樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

花火と野鳥

2023年11月30日 | 野鳥
18年前の11月、故郷・丹後の天橋立で冬花火が開催されました。打ち上げ場所が京都府最大のカモやコハクチョウの越冬地であることから、野鳥の会は中止か延期を求めましたが受け入れられませんでした。ただ、翌年から、コハクチョウの渡来に配慮して、10月末に前倒しされるようになりました(コロナ以来、今年も中止されたようですが…)。
こうした花火と野鳥の軋轢は各地にあって、2000年に島根県安来市で行われた元旦の花火大会では米子水鳥公園のコハクチョウなど30種8000羽の水鳥が姿を消し、2月まで不在が続いたそうです。

2016年に撮影した天橋立のコハクチョウ

鳥取県では毎年クリスマスシーズンに「はわい温泉・東郷温泉クリスマス花火大会」が開催されており、野鳥の会が毎年中止を申し入れていますが、聞き入れてもらえないようです。2017年に調査したところ、花火が始まると約50羽のコハクチョウがすべて逃げ出したそうです。
最近では、関西万博のカウントダウンイベントとして2021年5月に予定されていた夢洲での花火大会が、コアジサシの繁殖を妨げるので8月に延期されました。「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマを掲げている手前、自然保護団体が発出した緊急声明を無視できなかったのでしょう。


イメージ

海外でも同様のトラブルが発生しています。カリフォルニア州では、花火大会が行われた後に海鳥たちが巣を放棄し、卵が天敵に狙われやすくなったため、以後中止としました。
また2010年の大晦日、アーカンソー州で数千羽の鳥が木や建物に衝突して死亡するという事件が発生。研究者は、新年のカウントダウン花火の音に驚いた鳥がパニックに陥って飛び立ち、衝突死したと説明しています。
音による影響だけでなく、打ち上げ後に空気中に残る粉塵を野鳥が避けているとヨーロッパの学者が警告。そして、「国立公園、鳥類保護区、その他の重要な鳥の休息場所の近くの地域での娯楽用の花火は禁止するべきです」と語っています。
カナダやイタリアでは音の静かな花火に切り替えたり、イギリスでは花火の代わりにレーザーショーを実施しているそうです。
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エメラルドとルビー

2023年11月23日 | 野鳥
鴨川に珍しい鳥が来ているというので、久しぶりに河川敷を歩いてきました。結局、そのお目当ての鳥はいなかったのですが、せっかくカメラを担いでいたので、カワウの姿を撮ってきました。
この鳥は魚を獲るために潜るので、浮力があると不利になります。他の鳥は羽根に脂分を塗りたくって撥水性を高めますが、カワウは潜水のじゃまになるのであまり塗りません。その代わり、潜った後、翼を広げて濡れた羽根を乾かします。
全身黒で美しいとはは言えませんが、よく見ると目がエメラルドグリーン。なかなか魅力的な鳥です。



下流へ歩いて行くと、ゴイサギがいました。この鳥は以前はよく目にしましたが、最近は激減。私自身もじっくり観察するのは久しぶりでした。
じっとして動かないので動画で撮影する意味がないですが、ルビーのような赤い目がしっかり確認できます。お目当ての珍しい鳥は見逃しましたが、カワウのエメラルドとゴイサギのルビー、2つの宝石をじっくり見せていただきました。



このほかに、イカルチドリやユリカモメ、カモ類もいました。いよいよ、鴨川も冬を迎えます。
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鳥に歯がないのはなぜか?

2023年11月16日 | 樹木
脊椎動物のうち、魚類、両生類、は虫類、哺乳類には歯がありますが、鳥類には歯がありません。鳥の祖先である始祖鳥には歯がありますが、現生鳥類は歯を形成する遺伝子がないそうです。
歯がないので餌はかまずに丸呑みし、消化器官の砂のう(焼鳥でいう砂肝、砂ずり)にある砂や小石ですりつぶします。消化しきれない骨や羽根はペリットとして吐き出します。


アオサギの口の中に歯はない

鳥に歯がないことについて、以前は「飛ぶために軽くする必要があったので…」と説明されていましたが、コウモリは歯があるのに軽々と飛んでいます。
現在の有力な説は、「ふ化期間を短くするため」。魚類や両生類と違って、鳥類は大きな卵を数個生み、ふ化までの期間も比較的短めです。恐竜はふ化期間が3~6カ月だったそうですが、歯の形成に多大な時間を要するからでした。卵は捕食されるリスクが高いので、ふ化時間を短くするために、鳥は歯の形成を省略したという説です。
歯はありませんが、ハシビロガモの嘴には板歯(ばんし)と呼ばれる櫛状の器官があります。これは餌をかみ砕くためではなく、プランクトンなどの細かい餌をこし取るためです。


