手続的なことを少しだけ解説すると、普通はヤマトが公正取引委員会(公取)に「郵政公社の行為は不当廉売だ!」と報告して、次に公取は調査を開始し、違法行為と認定すると郵政公社に勧告を出すことになる。というのが一般的である。公取も裁判所と同じように再審制度があり、不服ならさらに争う。しかし、ヤマトは公取ではなく裁判所に持ち込んだ上、独禁法違反の根拠事実を独自に調査して提出した。実は、この場合、裁判所から公取に対して事実関係の調査が命じられることになるはずだ(独禁法83条-2)。公取が調査する点は同じだ。最初に公取へ行かなかった理由はわからないが、推測すると、公取の場合、訴えた側(弱者)の保護のため、訴えた側は非公開になる。訴えたことを自ら発表すると、公取の心証を悪くするということが言われる(なにしろ、急激に役人を増やした組織なので、色々のタイプの人がいる)。もちろんヤマトは世間に隠す必要はまったくないので、より公開性の高い方法を選んだのだろう。さらに念入りに独自の調査をしているのだから。
もともとヤマトの拡大の歴史は小倉昌男氏による「権力との闘争」的なところがあり、大荷主、三越から解約された後、宅急便事業を興すため、かたや国鉄、日通といった事業者との競争、かたや全国ネット展開のため事業免許取得のため運輸省との交渉といった「競争大好き型企業」だからである。かつて小倉氏の講演を聴いた時には「運輸省からの天下りを断り続けて、だいぶ苦労した」と言われていた。
さて、次に訴えの内容であるが、これが問題である。
1.日本郵政公社というのは訴えられるべき資格があるのか。ということがある。
そもそも「事業者」という分類に属するのか。まだ民営化されていないのであ
る。逆説的だが、経済的合理性で活動しなくても構わないという可能性がある。
2.独占的な郵便事業での利益を宅配便ビジネスにつぎこんで廉売(安売)してい
る。と主張しているが、もともと、どんぶり勘定の公社でコストを認定するの
は難しい。また廉売(安売)行為は消費者にはプラスにはたらくため、なかな
か違法行為とは認定されない。違反ラインはコスト割れラインと認定されるが、
直接的コストなのか、本社費や管理コスト、建物の費用など間接費も含んだも
のなのかは認定が難しい。
3.固定資産税のかからない土地をローソンに安く貸した見返りに宅配便と郵便集
荷業務でローソンと提携したという点は、「郵政公社が事業をすること自体が
違法だ」ということに近く、公取も裁判所も頭を痛めることになる。
以前たまたま六本木で、「独禁法破り専門の弁護士」とカウンターで並んで飲んだことがある。公取の人脈やら、調査に際しての注意事項やらしゃべりまくって、店中が盛り上がってしまった。これも流行のビジネスモデルだ。
金融部門は問題だ。郵便貯金残高は180兆円といわれ、三菱FGの3倍弱。大きさはともかく不良債権とかないのだろうか心配だ。民営化したら破綻したというのでは話にならない。もっとも公共事業やら国債やら第三セクターとかに融資しているのでいわゆる「不良債権」にはあたらないだろう。しかし、「土建」融資はだめと今さらいっても始まらないし、民間企業へ融資しなさいといっても、そのノウハウもないし、より危険だ。キチンとやるなら、解体細分化して、地銀やメガバンクに再分配すべきかもしれないが、簡単にはいかない。
つまり、「完成図が見えない」というのが郵政民営化の金融部門の問題であり、国民の不安なのである。
もともと道路公団のように、目に見える資産を対象とした民営化でもレトリックに逃げ、ただの公団分割をもって民営化と言い換えたくらいだから、より目に見えない銀行機能(さらに融資部門)の行方は注視しなければ、とんでもないことになる。まあ竹中氏は専門家なので、ぶざまな大破綻になることはないとは信じているが・・・
最後に、あまり報道されていないが、道路公団民営化の中心だった「道路関係四公団民営化推進委員会」と郵政民営化の中心である「内閣官房郵政民営化準備室」は、港区の同じビルの中にある。いささか暗示的。