北海道函館市に近い恵山岬近くに石油タンカーが座礁という話、本件とは無関係のタンカー会社に勤めていたことがあるので、情報を見ていたのだが、「まったく原因がわからない」ということと、「座礁したのは運がいい」というのが正直なところだ。

まず、直近(10日)に座礁船を岩礁から引き離し、函館港へ曳航しようと他船で引張ったようだが失敗。上空からの画像を見ると、右舷船尾部分が岩礁に乗っているように見える。資料を見ると6年前に建造された船で、すでに燃料タンクを含め二重殻構造にすることになっていたため、燃料が流出ということは、タンクの下の空間(50センチから1m)以上にダメージがあったということだろう。この船の最高速は14ノット(時速26キロ)ぐらいなのでその速度で巨大な岸壁に突進していたわけだ。海岸線には無理やり道路が作られているが、船の先端は岸壁にかなり近いところまで迫ったと言われる。船の長さは105m。
また、本船には3800KLの灯油と軽油が積まれていたが、満載すると5000KL超になるので、何らかの理由だろうが、満載していなくて良かったとも言える。
漏油したのは燃料の重油で数量は報道されていないが、数十KLということでたいして多くはないが、現在の水温からいうと、ゲル状のボールになってしまい、海面から水深1m程度のところで浮遊する可能性はある。そうなると、海面下なのでオイルフェンスの下を潜ってしまうかもしれないが、海流に乗って分散されるような気がする。

ところで、誰しも「なぜ、そこに向かった?」と思うわけだ。目的地は秋田なのだから津軽海峡を東から西に抜けて、次のポイントの男鹿半島の先端(より少し沖)に向かうと、考えられるわけだ。記録に残っている航路を見ると、苫小牧から恵山岬を目指し、そこから津軽海峡の北側を航海するのが普通だろう。

さらに津軽海峡は国際航路になっていて、特に中国北部(大連とか)とアメリカ大陸を結ぶ各種大型船舶は、津軽海峡を東西に航海する。つまり苫小牧から秋田に向かう航路と中国と米国間の航路は、どこかで交差するわけで、危険なので居眠りとかすることはないわけだ。しかもこのクラスの船は、常時2名で操船するわけで海峡内なので例えば船長も参加していることもある。11人乗りで、おそらく航海士が6名、エンジン担当が2名、コック1名、船長1名であと一人は予備の仕事をするような感じではないだろうか。
6人は二人ごとの三班に分かれ、それぞれの班が4時間交代で1日2回(計8時間)ずつ操船することになっている。それで、3か月働いて1か月休みというような勤務体系が多い。
それで、船主の会社のHPには同型船の船内の画像があるが、当然ながらレーダーも電子チャートも完備している。事故は午後6時過ぎなので、周囲は非常に暗いはずで、レーダーを使わないで操船するのは危険だし、そもそも電子チャートには周りの海図と自船の位置が表示されるのだから、それを見れば岸壁に向かって走っていることは、一目瞭然。

この突然のUターンを見て思ったのは、何らかの理由で、急に函館港に向かったのではないかという仮説。しかし、何らかの理由があって航路を変えるなら、誰かに理由を説明するなどするはずだが、「曲がるポイントを間違えた。まっすぐ走っているように思った」と船員が語ったというが、180度近く向きを変えれば、仕事中ではない船員でも気が付く者は多いと思われる。
図をみて考えたのだが、航海士2名のうち、津軽海峡の南側を東から西に航行するために、青森方面に南下してから、北に変針しようと考えていた航海士と、もう一人は恵山岬の先をすぐに西に向かい津軽海峡の北側を使おうと思っていた航海士がペアになっていて、両者間で打ち合わせが行われていなかったのではないかという仮説。
しかし、いずれのケースでも転針した場合、新しい計画航路の通り自船が移動しているかどうかは、レーダーとか電子チャートで確認するのが当然のことなのだが。転針してから座礁まで25分間、何をしていたのだろう。