樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

サントリー

2010年01月28日 | 木と飲食
昨年、仕事で京都府南部の山崎エリアを取材しました。ここにはサントリーウイスキーの蒸溜所があり、「山崎」という銘柄もあるくらい。
お膝元だけあって、取材先のレストランではウイスキー樽をディスプレイに使っていました。しかも、店の特等席はウイスキー樽を解体して作ったというテーブル。


(ウイスキーの樽板で作ったテーブルセット)

ウイスキーの樽はヨーロッパ産のオーク(ナラ)で作られていると思っていましたが、サントリーでは日本産のミズナラも使っているそうです。元々は欧州オーク一辺倒だったものの、戦争で入手困難になったためにミズナラを代用したのが始まりとのこと。
当初は木の成分が強く出過ぎて、ブレンダーは「使いものにならん!」と却下。ところが20年後、忘れ去られていたミズナラ樽を開けてみたところ、今までにない独特の香りを持つモルトになっていたそうです。


(店内に飾ってあるウイスキー樽)

以来ミズナラも使われるようになり、「響」「山崎12年「山崎18年」の3銘柄は北海道産のミズナラ樽で熟成させたモルトをブレンドしているとのこと。ミズナラ樽から生まれるモルトはオリエンタルな香りが特徴だとか。
現在もブレンダー自ら北海道の山中に出かけ、真っ直ぐに伸びた樹齢150年以上の、しかも低い位置に枝がないミズナラを探すそうです。


(ミズナラの木材)

私の父は生前トリスバーを営んでいたので、幼い頃からサントリーが送ってくるお店用の冊子に親しんでいました。長じて今の仕事に就いた頃、文章上達のために開高健という作家のレトリックを模倣しました。
開高さんは作家になる前はサントリーのコピーライターとして、独特の文学調の広告文化を築いた人。オーバーに言えば、私は幼い頃から大先輩の薫陶を受けていたわけです。
そんな因縁もあって昔からサントリーファンで、ビールはモルツか金麦、たまにプレミアムモルツ。ウイスキーもバーボンに行き着くまでは白や角を愛飲していました。
もうすぐキリンと経営統合するらしいですが、サントリーファンとしてはやっぱり抵抗があります。
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木造駅舎

2010年01月25日 | 木造建築
NHK-BSに「木造駅舎の旅」という5分番組があります。私は鉄チャンではありませんが、木チャン(?)なので、その番組のサイトで発見した気になる駅を見るために南海電車に乗って大阪南部まで行ってきました。



これ、浜寺公園駅。美しいでしょう? おしゃれでしょう? しかも、私鉄では最も古い駅なんですよ。
東京駅や日本銀行本店を設計した辰野金吾と当時大阪で活躍していた片岡安によって明治40年に建てられました。103才の現役、いや現駅です。
案内看板によると、木造平屋建ての鉄板葺きで、柱の骨組みを壁に埋め込まず装飾として活かすハーフティンバー様式や、鹿鳴館の2階ベランダに用いられたのと同じような玄関の柱が特徴とか。


(こんな現役の柱、他ではもう見られないでしょう)

(白とグレーと薄い青で塗り分けてあります)

昔は鉄道に一等席・二等席・三等席があって待合室も区分けされていたようで、旧一・二等待合室は現在ギャラリーとして使われています。


(旧一・二等待合室を利用したギャラリー)

木チャンに嬉しいのは、駅舎本体だけでなく、下りホームの待合室や手すりなども昔と同じように木製のままであること。地下の通路は駅の東西を行き来する地下道として併用されていますが、その仕切りも木製です。全体に白いペンキを塗って、駅舎の配色に合わせてあります。


(今は使われていませんが木製の改札口)

(地下通路の仕切りも木製)

以前、京阪電車の新線が木の駅であることをご紹介しましたが、昨年その4駅がグッドデザイン賞を受賞しました。ちなみに、13年前に私鉄初のグッドデザイン賞を受賞した宇治駅はコンクリート打ちっぱなし。無機素材から有機素材へ、時代の変化を象徴しているようです。
明治時代にグッドデザイン賞があれば、浜寺公園駅は間違いなく受賞していたでしょうね。
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隣の国の家具

2010年01月21日 | 木と文化
先月、宇治の木工作家ichiさんのブログで知った朝鮮の家具展を見るため、京都市内にある高麗美術館へ行ってきました。


(高麗美術館)

最初に目を捉えたのは、ケヤキ材を使って角を金具で補強した櫃(ぐぇ)と呼ばれる収納ケース。その存在感やどっしりとした風格は、同じくケヤキを使った日本の仙台箪笥に似ていて、ルーツはここにあるのではないかと思いました。
館内は撮影禁止なので、絵葉書を撮影した画像でご紹介します。


