歌に救はれ、歌によつて生きられた人が實朝だらう。
大海の磯のとどろに寄する濤割れて砕けて裂けて散るかも
この一首で實朝は永遠を生きることが出来た。もちろん殺害されなければ、もつと多くの名歌を残せただらうが、永遠は先の一首で摑み得た。
今後予想される、この激しい波濤の様を實朝自身に重ねて詠むのが常識であるが、私としては彼の眼に映つたありのままの姿であると思ふ。彼を預言者にする必要はないからである。
これほどに波濤の荒々しさを、リアリズムで描いた才はもはや中世を超えてしまつてゐるやうにさへ思はれた。そんなことがどうして可能であつたのかは分からない。が、實朝はそれを成し遂げたといふことだけが大事なことである。
歌の力はかういふ才によつて磨き続けたれて来たのである。
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