6日目本日は、最終日。4日目の備中松山城、5日目の宇和島城という大難関を乗り越えた方にはもう困難は、少ない。すがすがしい高知の朝は、昨夜行った寿司屋「おらんく屋」のネタの太い(大きな)「にぎり」と、ついつい飲みすぎてしまった日本酒「酔鯨」を思い出すことからはじめるといいかもしれない。この「おらんく屋」という奇妙な店名、つい最近まで「トランク屋(トランクに色々な非合法物質を詰め込んで運ぶ)」という職業の親戚だと思っていたのだが、山本一力氏の新著「おらんくの池・文藝春秋」に解説してあった。「おらんく=オレの家」ということだそうだ。そして、「おらんくの池=高知の眼の前の海=太平洋」ということらしい。「酔鯨」というおそろしい名前の日本酒のブランド名も、なるほどと理解できる。
ところが、高知城は、その立派さと地元での評価とでは大きな落差がある。高知市自体が立派な城下町であり、明治維新の中で一定の勝組ポジションを得ているのにその中心の城郭は、強く愛されているようにも見えない。東京における東京タワーのようなものかもしれない。一回は行ったものの、何度も行くものではない。ということなのだろうか。市内のあちこちから天守閣は見ることができるし、約1時間の余裕時間があれば、簡単に歩ける。やはり、「急な石段」というのは心理的なハザードになるのだろうか。あるいは、殿様の住処に平民が上ることへの畏敬の念とかがあるのだろうか。
とにかくこの城郭のすばらしさは天守閣以外にも、ほぼ全部の建物が残っているからだ。いや、多くは再現されたものではあるのだが。天守閣は1603年に完成していたのだが、1727年の大火で焼失。1748年に元の天守の復元ということで再建されている。つまり257歳だ。他の多くの城が400歳なので、新しい(弘前城よりは約50年古い)。その分、使用木材はしっかりしていて、崩壊危険感覚はない。また、天守以外の多くの建物は一旦明治初期に取り壊されたのだが、復興されたものだ。屋敷が残っているため、当時の殿様の生活がよくわかる。また、この高知城はバランスがとれた城であり、例えばアメリカ人に、12城の中で一つだけ勧めるなら、ここだ。ただし、ここに来ると他の城も見たくなるのも間違いない。そして、この城で見逃せないのは、追手門。ここは400歳だ。
そして、高知駅に戻り、ついに最後の城である「姫路城」に向かう。11時00分高知発岡山行き南風12号。大江健三郎の高邁な思想を育んだ四国の森、村上春樹の「海辺のカフカ」に登場する「不条理世界への入口」のある四国の森。ちょっとうつらうつらとすると、総て見逃して、瀬戸大橋の上で午後の陽光を浴びることになる。13時27分岡山着。3日ぶりに新幹線の世界に戻ってくる。13時52分、岡山発ひかり460号。速度感が現代に戻ってくる。14時13分、姫路着。
現存12城の中では、圧倒的に巨大なのがこの姫路城である。姫路駅から遠めに一望できる。駅から姫路城までは、どのバスも通るのだが、無料バスもある。まあ、今までかけた金額から見れば、どうでもいいかと思うが、それでも無料バスにこだわる誤謬を犯す人もいるだろうが、歩いてもすぐ着く(というか着かない)。
バスに乗るのは、距離の半分くらいで、そこから先は公園から登城路にかけ、歩くからだ。
ところで、江戸時代に城郭番付というのがあった。江戸城は巨大過ぎて番付の枠外になることも多いのだが、だいたい、一番が大阪、二番が名古屋、三番が姫路ということになっている。四番以下は、諸説ある。実際には番付を付けるといっても、全国城廻などという暇人はなかっただろう。幕府のお庭番は各藩の偵察活動をしていただろうから、城の番付とか秘蔵していただろうが、公開されていない。ということは、誰がみても姫路城が巨城だったことを示している。![551b5832.gif](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/e1/80f6f20558b962883ea53f6ba8a46b1d.gif)
