JALのホームページを辿ると、1月19日付で、会社更生法申請に至る事情説明が書かれている。ずいぶん報道を重ねていたことなので、目新しいこともないが、注目すべきは、JAL自体が、どうして経営不振に至ったか自ら書いている部分がある。第一項である。
1.企業再生支援機構に対する再生支援申込み及び会社更生手続開始の申立てに至る経緯
当社グループは、1953年の設立以来、国際線ネットワークを中心に、安全性・定時性を基盤とした高品質の航空輸送サービスを提供し、2002年度の日本航空株式会社及び株式会社日本エアシステムの統合を経て、本邦での国際線シェア66%・国内線シェア46%を有し、一日に1,100便程度の定期便を運航する日本最大の航空会社として、国内外の航空利用者の利便性・公益に寄与・貢献してまいりました。
しかしながら、今世紀にはいり、米国同時多発テロ、SARS、イラク戦争といった事象が相次いだことにより、特に国際線航空需要が減少し、当社グループは甚大な影響を被りました。また、その後の歴史的な燃油価格の高騰に伴う燃油サーチャージの高額化により観光需要は低迷しました。
このような中、当社グループは、人的生産性向上による人員数の削減や賃金制度・退職金制度改定、一時金の抑制などによる人件費の削減、運営体制、業務プロセスの見直しによるコスト構造改革、収益性の観点による国際・国内路線の徹底的な見直し、機材更新とダウンサイズの推進などあらゆる自助努力を進め、2008年度には低需要期である第1四半期としては統合後初となる営業黒字を達成しました。
しかしながら、2008年秋口以降に発生した金融危機の影響で世界経済は未曾有の景気後退局面に突入し、当社グループにおいても、特に国際旅客におけるビジネス需要の減少と国際貨物需要の急減によって収入は大幅に減り、2009年6月には、株式会社日本政策投資銀行と民間金融機関から総額1,000億円の融資を受けるに至りました。
このような事業環境の中、当社グループの再生を確実にするために国土交通大臣により立ち上げられた事業再生の専門家からなる「JAL再生タスクフォース」は、2009年10月29日、国土交通大臣に対し、企業再生支援機構による支援を受けて再建することを妥当とする調査結果を報告しました。
そこで、当社は、企業再生支援機構に対し、当社グル-プの再生支援に関する事前相談を開始し、また、事業再生ADR手続を進めつつ、企業再生支援機構との協議を継続してまいりましたが、企業再生支援機構による事前調査を経て、株式会社日本政策投資銀行他の申込金融機関と連名で、本日、企業再生支援機構に対して正式な再生支援の申込みを行い、支援決定を受けました。企業再生支援機構は、法律に定められた所定の事業者の事業再生支援を目的として、国の認可法人として設立された株式会社であり、当社らは、支援決定により、公的な再生支援を受けることとなったものであります。
また、当社らは、企業再生支援機構による公的な再生支援を受けるにあたり、企業再生支援機構の指摘を踏まえ、透明性・公正性が確保された手続のもとで迅速な事業の再生を図るため、企業再生支援機構の支援と会社更生手続を併用することとし、会社更生手続開始の申立てを行うこととしました。
なお、当社らが進めてまいりました事業再生ADR手続につきましては、本日、当社らより同手続の取扱事業者である事業再生実務家協会及び手続実施者に対して手続を終了するよう申入れを行い、かかる申入れを受け、手続実施者において協議がなされた結果、同手続の打切りが相当との決定がなされました。これを受けて事業再生実務家協会において、当社らの会社更生手続開始の申立てに先立ち、同手続終了の決定がなされております。
かなり未練たっぷりな書き方だが、経営不振に至った原因としてあげられているのは、
A.米国同時多発テロ
B.SARS
C.イラク戦争
D.燃油価格の高騰に伴う燃油サーチャージの高額化
E.2008年秋口以降に発生した金融危機
となっているのだが、これは世界中の同業者もまったく同じ状況の中にいたわけだ。では、ANAやスカイマークはつぶれないで、一人負けに至ったのか、それについては何も語られていない。実に見事な親方日の丸である。
本来は、収支改善のプランが必要なのに、経営不振の言い訳探しをしていたのだろう。
実は、先日、ある民営化したばかりの航空関係の会社の方と話していたら、こちらも見事に「インフルエンザの影響で、・・・」と聞きもしない言い訳を言われていた。役所病なのだろう。