(仙台箪笥のような風格を備えたケヤキ製の櫃)

もう一つは、黒柿貼りの引き出し。本体をケヤキやマツで作り、表面に黒柿の薄板を貼って装飾しています。黒柿は日本の茶道具など趣味性の強い木工品に使われますが、気候や土壌、微生物などの条件が揃った時に生まれる黒い縞模様のカキノキ。極めて珍しい木材です。
絵葉書がなかったのでポスターの一部を撮影した画像ですが、縞模様が左右対称になっているのが分かると思います。


(黒柿貼りの二層の引き出し)

朝鮮半島は寒いので防寒のために部屋が小さく、しかも床に直に座る生活なので、家具は低く、横広がりの傾向があるそうです。また、床暖房であるオンドルが普及しているため、その熱で家具や収納物が傷まないように脚がついているとのこと。
主な木材は、予想どおりマツ。ケヤキやキリも使い、黒柿や竹で表面を装飾するというのが一つのパターンのようです。
当時の朝鮮社会は儒教思想に基づいて男女が厳格に区分されており、男性用の家具は質実剛健で女性用の家具は逆に華美。下の家具は女性用の引き出しですが、牛の角を薄く削って絵付けしたタイルを貼って装飾しています。この「華角」という技法は朝鮮独自のものらしいです。


(華角の三層の女性用引き出し)

すぐ隣の国ですが、気候や生活スタイル、文化が少し違うだけで、日本と全く異なる家具が生まれるんですね。
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扁額

2010年01月18日 | 木と宗教
神社の鳥居やお寺の山門に大きな木製の看板が掲げてあります。これを扁額(へんがく)と呼ぶそうです。以前ご紹介した老舗の看板と同じく材はケヤキが中心。たまにヒノキも使われるようです。
下の写真は、京都市内にある豊国(とよくに)神社の鳥居の扁額。この神社は豊臣秀吉の遺命によって慶長4年(1599)に創建されました。この額が製作されたのは明治時代ですが、書は創建当時の後陽成天皇のもの。



唐門にはそのオリジナルが掲げてあります。こちらの扁額は創建当初のもの。この書を写し取って鳥居の扁額を彫り上げたわけです。
ちなみに、この唐門は伏見城の門を移築したもので国宝。伏見城→二条城→南禅寺→豊国神社と3回も移築されたそうです。


(豊国神社の唐門)

(唐門に掲げられたオリジナルの扁額)

下の写真は東福寺の山門。これも国宝だけあって、大きいだけでなく、どっしりと重厚感のある造り。ここにも扁額が掲げてあります。



こちらの書は、室町幕府4代将軍・足利義持が1400年頃に揮毫したもの。本来は「妙雲閣」と書くべきところ、禅の修業に女性は障害になるという理由から、女ヘンを「玄」と書き換えたそうです。



書としては子どもっぽく、今で言うウマヘタでしょうか。私も子どもみたいな字しか書けないので、読めない達筆よりも親近感が湧きます。
この扁額専門の職人が現在は京都に一人しかいないという話題を地元のNHKが放送していました。調べてみると、他の地方では木彫作家や欄間の職人さんが注文に応えて作っているようです。
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ワインのコルク

2010年01月14日 | 木と飲食
昨年のクリスマスイブ、久しぶりにワインをいただきました。最近は金属製のスクリューキャップが増えていますが、安物ながら一応コルク栓でした。
このコルク栓はコルクガシという木の皮から作ること、産地は地中海沿岸であることは知っていましたが、具体的にどうやって作るのかは不明でした。ある木のイベントでコルクの展示を見てようやく理解できました。


(実物のコルクガシ。関西森林総研植物園にて撮影)

まず、コルクガシの樹皮は上の写真のように、凹凸があってゴツゴツしています。この樹皮を下の写真のように丸々はがして、素っ裸にします。


(コルクメーカーのパンフレットより)

この樹皮の木口から、下の写真のようにワインの栓を丸くくり抜くわけです。直径2~3cmの栓をくり抜くわけですから、5cmくらいの厚い皮が必要でしょう。
木を植えてから樹皮が採取できるまで25年、一度はがして次に樹皮が採取できるまで9年~10年かかるそうです。



ワインのコルク栓には決まった長さがあって、普通は4~4.5cm。ブルゴーニュやボルドーの高級ワインには5cmのコルク栓が使われるほか、6cmのコルクを使うイタリアのワイナリーもあるとか。
コルク栓と金属のスクリューキャップではどう違うのか? ある有名なシャトーが1970年もののワイン100本をスクリューキャップにして実験したところ、最初の10年は問題ないものの、10年を過ぎるとキャップが砕けて空気が入ったそうです。


