樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

偽物扱いは失礼

2006年12月14日 | 木と歴史
先日、野鳥の会の仲間から「深泥池(みどろがいけ)に珍しい樹がある」と聞き、そのまま同行していただいて見てきました。深泥池は10月13日にもご紹介しましたが、京都市北部にある国の天然記念物で、珍しい水生植物や昆虫が見られます。
目当ての樹はミヤマウメモドキ。池の奥の水辺で株立ちになっていて、小さなスペースながら周囲にはロープが張ってあり、「氷期の遺存種ミヤマウメモドキ保護区」の表示板があります。ここには何度も鳥を見に来ましたが、この樹のことは知りませんでした。

      
      (小川が池に注ぐ所で株立ちになったミヤマウメモドキ)

図鑑で調べると、ミヤマウメモドキは東北から中部地方の高層湿原や近畿の日本海側に分布するようですが、近畿以西ではかなり珍しく、京都府は絶滅危惧種に指定しています。氷期にはたくさん分布していたものの、温暖化によってこのあたりにだけ取り残されたと考えられています。
雌雄別株ですが、株元には赤い実をつけた幼樹が育っていました。近くに雄株があるのでしょう。

      
      (わが家のウメモドキ。ミヤマウメモドキと同じ赤い実。)

ウメモドキ自体はあちこちにあって、赤い実をたくさんつけるので、昔から庭木によく使われてきました。うちの庭にも1本植えてあります。
このウメモドキに比べてミヤマウメモドキは葉が細く、別名ホソバウメモドキ。同じモチノキ科モチノキ属の近似種です。ウメモドキという名前は、梅の葉に似ているところに由来します。
でも、ウメは奈良時代に中国から渡来した樹ですから、氷期から日本に存在していたこの樹に「梅の偽物」という名前をつけるのは失礼な話ですね。

      
      (ツルウメモドキの実は黄色。赤い種が顔をのぞかせています。)

ついでながら、「梅の偽物」は他にもあって、よく植えられるのが「ツルウメモドキ」。こちらも葉が梅に似ているのでこの名ですが、ウメモドキとは別のニシキギの仲間です。うちでもガレージのフェンスに絡ませて日除けにしています。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ネズミの糞

2006年12月13日 | 樹木
今の時期、あちこちの植え込みで写真のような黒い実をつけた樹が目につきます。ネズミモチ(あるいはトウネズミモチ)です。
この実がネズミの糞に似ていて、葉がモチノキみたいなので「ネズミモチ」。でも、モチノキ科ではなくモクセイ科です。

      
       (これはトウネズミモチ。ネズミの糞ってこんなんですか?)

この樹には不愉快な思い出があります。
15年ほど前、ある経済団体から私が所属する日本野鳥の会京都支部に「環境にいいイベントをやりたい」という依頼があり、植樹会とバードウォッチングをセットにしたイベントを提案しました。
当日、あるお寺の境内に植えたのが約10本のネズミモチ。植樹会と役員の挨拶が終ると、経済団体の皆さんはさっさとお帰りになり、探鳥会には参加されませんでした。「環境にいいことをした」という自己満足を得るために、私たちを利用されたようでした。
しばらく後に、そのお寺の境内を訪れましたが、植樹したネズミモチはほとんど枯れていました。以来、私は「植樹会」と聞くと眉に唾をつけています。

      
        (トウネズミモチの花が咲くのは夏。7月に撮影)

当時は樹木のことはほとんど知らなかったのですが、植えたのは多分トウネズミモチです。ネズミモチは山に自生していますが、植木業界に出回っているのは中国原産のトウネズミモチです。
ほとんど同じですが、葉を透かして見て、葉脈が見えるのはトウネズミモチ、見えないのはネズミモチ。

      
         (葉脈が透けて見えるのはトウネズミモチ)

名前もきたないし、いい思い出もないので、私はあまり好きになれない樹です。(ネズミモチのせいじゃないのに、ゴメンね。)

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

昇進できる樹

2006年12月12日 | 木と言葉
写真の樹は、いつもの散歩コースの奥にあるツブラジイです。かなりの巨木で、枝の張り方が面白いので、前を通るとしばらく見とれています。

         