よく言われるが、低い給料で努力を重ねたANAにしてみれば、JALの借金棒引きとか今後の低利融資といった政府の優遇策は、まったく腹立たしいとしか言えないだろう。とはいえ、ANAの社長が国交省に釘を刺しに行ったのは、やや戦術的にはマイナスだったかもしれない。これだけ言われてJALが再生しなければ、もっと肩入れすることになりそうだからだ。
さらにJALが窮地にあるのは、機材(飛行機)の新替の件。再生機構は主にジャンボ(B747)を直ちに全廃して、燃費のいい中小型機を増やすという方針を出しているが、実はボーイング社にはすでにかなりを発注済み。もちろん、中小型機は多いのだが、最新鋭の大型機であるB787も大量に発注済みらしい。つまり、古い大型機をやめるのはいいとして、中小型機だけでなく大型機も買い集めていた。
となると、多くの人がイメージしている縮小均衡型ではなく、席数の拡大方向へ向かっている。では大型機をキャンセルするのだろうか。ボーイング社ともめるのは間違いないだろう。新しい機種が手に入らなければ今のままになるしかないだろう。
そして、社員のリストラの件。社員の30%が対象らしい。一方、ある専門雑誌にJALの客室乗務員の実態記事が書かれていた。スッチー物語だ。
日本航空インターナショナルとジャルウェイズとジャルエキスプレスの3社で10700名の客室乗務員がいるそうだ。うち外国人は1000名。男性は100名。
聞いてびっくりなのは、現在、彼女たちが正社員になるには入社4年目ということだそうだ。まず2カ月の訓練。そして国内線勤務。次に国際線のエコノミークラスの講習をパスすると国際線に勤務。さらに経験を重ねて、訓練を受けると、エグゼクティブクラスやファーストクラスが担当でき、さらにキャビンコーディネーターとかキャビンスーパーバイザーになっていくそうだ。
別に、見ていて何も変わりがなさそうなのだが、国内線、国際線、国際線ファーストクラスと別のスッチーが仕事をしていたわけだ。そして、めったなことでは正社員になれないのだろうが、今度のリストラで最初にターゲットになるのは、この非正社員ということになるのだろうか。給料の低い方?
次に、CEOは稲盛氏(77)に決まったものの、COOの人選が難航している。当初56歳の子会社の役員が抜擢されていたようだが、CEOと面接の結果、保留になった。こういうのは、一度信頼がなくなると、どうにもならなくなる。もともと20歳も歳が離れているというのも何かと会話が通じない原因となる。
もっといえば、CEOとCOOが別人というのも再生中の企業にしては贅沢だ。最初から人的関係が捻じれてしまっている。
入社人気企業だったので人材がたくさんいそうなものだが、思えば、かなりが政治家のコネによる裏口入社組。大学の同級生にも所轄官庁の大臣の息子がいてJALに入社していた(彼の場合は、大学へも裏口からではないかと噂されていたが)。案外、パッとしないのかも。
そういえば、稲盛氏がCEOを受諾した時のスピーチも違和感があった。
「
社員のしあわせの為に」
いかにJALの社員が傲慢であったとしても、サービス業であることを理解してない人はいなかったのではないだろうか。お客様がいなければ成り立たない業種である。競争も厳しい。「社員のしあわせ」を最初に上げるなんてメーカーみたいだな、と思ったがメーカーの社長なのである。しかも一方でリストラ計画があるというのにしあわせって何なの?ということ。
というようなことで、結局、計画倒れで何ら実行できる策はないのではないかとも思えるわけだ。融資にしても、政策投資銀行の過去から、そしてこれからの融資は円建てて行われるのだろうが、売上額のかなりの分は外貨建てになるわけで、為替レートも大いに心配というわけだ。(次の言い訳?)
さらに、突然のように債務超過8000億円の話になった経緯を考えれば、粉飾決算の匂いが漂う。そういう状態で配当を続けた行為は株主代表訴訟ということになるだろう。負債額2兆3000億円超というのも年商から見て多すぎるような感じだ。その明細はJAL内部と裁判所と管財人以外にはわからないが、確か為替や燃料代の先物のデリバティブをやっていたはずなのだが、それらを相対で受けていたのは誰で、どうなるのだろうか。
更生法申請後、なぜか毎日のようにメールが届くのは、JMB会員だからなのだが、今頃になってWAONカードとの提携強化を打ち出しはじめても、時すでに遅すぎだ。飛行機に乗るにしても旅行に行くにしても、広告を見て行きたくなるようなものではなく、行きたくなってから飛行機や旅行の計画を立てるものなのだから効果は考えられないのではないだろうか。