(ポルトガルワインのコルク栓)

逆に言えば、10年以内に飲むワインはコルク栓の必要はないわけで、カリフォルニアやオーストラリアなど後発地のワインはスクリューキャップが多いとのこと。
一方、ヨーロッパではコルク栓が多く、私が飲んだのもポルトガルワイン。安物なのにコルクを使っていたのは、ポルトガルが世界シェア50%以上を誇るコルク生産国だからかも知れません。
ちなみに、コルクガシのドングリを餌にして育てたのが以前ご紹介したイベリコ豚。コルクガシは人間の食文化に多大な貢献をしているわけです。
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木造都市-②

2010年01月11日 | 木造建築
前回、京都の建築家が設計した木造超高層ビルをご紹介しましたが、京都にはもう一人「木造都市」を夢見る建築家がいます。横浜のズーラシアや中国の天津博物館などを手がけた世界的にも著名な高松伸。
この人は京都市コンサートホールの設計コンペで、木造のホールをガラスですっぽり包むという斬新な案を提出。「京都はもともと木造都市である」という考えが根底にあったようですが、残念ながら火災のリスクが理由で落選。
それにもめげず、今度は京都市庁舎を高さ180メートル、地上13階建ての木造高層ビルにしようというプランを提案しています。下の写真はその模型。



高松さんは次のように語っています。「まるごと木造の都市を幾つか造るくらいのイメージで国内の木材を大量に使う必要があります。クライアントから依頼を受けた際に、建築家一人ひとりが「木造都市」をイメージしながら建築を設計することが重要です。それも可能な限り木造で設計する。その一つひとつの積み重ねがいつのまにか「木造都市」への道を拓きます」。
有限な金属やコンクリートではなく、循環資源である木材を積極的に使おうという意図があるようです。


(京都市庁舎を木造高層ビルにしたCG。手前の建物は京都ホテル)

前回の横内さんは山梨県出身、今回の高松さんは島根県出身ですが、どちらも京都を拠点に活動する建築家。神社仏閣が多く、平安時代からずーっと木造都市であり続けた京都の景観や環境が、木造高層建築物への夢を育てたのかも知れません。
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木造都市

2010年01月07日 | 木造建築
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお付き合いください。
さて、年初なので夢のあるでっかい話をご紹介します。
オーストリアで高さ70メートル、20階建ての木造高層ビルが建築されようとしています。以前、日本で最も高い木造建築は東寺の五重塔で55メートル、世界で最も高い木造建築は中国の仏宮寺で67メートルとご紹介しましたが、この高層ビルはそれを凌ぐわけです。
しかし、この程度で驚いていてはいけません。日本では何と、高さ339メートル、72階建ての木造超高層ビルが設計されています。東京タワーよりも高い木造ビルです。設計したのは、京都で活躍する建築家・横内敏人氏、ビルの名前は「日満里楼(ひまりろう)」。


(339メートル、72階建ての木造超高層ビル「日満里楼」)

上の写真は図書館で借りた建築雑誌のパースを撮影したものですが、模型も作成されていて、横内氏の事務所に展示されているようです。
中は円筒状になっていて、15階ごとに節が設けられ、竹の子のよう。最上階から下へ、哲学、芸術、文化、政治、商業とゾーニングされ、地下4階は劇場にするという計画です。
荒唐無稽な絵空事ではなく、集成材を使って実際に建築することが可能で、荷重や風圧にも耐えるように構造計算されているそうです。ただし、法律的には許可されません。横内さんは次のように書いています。
「今日のような近代文明の後に訪れる新たな文明における都市の象徴として計画したものである。その文明においては、人は環境と共生する哲学を持ち、循環する生態系の中に組み込まれた産業システムと、自然を保全・育成する科学技術とを持ち合わせている。森は信仰の対象であり、その森の恵みである木材により建物が造られ、都市が築かれる。この超高層建築は、そのような森林国家の木造都市における商業的・政治的・文化的・中心である」。


(日本で最も高い木造建築、東寺の五重塔)

建築家=けったいな(関西弁で「妙な」)建物を建てたがる人という偏見が私にはあって、特に著名な建築家の言動は信用していません。しかし、この横内さんは一般住宅の設計でも自然への敬意を感じさせる仕事をされているようで、上のコメントにはシンパシーを感じます。
木造建築とか木造高層ビルのさらに上をいく「木造都市」というコンセプトも、私には新鮮でとても魅力的です。
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