先を読む頭脳

2009-08-15 00:00:02 | しょうぎ
羽生善治名人が、インタビューに答える形式で「思考法」「勉強法」について語り、さらに脳科学の研究ということで、アマチュアからトッププロまでが実験台になって、盤面の記憶の仕方や視線の動き、読みの内容などを科学的に解析しようとした内容が書かれている。



ちょっと残念なのは、分析・検討された二人の方が、あまり棋力が高くないように感じたのだが、実際はどうなのだろう。主に分析のカテゴリーとしては、「初級者」「中級者」「上級者」「プロ棋士」「羽生」という五段階になるのだが、「初級者」というのは、あまり参考にならないのではないだろうか。弱い人だけではなく、本当はこれから強くなる人も含まれているわけで、脳の使い方も玉石混交だろう。

中級者以上になれば、将棋の読みというのは、「しらみつぶし法」ではなく、まあ、ありそうな手を順に少しずつ読んでいって、現在の局面に対しての有利度を比べること、といった原理はわかっているはずだ。(詰む場合は別)

その基本原則に加えて、不利なときに、「大胆な勝負手を放って、一発勝負にでる」か、「決定的に悪くなる手を指さず長期化して相手のミスを待つ」か、とかそういう作戦的な考慮を加える。さらに、相手の動作とか視線とかから判断して、事前に相手の次の一手を察知し、対応策を準備しておき、相手の着手後すぐに指して、時間攻めにするとか、わざとあきらめの表情を作って、気の緩みを誘発させようとか(ネット将棋では使えない手口だ)。

そのあたりの、脳が行う様々な選択についての科学的分析が少し不足しているように思えた。なぜ、プロは「あっさり読むか」ということだろうか。

ちょっと納得できなかったのが、読む速度ということで、羽生名人は1分間に20~30手を読むということになっていたが、実感としては私でも1分間に60手以上は読んでいると思うわけだ。もしかしたら実験に使った局面そのものが、20~30手読んだら結論が出るような局面で、10秒読んで結論が出てしまって、残りの50秒は何も考えなかったというのではないだろうか。

この本に「将棋のほとんどの手はマイナス」ということが書かれていると話題になったが、1ページにわたって、語られるのだが、本当によくわからない内容である。

私の考えでは、一手指すことがプラスに働くことはむしろ非常に少ないのです。・・・

だからこそ将棋では形勢逆転が頻繁に起こるのだということも言えると思います。・・・

ですから、いい形を作り上げることを目指すのは無論、重要なことですが、それと同時に、有効に動かすことができる駒をいかに数多く残しておくかということにも、かなりの神経を遣わなくてはならないのです。


まあ、それくらいの意味と思っておけばいいのではないだろうか。

しかし、本当は、この本の中の羽生名人の話で、もっとも驚いたのは、彼が高校生の時に考えていたこと。

高校に進学した当初は、大学へ行くつもりで学校に通っていました。相変わらずあまり勉強はしなかったのですが、大学へ行くのが当たり前と思っていたのです。

彼は15歳でプロにあったのだから、高校生の頃は名人に向かって驀進中で恐怖の高勝率を上げていたはずだ。

なぜ、そんなつまらないことを考えていたのか、かなり謎である。いくら地頭がいいといっても、まったく勉強しないで入学できるレベルの大学に行ったところで、早い話が「時間の無駄」というか「将棋が弱くなるだけ」ということだったのかもしれない。

進学をあきらめたのは、対局が過密になって高校に通うことすら困難になってきたということらしい。

大阪で対局があると、翌日の新幹線で東京に戻り、三時間目から授業に参加する。そんなハードなスケジュールになってしまい、やがて大学は諦めざるを得なくなりました。

当時、勝ちまくっていた羽生名人と大阪で対局をしたというのは、彼の存在で最も痛い目にあったと言えるある棋士だろうか。

17世永世名人。

今思えば、深夜まで粘らず、夕食前に対局を終わりにして、感想戦もあっさり片付け、当日の新幹線で東京に返してあげて、結局、二流大学に押し込んでしまえば、こんな怪物的棋士にならずにすんだのではないだろうか、などと思っているのではないだろうか(本を読んでないような気もするが)。

8月1日出題作の解答。



▲3四角 △同金 ▲2三金 △1一玉 ▲2二金 △同歩 ▲2三桂不成 △2一玉 ▲1一香成まで9手詰。

2手目に、△同馬は、▲2三桂成 △同玉 △1四金 ▲1二玉 △2四金の7手詰である。

小さくまとまった作品と思うが、類例は多いのだろう。



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今週の問題も、最後は手筋の応用。何か、こういう収束が好きなのだ。

わかったと思われた方は、コメント欄に、最終手と手数と酷評を期していただければ、正誤判断。