実が丸いので「円ら椎」ですが、葉が小さいのでコジイとも言います。ツブラジイとよく似た樹にスダジイがあり、一般的にはまとめてシイノキと呼ばれています。
「ツブラジイとスダジイは同じものだから分ける必要はない」と言う学者もいます。でも、いつも散歩しながらツブラジイとスダジイを見ていますが、葉も実も大きさが違って、同じ樹種には思えません。

      
         (左がツブラジイ、右がスダジイ)

椎の実はフライパンで炒って食べられます。昔から食料として利用されてきました。
この椎の実で有名な和歌があります。「のぼるべき たよりなき身は 木のもとに 椎を拾いて 世をわたるかな」。昇進するコネがないので、私は木の下で椎(四位)を拾っています。
源頼政(みなもとのよりまさ)がまだ従四位の身分だったころ、椎と四位を掛けて、昇進への思いを歌ったものです。この歌のおかげで頼政は従三位を与えられたそうですから、駄洒落もバカにできません。
ツブラジイは狂いやすく割れやすいのでパルプか薪炭材、スダジイも九州地方で鉄道の枕木に使う程度で、木材としてはどちらもあまり優秀ではないそうです。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

3×3=9

2006年12月11日 | 木と言葉
11月21日に木の芸名の役者として樹木希林をご紹介しましたが、木に因縁の深い役者がもう一人います。
山茶花究(さざんかきゅう)。もう亡くなりましたが、脇役専門の渋い俳優でした。小さい頃、この漢字が読めなくて「やまちゃ・はなきゅう」だろうと思っていました。

      
        (わがやのサザンカ。今年はたくさん花をつけました。)
      
        (散歩コースのサザンカ。原種に近い一重の白花。)

この「山茶花」とか「山茶」という漢字は日本ではサザンカを意味しますが、中国ではツバキを意味します。お茶の木もツバキ科ですが、里にある「茶」に対して山にある茶の木という意味でツバキを「山茶」と表記したのです。
サザンカは日本特有種で、中国にはないので漢字が作られなかったのです。日本ではツバキには「椿」を当てます。
『薬方雑記』という中国の書物にも、「日本、山茶花、その国名は椿となし、以って山茶と名づけず」と書いてあるそうです。
下の写真は宇治市役所の前に植えてあるお茶の木の花です。葉はよく見ますが、花をご覧になることはあまりないでしょう。ツバキやサザンカによく似ています。

      

冒頭の俳優の山茶花究ですが、この芸名は3×3=9(さざんがきゅう)の洒落だったようです。もともと坊屋三郎や益田喜頓らと結成した「あきれたぼういず」というお笑いグループ出身ですから、こんなダジャレの名前にしたのでしょう。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

皮膚で聴く音

2006年12月08日 | 樹木
中央公論社から新しい自然環境マガジン「リクウ」が創刊されました。
こういう系統のマスメディアには警戒心があるのですが、「特集:森に抱かれて生きる」とか、執筆陣のC.W.ニコルさんや稲本正さん、撮影の姉崎一馬さんや今森光彦さんなどの名前に誘惑されて買ってしまいました。

         

冒頭に編集長の巻頭言があります。レトリックの効いたなかなか洒脱な文章です。「いたずらに消費することが美徳であった社会に対し、われわれはここでもう一度立ち止まり、歩みをスローにしたほうがいい」、なるほど。
ところが、その後「でも、エコはやはり愉しくなければなりません。お洒落でかっこよくなければなりません。人間の欲望を抑え込むようなエコではそれ自体が持続不可能であります」と続きます。???やっぱり、か。このあたりが、この手のマスメディアの限界でしょう。
「愉しい」のはさておき、エコがお洒落でかっこよくある必要はまったくないと私は思います。欲望をある程度抑え込まないとエコは実現できないとも考えています。
そういう限界はあるにしても、読み応えのあるコンテンツもありました。その中で「へ~!」と思った記事をご紹介します。
芸能山城組の主宰者であり『音と文明』の著者でもある大橋力さんと、環境考古学を研究する安田喜憲さんの対談です。誰でも山や森を歩いていると気持ちがいいと感じますが、それは耳では聴こえない高周波の音を皮膚で聴いているからだそうです。

      
      (こんな森には高周波音があふれているらしい)