水面のプランクトンなどを水ごと口に入れ板歯でこし取って食べている
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障害者のバードウォッチング

2023年11月09日 | 野鳥
土曜日にバリアフリー探鳥会を開催しました。身体障害者に野鳥観察を楽しんでもらうイベントです。主催は日本野鳥の会京都支部ですが、言い出しっぺは私で、2017年3月に始めて以来6回目。
今回は、肢体障害者(手足の不自由な人)7名、うち車イス利用者3名、視覚障害者1名、心臓に障害のある方1名が参加され、介護者やヘルパー、スタッフを含めて20数名が、賀茂川の河川敷を北大路橋から出町橋まで歩きました。
うれしかったのは、10歳の女の子が参加してくれたことと、ある会員が心臓に障害のあるお父さんを連れてきてくれたこと。2人ともバードウォッチングは初めてですが、楽しそうに双眼鏡で鳥を見ていました。



車イスの障害者を対象にした探鳥会とか視覚障害者のための探鳥会は他の支部でも実施していますが、肢体・視覚・聴覚・内臓の各障害者、さらに車イス利用の高齢者やベビーカーの親子まで対象にした探鳥会は京都支部のみ。「バリアフリー探鳥会」という言葉も、京都支部(つまり私)発のようです。
最近、東京の本部もバリアフリー探鳥会を始めたようで、日本でも少しずつ障害者のためのバードウォッチングが普及しつつありますが、欧米に比べるとかなり遅れています。


賀茂川にはマガモやヒドリガモなどが

イギリスには「Birding For All」という団体があり、障害者が野鳥観察を楽しめるように探鳥地の施設やサービスを改善する活動を継続しています。2000年の設立時には「Disabled Birders Association(障害者バーダー協会)」という名前でしたが、より包括的なものとするため2010年に名称変更しました。身体障害だけでなく、精神障害、ジェンダー、セクシュアリティ、人種などに関する障壁を取り除くことにも取り組んでいるからです。


Birding For Allが作ったマーク

アメリカには「Birdability」という団体があります。野外でのバードウォッチングを障害者の誰もが安全に楽しみ、健常者バーダーが歓迎するような世界を実現するため、さまざまな活動を展開しています。


Birdabilityのホームページ

さらに驚くべきことに、英米にはLGBTのための野鳥観察クラブもあります。そして、障害者の団体はLGBTを受け入れ、LGBTの団体は障害者を受け入れているのです。
日本では、オリンピックやG7など外圧に押されて、ようやく今年6月に「LGBT理解増進法」が成立したばかり。マイノリティのための野鳥観察団体が生まれるのはだいぶ先になりそうです。
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ハチドリのひとしずく

2023年11月02日 | 野鳥
世界各国で山火事が発生し、特にハワイのマウイ島では深刻な被害が発生しました。そんな山火事にまつわる鳥の話を紹介します。

森が燃えていました。森の生きものたちは、われ先にと逃げていきました。でもクリキンディという名のハチドリだけはいったりきたり、くちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落としていきます。動物たちがそれを見て、「そんなことをしていったい何になるんだ」といって笑います。クリキンディはこう答えました。「私は、私にできることをしているだけ」。

これは南米アンデスの先住民に伝わる話。それを聞いて感銘を受けた辻信一さんが『ハチドリのひとしずく』という本を出版しました。



辻さんは文化人類学者であり、2001年に「スローライフ」を提唱した環境活動家。夏至と冬至の夜2時間をロウソクで過ごす「100万人のキャンドルナイト」を呼びかけた人でもあります。
本の中で、この物語の続きをそれぞれが描くように促し、環境ジャーナリスト・枝廣淳子さんが描く以下の続編を例示しています。



森が燃えているのを見たハチドリは仲間を増やそうと思いました。「それぞれが1羽ずつ仲間を増やすように伝えて!」―――2回伝わると4羽が、3回伝わると8羽が、10回伝わると1024羽が、20回伝わると100万羽以上が、そして40回伝わると1兆羽以上のハチドリがやってきて、あっという間に火事を消してしまいましたとさ。

ハチドリのような行動を「焼け石に水」と冷笑する人がいます。それは、森が火事になるとわれ先に逃げ出し、ハチドリに「そんなことをして何になる」と笑った動物と同じでしょう。
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