それでは、なぜ、姫路城が大きいかについて、司馬遼太郎の推論を紹介する。徳川幕府側は、誕生の時から、ずっと薩摩藩が次期政権を狙うものという潜在思想があった、というのだ。そして、政権交代を狙う薩摩藩が東上してくるのを、押さえ込むため姫路城があり、大阪城があり、名古屋城があった、ということらしい。
ただし、それらは、幕末には、ほとんど機能しなかった。徳川慶喜は京都二条城で大政奉還し、大阪城から海上脱出し、江戸に逃げ帰った。その幕末と巨城の関係は、2006年にゆっくり考えることにする。
そして、この姫路城は、本物感も十分にあるし、広く、高く、美しく、癖もなく申し分ない。時間に余裕があれば、西の丸へ行って、数奇な運命に弄ばれた戦国時代最後の女性である千姫の生涯を振り返ることもできる。千姫の運命を考える時に、合わせて、祖母である、お市の方の運命にも浸ればいいかもしれない。しかし、なぜか千姫の墓は東京の芝増上寺、東京タワーの真下にある。入口の門扉には巨大な葵の御紋が・・。
そして、ついに長い6日間の旅も12の目的物を消化。東京へ戻ることになる。姫路発16:50ひかり466号。新神戸着17時06分。焼きアナゴと缶ビールを買い求め、17時15分発のぞみ62号に乗り換え。最後は国内最速の陸上移動装置、のぞみ号で締める。東京着20時06分。明日は仕事だ。デジカメの整理は来週末に回すしかない。6日目移動距離、912km。乗車時間、5時間55分。
*************
ところで、6日間を合計すると、4,350km、37時間57分となる。次に、費用を計算するのだが、まず5泊分宿泊料・・約4万円。鉄道以外の運賃・・約1.5万円(タクシー代など)そして、問題の鉄道運賃だが、最初はバラバラに買っていったらと計算すると、11万4千円位になった。うち乗車券が6万7千円で特急運賃が4万7千円。
そこで、遠距離キップを通しで買えばいいのだが、本行程でもっとも長い距離は、まず、東京-弘前は単独で購入し、次に弘前発で、大宮、長野、松本、名古屋、米原、京都、岡山、丸亀、松山、宇和島とつないでいく。途中、福井や松江方面は別に購入。そうするとJRグループ内で一本の線になるのだが、実はとんでもない落とし穴があったのだ。
愛媛県宇和島から四国の西側を南下し、太平洋側の駅である高知県窪川に到着する1駅前にある若井という駅までがJRで、若井-窪川間の一駅間は土佐くろしお鉄道という私鉄なのだ。連続キップキラーの区間だ。くろしお鉄道が黒字とは思えないが、この私鉄のおかげでJRの得る利益は多大だろうが、それは内緒だ。
そして、その長距離キップで計算しなおすと、1万円程度安くなる。10万3千円くらい。そうなると、実は、JRの定額制キップのことが頭に浮かぶ。現在3種類ある。「青春18」。「ナイスミディ」。「フルムーン」。この中で青春18は無理だ。特急に乗れない。ナイスミディは有効期間3日なので2枚必要。30歳以上の女性同士の旅が対象。フルムーンも制度として似ているので、フルムーンの方で検討してみる(結婚の相手が女性同士の場合はナイスミディを選択すること)。夫婦合計年齢88歳以上。7日分で二人で99,000円。グリーン車にも乗れる。一人分約5万円なので、ほぼ、正規料金の半分になる。欠陥はハイシーズンに使えないこと。使えない季節は、7~9月、ゴールデンウィーク、年末年始、春休み。そして、最大の問題は、この途方もない消耗旅行に付き合おうという、変わったパートナーが地球上に存在するかどうかなのだが、まずいないだろうね。たいてい1日目の途中で、サヨナラだろう。