![nisakana](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/90/bebd670cd3709003fe0d2d243457fcbf.jpg)
『似魚』
晋遊社から出版されている「似魚図鑑」という奇書がある。そこからの話。
本来は、似魚というのは似ている魚なので、姿かたちのことなのだろうが、紹介するのは、味が似ている魚ということ。とたんに怪しい話になっていく。
ただし、魚というのは天然資源である。人間の欲望が拵えるブランド品のイミテーションとは少しだけ異なる。およそ、人間の食べるもので、天然資源をそのまま食するのは魚介類くらいだ(一部の養殖物を除く)。穀物はじめ植物は無論のこと、肉類だって、野生動物を捕まえて食べるのはきわめてレアケースだ(鯨)。
そういう意味では、本来は天然魚介類を食べること自体が環境破壊行為にあたるのだから、全面禁止となってもおかしくないが、今のところは、まだそこまでには至っていない。国連のデータなどで確認すると、世界的には魚介類というのは、人間の必要カロリー計算の外数みたいに微少値になるのだが、日本だけは魚介類からも一定のカロリーを得ているようになっている。つまり、魚を主食の一部にしている例外的な国ということだ。
横道にそれてしまいそうなので、かろうじて引きもどすと、日本人がほぼ独占的に食べていた高級な魚介類が、欧米はじめ東アジアの金持ちの口に入るようになって、「こりゃ、うまい」ということになる。本来、東アジア人の得意技は「模造」「偽造」技術なのだが、さすがに魚の偽者は難しい。カニカマは一つの技術なのだろうが、誰もカニカマの正体が蟹であると思うわけもない。
そこで登場(というか、多くは深海から引きずり上げられた犠牲者だが)したのが、「似魚」ということになる。
![maguro](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/d8/e2a481825385113386807d74326e1fa8.jpg)
これは最高級魚のクロマグロの代用である。アカマンボウというのはマンボウとはまったくことなる大型魚だそうだ。
北海道以南に住み、体長は2メートルほどになるそうだ。体の部位によって脂身の量が異なっているそうで、背中の方は脂が少なく、カルパッチョやフライになるそうだ。一方、腹身の方は脂がのっていて、「トロ」になる。
特に、ネギトロになると、元の姿を気にする人がいなくなるので、さらに重宝するらしい。まあ、味が同じならいいんじゃないかという考え方もある。
![ebi](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/d6/99446510ee8c85dd499883e3f0823a35.jpg)
これは、イセエビの代用品である。もちろん、外見の大きな違いは、「はさみ」である。ザリガニであるから巨大なはさみが付いている。(まったく余談だが、以前、理由不明で怒鳴る重役がいて、周りからは、「ザリガニ」と呼ばれていた。脳みそがなく、はさみをメチャクチャに振り回すところが似ているからだ)
このザリガニは、日本での歴史は古く元々、食用として阿寒湖などにいるそうだが、特定外来生物として嫌われているようだ。生命力が強く、共食いすることが多いようだ。旨いからだろうか。ウチダザリガニはロブスターより旨いといわれるが、元々、ロブスターとイセエビは味が違う。
味が同じならいいじゃないかという説もあるが、味は違うのではないだろうか。これにだまされるようでは、寿司屋に行く資格なしだ。
![anago](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/11/91ceba961b586fa79d76c806802bb56f.jpg)
カタカナ一文字多いが、「マアナゴ」の代用品である。
実のところ、アナゴは好物である。江戸前の代表。寿司屋の定番である。全長1メートルあるのがクロアナゴで、マアナゴはそれより小型で、味はすぐれる。
実際、全国各地でアナゴは獲れるのだが、ややあぶない話も聞く。水の濁ったところがいい、と言われている。例えば食肉精肉場の近くで海水に血の成分が放出される場所とか、工場排水で汚れていて水温が高いところとかだ。
しかし、マルアナゴとなると、そういうことはない(はず)。外国製である。ペルー産らしい。本名はアンギーラとラテン系の名前がついている。現地では姿が気持ち悪いので食用にされず、内臓を抜き取って牙だらけの頭を切り取ってドレス加工し、蒲焼にすると、見分けがつかなくなり、アナゴの蒲焼になる。
味は、あなごだが、少し小骨が多いのと、皮がゴムのようなのが違いだそうだ。
こちらは、味が同じならいいじゃないかということにはならないようだ。
なにしろ、アンギーラの正体は、「ウミヘビ」だからなのだ。
アナゴの代わりにウミヘビを食べるわけだ。
もちろん、ヘビでも何でも食ってやるという人もいるし、ヘビを食うよりもヘビのように執念深い人間と付き合うほうが嫌だという人もいるだろう。
ヘビのような性格というのは、執念深いということだが、本当にヘビに性格があるのかどうかよくわからない。たぶん雄と雌の交尾時間が長いから、そういうことになったのだろうが、交尾時間といっても24時間も行為を楽しむヘビはごく一部だそうで、大方は1時間から2時間程度ということで、皆さん方と同じくらいだろう。
ところで、このアンギーラがウミヘビということなのだが、妙な記載になっているのだ。
分類上はウミヘビと同じだが、ウミヘビ科は爬虫類の仲間と、ウナギ目に含まれるものに分かれている。このアンギーラは後者なので、ご安心を。
これを読むと、ウミヘビという科が爬虫類のウミヘビと魚類(ウナギ)のウミヘビとに分類できるように読めるのだが、そんなわけはないわけだ。爬虫類のヘビの仲間で、海に住むものをウミヘビと呼ぶ一方、ウナギの一族の中にもヘビに似た形のウミヘビがいるということの訳だ。
爬虫類は呼吸しなければならないので、水中で長時間交尾することはないだろうし、一方、魚類の生殖活動には、楽しいところはどこにもないだろう。というよりも、アナゴの生態はウナギと同様に、まだはっきりとは解明されていないそうである。