都会の音と熱帯ジャングルの音を被験者に聴かせると、後者では脳のα波や血液中の免疫成分が増え、逆にアドレナリンは減ったそうです。
大橋さんは、森の高周波音は昆虫が出しているのではないかと推測しています。すでにご存知の方もあるでしょうが、私には初耳の面白い話でした。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

死神の樹

2006年12月07日 | 木と医薬
      

ビワの花です。今ごろ開花し、来年の6月に実が成ります。
この写真もそうですが、私の近所にはビワを庭に植えている家がたくさんあります。ところが、地方によって絶対に庭木に使わないところもあるようです。
「庭にビワがあると身内に死人が出る」「屋敷内にビワがあると病人が絶えない」「ビワは植えた人の死を待って開花結実する」など不吉な言い伝えが残っているからです。まるで死神扱いですね。

      
        (ビワの葉は大きな楕円形で葉脈が明確)

その一方で、例えば静岡県のように、悪疫を予防するとか魔除けになると言って積極的に庭に植える地方もあります。実際、漢方では湿布薬としてビワの葉を使い、「大きな薬効がある王様の樹」という意味で大薬王樹(だいやくおうじゅ)と呼ぶそうです。地方によってまったく正反対の意味があるのは興味深いですね。
アメリカではJapanese Plum(スモモ)とかJapanese Medlar(カリン)と表記しますが、ビワは日本自生説と中国原産説があってはっきりしません。学術的にはバラ科ビワ属の樹です。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モミジとカエデ

2006年12月06日 | 木と言葉
宇治市の木はイロハモミジ。前にも書きましたが、お茶の木は「宝木」というVIP待遇になっています。おそらく紅葉の名所がいくつかあるからでしょうが、その一つが興聖寺(こうしょうじ)という禅寺。ちょうど今頃、たくさんのイロハモミジが緑~黄色~赤のグラデーションを描いています。

      
    (興聖寺の紅葉。京都府自然200選、宇治市名木100選の一つ。)

宇治市のようにモミジをシンボルツリーにしているのは山梨県、滋賀県、広島県。面白いのは、滋賀県と広島県が「モミジ」と表記している一方、山梨県は「カエデ」と表記しています。
また、図鑑などでは「イロハモミジ」ですが、宇治市の名木の標識には「イロハカエデ」と書いてあります。モミジとカエデはどう違うのでしょう?

      
     (イロハモミジの別名タカオモミジは京都の名所・高尾に由来)

植物学的には同じです。モミジは「もみず」(「赤くなる」という意味の古語)に、カエデは蛙手(かえるで)、つまりカエルの手のような形に由来します。
図鑑などではイロハモミジ、オオモミジ、ヤマモミジの3種(イロハモミジ系統)だけに「モミジ」を使い、イタヤカエデ、ハウチワカエデ、ウリハダカエデなどその他は「カエデ」、科・属の名称も「カエデ科カエデ属」です。

      
          (イタヤカエデは確かにカエルの手の形)

日本には(園芸種を除いて)26種類のカエデがあり、中にはオオイタヤメイゲツ、メグスリノキ、ハナノキなど「モミジ」や「カエデ」がつかない名前もあります。
ちなみに、イロハモミジは葉先を「いろはにほへと」とか「お寺のもみじ」と勘定するので7裂と思い込んでいる人が多いですが、5裂や9裂のものもあります。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

姿に似合わず強烈

2006年12月05日 | 木と香り
      

この可憐な実は、クサギ。赤紫色の部分はガクで、青い部分が実です。この青い実は昔は染料に使われたそうです。
クサギは「草木」ではなく「臭木」。葉をちぎって匂いをかぐと、ムッとする匂いがします。私は悪臭というよりも、ビタミン剤の匂いに似ていると思います。

      
      (この葉をちぎって匂いを嗅ぐと名前の由来が納得できます)

今年の6月に広島県にバードウォッチングツアーに出かけた際、道の駅の食堂に「くさぎ飯」というメニューが写真入りで貼ってあるのを見つけました。茹でて悪臭を取り除いたクサギの若葉をご飯の上にのせたものだそうです。
すでに別のものを注文していたので食べませんでしたが、臭い葉のイメージがあるので、おいしそうには思えませんでした。でも、ツリーウォッチャーとしてはトライするべきだったと後悔しています。

