帯に分布するナナカマドの実は赤

暖かい地域ほど黒い実が多くなるというこの傾向は世界的にも同様で、海外の学者の調査によると、ヨーロッパでは赤40.1%、黒26.3%であるのに対して、コスタリカでは黒41.3%、赤24.8%と逆転しています。
ちなみに、日本の亜寒帯地域では赤が58.6%と圧倒的に多く、黒が24.1%。寒い地域では赤い実が、暖かい地域では黒い実多くなるわけです。


暖地に分布するクスノキの実は黒

いずれにしても、鳥が食欲を刺激される木の実の色は黒か赤ということになります。
そう言えば、わが家の庭で栽培した赤いミニトマトはヒヨドリに横取りされたので、黄色いミニトマトに切り替えたところあまり食べられなかったということがありました。
ブルーベリーの実は青というよりも黒ですが、これもヒヨドリに横取りされるので近ごろはネットでカバーしています。
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バードウォッチングの大先輩

2015年04月20日 | 野鳥
心なき身にもあはれは知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮れ

高校時代は鳥に無関心でしたが、授業で習った西行のこの歌は今でも覚えています。「出家して俗世間の感情は捨てたけれど、秋の夕暮れ、シギが飛び立つ沢にいると感傷的になる」というような意味でしょうか。
後年、アオアシシギの哀愁ただよう鳴き声を聞いて、「あ~、西行を感傷的にさせたのはこの声だな」と納得しました。下の動画は8月末に収録したアオアシシギ。



この有名な歌以外にも西行はたくさん鳥を詠んでいます。ある研究者によると、西行の歌集『山家集』全2038首のうち鳥を詠んだものが206首、約1割あるとのこと。次のような歌もあります。

古畑のそばの立木にいる鳩の 友よぶ声のすごき夕暮れ

古畑は今で言う「耕作放棄地」。その横の崖に立つ木にハトが止まっていて、仲間を呼ぶ声が寂しく聞こえる、という意味です。「すごき(凄き)」は「ぞっとするほど寂しい」というニュアンスだそうです。
この「鳩」をキジバトと解釈する人とアオバトと解釈する人がいて、後者は「アオーアオー」という異様な声のアオバトだからこそ「ぞっとするほどの寂しさ」が伝わると主張しています。私もこの荒涼とした風景にキジバトの声は合わないと思います。
ぞっとするような声は入っていませんが、京都御苑で撮ったアオバトです。



西行はホトトギスやウグイスなど和歌や俳句に常連として登場する鳥だけでなく、ウソやマヒワなどちょっとマニアックな鳥も詠んでいます。アカショウビンを詠んだ次の歌もあります。

山里は谷の筧(かけひ)の絶え絶えに 水恋鳥の声聞こゆなり

「水恋鳥」はアカショウビンの別名です。
日本野鳥の会の創設者・中西悟堂は、『山家集』には37種の鳥が詠まれていると書いています。別の資料によると、『万葉集』には43種、『古事記』は24種、『日本書紀』には33種の鳥が登場するそうですが、単独で37種も詠み込んだ西行はよほど鳥好きだったのでしょう。
バードウォッチングの大先輩なのです。
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ガス会社泣かせの木

2015年04月16日 | 木と香り
以前、ヒサカキの花はタクアンの臭いがするとご紹介しましたが、人によってはガスの臭いに感じるようです。
生垣にヒサカキを植えておられたあるお宅は、花が咲く今ごろの時期、「ピンポーン、お宅、ガス漏れしていませんか?」という人が後を絶たないので、伐採されたそうです。


ガスの臭いがするヒサカキの花

同じ仲間のハマヒサカキも似たような臭いを発します。
ある町でガス漏れ騒ぎがあって、ガス会社や消防車が出動したものの、あちこち検査してもガスが漏れている様子がない。結局、ハマヒサカキの花が原因であることが判明したそうです。
それでも、ガス会社は「ガスの臭いがしたら、ヒサカキやハマヒサカキのせいだと思わずに、とにかく連絡してください」とアピールしているとのこと。本物のガス漏れである可能性もあるわけです。
こういう騒ぎは時々あるようで、ガス会社にとっては迷惑この上ない木ですね。
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キジはスパイになれるか?

2015年04月13日 | 野鳥
下の図は防衛省情報本部のシンボルマーク。地球の上に乗っかっているのはキジです。



キジをシンボルに選んだ理由について、同本部のホームページには次のように書いてあります。

童話の「桃太郎」に出てくる雉は、空を高速で飛行する特性を生かして、情報の収集を任務としていました。また、人体が感じない微弱な振動を感じることができると言われており、世界の情勢の変化を敏感に察知しなければならない、情報本部の任務と相通じるところからシンボルにふさわしいと考えております。

「微弱な振動」云々はともかく、キジが「空を高速で飛行する」という記述はバードウォッチャーには納得できません。どちらかといえば、飛行が苦手な部類の鳥です。
しかも、「雉も鳴かずば撃たれまい」という諺があるように、大きな声で鳴いたり、「ホロ打ち」と呼ばれる羽ばたきで自分の居場所を知らせます。キジの鳴き声やホロ打ちを下の動画でご覧ください。



情報本部とは、アメリカでいえばCIA。映画で観る限り、CIAの諜報員は絶対に居場所を知らせません。「私はここに居ますよ」と告げるスパイはいないわけです。
一国の「情報本部」を名乗るからには、もっと緻密な情報収集をしてからシンボルを決めるべきではなかったかと、国民として不安を覚えます。
余計なお世話かもしれませんが、鳥をシンボルにするならモズをお勧めします。他の鳥の声を真似して成りすますのが上手ですから、スパイには最適です(笑)。
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森とハイレゾ

2015年04月09日 | 木と文化

久しぶりに映画を観てきました。といってもドキュメントですが。
タイトルは「うみやまあひだ」、キャッチフレーズは「伊勢神宮の森から響くメッセージ」。
当ブログでご紹介した樹木のプロが何人か出演されています。例えば、法隆寺の宮大工・小川三夫さん木を料理するシェフ・成澤由浩さん4000万本の木を植えた男・宮脇昭さん「森は海の恋人」運動を始めた畠山重篤さんなど。
今回初めて知る人物も登場しました。脳科学者であり芸能山城組の主宰者である大橋力さん。その話は非常に興味深いものでした。
森の中には人間の耳では聞こえない20kHz以上の超高周波(ハイパーソニック)が満ちていて、それが脳に好影響を及ぼすので、森を歩くと心地よくなったり、免疫力が高まったりするそうです。



最近、音響の世界でハイレゾが話題になっています。従来、超高周波を含む音(ハイレゾ)は耳で聴いて良い音に感じるとされていたのですが、この大橋さんが耳ではなく脳が刺激されて活性化するので良い音に感じることを発見したそうです。
人間の可聴域には限界があって、それ以上の超高周波は耳では捕えられないけれど、脳が捕えるということですね。
いずれにしても、森を歩くことで気分が良くなったり、免疫力が高まったり、ストレスホルモンが減ったりするのは確かなようです。
ということは、毎月栃の森を歩いている私は、免疫力が高く、ストレスも少ないということですね。
長生きできそうです。

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ライフリスト

2015年04月06日 | 野鳥
人が生涯に見聞した鳥の種類を「ライフリスト」といいます。バードウォッチングを始めた当初はどんどん増えますが、数年経つとなかなか数が伸びません。
初心者のころ、先輩から「300種を越えたら一人前」といわれました。先日、久しぶりにカウントしてみると320種でした。しかし、この中には仕事でアメリカに行った際に見た28種も含まれるので、日本の鳥に限定すれば、私はまだ一人前ではありません。
このライフリストには微妙な種類もあって、「声は聴いたけど姿は見ていない」とか「一瞬チラッと見ただけ」という鳥もいます。
例えば、ヤイロチョウ。高知県へ2回出向いて声は何度も聴きましたが、この鳥は姿を見ないと意味がないと思っているのでライフリストには加えていません。数を自慢するバーダーなら1種としてカウントするでしょうが、私は納得できないので除外しています。
その一方、コノハズクは声しか聴いていませんが、ライフリストに加えています。「夜行性の鳥だから見えなくて当然」と納得しているからです。このあたりの線引きはバーダーそれぞれの気持ち次第でしょう。
「一瞬チラッと見ただけ」の鳥の一つが、沖縄で出会ったギンムクドリ。中途半端なまま、一応ライフリストに加えていました。そのギンムクドリがこの冬、関西にやってきたので見に行ってきました。



中途半端なライフリストがようやく確定したわけです。
320種目のライフリストも、この冬に加わりました。大阪郊外の池にメジロガモが滞在しているというので、仕事の合間を縫って観察に出かけました。



かなり珍しい鳥です。手元の図鑑には、「日本では1959年に千葉県で1羽と1990年から数年福岡市で連続した1羽の記録があるのみの迷鳥」とあります。
その一方で、25年の鳥歴があれば当然ライフリストに加わっているべきなのに、まだ出会っていない鳥もいくつかいます。例えば、トラフズク。石川県で遺体を発見したことはありますが、生体にはまだお目にかかっていません。そのほか、シマアジやヤツガシラなどにも出会っていません。
でも、まだ見ぬ鳥がいるからこそ、バードウォッチングを続ける気になるのでしょうね。
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作家の命日

2015年04月02日 | 木と作家
作家の命日を「文学忌」と呼ぶそうです。よく知られているのは「桜桃忌」。6月19日に愛人と心中した太宰治の命日で、『桜桃』という作品名に由来します。サクランボが成る時期ということもあるのでしょう。
「桜桃忌」もそうですが、文学忌には樹木がよく登場します。例えば、檀一雄の「夾竹桃忌」(1月2日)、与謝野晶子の「白桜忌」(5月29日)、中野重治の「くちなし忌」(8月24日)など。
4月10日に亡くなった内田百は「木蓮忌」。モクレンは4月10日には散っていますから時期が少しずれていますが、百が詠んだ俳句「木蓮や 塀の外吹く 俄風」に無理やり当てはめたようです。


わが家のハクモクレンも昨日ほとんど散りました

女優・檀ふみのお父さん、檀一雄の「夾竹桃忌」も開花時期とは半年もずれています。その理由については7年前の記事でご紹介しました。
そして、きょう4月2日は、彫刻家でもあり詩人でもある高村光太郎の命日。「連翹(れんぎょう)忌」と呼ばれています。
高校生のとき光太郎の詩に惹かれて、長編詩を書き写して部屋に貼ったこともありましたが、戦中に戦争賛美の詩を書いたことから晩年は寂しい人生を送ったようです。
光太郎は知人の家で亡くなったのですが、その庭にレンギョウの花が咲いていて、知人の奥さんに木の名前を尋ねたそうです。そして、告別式で棺の上にレンギョウが一枝置かれていたことから「連翹忌」と呼ばれるようになったとのこと。
この「連翹忌」だけは、命日と開花時期がぴったり一致するわけです。
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