電子書籍で読んだ『人類の星の時間(ツヴァイク著 歴史)』
すべて良かったとは言わないが、歴史の中の人物が、ある一瞬に輝いたという瞬間(星)について書かれている。
原初の中で章に数字が付いているわけではないが、便宜上番号を付けてみる。
1. 不滅の中への逃亡
1513年9月25日。スペインの冒険家ヌニェス・デ・バルボアが密航した母国の植民地開拓船を乗っ取り、先住民を手なずけ、西洋人としては初めて大西洋側から太平洋に到達し、さらにペルーが黄金の大産地であることを発見したのだが、策略にはまり、首を切り落とされた日。
2. ビザンチンの都を奪い取る
1453年5月29日。ビザンチン陥落の日。世界史上有名な、都市包囲戦の残虐な結末。難攻不落の要塞を壊したのは特製の巨大な砲台で、運搬するために道路を作り二カ月かけて所定の位置に配置。壁を打ち壊した後にも城塞の中には多くの堅牢な門があったのだが、一カ所だけ閉め忘れていた。
3. ヘンデルの復活
1741年8月21日。作曲家として行き詰まって八方塞がりになり、人目につかないように英国を離れ、アイルランドに隠れていたヘンデルの脳内に「なにか」が下りてきて、一気に「メシア」が完成した。そして、人々が歓喜の渦にはまった公演が始まる。その数カ月後に作曲は亡くなり、「メシア」が不滅の曲となる。
4. 一と晩だけの天才
1792年4月25日。この話はフランスでは有名なのかも知れない。『ラ・マルセイエーズ』の作曲家ルジェの数奇な運命の話。一晩で書いた曲があり、その曲がプロシア軍との戦いに使われ、英雄になったものの、その後のナポレオンの失脚と復活といった政争に巻き込まれ、いつの間に忘れ去られ、寂しく亡くなった国歌の作曲家が陽の目を見るのは第一次大戦の時になる。死んでから百年もたって、讃えられることになる。
5.ウォータールーの世界的瞬間
1815年6月18日のナポレオン。有名な戦い。第一次ナポレオン戦争で捕らえられたナポレオンがエルバ島から脱走して、再度欧州の中央に進軍。迎え撃つのはプロシア・イギリス・オーストリア連合軍。ナポレオンは部下グルシーと兵力を二分していたが、携帯電話がない時代なのでグルシーは敵軍が二手に分かれるのか、ナポレオン本隊に兵力を集中するのかの判断が付かず、空振りしてしまう(要するに、無能な部下)。ナポレオンは失脚し、グルシーは軍勢をまとめて逃げかえり、フランス軍全滅を防いだとして貴族の称号を手に入れる。
6. マリーエンバードの悲歌
ゲーテの詩作の話だが、教養がないのでよくわからなかった。
7. エルドラード(黄金郷)の発見
1848年1月。ヨハン・A・ズーターがカリフォルニアで砂金を見つけた日。ここからゴールド・ラッシュが始まり世界中から不法者が集まる。ズーターの土地にやってきて勝手に掘り始めた。そして、裁判所はズーターの権利を認め、彼は世界一の大富豪になるはずだったが、裁判の結果を聞いた市民や開発者たちが怒りを持ってズーターや裁判所を批判し始め、子供たちは殺されたり事故で亡くなったりし、自分も浮浪者となり、亡くなる。ただし、裁判結果は修正されていないらしい。
8. 壮烈な瞬間
ドストエフスキーの話なのだが、理解できなかった。
9. 大洋をわたった最初の言葉
1858年N7月28日。サイラス・W・フィールドが大西洋横断の海底で通信ケーブルをつないだ。海底ケーブル。今は技術的に可能だが、当時は、海底の地形もわかないし、電線の被覆の有効性も不明、さらに英国(アイルランド)と米国を結ぶ電線はその重さから世界最大の船でも沈んでしまうということで実現困難とされていた。
そこで登場するのが野心的な実業家。米英の軍艦を使って半分ずつ運ぼうということになるが、次々に問題が発生。一回目は天候不順で途中でケーブルを海底に沈めてしまった。そして二回目にうまく接続し、電信もつながり、即、開通式ということでヴィクトリア女王が出席した祝典が行われたのだが・・・。なぜか徐々に電気信号が弱まっていき、通信途絶となる。ここから再生するのがすごい。1866年についに失敗を乗り越えて米英の通信がつながった。
10.神への逃走
この章はトルストイについてだが、ゲーテやドストエフスキーの章よりも一段と理解不能だった。
11.南極探検の闘い
南極探検といえばアムンゼンとスコットの極点争いが有名で、1週間遅れたスコット隊5名が帰路の燃料不足で凍死してしまうのだが、その始末記。
12.封印列車
1917年4月9日。レーニンが事実上の亡命(軟禁)状態だったものの、ドイツ政府はロシアの弱体化を狙って、革命家のレーニンをロシアに潜入させようと計画。その顛末。レーニンはロシア国内で政治活動を始め、革命の末、ロシア帝国は消滅。しかし、それから100年以上経って振り返れば、旧制ロシアも、ソ連も現代のロシアもやはり専制国家のままではないかと思えてしまう。