      

山の林道脇によく生えている木で、低いので草本のようにも見えます。上の写真は、実の写真を撮る前の10月に撮影した同じ個体の花。強烈な匂いを放つとは思えないほど、花も実も可憐でしょう?
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

往年のトップスター

2006年12月04日 | 木と歌
『帰ってきたヨッパライ』を大ヒットさせたフォーク・クルセイダーズは京都出身のグループ。そこから独立した端田宣彦&シューベルツも『風』という歌をヒットさせました。その2番は、「プラタナスの枯葉舞う 冬の道で プラタナスの散る音に 振り返る・・・」。
この歌を聞くと、私は京都の烏丸(からすま)通りを思い浮かべます。最初に就職した会社がこの通りのビルにあって、プラタナスの並木をよく見ていたからですが、端田宣彦も烏丸通りをイメージして作詞したはずです。

      
         (プラタナスの枯葉舞う冬の道で・・・)

プラタナスが街路樹に使われたのはかなり古く、古代ローマですでに使われていたという説があります。日本では、明治43年に東京の御徒(おかち)町通りに植えられたのが最初です。
プラタナスが増えたのは、大正12年の関東大震災がきっかけ。25,000本あった東京の街路樹が震災で10,000本に減ったため、復興事業として成長の早いプラタナスを7,000本、イチョウを5,000本植えたそうです。
その後、昭和14年の調査によると、6大都市(東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸)の街路樹を合計した樹種別本数では、プラタナスが第1位で約84,000本。2位がイチョウの約37,000本、3位がサクラの約17,000本ですから、ダントツのNo.1です。
昭和の後半になるとイチョウが第1位になるのですが、戦中から戦後にかけてはプラタナスが街路のトップスターだったのです。

           
            (黄葉する前のプラタナス)

『風』で歌われた烏丸通りのプラタナスも徐々に姿を消しつつあります。前にも書きましたが、枯れたり、倒れたプラタナスの代わりにユリノキが植えられています。
震災や戦争の後は復興を急いだために成長の早い樹種が選ばれたのですが、現在はその性質が逆に剪定の手間やコストアップなどのマイナス要因になって、管理者側から嫌われているようです。街路樹も時代と共に変遷するんですね。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

晩秋の栃の森

2006年12月01日 | 樹木
バード&ツリーウォッチングのメインフィールド「栃の森」には毎月1回、年に7回行きます。鳥が現れない夏と、雪でアプローチできない冬はお休み。先週末、今年最後の森歩きをしてきました。
この森に通い始めて11年、樹を観察するようになって5~6年になりますが、行く度に新しい発見があります。
先日は、ルートの東側斜面はほとんど落葉しているのに、西側斜面(朝日が当たる側)は紅葉が残っていることに気づきました。「紅葉や落葉の時期は日照時刻に左右される」という仮説が立てられそうです。

      
         (紅葉が残る西側斜面)

サワフタギの葉が緑色のまま落葉することも発見しました。強風の翌日に緑の葉が落ちていることはありますが、これは明らかに落葉です。紅葉シーズンを過ぎているのに、枝に残った数枚の葉も緑のままでした。いろいろ調べてみましたが、紅葉するサワフタギはどこにも見当たりません。
今年だけの現象かも知れませんが、「サワフタギは落葉樹なのに紅葉しない」という仮説を立てておきます。

      
         (緑の葉はサワフタギ)

以下、写真中心に晩秋の栃の森をご紹介します。

      
トチノキの冬芽です。先端がテカッているのが分かりますか? 触るとネバネバしています。

      
アケビのツルが巻きついて樹皮に喰いこんでいます。巻きつかれた樹を確認するのを忘れましたが、まだ生きています。

      
私たちは登山靴ではなくゴムの長靴で歩きます。険しいアップダウンがなく、写真のような小川やぬかるみを渡ることが多いからです。格好は良くないのですが、スタイルを気にする年齢ではないので機能一辺倒。ズボンの裾も汚れないので、この森にはぴったりです。
この「栃の森」も今年の6月から環境保護のため入山禁止になりました。私たちは10年間実施してきた鳥の調査を今後も継続するために許可をもらって入山しています。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする